ホラー短編

衣更月

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人形

 目が眩むほどの強烈な陽射しに、アスファルトに浮かぶ逃げ水。
 ジャワジャワと騒音に等しい蝉の大合唱は、陽が高くなるにつれて散開した。あまりの暑さにバテたのだろう。
 茹だる暑さの中でも元気なのは人間くらいだ。 
 小野真衣は少し濃いめに作ったカルピスを飲みつつ、持て余した時間でテレビを見ている。毎日、どこかしらの納涼スポットが中継されているのだ。観光地化した滝や海水浴場。デパートの催事場も中継先としては鉄板だ。変わり種でテーマパークのお化け屋敷というのもあった。今日はファミリープールからの中継だ。
 家族連れやカップルが、ウォータースライダーで悲鳴を上げ、流れるプールで賑やかに笑っているが、リポーターは肌を刺す陽射しに目を細めて堪えている。左手に持つ気温計が表示する数字は35.5だ。「私も今すぐプールに飛び込みたい」と、リポーターが苦笑いでコメントを締めた。涼やかなスタジオでは、プールのエピソードトークに移行している。
 ファミリープールは行けば楽しいのだろうが、やはり冷房の効いた部屋が一番だと真衣は思っている。
 真衣は冬生まれのせいか、夏が苦手だ。かといって、特別寒さに強いということもない。所詮は九州人。冬になっても、たかが知れている寒さだ。
 九州の冬は、山間部を除き、薄っすらと雪が積もっただけで”大雪”になったと慌てふためく。電車だって遅延する。それほどに雪に不慣れな土地だ。
 故に、冬生まれで夏より冬が好きと言ったところで、親戚に誘われて冬の東北へ旅行した時、寒くて震えが止まらなかった。その程度の寒さ耐性しかない。
 中途半端な強さではあるが、真衣にとってはやはり夏より冬なのである。
 とことん暑さに弱い。
 汗っかきなのも夏嫌いの要因だ。
 それでもまだ小学生の頃までは”夏休み”という魔法の呪文で元気に炎天下を駆け回っていた。中学生になってからは魔法の効力も消し飛んだが。
 小野家があるのは田舎だ。
 コンクリートに囲まれた都会よりも暑さはマシだし、風も通る。
 山にも海にも近いという、地図上では恵まれた地域だが、実際は残念な田舎だ。
 山は登山不可で、海も遊泳禁止だ。
 九州の海が南国の海と誤解されては堪らないが、真衣の故郷の海はあまり綺麗ではない。ゴミが浮いている訳ではないのに透明度が低い。宮崎県のような南国の海ならよかったのだが、どこか濁って見える海だ。
 海水浴場に行くには、2つほど市を跨ぐ。
 プールはあるが、小さな市民プールだ。高校生が行くには悪目立ちするだろう。
 ファミリープールは隣県まで足を延ばす必要がある。
 夏のアクティビティを封じられ、ならばアルバイトはとなったところで、これも難しい。
 真衣の通う高校は駅の近くだったことから、免許取得が禁止されている。山間の工業高校に進路をとった友人は、その不便な土地のお陰か、原付免許の許可を得て、愛車であるクリーム色のスクーターに乗っている。そのスクーターがあるので、少しの距離も苦がなく、夏の間はアルバイトに勤しむ充実ぶりだ。
 小野家も不便な地域にあるが、校則がある以上は免許取得ができない。
 真衣の移動手段は自転車だ。
 なにしろ、バスは1時間に1本。しかも昼間の3時間ほどは利用者が殆どいないのか0本だ。
 集落が駅と駅の間に位置する為、駅までは自転車で30分もかかる。休憩所もないような炎天下の中を自転車漕いで出かけようとは思わない。
 結果、真衣の夏は冷房の効いた部屋で課題をこなすか、小説を読むかで時間をやり過ごす。
 友達付き合いは夏祭りや花火大会と、イベントの時のみで、あとはメールで生存確認と何とも味気ない。
 少し寒いくらいの居間でテレビを見ていた真衣は、タイヤが砂利を踏む音で頭を上げた。
 じっと待っていると、バタン、と車のドアの開閉音がした。続いて、賑やかな叔母の声が聞こえてくる。外で作業をしている祖母の千代と話しているようだ。
 小野家は田舎特有の大きな日本家屋だ。
 築山を有する庭には、母屋と同程度の大きな車庫がある。どれくらい大きいのかといえば、農機具であるトラクターや田植機などと一緒に、車を2台駐車しても余りある。さらに奥には工具箱の並ぶ棚が設置され、手前に作業台や冷蔵庫、千代の趣味である漬物樽が並んでいる。漬物樽の中は主に胡瓜や茄子、白菜、大根が糠床に浸かる。薄っすらと車庫が糠臭いのは、千代の趣味が原因である。
