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第二話 指のない人形使い
指のない人形使い 七
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指のない人形使い 七
翌日、ぼくらはふだんあまり使わない、だだっ広いリビングにいた。家一軒がすっぽり収まりそうな広間に、小部屋で使うようなふつうのテーブルを置き、ふたつのソファを向かい合わせ、ぼくはレオとアルテルフと向かい合うかたちで座っている。
小リビングは昨夜ぼくたちの吐瀉物でどろどろに汚れてしまった。すぐ使い魔たちに掃除させたけどにおいが取れず、しばらく換気させておくことになった。
「あれほど染み込んでしまっては香水をかけても余計に臭いだけだ。まったく……」
と言いながらレオはウィスキーをあおった。なにがまったくだよ。吐くのをわかってたんなら桶でも用意しておけばよかったのに。ここは広くてなんだかそわそわするなぁ。
「まあ、とにかく話の続きだ」
レオはテーブルの上の皿からピーナッツを取り、殻を剥きながら言った。
「昨夜言った通り、わたしはあのじじいの念を感じ、気持ち悪いと思っていた。しかしそれだけでは狂人かどうかまではわからん。それでアルテルフを呼んだんだ」
「どうして?」
「確かめるためだ。わたしはどんな悪党が来ようとかまわんが、変態だけは我慢ならんからな。変態だったら追い返そうと思ったんだ」
基準がよくわからないなぁ。悪党の方がいやだと思うけど、男と女じゃ感覚が違うのかな。
「それで、アルテルフでどうやって変態か確かめたの?」
「あいつはいたずらの天才だ。その点に関しては、このわたしでさえ敵わない。アルテルフはわたしの命で人形と戯れるふりをし、前かがみになって、じじいに乳房が見えるか見えないかギリギリの体制を取った。それで、どんな反応をするか見たんだ」
「えっ? あれってぼくにいたずらしてたんじゃないの?」
「は?」
「だって、アルテルフったらお尻を突き出して、スカートをひらひらさせて、ぼくにショーツを覗かせようとするから、てっきりぼくを変態呼ばわりするための罠かと……」
「ええー? アーサー様そんなところ見てたんですか? いやらし~!」
アルテルフが立ち上がり、おおげさに恥ずかしがって見せた。ぼくは慌てて、
「ち、違うよ! ぼくはちゃんと目を逸らしたよ!」
「フフ……」
レオは小さく笑い、
「まあ、おまえならそうするだろうな」
殻の向けたピーナッツをひょいと口に放り込み、言った。
「だが、あのじじいはそうじゃなかった」
「と言うと?」
「ふつう、少女の胸が襟の隙間から覗き見れそうになったらどうする? たいがいの男なら覗こうとするだろう。いくら幼いとはいえ、アルテルフほどの色気ならつい目が行ってしまう。それがふつうだ。男なら多少の下心は持っているものだ。まあ、おまえのようなムッツリスケベは目を逸らすだろうがな」
む、ムッツリスケベ? 違う、騎士道だよ!
「だが、あのじじいはその上を行った。人形を前後左右に動かし、アルテルフを操って乳房を見ようと必死になった。ヨダレを垂らしていることにも気づかないほど夢中でな。それでわたしは、あのじじいがとんでもない変態だと確信したんだ」
そ、そんなことしてたのか……それはたしかに変態だなぁ。
「でもさ、まだわからないことがあるよ」
「なんだ?」
「レオはメンキブさんが人形にいたずらするってわかってたんでしょ? いくら変態だからって、どうしてそこまでわかるのさ」
「香水だ」
「香水?」
「あの人形には香水がかけられていた。いくら大切だからといって人形に香水をかけたりしない。香水は基本におい消しだ。つまり、ヤツは日常的に人形に悪臭の残る使い方をしているということだ」
なるほど、言われてみればそうかもしれない。冷静に推理すれば、あの人形がどんな使われ方をしているか、こんなにも予測できてしまうものなんだ。やっぱりレオは頭がいいなぁ。
「まったく、あれほどの腕を持ちながら残念なことだ」
「え?」
ぼくはレオの意外なひとことに驚いた。あんなに人形繰りをバカにしてたのに、あれほどの腕?
