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異世界の食文化
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雄二は無意識のうちにテーブルのある部屋を見た。しかしそこには家族の姿はない、もちろん食事の準備もされていない。昨日の出来事はすべて妄想で、実は家族で引っ越してきただけだったのではないかということを期待したが、やはりここは元いた世界ではなく天界なのだ。
(いつまでもくよくよしたって仕方ないのにな)
わかってはいるがその現実を受け入れるまではまだまだ時間がかかりそうである。まだ目は完全に醒めてはおらず、眠そうな目つきのまま朝食の準備をした。準備といっても雄二は料理がそこまで得意では無いため、冷蔵庫にあった食材でサラダを作る程度である。時間ギリギリまで寝ていたためご飯を炊く時間が無かった。そのため、朝食は彼が適当にこしらえたサラダのみとなる。
(この食生活は改めないとダメかもな...)
完成したらそのままサラダをほうばり、それが済むと身支度を整え始めた。服は部屋のタンスに一式入っており、どれもワンポイントがあったり無地だったりと無難なデザインのものであった。一通り準備を終えたら地図を頼りにレナの元へ向かった。天界語を習いにいくためだ。ちなみにこの地図は昨日教育支援所でもらったものである。
外の気温は昨日と全く変わっておらず、ぽかぽかとした陽気である。上空の方を見てみると昨日は気が付かなかったが太陽も雲も存在しなかった。そのうえ雄二がもといた世界とは違い、それは一面青ではなく真っ白なのである。光源が見当たらないため、何故ここまで明るくなっているのかは分からなかった。
(なんだが不思議な気分だな、太陽が無いだけでここまで違和感を感じるなんて)
その後レナが住む家に着き、ドアを叩いた。すると私服姿のレナが現れた。彼女は雄二とは違いしょぼくれた目をせず、意識がハッキリしている様子である。天使は睡眠を必要としないため、それは当然の事だ。
「お、雄二君ちゃんと朝起きれたんだ。えらいね~」
雄二は若干馬鹿にされているように感じたがレナは彼を快く迎えてくれた。
「おじゃましまーす」
促されるまま玄関に入っていった。中の広さは現在雄二が住んでいる家と同じで間取りも同じである。その奥の開け放たれている横扉からレナの寝室と思われる部屋が見えた。遠目から見てもぬいぐるみがいくつかあり、壁紙も花柄模様であるのが見え、意外と女性的な部屋であることが確認できた。キッチンのある部屋もよく見れば色とりどりの花が飾られ、テーブルにかけられているクロスも淡いピンク色であった。
レナの風貌から想像できないような部屋であったため
「レナさんの家の中がこんな女性的な感じなんて意外ですね」
と無意識に呟いてしまった。
「何かな~?雄二くんは私の部屋がこんな女の子っぽいことに違和感があるって言いたいのかな~?」
「い、いえ、そんなことは....」
「ほんとに~?」
ふくれっ面をしたレナから異様な圧力がかかる。話を逸らすために雄二は早速今日の課題について聞いた。
「そ、それじゃあ今日は何について勉強するんですか?」
「あ、そうそう、もう聞いていると思うけど雄二君には最初に天界語を覚えてもらわなきゃならないのよね、教科書は持ってきた?」
「はい、ありますよ」
どうにか誤魔化せたことにほっとした雄二は持参した手提げ袋から教科書を取り出す。
「でもこれ凄いですよね。ちゃんと全部日本語で説明されていて」
「そりゃ天界には色んな世界から人が来るからね。その天界語の教科書に限っては全ての言語で訳されているから、まぁその他の教科書は全部天界語だけど」
「だから最初に天界語を覚えなきゃならないんですね」
「そういうこと~」
そして1、2時間ほど雄二はレナに天界語を教わった。レナの日本語は彼女が日本出身なのではないかと疑いたくなるくらい流暢なものであった。そのためレッスンもかなり分かりやすかった。しかし一部気になる場面もある。
例えば例文の問題を解いていた時、ある単語の意味が分からずレナに質問した際の出来事
「レナさん、この単語の意味が分からないのですが」
「それはあれだよ。君の国の言葉で言う面白いとかワロタとかそういう意味だよ」
「あ、そういう・・・ん?今なんて?」
「どうしたの?私何か変な事言った?」
「あ、いや、なんでもないです・・・」
またある時には
「あの、この単語が分からないのですが」