 庭はさらに広い。
 車を5台ほど駐車でき、それと同程度の広さの庭木を植えた遊休地がある。昔、そこには離れがあったが、真衣が幼い頃に取り壊された。今は庭木の僅かな隙間に物干し台を置き、洗濯干し場となっている。
 母屋の斜向かいにある築山には、石段が作られ石灯籠が設置してある。その周囲には躑躅や椿が繁茂するめ、藪蚊が多い。
 しかし、千代は藪蚊に構わず築山で草むしりをする。
 叔母が「おばあちゃん、藪蚊がいるわよ。それに暑いから家の中に入りなさいよ」と注意しているが聞かないだろう。 
 千代は年を経る毎に意固地になっている。ボケが入っているのか、家族は見守る方向に舵を切った。
 夏休みの間、定期的に千代にお茶を取らせるのが真衣の仕事だ。
 30分ほど前にお茶休憩を取らせたので、恐らく千代は作業を続けるはずだ。
 叔母も理解している。一応、挨拶を兼ねて声をかけただけだ。
 やがて、玄関の引き戸が開いた。
 玄関と居間は廊下を挟んでいるが障子戸で遮られているだけなので、テレビの音も真衣の気配もダダ漏れだ。勝手知ったるとばかりに、「先に参ってくるわ~」と、間延びした声とパンプスを脱ぐ音が続く。トタトタと仏間に向かった足音は、チ~ンと”おりん”の音の後、しばらくして戻って来る。
「あぁ、この部屋は涼しいわ」と、ずかずかと居間に入って来たのは、真衣の母方の叔母、篠本弥生だ。
 真衣の母である光江は4姉妹ということもあり、姉妹全員が仲良く姦しい。長女は信州の方へと嫁に行き、光江を含めた3人は同県同市の家へと嫁いでいる。
 中でも三女である弥生はスナックで働いていることもあり、とても快活で人懐っこい性格をしている。
 服装もタイトなワンピースで、Tシャツにジーパンの真衣より華がある。
「真衣~、夏休みなのに何処にもいかないの?彼氏作んなさいよ、彼氏」
 居間に入って来て早々の当てこすりは、弥生なりの挨拶だ。
 真衣も理解しているので、いちいち腹も立たない。軽く手を振って「そのうち」と適当に応じる。
「で、弥生叔母さん、どうしたの?用事?お母さんならいないよ」
 弥生は「暑い暑い」とエアコンの下を陣取り、窓から通りを挟んだ向かいの家を見た。
「知ってる。孝昌さんとこの片付けを手伝った時に聞いた」
 ”孝昌さんとこ”というのは、今弥生が見ている家のことだ。
 小ぢんまりとした庭付きの2階建て家屋は、真衣にとっては大叔父にあたる祖父の弟が住んでいた。孝昌は大叔父の息子で、就職を機に関東に住んでいる。向こうで家族にも恵まれ、本格的に根を下ろすことに決めたのだ。
 小野家が隣ということで甘えもあったのだろう。大叔母が亡き後、残された大叔父の面倒を見たのは千代と光江だ。光江が家事をこなし、千代や真衣が食事を運んだ。
 足を悪くし、出歩くことが減った大叔父はボケることもなく、呆気なく逝去したが。
 それが2年ほど前だ。
 孝昌の兄は10年以上前に失踪して行方知らず。孝昌は兄が帰ってくるかもと一縷の望みをかけて家を残していたが、空き家を管理するのは大変だ。壊してしまうには大金がかかる。
 ならば貸し出そうと、小野家に頼んだ経緯がある。
 その整理が、叔母たちの手を借り、真衣が夏休みに入る前に終了した。
 どのような遺品を、どうやって片づけたのか真衣は知らないが、今は入居者を待つ状態だ。
「なんか警察官が借りるらしいよ」
「そういえば、そんなことを允人まさと義兄にいさんが言ってたわ」
 允人は真衣の父親だ。
 兼業農家で、平日は公務員。休日は田んぼや畑に出る。さらに暇を見繕っては町内会の野球クラブにも参加する。じっとしていられないタイプの人間だ。
「そうそう。今日は允人義兄さんが出張で、光江お姉ちゃんも婦人会の旅行で帰りが明日の昼過ぎだから、私に声がかかったんよ。ほら、おばあちゃんと真衣だけだと心配でしょ?」
「お兄ちゃんは?」
「翔太は当てにできないでしょ?案の定、今日は友達と何かのコンサート行くんだって。帰るかどうか分からないらしいわ。電話で改めて頼まれたから」
 と、弥生が呆れたように肩を竦める。
 翔太は真衣の兄で、父親と同じ公務員になってから車を購入し、休みがあると遊びに行く。今日は県都でのコンサートに行くため、男友達と車に乗って出立していた。
「別におばあちゃんと2人でも大丈夫なのにね」
「そう言わない。おばちゃんも仲間に入れて」
 からからと陽気に笑う弥生に真衣は苦笑して、夕食は店屋物にしようと2人で決めた。
 