「人形繰りというのはすばらしい芸だ。いのちのない人形を、手指のわざだけで生きているように見せるなど容易ではない。しかもあのじじいの芸は、さもすれば本物の人間より生き生きとさせていた。あのぼろぼろの手でだ。それに声も完璧だった」
「なんだ、人形繰りを認めてるんじゃないか。どうしてあんなふうにバカにしたりしたのさ」
「追い返すために決まっているだろう。あのじじい、なかなか怒らないから困ったものだった。まったく……」
そう言ってレオはグラスをカランと鳴らし、ごくごくとウィスキーをあおった。
とりあえずぼくはすべての説明を聞いて理解した。途中で教えてくれればよかったのに、もったいぶるもんだから疲れたよ。いろいろといやなものも見聞きしたしね。まあ、レオといればこんなのいつものことだけどさ。ただ、まだ少し納得のいかないことがある。
「でもさ、いくら変態だからってあんなひどい目に合わせることなかったんじゃない?」
「ほう?」
「だって、メンキブさんの趣味はたしかに気持ち悪いけど、別に悪いことをしてたわけじゃないよ。それなのに男の大事なものが噛みちぎられちゃうような事態に誘導するなんて、ちょっとひどすぎるんじゃないかな?」
「まあな」
「じゃあどうして」
「気分だ」
「き、気分?」
「わたしは心底変態を憎んでいる。心底変態をきらっている。できることなら全員おなじ目に合わせてやりたいくらいだ。だがまあ、罪はない。実際に生きた人間に手を出すならともかく、ひとりで自分を慰めているヤツなら、人形だろうが、絵だろうが、好きに吐き出せばいい。しかしわたしの前に顔を出すことは許さん。わたしとおなじ空気を吸うことは許さん。気持ち悪いからだ。心底吐き気がするからだ。とはいえ、さすがに殺そうなどとは思わんし、モノをぶった切ってやろうなどとも思わん。ただ、今回はなかなかじじいが帰らないから苛立ってついやってしまった。まったく、わたしがけしかけなければ、あの魂はあんな思いをせずに済んだのにな。本当に悪いことをした」
そう言ってレオは深いため息をついた。どうやらメンキブさんの大切なものを奪い去ったことはざまあ見ろくらいに思っていて、少女の魂を生贄にしたことをひどく後悔しているらしい。いつも他人を不幸な目にあわせるレオが悔やむなんて、そうないことだ。
たしかにあれは聞いてるだけで吐き気がしたからなぁ。思い返しただけでいやな気持ちになる。あんなのもう二度とごめんだよ。
「とにかくだ」
レオは改まってぼくを見て、言った。
「少しはわかっただろう。ひとは一見やさしそうでも、裏ではなにをしているかわからんということが。世の中にはイカれた人間がゴロゴロしているということが」
「まあ、多少はね」
「多少ではダメだ。おまえの両親はそうやって、ひとを疑うことを知らなかったから、罠にかかって死んでしまったのだろう。だからおまえはここにいるのだろう」
「……」
そうだ、ぼくの両親はくだらない権力争いに巻き込まれ、殺されてしまったんだ。近衛兵長だった父さんはバカがつくくらいの正直者で、どんな策謀にも協力しなかったから、疎まれて罠にかけられてしまったんだ。
一族郎党殺されるところを、母さんが体を張ってぼくを逃がしてくれた。それで、途方に暮れたぼくは、気がついたら魔の森にいて、幼いころ遊んだレオと再会して、いまがある。
……正直、ひとを疑うことはきらいだ。どうしてひとを悪者だと思って見なくちゃいけないのかと思う。でも、殺された両親や祖父母のことを思うと、少しは必要なのかもしれない。
ふう……思い出すとやっぱり悲しくなるな。それに頭の中に復讐の文字が浮かぶ。騎士として恨みつらみに振り回されるなんていけないことだけど、どうしても黒い感情が湧き上がってしまう。つい拳を握ってしまう。
そんなぼくを見て、レオが言った。
「すまない、いやなことを思い出させた」
「いや、いいよ……事実だ」
「アーサー、おまえにその感情は似合わん。復讐など考えるなよ。もしどうしてもというときはわたしに任せておけ。歩いているだけで皆殺しにできる」
「それはダメだ。そのときは、ぼくの手で……」
「おい、アルテルフ!」
レオはぼくの言葉を遮るように言った。
「はいはい」
「アーサーが落ち込んでしまった。元気づけてやれ」
「はーい!」
え?
アルテルフはぴょんと立ち上がったかと思うと、ぼくの頭をつかんで、
「アーサー様ー! 元気、出ろ出ろ~!」
と前屈みになって胸元を見せた。
「わ、わあ!」
顔が背けられない! かがみ込んだ襟の隙間から中が覗けて……
ダメだ! 目を逸らせない! 視線が吸い込まれる!
「や、やめてよ! 見えちゃうよ!」
「大丈夫ー! あたしは天才だからギリギリ見えない位置がわかるんでーす! ほら、こんなに近づいても白い肌までしか見えないでしょー!」
「わかった、わかったよ! すごい、すごい!」
「でしょー? でも~……えいっ!」
「わあ!」
え、襟を指で引っ張って……!