「あーそれはね、調べるとかググるって意味だよ」
「・・・」
またその後には
「この文章の意味って何ですか?」
「これはね、この人の人気は落ち目だからもうオワコンだって意味だよ」
「・・・」
こんな感じにレナの口からは次々にネットスラングが飛び出してくるのである。そして、その場面にもう何回遭遇したか分からなくなってきた時ぐらいに雄二はついにそれに踏み込んだ。
「あの・・・さっきからレナさん、なんて言うか独特な日本語を使いますよね」
と、さり気なく問いただすと
「あーこれ?なんかこの前日本に滞在してる天使の子に教えてもらったんだ~。なんか最近若者の間で流行ってるみたいなのよ。雄二君も知ってた?」
「まぁ・・・知っているには知っていますが、流行って・・・いるんですかね・・・」
「えーもしかして雄二君は遅れてるんじゃない?」
「そうですかね、アハハ」
雄二は然るべき時までそれを指摘せずに放置することにした。面白いというのもあるがさっきのレナの発言と文字通り天使の笑顔に少しイラっとしたからである。
レッスンを終えた雄二はレナに別れを告げ、小腹が空くまで図書館へ向かうことにした。天界にも図書館という物はちゃんと存在し、地上に関して詳しく書かれた本や天使によって書かれた自己啓発書などが置かれている。そのほとんどは天界語で書かれているため今の雄二にはそれらを読むことはできない。そのため今回はさっき習ったことの復習と予習をすることが目的である。
雄二は生前もテスト前などに図書館で勉強することが多かった。やはり自宅では誘惑が多すぎるために集中することが出来ないのである。
地図に書かれている通りの場所へ向かい、そこにたどり着いた。しかしそれが図書館なのかは外装から確認することはできなかった。建物の名前が天界語で書かれていたからである。
(あれ?昨日行った建物に書かれてる文字は読めたのにな)
そこで彼はある一つの結論に思い至った。
(そうか、昨日レナさんにかけてもらった術式?がとけたんだ)
建物の中に入ると2階建てになっているらしく、大きな直階段が目に入ってきた。そして周りを見ると大きな本棚が並んで、そのなかに様々な本が並べられていた。窓口のようなものも確認でき、そこで本の貸し出しを行っているのだろうと容易に想像できた。やはり天界の図書館なだけあって中は国立図書館の数倍もありそうな広さで本の冊数もその場で確認できるだけで数万もあった。
「凄いな・・・」
目の前の光景に言葉がこぼれた。
早速雄二は勉強するための机を探した。するとすぐに長机がいくつも並んでいるスペースを見つけることが出来た。
そして空いた椅子のどこに座ろうかと考えていると
(ん?もしかしてあれはあの人じゃないのか?)
偶然にも艶やかな金髪といかにも魔法使いという格好をしたカルマを発見することができた。せっかくなので雄二は彼女に挨拶をすることにし、そのまま歩み寄った。
「(こんにちわ、カルマ)」
図書館なので肩を叩いて小声で話しかける。しかし、カルマは困ったような顔をして同じように小声で何かを彼に話し始める。
「(〇#×・・@:。。¥)」
「(え?ごめん、もう一度言ってくれる?)」
「(&%::・¥・▽)」
「(なんて言ってるか分からないよ・・・)」
彼にはカルマが何を話しているのかが全く理解することができなかった。そのため雄二も彼女と同じような困惑した表情を見せる。お互い目を合わせたまま黙りこけてしまう。そして二人は同時に互いに持っている教科書に目を向けた。
その瞬間二人は気が付いた。術式の効果が無くなり会話による意思疎通が出来なくなっているということに。
仕方が無いので椅子や自分を指さすなどのジェスチャーを駆使して意思疎通を図り、雄二はカルマの隣で勉強することとなった。そのまま勉強をしていたがお互いの間に何とも気まずいわけでもないどう表現したらいいのか分からない独特な空気が漂う。しかし雄二はそのような空気を気にするような性格でもなかった。対してカルマ何か気になることでもあるのか彼の顔をジーっと見つめていた。
本人はバレていないと思っているのだろうが雄二はそれが気になって仕方が無かった。
(何なんだろう・・・)
これに関しては言葉が通じるようになった時に詳しく聞けばいいという結論に至り、そのまま集中することにした。
復習が終わりしばらく予習をしていると、いい感じに小腹が空いたため昼ご飯を食べることとした。ご飯を食べる動作で昼食を食べに行くことをカルマに伝えると、彼女は自分を指さしお腹を摩る動作をした。どうやら彼女もお腹が空いたようだ。