 千代は働き者だ。
 じっとしているのが嫌なのか、朝早くから庭や畑で草むしりに精を出す。昔は友人たちと旅行に行っていたものだが、年を経るごとに友人が1人また1人と欠けていき、今は近所の人たちとお茶を飲み、ああでもない、こうでもないと雑談するだけ。夏になると誰もが出不精になるので、その暇を補うように千代は麦わら帽子を被って草むしりに専念する。
 今日も日に焼けた皺だらけの顔をくしゃっとさせて千代は笑う。
 弥生の話が上手なので、千代は飽きることがない。千代の好きな時代劇や相撲の話題、近所の下世話な噂話と内容はころころと変わる。
 BGMはクイズ番組だ。
 頓珍漢な回答に、どっと笑いが起きている。
 千代が「この人、面白いことを言うわね」と笑い、弥生が「そうね~」と相槌を打つ。
 真衣は2人の会話とテレビの賑やかしに背中を向け、続き間である台所で弁当のプラステック容器をゴミ袋にまとめ、湯飲み茶碗を洗っている。流し台の正面にある曇りガラスの窓には、ぽってりとした腹をしたヤモリが張り付いている。
 夏になれば、明かりに集まる羽虫を食べにヤモリも集まる。
 田舎ならではだろう。
 真衣は水道を止め、タオルで手を拭うと、ふと居間へと振り返った。
 変わらずテレビでは珍解答に笑いが起き、千代と弥生は時代劇俳優の話題に花を咲かせている。
 真衣の視線は2人を越え、閉ざされた障子戸に向かう。その先は消灯した廊下と玄関、庭へと続く。
 何か聞こえた気がしたのだ。
 奇妙な違和感に身震いすると、真衣はそそくさと居間に戻った。2人と同じ空間、同じ席にいるというのが心強い。それでも、不可解な警戒音が全身に巡っているようで、真衣の目はきょろきょろと忙しなく動く。
「どしたの?」と千代が問う。
「いや……誰か来た?」
 歯切れの悪い真衣に応じるように、2人が口を噤んで耳を傾ける。
 九州は東京に比べて1時間近く日没が遅いと言われるが、それでも田舎は夜が早い。
 日が落ちれば通りから人はいなくなる。例え夜の8時や9時だろうと、暗くなってから人の家を訪ねるなど常識を疑われる。逆に、暗くとも朝は早いので、夜明け前から外を歩く人は意外と多い。涼しいうちにと田畑に出たり、犬の散歩に駆け回る。
 しかし、今は日が暮れた夜だ。
 客が来る時間帯ではない。
 小野家は田舎にあるが、家々が点在するような田舎ではない。家々が密集する集落だ。手狭な庭に、密着するように家同士が隣り合い、細い道が細かに枝分かれしているような地区になる。小野家の敷地が広く、傍に畑を有しているのは、小野家が集落のきわに位置するからだ。
 孝昌の家は集落から飛び出た形になるが、今は空き家で、その向こうは田園風景が広がっている。
 ヤモリが張り付いてた窓の向こう、裏手の家も、老夫婦が亡くなってから十数年は空き家だ。その見た目は廃屋に近く、いつ倒壊しても可笑しくはない。
 さらに、小野家の向かいは鬱蒼とした森となっている。
 森といっても学校の運動場より少し狭い。その中央には氏神神社がある。氏子が管理し、祭りの時期に神主に来てもらう。無人の神社だ。
 日中であれば、その森の木陰で一休みするドライバーがいるが、夜ともなれば話は違う。
 いるとすれば不審者だ。
「門?それとも玄関の音がした?」
 錆びた門扉は、開閉すると酷い音がする。
 玄関の引き戸も、ガラガラと特有の音がする。
 弥生の声を潜めた問いに、真衣はつられるように声を潜めて「玄関だけど、戸の開いた音じゃないと思う…」と答えた。
「なんにも聞こえなかったよ」と、千代まで声量を落とした。
 女3人が顔を突き合わせ、目玉をぎょろつかせながら周囲を探る。
 テレビから漏れる賑やかな笑い声が遠くに感じるほど、3人は神経を集中させた。
 
