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1.three guys and a lady
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「じたばたするなよ、キース」
見晴らしのいいモーリンヒルにある、大きな岩に寄りかかって座るサディアスは、傍らの大木によじ登って、遥か先まで続く道の彼方を見つめる弟、キースに呼びかけた。
「そう言うけどさ、やっぱり気になるよ」
「本当にやって来るのかどうかさえ、怪しいのに」
もう一時間もそうして座っているサディアスは、長い手足を伸ばして、のびをしつつ、ふわあっと、大きな欠伸をした。
「サディアスはさあ、嬉しくないの?」
「何が?」
「オーランドが、結婚することがさ」
オーランドは、フィンドレー家の長男で、チェストルの領主でもあった。
「兄貴の結婚は、めでたいことさ。ただし、本当に結婚相手が、やって来るのだったらな」
「来るよ。きっと来る。だって、手紙にちゃんとそう書いてあったじゃないか」
「一時の気まぐれかもしれないし、本当に、ミス・グラハム本人が書いたのかどうかも、不明だ」
「サディアスは、悲観主義者だからね」
大木の上から答えるキースは、少々不満げだった。
「俺は、単なる悲観主義者じゃないぜ、我が弟よ。俺の予想には根拠がある。いいか?首都ウォルトンの名高い伯爵令嬢コーディリア・エリザベス・グラハムが、果樹園しかない、片田舎チェストルのちっぽけな領主と結婚するために、わざわざやって来る理由が、どこにあるんだ?」
「ちょっと、自虐が過ぎるんじゃない?」
「客観的事実だ」
「・・・まあ、いいよ。サディアスと言い合ったところで仕方ないし」
「どちらにせよ、今日の午後には、この話が決着する」
首都ウィルトンから、一週間をかけてやってくる花嫁コーディリアは、六月末日、つまり本日午後、チェストルに到着すると、手紙に記されてあった。
それで、フィンドレー家の次男サディアスと三男キースが、コーディリアを迎えるため、見晴らしのいいモーリンヒルで、午前中から、待機していたのだった。
「だけど、本当にミス・グラハムが来たら、オーランドは、あれをどうするつもりなんだろう」
「あれか・・・」
頭が痛いな、と言わんばかりのサディアスだった。
「ミス・グラハムがやって来たら、絶対、目に触れないように、あれを隠さないと・・・」
「一昨日、オーランドには、くどいほど念を押した。万一・・・、万一だぞ、ミス・グラハムがやってきたら、何があっても、絶対に彼女の眼に入れるな、って。隠し続けろ、って」
「ちょっと可哀想な気もするけど・・・」
「キース、オーランドは、あれのせいで二度も破談になっているんだぞ。何があっても、三度目は阻止するんだ」
「・・・だね」
兄弟が、そんな会話をしている時だった。
遥か先まで続く道の彼方に、砂埃が立ち始めた。
砂埃は、影となり、やがて、はっきりとした馬車の姿を現した。
「来たよ!本当に来た!」
それに気づいたキースが、興奮した声を上げた。
サディアスも立ち上がって、馬車を確かめる。
馬車は、みるみるうちにふたりのいるモーリンヒルに近づき、駆け上がった。
手綱を引く御者が、どうどうと、馬を宥めつつ、ふたりの眼の前で馬車を止めた。
「フィンドレー家の兄弟だ。こちらは、ウォルトンからの馬車か」
「左様です」
「では、ミス・グラハムが中に?」
「はい」
御者の返答に、本当にやって来たと言わんばかり、サディアスとキースは、顔を見合わせた。
御者は、御者台を降り、車室に向かって、お嬢様、フィンドレー家のご兄弟が、お出迎えでございます、と声をかけ、ドアを開く。
サディアスとキースは、コーディリアの姿を求めて、薄暗い車室の中に、瞳を凝らした。
見晴らしのいいモーリンヒルにある、大きな岩に寄りかかって座るサディアスは、傍らの大木によじ登って、遥か先まで続く道の彼方を見つめる弟、キースに呼びかけた。
「そう言うけどさ、やっぱり気になるよ」
「本当にやって来るのかどうかさえ、怪しいのに」
もう一時間もそうして座っているサディアスは、長い手足を伸ばして、のびをしつつ、ふわあっと、大きな欠伸をした。
「サディアスはさあ、嬉しくないの?」
「何が?」
「オーランドが、結婚することがさ」
オーランドは、フィンドレー家の長男で、チェストルの領主でもあった。
「兄貴の結婚は、めでたいことさ。ただし、本当に結婚相手が、やって来るのだったらな」
「来るよ。きっと来る。だって、手紙にちゃんとそう書いてあったじゃないか」
「一時の気まぐれかもしれないし、本当に、ミス・グラハム本人が書いたのかどうかも、不明だ」
「サディアスは、悲観主義者だからね」
大木の上から答えるキースは、少々不満げだった。
「俺は、単なる悲観主義者じゃないぜ、我が弟よ。俺の予想には根拠がある。いいか?首都ウォルトンの名高い伯爵令嬢コーディリア・エリザベス・グラハムが、果樹園しかない、片田舎チェストルのちっぽけな領主と結婚するために、わざわざやって来る理由が、どこにあるんだ?」
「ちょっと、自虐が過ぎるんじゃない?」
「客観的事実だ」
「・・・まあ、いいよ。サディアスと言い合ったところで仕方ないし」
「どちらにせよ、今日の午後には、この話が決着する」
首都ウィルトンから、一週間をかけてやってくる花嫁コーディリアは、六月末日、つまり本日午後、チェストルに到着すると、手紙に記されてあった。
それで、フィンドレー家の次男サディアスと三男キースが、コーディリアを迎えるため、見晴らしのいいモーリンヒルで、午前中から、待機していたのだった。
「だけど、本当にミス・グラハムが来たら、オーランドは、あれをどうするつもりなんだろう」
「あれか・・・」
頭が痛いな、と言わんばかりのサディアスだった。
「ミス・グラハムがやって来たら、絶対、目に触れないように、あれを隠さないと・・・」
「一昨日、オーランドには、くどいほど念を押した。万一・・・、万一だぞ、ミス・グラハムがやってきたら、何があっても、絶対に彼女の眼に入れるな、って。隠し続けろ、って」
「ちょっと可哀想な気もするけど・・・」
「キース、オーランドは、あれのせいで二度も破談になっているんだぞ。何があっても、三度目は阻止するんだ」
「・・・だね」
兄弟が、そんな会話をしている時だった。
遥か先まで続く道の彼方に、砂埃が立ち始めた。
砂埃は、影となり、やがて、はっきりとした馬車の姿を現した。
「来たよ!本当に来た!」
それに気づいたキースが、興奮した声を上げた。
サディアスも立ち上がって、馬車を確かめる。
馬車は、みるみるうちにふたりのいるモーリンヒルに近づき、駆け上がった。
手綱を引く御者が、どうどうと、馬を宥めつつ、ふたりの眼の前で馬車を止めた。
「フィンドレー家の兄弟だ。こちらは、ウォルトンからの馬車か」
「左様です」
「では、ミス・グラハムが中に?」
「はい」
御者の返答に、本当にやって来たと言わんばかり、サディアスとキースは、顔を見合わせた。
御者は、御者台を降り、車室に向かって、お嬢様、フィンドレー家のご兄弟が、お出迎えでございます、と声をかけ、ドアを開く。
サディアスとキースは、コーディリアの姿を求めて、薄暗い車室の中に、瞳を凝らした。
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