結局二人は一緒にご飯を食べることとなった。雄二は一人の場合家で食事を済ませる予定だったためどうしようか悩んでいると、カルマに手招きされ彼女の家に連れていかれた。
彼女の家に上がらせてもらうと中は雄二と同じようにまだ何もなく殺風景な部屋であった。
「おじゃまします」
言葉は通じないが上がる際に一応そう言っておく。雄二はそのままテーブルに付いている椅子の一つに促された。
(何だか無口のヒロインみたいでグッとくるものがあるなぁ)
そんなくだらないことを考えていると、カルマは三角帽子を壁に立てかけてエプロンを装着した。これから雄二のために料理をしてくれるようだ。
まず戸棚から素材らしきものを出し、それを流し台の上に置いていた。カルマの体によってそれが隠れてしまいよく見えなかったが、それは野菜ではない事だけはわかった。不思議に感じたのは戸棚から食材を出す際にそこから冷気が出ていたことだ。それは戸棚を開けた際に感じた肌寒さによって分かった。
どう見ても只の戸棚で電気も通っているようにも見えないのにそれが不思議で仕方が無かった。
(魔法か何かだろうか・・・)
そんな事を考察していた。
トントンと包丁で何かを切る音が聞こえてくる。しばらくその音が続くと、次にそれを火で炒める音が部屋に響き渡った。今まで嗅いだことのないような芳醇な香りが鼻を刺し、それによって雄二の腹の虫が鳴る。
その後調理が終わったらしく、皿に盛りつけられた料理が雄二の目の前とカルマが座ると思われる向かい側の椅子の前に置かれた。
(こ、これは・・・)
とても美味しそうな匂いをさせているそれは雄二が地上にいた時によく見た蝶々やカブト虫の幼虫に類似しているものだった。大きさは彼の前腕ほどで、丸焼きにされたそれの周りには色とりどりの野菜が盛り付けられている。
「うわぁ・・・」
言葉にならないような感情が口から洩れる。
カルマの方を見てみると、彼女はフォークとナイフを器用に使って嬉しそうにそれをバクバクと食べていた。それを雄二は驚きとちょっとした恐怖感が混じったような顔で見つめていた。すると彼女はそれに気づいたらしく、彼の方を向いてニコニコしながら何かを求めるような表情をしている。
(こ、これは食べた感想を求めている顔だ・・・)
雄二は恐る恐る巨大な幼虫の形をしたそれをフォークで軽く突いてみた。凄く弾力があり汚い表現だがそのまま刺せば何か出てきそうに感じた。しかしカルマが食べている様子をみるにナイフを刺すと何か液体が出てくるというような事はなさそうである。
食べることを躊躇しているとカルマの表情は少し悲しそうなものになっていった。見た目が悪かったのか、匂いがダメだったのではないかなどと心配しているのだろう。
(くっ、ここで食べるのを拒否したら悲しませる・・・)
雄二は勇気を振り絞り、端っこをナイフで切って口に運んだ。香りはとても良いのだが触感が独特である。そして噛めば噛むほどに素材本来の味が口の中に広がっていった。
(外国人が初めて生ものを食べた時の感覚ってこんな感じなんだろうな・・・)
つまりはそういう事である。この料理から発せられる芳醇な香りというものは調味料によるものだった。
期待の眼差しを向けてくるカルマには張り付けたような笑顔を向けて親指を立てた。雄二が伝えたかった内容が伝わったらしく、彼女はとても嬉しそうであった。そしてまた目の前の巨大な幼虫みたいなものを食べ始めた。雄二も踏ん切りをつけ、料理を次々と口に運んで行った。食べている時はもう無心になっていたが、カルマが何かを期待するような視線を向けていることに気が付くたびに、美味しいという意思表示のために笑顔を向けた。そのたびにカルマは嬉しそうな顔を見せる。
(うぅ・・・なんか騙してるみたいで辛い・・・)
その後食事を終えた雄二は自宅へ帰ることにした。カルマの家を後にする際には言葉が通じないため、彼女は別れの挨拶の代わりに笑顔で手を振っていた。その様子はとても愛らしく感じられた。雄二もそれに答えるように手を振ってそこを後にした。
(いつまでもくよくよしたって仕方ないのにな)
わかってはいるがその現実を受け入れるまではまだまだ時間がかかりそうである。まだ目は完全に醒めてはおらず、眠そうな目つきのまま朝食の準備をした。準備といっても雄二は料理がそこまで得意では無いため、冷蔵庫にあった食材でサラダを作る程度である。時間ギリギリまで寝ていたためご飯を炊く時間が無かった。そのため、朝食は彼が適当にこしらえたサラダのみとなる。
(この食生活は改めないとダメかもな...)