「えへへ~、元気出ましたー?」
「あわわわ」
「あー! アーサー様ったら反応しちゃってる~! 騎士なのにこんな幼い体を見て元気になっちゃってる~! へんたーい!」
「ち、違う! ぼくは……違うんだ!」
「へんたーい! あはははー!」
そう言ってアルテルフは鷹の姿に戻り、ぴょおーとどこぞへと飛んでいった。な、なんてヤツだ……
「ほう、あんな幼ない体に反応するとは、おまえはそれでも騎士か」
「ううっ!」
レオ、それは言わないで……
「わたしというものがありながら、あんな幼い体になぁ。騎士がなぁ」
「ううー!」
ひ、ひどいや。レオはいつもそうやってぼくを騎士道から遠ざけようとするんだから。ぼくは騎士だよ。いつだって恥ずかしくないこころでいなくちゃいけないんだよ。うう……
「ところで」
なんだよ。
「実はいま、使い魔に頼んで風呂を沸かしてもらっていたんだが、どうやら湯が沸いたらしい。昨日はせっかくのわざが披露できなかったからなぁ。おまえもたのしみだったろう?」
うっ……
「ヴルペクラに負けたままでは気が済まんからな。それで、わたしは着替えを用意してもらうが……おまえはどうする?」
ううっ……
「十本のイカの足を超えるとんでもないわざだ。きっと悶絶してしまうだろうなぁ。しかしまだ昼間か。おまえは騎士道とやらが大事だそうだが……どうする?」
うう~……
「ふふ、ふはは、ふははははは!」
うう~……このいじめっ子め! そうやっていつもいつもぼくをいじめて、騎士道から遠ざけて……だけど、ああ、ぼくは……ああ……
翌日、ぼくらはふだんあまり使わない、だだっ広いリビングにいた。家一軒がすっぽり収まりそうな広間に、小部屋で使うようなふつうのテーブルを置き、ふたつのソファを向かい合わせ、ぼくはレオとアルテルフと向かい合うかたちで座っている。
小リビングは昨夜ぼくたちの吐瀉物でどろどろに汚れてしまった。すぐ使い魔たちに掃除させたけどにおいが取れず、しばらく換気させておくことになった。
「あれほど染み込んでしまっては香水をかけても余計に臭いだけだ。まったく……」
と言いながらレオはウィスキーをあおった。なにがまったくだよ。吐くのをわかってたんなら桶でも用意しておけばよかったのに。ここは広くてなんだかそわそわするなぁ。
「まあ、とにかく話の続きだ」
レオはテーブルの上の皿からピーナッツを取り、殻を剥きながら言った。
「昨夜言った通り、わたしはあのじじいの念を感じ、気持ち悪いと思っていた。しかしそれだけでは狂人かどうかまではわからん。それでアルテルフを呼んだんだ」
「どうして?」
「確かめるためだ。わたしはどんな悪党が来ようとかまわんが、変態だけは我慢ならんからな。変態だったら追い返そうと思ったんだ」
基準がよくわからないなぁ。悪党の方がいやだと思うけど、男と女じゃ感覚が違うのかな。
「それで、アルテルフでどうやって変態か確かめたの?」
「あいつはいたずらの天才だ。その点に関しては、このわたしでさえ敵わない。アルテルフはわたしの命で人形と戯れるふりをし、前かがみになって、じじいに乳房が見えるか見えないかギリギリの体制を取った。それで、どんな反応をするか見たんだ」
「えっ? あれってぼくにいたずらしてたんじゃないの?」
「は?」
「だって、アルテルフったらお尻を突き出して、スカートをひらひらさせて、ぼくにショーツを覗かせようとするから、てっきりぼくを変態呼ばわりするための罠かと……」
「ええー? アーサー様そんなところ見てたんですか? いやらし~!」
アルテルフが立ち上がり、おおげさに恥ずかしがって見せた。ぼくは慌てて、
「ち、違うよ! ぼくはちゃんと目を逸らしたよ!」
「フフ……」
レオは小さく笑い、
「まあ、おまえならそうするだろうな」
殻の向けたピーナッツをひょいと口に放り込み、言った。
「だが、あのじじいはそうじゃなかった」
「と言うと?」
「ふつう、少女の胸が襟の隙間から覗き見れそうになったらどうする? たいがいの男なら覗こうとするだろう。いくら幼いとはいえ、アルテルフほどの色気ならつい目が行ってしまう。それがふつうだ。男なら多少の下心は持っているものだ。まあ、おまえのようなムッツリスケベは目を逸らすだろうがな」
む、ムッツリスケベ? 違う、騎士道だよ!
