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7、大切な人
しおりを挟む気が付くと、ベッドの上で横になっていた。
「王妃様は……!?」
勢いよく起き上がると、頭がクラクラした。
「お気付きになられたのですね!」
クラクラする頭を押さえながら、声がした方を振り向くと……
「モニカ……??」
「はい! モニカです! アシュリー様、お身体は大丈夫なのですか?」
状況が飲み込めない。
ここは、王宮の私の部屋のように思う。モニカは、ペイジ伯爵家の使用人だ。幼い頃から両親と共に、ペイジ伯爵家に仕えてくれている。
「どうして、モニカが王宮に居るの?」
モニカは私の手を握り、悲しそうな表情で話し出す。
「王妃様が、直接旦那様にお会いになり、アシュリー様の為に信頼出来る侍女を王宮に送って欲しいと仰ったのです。それで私がアシュリー様の侍女になったというわけです。王宮に来るまで、アシュリー様がどんなにお辛い目にあわれていたのか知りませんでした。これからは、私がアシュリー様をお守りします!」
「王妃様は、ご無事なのね。そのようなことまでしてくださるなんて……」
頭が上手く回らないけど、王妃様がご無事だということが分かって安心した。
それにしても、頭が回らないだけでなく、身体中がだるくて重い。広範囲に力を使った影響なのだろうか。
「とにかく、今はゆっくりお休み下さい。アシュリー様は、五日も意識がなかったのですから」
「…………今なんて? 五日!?」
頭が働かないのも、身体が思うように動かないのもそのせいということのようだ。
五日前、私は広範囲に力を使って意識を失った。すぐに王妃様は目覚め、犯人は私ではないと国王様に訴えたようだ。王妃様が私に会う為にこの部屋を訪れると、見張りをしていた兵の姿はなく、私はベッドの上に横たわっていたとのことだ。
見張りを動かしたのが王妃様でも国王様でもないのなら、殿下しかいない。だとすると、私をベッドに運んだのも殿下? まさか、そんなはずはないよね。
「スーザンは、どうなったの?」
スーザンは毒入りだと知っていて、王妃様にお菓子を届けた可能性が高い。そうでなければ、私の名を使って贈り物をする意味がない。
「前の侍女ですね。彼女は、地下牢に捕らえられています。アシュリー様に頼まれていないことは話したようですが、誰に頼まれたのかは話そうとしないようです。アシュリー様に罪を着せるなんて許せません! 」
スーザンは、どうしてケイトを庇っているのだろうか。犯人は、ケイトだ。だけど、証拠がない。私と話した時でさえ、ケイトは罪を認めなかった。
「モニカ、王妃様にお会いしたいと伝えて」
王妃様は私の体調を気遣い、部屋まで会いに来てくださった。部屋の中に入るなり、ベッドに横になっている私の側にかけよって来てくださった。私がベッドから降りないように、配慮してくださっている。
「アシュリー、目が覚めて本当に良かったわ! どこか苦しいところはない? 私のせいで、ごめんなさいね」
ベッドの隣にあるイスに腰を下ろし、起き上がろうとした私に手を貸してくださり、背中をさすってくださっている。
王妃様は何も悪くない。私を信じてくださっただけなのだから。その気持ちを利用した、ケイトが余計に許せなかった。
「ありがとうございます。少し身体が重いだけなので、私は大丈夫です。それよりも、王妃様は大丈夫なのですか?」
王妃様は、いつもの笑顔を見せてくれた。
「アシュリーのおかげで、前より元気になったみたいなの。王宮に居る全ての人達の怪我や病を治してしまうなんて、本当に驚いたわ。歴代の聖女様でも、そのようなことが出来たという記述は残っていない。それほど、私を助けたいと思ってくれたということでしょう?」
王妃様は、私の想いを理解してくださっていた。本当のお母様のように、私の心を癒してくださる。
「王妃様が毒をお飲みになったと聞き、すごく怖かったです。大切な人を、失いたくない一心でした」
「まあ! 大切な人だと思ってくれて嬉しいわ。私にとっても、あなたは大切な人よ。娘っていいわね」
照れたように笑う王妃様。久しぶりに、私も心から笑うことが出来ていた。
ただ、何も解決はしていない。これから先、また同じようなことが起きる可能性だってある。
「王妃様、スーザンに会わせていただけませんか?」
あの様子だと、ケイトは絶対に罪を認めることはない。スーザンからの証言がなければ、ケイトに罪を償わせることは出来ないだろう。
今は、ケイトのことを王妃様に軽々しく話すわけにはいかない。ケイトの仕業だという証拠がなければ、王妃様や国王様に負担をかけるだけだと思った。
「それなら、急いだ方がいいわ。スーザンは明日、処刑されてしまう」
「そんな……早過ぎます! スーザンは、誰に指図されたかを話していないのですよね!?」
きっと、ケイトの仕業だ。自分の名前を出される前に、スーザンを始末するつもりだろう。
「数人の貴族達が、大罪を犯した者を生かしておくことは国に害をなすと、陛下に直訴して来たの。全ては、スーザンが一人で計画したことだと判断したみたいね。その全員が、ルーファスについている貴族達だった……」
まさか……王妃様は、ルーファス殿下が黒幕だと思っているの……!?
「王妃様のお命を狙ったのは、殿下ではありません!! 殿下は、王妃様が毒入りのお菓子を食べてお倒れになった時、本気で心配なさっておいででした! お二人の間に、何があるのかは私には分かりませんが、殿下は確かに王妃様を愛していらっしゃいます!」
私の言葉を聞いて、王妃様の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。王妃様も、殿下のことを愛しているのだと伝わって来る。
「アシュリー……ありがとう。本当に、ありがとう……」
王妃様はしばらく泣いた後、私がスーザンに面会出来るように手続きをする為に部屋から出て行った。
王妃様のおかげで、スーザンに会う段取りが整えられた。スーザンは面会室に移されたと知らせが届き、私も面会室に向かった。
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