完成したらそのままサラダをほうばり、それが済むと身支度を整え始めた。服は部屋のタンスに一式入っており、どれもワンポイントがあったり無地だったりと無難なデザインのものであった。一通り準備を終えたら地図を頼りにレナの元へ向かった。天界語を習いにいくためだ。ちなみにこの地図は昨日教育支援所でもらったものである。
外の気温は昨日と全く変わっておらず、ぽかぽかとした陽気である。上空の方を見てみると昨日は気が付かなかったが太陽も雲も存在しなかった。そのうえ雄二がもといた世界とは違い、それは一面青ではなく真っ白なのである。光源が見当たらないため、何故ここまで明るくなっているのかは分からなかった。
(なんだが不思議な気分だな、太陽が無いだけでここまで違和感を感じるなんて)
その後レナが住む家に着き、ドアを叩いた。すると私服姿のレナが現れた。彼女は雄二とは違いしょぼくれた目をせず、意識がハッキリしている様子である。天使は睡眠を必要としないため、それは当然の事だ。
「お、雄二君ちゃんと朝起きれたんだ。えらいね~」
雄二は若干馬鹿にされているように感じたがレナは彼を快く迎えてくれた。
「おじゃましまーす」
促されるまま玄関に入っていった。中の広さは現在雄二が住んでいる家と同じで間取りも同じである。その奥の開け放たれている横扉からレナの寝室と思われる部屋が見えた。遠目から見てもぬいぐるみがいくつかあり、壁紙も花柄模様であるのが見え、意外と女性的な部屋であることが確認できた。キッチンのある部屋もよく見れば色とりどりの花が飾られ、テーブルにかけられているクロスも淡いピンク色であった。
レナの風貌から想像できないような部屋であったため
「レナさんの家の中がこんな女性的な感じなんて意外ですね」
と無意識に呟いてしまった。
「何かな~?雄二くんは私の部屋がこんな女の子っぽいことに違和感があるって言いたいのかな~?」
「い、いえ、そんなことは....」
「ほんとに~?」
ふくれっ面をしたレナから異様な圧力がかかる。話を逸らすために雄二は早速今日の課題について聞いた。
「そ、それじゃあ今日は何について勉強するんですか?」
「あ、そうそう、もう聞いていると思うけど雄二君には最初に天界語を覚えてもらわなきゃならないのよね、教科書は持ってきた?」
「はい、ありますよ」
どうにか誤魔化せたことにほっとした雄二は持参した手提げ袋から教科書を取り出す。
「でもこれ凄いですよね。ちゃんと全部日本語で説明されていて」
「そりゃ天界には色んな世界から人が来るからね。その天界語の教科書に限っては全ての言語で訳されているから、まぁその他の教科書は全部天界語だけど」
「だから最初に天界語を覚えなきゃならないんですね」
「そういうこと~」
そして1、2時間ほど雄二はレナに天界語を教わった。レナの日本語は彼女が日本出身なのではないかと疑いたくなるくらい流暢なものであった。そのためレッスンもかなり分かりやすかった。しかし一部気になる場面もある。
例えば例文の問題を解いていた時、ある単語の意味が分からずレナに質問した際の出来事
「レナさん、この単語の意味が分からないのですが」
「それはあれだよ。君の国の言葉で言う面白いとかワロタとかそういう意味だよ」
「あ、そういう・・・ん?今なんて?」
「どうしたの?私何か変な事言った?」
「あ、いや、なんでもないです・・・」
またある時には
「あの、この単語が分からないのですが」
「あーそれはね、調べるとかググるって意味だよ」
「・・・」
またその後には
「この文章の意味って何ですか?」
「これはね、この人の人気は落ち目だからもうオワコンだって意味だよ」
「・・・」
こんな感じにレナの口からは次々にネットスラングが飛び出してくるのである。そして、その場面にもう何回遭遇したか分からなくなってきた時ぐらいに雄二はついにそれに踏み込んだ。
「あの・・・さっきからレナさん、なんて言うか独特な日本語を使いますよね」
と、さり気なく問いただすと