ヒタ…ヒタ…。

 ナニかが足音を忍ばせ廊下を歩いている。そんな音がする。
 3人は無言のままに目を見合わせた。
 座卓を囲って座っていたが、弥生が千代に寄り添うように体を移動させる。真衣も尻を引き摺るように千代に体を寄せた。
 3人の意識は完全にテレビの音を遮断し、廊下に向いている。
 音の正体を探ろうと集中している中、それはけたたましい音を立てた。

ダダダダダ…ッ!
 
 階段を駆け上がった足音に、3人は肩を跳ね上げた。
 瞬時に肌が粟立つ。
「翔太が帰って来たんやね」
 千代が震える声を絞り出し、弥生が「いや、コンサートが終わったくらいの時間よ?」と同じように震えて答える。
「そもそも車が入って来たら分かるよ」
 障子戸の向こうは玄関だ。
 玄関は昔ながらの厚手のすりガラスを嵌めた格子引き戸だ。光は容易にすり抜け、引き戸の正面に立てば人影だって確認できる。
 居間は障子戸ということもあり、ヘッドライドのような強い光なら辛うじて気づける。それ以前に、錆びた門扉やタイヤに踏まれた砂利が音を立てる。
「ちょっと真衣ちゃん、見ておいで」
 千代の言葉に、真衣はぎょっとした。
「そうやね。真衣の部屋は2階でしょ?」
 小野家は所謂、欠陥住宅というやつだ。
 病を患い、余命いくばくもない祖父に立派な家を見せようと、工事を急かした代償だ。
 2階の部屋は3部屋あり、あろうことか東側が物置として潰れている。南側が翔太の部屋で、襖を挟んで北側が真衣の部屋になる。兄妹の部屋は、「部屋飽きた。変わって」で、何度も南北の部屋が入れ替わる。今は北側が真衣の部屋で固定されている。
 さらに兄妹の部屋は襖で仕切られているが、入り口はドアだ。
 小野家にあるドアの数は2階3部屋だけで、他は障子戸や引き戸となる。障子戸の開閉音はススーッ、と比較的静かだが、ドアは違う。ドアノブがガチャリと鳴り、閉じるときもバタンと音が立つ。
 階段を駆け上る音ばかりに気を取られたが、ドアの開閉する音は聞こえなかった。
 階段を駆け上ったのに、ドアを静かに開け閉めするだろうか。
 真衣は不可思議な事実に気づいて顔を強張らせた。それはとても恐ろしいことだが、3人でパニックになるのはもっと恐ろしい。
 ドアに関することを口に出来ないまま、真衣は居間を出る。
 真衣は正直、2階が好きではない。2階というか、薄暗い物置が好きではないのだ。これは子供じみた嫌悪感で、オカルト的な第六感シックスセンスではない。
 小学生までは、千代と同じ1階の座敷で寝起きしていた。中学生になり、やはり1階の個室となっている和室に部屋をとったが、手狭だったこともあり2階へと移った。
 その時は、まだ良かったのだが、なぜかここ最近、ひと際物置が不気味に感じられて嫌な気分になるのだ。
 翔太が隣室で寝起きしていると思うからこそ、まだ平気だったが、今は違う。
 玄関を見ても翔太の靴はないのだから、絶対に2階は無人だと真衣は確信した。
 幽霊も怖いが、不審者も怖い。
 真衣は階段の照明を点けた。
 2階は階段を上がってすぐに3つのドアが配されている。廊下はないので、誰かが立っていればすぐに目につく。
 オレンジ色の仄暗い照明に不可解なものは見当たらない。
 それでも心許なく、1階廊下の照明も点けた。ついでとばかりに玄関の傘立てにささるゴルフのアイアンを手にする。これは允人の素振り用だが、真衣は護身用にしている。
「お兄ちゃん?帰って来たの?」
 探るような声を2階へ投げるも、当然、返答はない。
 耳を澄ませても、居間からテレビの音が流れ、庭の草木の陰から鈴虫が羽を震わせる音が聞こえるだけだ。
 焦れたのか、千代と弥生も出て来た。
 3人で2階を見上げ、声をかけるが静けさだけが返る。
 千代が玄関ドアを何度か揺すり、「ちゃんと鍵はかかってるね」と確認する。
「気のせいよ。気のせい」
 からり、と弥生が笑って結論付けた。
「そうね。古い家だから、家鳴りとかよ。じゃあ、寝ようかね」
 千代が逃げるように、「おやすみ」と去って行く。弥生も「私も眠くなってきたわ」と、夜9時にも満たない時間なのに去って行った。
 真衣は2人に裏切られた気分になりつつ、夜遅くまでバラエティー番組を繋ぎ見て凌いだ。
 お調子者の芸人を見るとホッとするが、睡魔はやってくる。
 意を決し、自分の部屋だというのにノックし、「失礼します」と言葉をかけてから入ることとなった。
 一度寝てしまえば眠りは深い。
 真衣の眠りのポテンシャルは遺憾なく発揮され、何事もなく朝を迎えた。
 3人は夜の出来事に口を噤み、話題にすることはなかった。誰に言われた訳でもないが、自然と3人の中で禁句となっていた。
 ただ、真衣の中で謎は残った。
 あれは何だったのか…と。


