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22、手紙
しおりを挟むロゼッタ達が王宮を出てから一時間後、アンディは目を覚ました。隣にロゼッタが居ないことに気付き、すぐにロゼッタの私室へと向かった。
私室にも、ロゼッタの姿はない。アンディは違和感を感じ、部屋の中に入る。そこで、テーブルの上にロゼッタの残した手紙を見つけた。
手紙を見つけたアンディは、ロゼッタが出て行ったのだとすぐに察した。
手紙を持ったまま、ドリアード侯爵の元に急ぐ。
「デイモン!! ロゼッタは、どこにいる!?」
「落ち着いてください、陛下。これは、ロゼッタ様が自ら望んだことです」
ロゼッタが自ら望んだこと……その言葉に、アンディは打ちひしがれる。
自分は重荷だと、ロゼッタが考えるであろうことは分かっていた。アンディの為に王妃になり、アンディの為に尽くして来たロゼッタが、気にしないはずがなかった。そのことに気付いていたから、ロゼッタの前で苦労しているという素振りを一切見せないようにしていた。
「デイモン、頼む。ロゼッタの居場所を教えてくれ……」
アンディは、ドリアード侯爵に頭を下げた。
「それは、出来ません。ロゼッタ様を連れ戻したいのでしたら、臣下を皆説得なさってください。この国の為、陛下の為にロゼッタ様がなさったことは、皆知っています。それでも納得しないのは、ロゼッタ様がブルーク公爵のようになり、陛下を操るのではと懸念しているからです。陛下は立派な国王なのだと示し、臣下達を納得させることが出来た時、ロゼッタ様をお迎えに行ってください。それまでは、レイシアがロゼッタ様をお護りします」
確かに、その通りだった。
ずっと操り人形だった王の言葉など、誰が聞くだろうか。国を救い、ブルーク公爵を破滅させたのはロゼッタだ。だから誰も、彼女の死を望まない。だが、ロゼッタがブルーク公爵の娘なのも事実。頼りない王では、また同じことの繰り返しになってしまうと不安になるのも無理はない。
ドリアード侯爵の言葉に、アンディは何も言い返すことが出来なかった。力のない自分に、何年も苦しんで来たというのに、ブルーク公爵から国を取り戻した今も、自分は無力なのだと思い知らされた。
アンディは、ロゼッタからの手紙を取り出し、読み始める。
『自分勝手な私をお許しください。
陛下……アンディ様と初めてお会いしたあの日から、私の心はアンディ様でいっぱいでした。ですが、愛してはいけない相手だということも、私は愛される資格がないということも分かっておりました。
父に王妃になれと言われ、私は国の為、アンディ様の為に生きる決意をしました。その時から、父であるブルーク公爵を排除した後は、アンディ様の元を去る覚悟が出来ていたのです。
アンディ様に愛されることは望んでいませんでしたが、アンディ様のお気持ちは本当に嬉しくて夢のようでした。ですが、夢はもう終わりです。
私の為に、アンディ様が苦しむなんてあってはならないことです。
私のことなどお忘れになり、この国の国王陛下に相応しい方を王妃にお迎えください。
わずかな時間でしたが、アンディ様のお側に居られたことは幸せでした。その幸せを胸に、強く生きて行きます。
アンディ様、ずっとずっとお慕いしておりました。どうか、お元気で』
アンディの瞳から、涙がこぼれ落ちる。
守りたいと願ったただ一人の愛する人を、今の自分では守ることが出来ないのだと思い知る。
今すぐにロゼッタを迎えに行ったとしても、彼女は戻らない。だが、諦めるつもりなどない。
ドリアード侯爵が言ったように、臣下達を説得し、王妃はロゼッタだということを必ず認めさせると心に決めた。
「デイモン! もう一度、貴族達のことを徹底的に調べろ。この国は、二度と王権を揺るがされたりはしない!」
ロゼッタを取り戻す為に、一刻も早く国王として認められなければならない。
彼女が安心して戻れるように。
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