「あーこれ?なんかこの前日本に滞在してる天使の子に教えてもらったんだ~。なんか最近若者の間で流行ってるみたいなのよ。雄二君も知ってた?」
「まぁ・・・知っているには知っていますが、流行って・・・いるんですかね・・・」
「えーもしかして雄二君は遅れてるんじゃない?」
「そうですかね、アハハ」
雄二は然るべき時までそれを指摘せずに放置することにした。面白いというのもあるがさっきのレナの発言と文字通り天使の笑顔に少しイラっとしたからである。
レッスンを終えた雄二はレナに別れを告げ、小腹が空くまで図書館へ向かうことにした。天界にも図書館という物はちゃんと存在し、地上に関して詳しく書かれた本や天使によって書かれた自己啓発書などが置かれている。そのほとんどは天界語で書かれているため今の雄二にはそれらを読むことはできない。そのため今回はさっき習ったことの復習と予習をすることが目的である。
雄二は生前もテスト前などに図書館で勉強することが多かった。やはり自宅では誘惑が多すぎるために集中することが出来ないのである。
地図に書かれている通りの場所へ向かい、そこにたどり着いた。しかしそれが図書館なのかは外装から確認することはできなかった。建物の名前が天界語で書かれていたからである。
(あれ?昨日行った建物に書かれてる文字は読めたのにな)
そこで彼はある一つの結論に思い至った。
(そうか、昨日レナさんにかけてもらった術式?がとけたんだ)
建物の中に入ると2階建てになっているらしく、大きな直階段が目に入ってきた。そして周りを見ると大きな本棚が並んで、そのなかに様々な本が並べられていた。窓口のようなものも確認でき、そこで本の貸し出しを行っているのだろうと容易に想像できた。やはり天界の図書館なだけあって中は国立図書館の数倍もありそうな広さで本の冊数もその場で確認できるだけで数万もあった。
「凄いな・・・」
目の前の光景に言葉がこぼれた。
早速雄二は勉強するための机を探した。するとすぐに長机がいくつも並んでいるスペースを見つけることが出来た。
そして空いた椅子のどこに座ろうかと考えていると
(ん?もしかしてあれはあの人じゃないのか?)
偶然にも艶やかな金髪といかにも魔法使いという格好をしたカルマを発見することができた。せっかくなので雄二は彼女に挨拶をすることにし、そのまま歩み寄った。
「(こんにちわ、カルマ)」
図書館なので肩を叩いて小声で話しかける。しかし、カルマは困ったような顔をして同じように小声で何かを彼に話し始める。
「(〇#×・・@:。。¥)」
「(え?ごめん、もう一度言ってくれる?)」
「(&%::・¥・▽)」
「(なんて言ってるか分からないよ・・・)」
彼にはカルマが何を話しているのかが全く理解することができなかった。そのため雄二も彼女と同じような困惑した表情を見せる。お互い目を合わせたまま黙りこけてしまう。そして二人は同時に互いに持っている教科書に目を向けた。
その瞬間二人は気が付いた。術式の効果が無くなり会話による意思疎通が出来なくなっているということに。
仕方が無いので椅子や自分を指さすなどのジェスチャーを駆使して意思疎通を図り、雄二はカルマの隣で勉強することとなった。そのまま勉強をしていたがお互いの間に何とも気まずいわけでもないどう表現したらいいのか分からない独特な空気が漂う。しかし雄二はそのような空気を気にするような性格でもなかった。対してカルマ何か気になることでもあるのか彼の顔をジーっと見つめていた。
本人はバレていないと思っているのだろうが雄二はそれが気になって仕方が無かった。
(何なんだろう・・・)
これに関しては言葉が通じるようになった時に詳しく聞けばいいという結論に至り、そのまま集中することにした。
復習が終わりしばらく予習をしていると、いい感じに小腹が空いたため昼ご飯を食べることとした。ご飯を食べる動作で昼食を食べに行くことをカルマに伝えると、彼女は自分を指さしお腹を摩る動作をした。どうやら彼女もお腹が空いたようだ。
結局二人は一緒にご飯を食べることとなった。雄二は一人の場合家で食事を済ませる予定だったためどうしようか悩んでいると、カルマに手招きされ彼女の家に連れていかれた。