「お隣、お盆明けに引っ越して来ることになったわ」
 光江はエプロンで手を拭いながら朗らかに言う。
 安堵の色を帯びているのは、空き家が多いと防犯面が不安だからだ。
 田舎というのは、どうしても閉鎖的な一面がある。寒村の差別じみた閉塞感はないが、見知らぬ相手には警戒心が高まる。森を有する神社があるので、なおのこと警戒心は高い。
 開けた神社とは異なり、鬱蒼とした森のせいで、外から来る不審者は多いのだ。
 夜遅くに犬猫を捨てに来る不心得者もいれば、認知症の老人が徘徊していたこともある。
 さらに怖いことに、何が目的かも分からない、外から家々を観察するような不審者の目撃情報は多発している。
 そういう事情もあり、光江は知人の伝手で警察官一家に家を貸すことにしたのだ。警察官に貸せば、数年で転勤で出ていくことになるが、紹介によって次も警察官一家が入る可能性が高い。
 真衣もほっとした。
 田舎の家は、どうしても無防備になりやすい。死角も多いので、日常的にパトカーが行き交えば安心だ。アイアンを手に威嚇する日も来ないだろう。
「翔太はまた外泊?」
「今日は友達の結婚式で帰れないのよ。隣の県に行ってるわ」
「あぁ~言ってたね。ご祝儀どうしようかって。翔太は忙しいわね」
 千代が納得顔で頷き、真衣はちらりと天井へと目を走らせる。
 今日も2階は1人だ。
 嫌な気持ちに渋面を作り作り、障子戸へと振り向いた。
 名前を呼ばれた気がしたが、気のせいかもしれない。あれから神経質になっている。
 より一層顔を顰めると、遠くから錆びついた門扉の開閉音が聞こえた。
「ようやくお父さんが帰って来たわね」と、光江が障子戸へと目を向けている。
 田舎というのは冬は農閑期なので比較的暇を持て余すが、春から秋にかけては忙しい。農業に勤しみ、さらに町内会の行事が多発する。祭りや盆、さらには町内会同士が対戦する野球や運動会とイベント尽くしなのだ。
 中でも夏は、神社や河川敷の草刈りに加え、集落がもっとも賑やかになる盆踊りが行われるので寄り合いが多い。
 この地域の盆踊りは、盆踊り会場を設営せず、初盆を迎えた家々に赴いて踊るのだ。
 町内会の力自慢が長胴太鼓や太鼓台を担ぎ、夕暮れから順繰り家を回る。男衆を迎える家は大変だ。仏壇に手を合わせに来る客を相手にしつつ、男衆を酒と軽食で持て成さなければならない。さらに盆踊りに参加してくれた子供たちに菓子を配る。この菓子目当てに、初盆を迎える家々は常に賑やかに先祖を迎えることができるのだが、家を回るごとに酔っ払いが増えるのも盆踊りならではの弊害だろう。
 男たちは盆が近くなると公民館や持ち回りの家で太鼓や歌を練習し、食事をご馳走になる。
 盆踊りをするスペースがない家は、近場で広場を探し、根回ししなければならない。たまに道路にはみ出るが、そんなことで目くじら立てて警察に通報する者はいない。
 持ちつ持たれつ。
 ご先祖様たちを思い踊るのだ。
 田舎は本家が多いので、盆になると各地から子や親戚が帰省して来る。盆時期は、一時いっときとはいえ田舎の人口が爆発的に増えるので、町内会の話し合いも熱が入ったのだろう。
 いつもの寄り合いより少し遅く、允人はほろ酔いで帰って来た。
 日々の農作業と、町内会野球クラブの練習で浅黒く焼けた肌に酒が入り、赤黒い顔になっている。
 允人は酒に弱い。
 暇があれば動き回る性格を謹厳だと思われている允人は、たびたび地域の組合長に押し上げられる。なんとか年の順があると回避しているが、頼まれると断れない性格なのか、毎度律義に寄り合いに顔を出し、進められるがままに酒を飲む。
「今帰った~。風呂は誰かが入ってるか?」
 ふわふわと、酒に酔った声に、光江が台所を出ていく。
 覚束ない足取りで靴を脱ぐ允人に、「誰も入ってないわ。うわ!お酒臭い」と光江が大袈裟に叫ぶ。「汗臭いし、早く入って」シッシ、と犬猫を追い払うように允人を風呂場へと急かす。
 そんな賑やかな声を聴きながら、千代が立ち上がった。
「それじゃあ、私はもう寝ようかね」
「おばあちゃん、もう寝るの?」
「もう9時を回ってるから眠いわ」
 ふわぁ、と千代が欠伸を掻く。
「真衣ちゃんも早く寝なさいね」
 千代は言いながら、居間を出て行った。
 烏の行水の允人もさっさと風呂に入り、寝てしまった。鼾が酷い。
 最後に風呂に入ったのは光江だ。丹念にスキンケアを施し、寝酒とばかりに少しの日本酒を楽しんでから部屋に戻った。
 結局、また真衣が1人残された。
 テレビのバラエティー番組をBGMに、居間で宿題をちまちま片付ける。
 真衣は基本、夏休みの宿題は前半に終わらせるタイプだ。お盆以降はのんべんだらりと過ごすのを良しとする。
 今も僅かに残った計算問題と睨めっこしているだけだ。解けない問題は夏休み明けに友達に聞けば良い。
 キリがいいところで宿題を終え、テレビを消す。
「寝よ…」
 独り言がやけに耳につく。
 允人の鼾と軽やかな音を奏でる鈴虫。ジージー、と鳴くのはクビキリギス。微かに、森に棲む梟が、ホゥーホゥーと侘しく鳴く声も聞こえる。
 真衣がカーテンを僅かに開けば、外は真っ暗だ。外灯などはない。そのせいで、網戸には貴重な光源に吸い寄せられた羽虫がびっしりと集まっている。それを目当てに、4、5匹のヤモリが集う。
 よく見れば、網戸にカブトムシのオスが止まっている。
 少し得した気分に浸っていると、「……真衣」と囁くような声に呼ばれ、真衣は勢いよく振り返った。
 誰もいない。
 允人の豪快な鼾を心強く思いながら、真衣は周囲に視線を巡らせた後、カーテンを閉めて照明を落とした。
 それから足音を殺しながら居間を出る。
 廊下に蚊取り線香の匂いが充満している。築山のせいか、森のせいか、小野家は蚊が多い。廊下には蚊取り線香、部屋には電子蚊取り器と万全の体制を敷く。
 真衣は蚊取り線香の匂いを吸い込み、足音を忍ばせて階段を上る。
 古い日本家屋はすぐに家鳴りを起こす。
 特に階段の軋みはよく響く。
 あれだけ鼾を掻いている允人は、口癖のように「目が覚めるから階段は静かに上り下りしろ」と言う。絶対に目が覚めていないのにだ。
 階段を上り終えると、あの日からの日課、「失礼します」と自室に向けてノックを放ち、部屋に入る。
 居心地が悪いなりに、部屋は真衣の趣味に富んでいる。少しでも居心地よくという思いが、推しのロックバンドのポスターを貼りまくるという暴挙にでているのだ。
 さすがに天井に貼っていないが、ベッドに横になっても推したちと目が合うように壁には大小様々なポスターが貼られている。
 枕元には携帯電話。手の届く場所には白い笠を被ったテーブルランプ。
 家族にも内緒だが、ベッドと壁の隙間には木製バッドを潜ませてある。
 タオルケットは全身を覆うように被る。爪先さえ出さない。
 薄手の寝具には何の効力もないが、真衣にとっては結界のような頼もしさを感じるのだ。
 真衣はこれで万全だと、テーブルランプの明かりをそのままに眠りに落ちた。
 次に目覚めるのは朝だ。
 そう思っていた真衣は、1時間も経たないうちに小さな物音で意識を浮上させた。

