僕が君に殺されるまで

フィボナッチ恐怖症

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29話 狂気の沙汰

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「凛、ストップ」

 そんな比奈の声が聞こえた。
え? 比奈の声? 
ぼくは困惑しながらも周りを見てみる。すると、周りでキラキラと光っていたはずのものがまったく見えなくなっていた。まぶしくない。この方が動きやすい。
ただ、足元がギラギラと光っていることに変わりはない。
どうやって爆発を回避しようか。男はまだ上の階にいるのだ。それなら、ぼくを殺せる最低限分の火力しかないはずだ。多分ボウガンの1、2本は食らうだろうが、死ぬよりはマシだ。今死ぬわけにはいかない。
見えないけれど、確かこの辺りにオフィスデスクがあったよな......
ぼくは右前にあったオフィスデスクを手に取る。手が触れたところだけ、光沢の強い灰色の天板が見えた。

 そして、そのデスクをぼくの足元に入れて、ぼくはできるだけ高く飛ぶ。

ドン

 小さめの爆発音がして、机がぼくの方に飛んできた。けれど、それ以上に爆発による被害はなかった。
矢が飛んでくるなら、早く飛んで来い。そう思ったが、矢は飛んでこなかった。
しかし、その時、別のトラップがあることに気づいた。

 腕や足から、血が滴る。そう、そこら中に細い糸が仕掛けられていたのだ。透明な糸が。
きっと矢の後ろにくっつけて、着々と張っていっていたのだろう。これで、銃じゃない理由がよく分かった。しかし、血が付いた糸や、そこら辺に飛び散ったぼくの血が付いた部分だけ透明じゃなくなっている。
一旦落ち着こう。動かなければ、仕掛けは発動しないし、相手は多分、隠れながら戦っているから、自分からは出てこないだろう。

 いつの間にか普段の冷静さが戻ってきたことに気づいた。突然聞こえてきた比奈の声、その声がぼくを鎮静化してくれたのだろう。なぜそんな声が急に聞こえてきたのだろうか。しかし、比奈はここにいない......はずだ。
もう1つ不思議なことがある。先程まで、ずっと透明化が微妙に無効かできていたのに、今は何も見えない。周り一体が透明で、ぼくの立っている足元と、血が付いているところ以外何も見えない。高所恐怖症の人なら一瞬でノックアウトしているだろう。ガラス張りの崖だとかよりも数段怖い。
その真相は今は分からない。とりあえず、さっさと男を消し去って比奈を探しに行こう。
いっぱい飛んできたボウガンの矢を使わせてもらおう。この辺かな......矢が飛んできたであろう方向を手探りで探す。いっぱい張ってある糸は、ナイフでガリガリとやればなんとか切ることができた。

 あったあった。
ボウガンの本体を見つけた。ボウガンの現物なんて初めて見た。
初めて長距離武器を持ったが、意外と使いやすそうだ。一つ上の階に行ってみよう。きっと、男自身が透明になることはできないはずだ。奇襲してこないことがそのことを示している。

 しかし、このまま何も見えないままではいつかボロが出て、やられる。
透明化されたものがキラキラと見えた条件に再び合わせるんだ。キーになっているのは比奈。きっと比奈なんだ。
比奈に関わって起きたこと......
比奈。比奈。比奈。比奈。

 そうか。また狂えばいいんだ。狂った時はいつも不思議な力が出ていた気がする。

「あははははは」

 ぼくはまた狂った。周りがキラキラと光り、たくさんおいてあるオフィスデスクが見えた。先程よりもその形がはっきりと見えた。飲み込まれそうなほどの憎悪が心の中で渦巻く。
一つ上の階でタッタッタッと移動している音が聞こえた。

 力がみなぎってくる。けれどそれと同時に何かを失っているような気がした。
けれど、それが何なのかはどうでも良かった。

 とにかく比奈を探しに行きたいその感情が本当に全てなのだ。

 今なら天井くらい破れる気がした。

 飛び跳ねて天井に右の拳を当てると天井を破ることができた、がそれと同時に右手がすごく痛い。右手から血がだらだらと流れる。
もう一度飛び跳ねて、28階に上がる。

「な......」

 驚きの声が部屋の奥の方から聞こえた。当たりみたいだ。ボウガンを使ってやるか。キラキラとした光の中に鈍く光る紺色が見えた。
あそこか。ボウガンをまっすぐ構えて、矢を放つ。

 赤い血が飛び散ったのが確認できた。もう何発か撃っておくか。矢を次々にボウガンにセットしては撃ち、セットしては撃ちを7回繰り返した。打つ度に赤い血が飛び散るのを見て、ぼくは興奮した。

「足りない、足りないなぁ」

 ぼくは手に持っていた後11本の矢も撃ちはじめた。撃つ度飛び散る血を見てはぼくは楽しくなった。しかし、矢が残り3本になったとき、血が飛び散らなくなった。

「つまんないの」

 ぼくは心底退屈になった。
もっと血が見たい。赤い血がキラキラとルビーのように輝いて見えるのだ。
どこかの戦場にでも行けば、血が出てるところが見れるかな。

ベチャ

 そうそう。こんな音こんな音......
その時、その音がぼくの口から出た血の音だと気づいた。


「残念ながら、俺の勝ちのようだ」
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