彼女の家に上がらせてもらうと中は雄二と同じようにまだ何もなく殺風景な部屋であった。
「おじゃまします」
言葉は通じないが上がる際に一応そう言っておく。雄二はそのままテーブルに付いている椅子の一つに促された。
(何だか無口のヒロインみたいでグッとくるものがあるなぁ)
そんなくだらないことを考えていると、カルマは三角帽子を壁に立てかけてエプロンを装着した。これから雄二のために料理をしてくれるようだ。
まず戸棚から素材らしきものを出し、それを流し台の上に置いていた。カルマの体によってそれが隠れてしまいよく見えなかったが、それは野菜ではない事だけはわかった。不思議に感じたのは戸棚から食材を出す際にそこから冷気が出ていたことだ。それは戸棚を開けた際に感じた肌寒さによって分かった。
どう見ても只の戸棚で電気も通っているようにも見えないのにそれが不思議で仕方が無かった。
(魔法か何かだろうか・・・)
そんな事を考察していた。
トントンと包丁で何かを切る音が聞こえてくる。しばらくその音が続くと、次にそれを火で炒める音が部屋に響き渡った。今まで嗅いだことのないような芳醇な香りが鼻を刺し、それによって雄二の腹の虫が鳴る。
その後調理が終わったらしく、皿に盛りつけられた料理が雄二の目の前とカルマが座ると思われる向かい側の椅子の前に置かれた。
(こ、これは・・・)
とても美味しそうな匂いをさせているそれは雄二が地上にいた時によく見た蝶々やカブト虫の幼虫に類似しているものだった。大きさは彼の前腕ほどで、丸焼きにされたそれの周りには色とりどりの野菜が盛り付けられている。
「うわぁ・・・」
言葉にならないような感情が口から洩れる。
カルマの方を見てみると、彼女はフォークとナイフを器用に使って嬉しそうにそれをバクバクと食べていた。それを雄二は驚きとちょっとした恐怖感が混じったような顔で見つめていた。すると彼女はそれに気づいたらしく、彼の方を向いてニコニコしながら何かを求めるような表情をしている。
(こ、これは食べた感想を求めている顔だ・・・)
雄二は恐る恐る巨大な幼虫の形をしたそれをフォークで軽く突いてみた。凄く弾力があり汚い表現だがそのまま刺せば何か出てきそうに感じた。しかしカルマが食べている様子をみるにナイフを刺すと何か液体が出てくるというような事はなさそうである。
食べることを躊躇しているとカルマの表情は少し悲しそうなものになっていった。見た目が悪かったのか、匂いがダメだったのではないかなどと心配しているのだろう。
(くっ、ここで食べるのを拒否したら悲しませる・・・)
雄二は勇気を振り絞り、端っこをナイフで切って口に運んだ。香りはとても良いのだが触感が独特である。そして噛めば噛むほどに素材本来の味が口の中に広がっていった。
(外国人が初めて生ものを食べた時の感覚ってこんな感じなんだろうな・・・)
つまりはそういう事である。この料理から発せられる芳醇な香りというものは調味料によるものだった。
期待の眼差しを向けてくるカルマには張り付けたような笑顔を向けて親指を立てた。雄二が伝えたかった内容が伝わったらしく、彼女はとても嬉しそうであった。そしてまた目の前の巨大な幼虫みたいなものを食べ始めた。雄二も踏ん切りをつけ、料理を次々と口に運んで行った。食べている時はもう無心になっていたが、カルマが何かを期待するような視線を向けていることに気が付くたびに、美味しいという意思表示のために笑顔を向けた。そのたびにカルマは嬉しそうな顔を見せる。
(うぅ・・・なんか騙してるみたいで辛い・・・)
その後食事を終えた雄二は自宅へ帰ることにした。カルマの家を後にする際には言葉が通じないため、彼女は別れの挨拶の代わりに笑顔で手を振っていた。その様子はとても愛らしく感じられた。雄二もそれに答えるように手を振ってそこを後にした。
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