コツン…。

 真衣は息をのみ、目をぎょろつかせる。
 テーブルランプの弱々しい明りがあるので部屋を見渡せる。
 何も変化はない。

コツコツ…。

 再び音が鳴った。
 隣だ。
 襖を隔てた翔太の部屋から音がしているのだ。
 木造家屋というのは家鳴りが多い。それは気温や湿度の関係で、木材が膨張、収縮を繰り返すのだ。他にも、どうやって入り込むのか、ネズミやイタチが屋根裏を駆け回ることもある。
 小野家も昔は夜になると大運動会だった。イタチがネズミを追いかけているのか、ドタドタと酷い騒音を立てていた。猫を飼った辺りから、ぴたりと止んだが。
 どちらにしても、コツコツ、という音には当てはまらない。

コツコツ…、コツコツ…。
コツコツ…、コツコツ…コツコツ…。

 何の音だ。
 単調だが、徐々に大きくなる音は、どこかで聞いたことがある。
 心臓が爆ぜるように鼓動を打ち、額にびっしりと冷や汗が浮かぶ。
 真衣は緊張に顔を強張らせながら、ぐるぐると思考を巡らせた。そして、その音とそっくりの音に思い至ると、ベッドから転がり落ちて部屋を飛び出した。
 恐怖で喉が窄み、悲鳴は出なかった。
 階段を滑り落ちそうになりながらも1階に飛び降りると、両親の部屋へと駆け込む。
 允人は鼾を掻いているが、光江が眠気眼をこすりながら「どうしたの?」と起きていた。
 あれだけの騒音だ。
 安眠を妨害したことを真衣は謝りながら、がくがくと震える手を握りしめた。
「ま…窓。お兄ちゃんの部屋の窓……だ、誰かがノックしてる…」
「え?」
「指の関節のとこ…」
 真衣は唾を嚥下し、カーテンを捲り、窓ガラスに人差し指の関節を当ててノックする。
 コツコツ。
 同じ音が鳴った。
「そんなはずはないでしょ?寝ぼけてたか、虫の音を聞き間違えたんじゃない?明日の朝、確認するから今日はここで一緒に寝なさい」
 ぽん、と光江が隣を叩く。
 真衣は「聞き間違いかもね」と弱々しく笑いながらも光江の隣に並んで寝た。
 もう高校生なんだよ、という言葉は出なかった。
 理由が分からない以上、1人で2階に戻るのは怖くて出来なかったのだ。

 翌朝は允人が2階を確認した。
 小野家にベランダはない。
 秋になると2階の窓の前に干し柿を干すことはあるが、夏場は何もない。コツコツと音を鳴らすようなものは確認できず、かといって不審者が上ったような痕跡も見つけられなかった。
 允人が2階を調べている間、光江は弥生と末妹の熊田香子きょうこを呼び寄せた。
 昨晩の話をすると、弥生が渋面を作り、「実は…」と数日前に経験した不可解な音を告白した。
 香子は息を呑み、光江も顔色を失くす。
「ねぇ。お姉ちゃんたち…アレが原因とかある?」
 アレ、と言われてピンときたのは光江だ。
「孝昌さんとこの…」
「あ!遺品整理の時に出てきた?」
 光江が歯切れ悪く呟き、弥生が思い出したとばかりに声を上げた。
 孝昌の姓は小野になる。
 小野家の分家だ。土地は小野家で、そこに真衣の大叔父が家を建てた。家を管理する者がいなくなり貸家とすることにしたが、家の中にはあらゆる物が残されたままになっていた。
 そこで允人は、処分の判断に困る骨董品や写真などは段ボール箱に詰めて孝昌に送った。粗大ゴミと判断したものは廃品回収で捨てたが、捨てるのも無料タダではない。多くの不用品の中で燃えそうな物は、允人が自分の畑の隅っこで燃やしたのだ。
 允人はせっかちで大雑把な面がある。
 次々と燃やされる遺品に光江たちは苦言を呈したが、「どうせ捨てるなら一緒」の一言で火にくべた。
 だが、1点だけ允人にも躊躇する物があった。
「仏壇の裏から出てきた日本人形」
 香子が渋面を作る。
 あらかた掃除が終わり、最終確認で見回った際に出てきたのが、その日本人形だ。最初の整理では見つけられなかったのだから不思議な話だと、あの時はみんなで首を捻っていた。
「アレ、義兄さんも捨てなかったけど、今はどこ?」
 香子の問いに、光江は2階を見上げる。
「物置だわ…」
 その答えに、姉妹は揃って沈黙した。
 そこに、允人が「分からん!」と声を上げ、ドタドタと階段を下りてくる。
「何もなかったが、真衣は?」
 允人は言いながら、廊下で立ち話をしている3人に目を向けて眉宇を顰めた。
「どうした?」
「あ、いえ。真衣は花火大会があるでしょ?友達と一緒に図書館行って、カフェで時間を潰すんだっていうから送って行ったわよ。帰りは9時頃。迎えに行かなきゃいけない」
「それじゃあ、翔太も花火大会か」
 遊びまわってばっかりでなかなか学生気分が抜けない、と允人は口をへの字にしている。
 翔太は学生の頃に一人暮らしをしただけで、あとは実家住まいだ。その分、町内会には顔を出す。町内会の野球大会、草刈り、盆踊りや祭り、どんど焼き。その他の寄り合いにも顔を出すのだから、他所から見れば十分頑張っている。それでも允人の目には遊んでいるように見えるのだろう。
 光江は苦笑を零す。
「ちょっと!それより義兄さん。あの日本人形。あれが原因じゃないのかって話してたんだけど」
 香子が少し興奮して言えば、允人は「またオカルトか」と眉間の皺を深める。
 弥生と香子は幽霊などのオカルトを信じる傾向にあるが、弥生は般若心経を諳んじるほど信仰心が高い。
 光江はどっちつかずだ。幽霊は怖いから信じない。信仰心は高くはないが、神棚の手入れはする。ご先祖様の供養も欠かさないが、”南無阿弥陀仏”くらいしか経文は知らない。
 允人は現実的だ。見たこともないものは信じない。宗教は下らないと一刀両断だが、墓参りは欠かさない。仏壇に参るのは些か雑だが、手を合わせるだけでもマシなのだろう。
「馬鹿馬鹿しい」と愚痴を零しながらも、姦しい3人に背中を押されれば拒否はできない。
 不満たらたらに階段を上り、物置の照明を点ける。
 物置は広い。
 翔太と真衣の部屋を足したくらいの広さ、つまり2階の半分が物置なのだ。窓はなく、柱や梁があちこちに走るので照明も1ヵ所だけ。明かりを点けても死角が多いせいで、其処彼処が仄暗い。意味のない横木もあるので、頭上も気を付ける必要がある。
 過去、親族たちがこき下ろしたほどの欠陥設計だ。
 その物置には、古びた箪笥をはじめ、雑多なものが詰め込まれている。
 もう使う機会はないだろう20年前の扇風機やテレビ、黒電話。設置や片付けが面倒だからと殆ど開封されることのない7段15人飾りの雛人形。数十年と開けていない衣装ケース。古いカレンダーや整理されていない写真のネガも放置されている。
 そんな雑多なものをかき分けた物置の奥の奥。
 なぜ厄介な所に押し込めたのかと誰もが不思議に思うほどの奥に、件の日本人形はあった。
 かむろ髪の童女の日本人形だ。
 赤い着物は保存状態の悪さから色が薄くなっている。かむろ髪も艶がなく、ぱさつき、湿気にやられたのか千々に乱れている。
 場所はちょうど翔太の部屋の窓側だ。
 その不思議な一致に女性陣は顔を顰めた。
 允人は放置され続けた古めかしい日本人形を手にすると、僅かに首を傾げながら戻ってくる。
「なぁ。この人形、こんな顔だったか?」
 しきりに首を傾げつつ、日本人形を3人に見せると、3人とも顔を強張らせた。
 誰の目からも日本人形の目が吊り上がっている。
 内に怒りを込めた顔つきは、かむろ髪の童女には相応しくない。
 なにより、前はもっと普通の顔つきだった。
「これは今日中にお寺さんにもって行った方がいいわ」
 弥生が唇を引きつらせて言う。
 光江と香子も同意に頷く。
 允人はもう「気のせい」とは否定しなかった。「檀那寺に電話してくる」と日本人形を光江に渡し居間に下りて行った。

「お盆前で良かったです」
 からりと笑ったのは、寺の住職だ。
 年は70を過ぎている。
 跡継ぎ息子もいるが、寺の書き入れ時である盆は2人体制でも人手が足りない。それはどこの寺でも同じで、盆前から坊さんたちはスクーターに乗り、ノルマとばかりに檀家を巡って行く。
 スクーターに乗るのは、車では難しい細い道を行くことが多いからだ。民家が密集しているような田舎は、細い道が入り組み、駐車スペースがないような家もある。
 この地域も入り組んだ道が多く、対向車をやり過ごす時間が勿体ないのだ。スクーターなら簡単に車とすれ違えるし、道を間違えてもUターンにも苦労しない。
 1分1秒を競うように、「雨よ降ってくれるな」と坊さんはスクーターに乗り、黒い衣を風にたなびかせる。檀家宅に着いてから袈裟を着付け、衿元を正す。
 この寺でスクーターに乗るのは後継ぎ息子で、住職は冷房の効いたコンパクトカーで移動する。
 今は、その繁忙期前で、なんとか住職が都合をつけてくれたのだ。
 繁忙期前とは言え、境内は既にいつも以上に強く線香の匂い漂う。お盆になると視界が霞むほど線香の煙が立ち上る。
 允人たちは本堂の御本尊様に手を合わせた後、住職にここ数日の出来事を語った。その感想が上記の言葉だ。
 嫌味ではない。
 住職の前に置かれた日本人形を見ての言葉は、あまり良くない意味が含まれている。
「電話でも伺いましたが、このお人形さん。おばあさんの形見じゃないでしょうか?」
 孝昌の父、小野学は2年前に逝去したが、学の妻きよ子は11年も前に逝去してる。
 当時は孝昌の帰郷も頻繁にあったので、允人たちが遺品整理を手伝うことはなかった。それ故に、日本人形の記憶がない。そもそも日本人形を仏壇の裏に隠すという発想自体が理解できない。
 孝昌が隠したのか、学が隠したのかも分からない。
「ここからは私の推測ですが、生前、おばあさんはこの日本人形を愛していたのではないかと。人の形をしている人形は愛せば愛すほど魂が宿りやすい。おばあさんが亡くなって、ずっと仕舞われて、出されたと思ったら今度は物置。この子は出して欲しかったんだと思います。そこへ丁度、小野さんの娘さんと波長があった」
「波長…ですか?」
「ええ、ええ。小野さんの娘さんは、見えやすい人なのだと思います。とは言っても、頻繁に見える、所謂、霊感の強い霊能力者とは違います。波長が合えば見える。それはおばあさんが、もしくはこの子が発したSOSのチャンネルというのでしょうか。そのチャンネルを拾えたのが、小野家では娘さんだけだったのではないかと思います。娘さんが寝ている時、窓をノックするような音がしたそうですが、娘さんがカーテンを開けたら、きっとこの子か、この子を物置から出してほしいと願うおばあさんがいたと思います」
「窓の外にいた……ですか」
 允人の口から重々しい声が零れる。
 住職を前に、「馬鹿馬鹿しい」と一蹴できるほど允人も図太くない。なにより、不思議としっくりと允人の胸に落ちた。
「あの…供養は可能でしょうか?」
「ええ。預かった方が宜しいでしょう」
 住職は優しくかむろ髪を撫でると、赤ん坊を抱くように日本人形を抱えた。
 御本尊様の前に日本人形を置き、住職は御前座布団に座す。
 咳払いを一つ。
 喉を整えた後、磬子けいすを鳴らす。
 コォーーーーン、と重々しい音が響くと同時に読経が始まる。
 慌てて4人も御本尊様に向き直ると手を合わせた。

 その後、送り盆で寺を訪れた小野家は日本人形と対面した。
 翔太と千代は意味の分からない顔をしていたが、真衣とて同じだ。光江から「顔が穏やかになったでしょう?」と言われても、以前を知らない真衣には感想が出てこない。
 ただ、真衣は当事者として事の経緯は聞かされている。
「拝んでおきなさい」という言葉も素直に受け入れることができる。
 多種多様な人形やレトロな玩具、日本兵が並ぶモノクロ写真。
 それらに囲まれた日本人形を前に、真衣は手を合わせた。




☆*: .あとがき. :*☆

穏や~かに終わりを迎えましたが、現実は口汚かったかな(笑)

私「マジふざけるな!勝手に呪いの人形仕舞うな!ショック死するかと思ったわ!」
母「ごめ~ん。日本人形を物置に仕舞ってるって言っとけば良かったね」
叔母1「まぁ、普通は物置に形見の人形なんて仕舞わんね。あと呪いの人形じゃなく形見ね!」
叔母2「お姉ちゃんも義兄さんも雑すぎ!恐ろし!」
父「…」

でした。
よく外国映画や動画で奇妙な物音がして、「ちょっと見てくる。お前らはここにいろ」みたいなシーンがあるけど、ほんと頭のネジが飛んでるとしか思えない(笑)
逃げるが吉よ。
例え自然現象や小動物が起こした物音でも。正体が分からなければ逃げる!
今回、しみじみ思いました。
逃げてよかった。
怪異は安全圏から楽しむのが吉です♡
肝試しシーズンとなりましたが、皆様もお気をつけて楽しんで下さいね~

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