「だが、あのじじいはその上を行った。人形を前後左右に動かし、アルテルフを操って乳房を見ようと必死になった。ヨダレを垂らしていることにも気づかないほど夢中でな。それでわたしは、あのじじいがとんでもない変態だと確信したんだ」
そ、そんなことしてたのか……それはたしかに変態だなぁ。
「でもさ、まだわからないことがあるよ」
「なんだ?」
「レオはメンキブさんが人形にいたずらするってわかってたんでしょ? いくら変態だからって、どうしてそこまでわかるのさ」
「香水だ」
「香水?」
「あの人形には香水がかけられていた。いくら大切だからといって人形に香水をかけたりしない。香水は基本におい消しだ。つまり、ヤツは日常的に人形に悪臭の残る使い方をしているということだ」
なるほど、言われてみればそうかもしれない。冷静に推理すれば、あの人形がどんな使われ方をしているか、こんなにも予測できてしまうものなんだ。やっぱりレオは頭がいいなぁ。
「まったく、あれほどの腕を持ちながら残念なことだ」
「え?」
ぼくはレオの意外なひとことに驚いた。あんなに人形繰りをバカにしてたのに、あれほどの腕?
「人形繰りというのはすばらしい芸だ。いのちのない人形を、手指のわざだけで生きているように見せるなど容易ではない。しかもあのじじいの芸は、さもすれば本物の人間より生き生きとさせていた。あのぼろぼろの手でだ。それに声も完璧だった」
「なんだ、人形繰りを認めてるんじゃないか。どうしてあんなふうにバカにしたりしたのさ」
「追い返すために決まっているだろう。あのじじい、なかなか怒らないから困ったものだった。まったく……」
そう言ってレオはグラスをカランと鳴らし、ごくごくとウィスキーをあおった。
とりあえずぼくはすべての説明を聞いて理解した。途中で教えてくれればよかったのに、もったいぶるもんだから疲れたよ。いろいろといやなものも見聞きしたしね。まあ、レオといればこんなのいつものことだけどさ。ただ、まだ少し納得のいかないことがある。
「でもさ、いくら変態だからってあんなひどい目に合わせることなかったんじゃない?」
「ほう?」
「だって、メンキブさんの趣味はたしかに気持ち悪いけど、別に悪いことをしてたわけじゃないよ。それなのに男の大事なものが噛みちぎられちゃうような事態に誘導するなんて、ちょっとひどすぎるんじゃないかな?」
「まあな」
「じゃあどうして」
「気分だ」
「き、気分?」
「わたしは心底変態を憎んでいる。心底変態をきらっている。できることなら全員おなじ目に合わせてやりたいくらいだ。だがまあ、罪はない。実際に生きた人間に手を出すならともかく、ひとりで自分を慰めているヤツなら、人形だろうが、絵だろうが、好きに吐き出せばいい。しかしわたしの前に顔を出すことは許さん。わたしとおなじ空気を吸うことは許さん。気持ち悪いからだ。心底吐き気がするからだ。とはいえ、さすがに殺そうなどとは思わんし、モノをぶった切ってやろうなどとも思わん。ただ、今回はなかなかじじいが帰らないから苛立ってついやってしまった。まったく、わたしがけしかけなければ、あの魂はあんな思いをせずに済んだのにな。本当に悪いことをした」
そう言ってレオは深いため息をついた。どうやらメンキブさんの大切なものを奪い去ったことはざまあ見ろくらいに思っていて、少女の魂を生贄にしたことをひどく後悔しているらしい。いつも他人を不幸な目にあわせるレオが悔やむなんて、そうないことだ。
たしかにあれは聞いてるだけで吐き気がしたからなぁ。思い返しただけでいやな気持ちになる。あんなのもう二度とごめんだよ。
「とにかくだ」
レオは改まってぼくを見て、言った。
「少しはわかっただろう。ひとは一見やさしそうでも、裏ではなにをしているかわからんということが。世の中にはイカれた人間がゴロゴロしているということが」
「まあ、多少はね」
「多少ではダメだ。おまえの両親はそうやって、ひとを疑うことを知らなかったから、罠にかかって死んでしまったのだろう。だからおまえはここにいるのだろう」
「……」
そうだ、ぼくの両親はくだらない権力争いに巻き込まれ、殺されてしまったんだ。近衛兵長だった父さんはバカがつくくらいの正直者で、どんな策謀にも協力しなかったから、疎まれて罠にかけられてしまったんだ。
一族郎党殺されるところを、母さんが体を張ってぼくを逃がしてくれた。それで、途方に暮れたぼくは、気がついたら魔の森にいて、幼いころ遊んだレオと再会して、いまがある。
……正直、ひとを疑うことはきらいだ。どうしてひとを悪者だと思って見なくちゃいけないのかと思う。でも、殺された両親や祖父母のことを思うと、少しは必要なのかもしれない。
ふう……思い出すとやっぱり悲しくなるな。それに頭の中に復讐の文字が浮かぶ。騎士として恨みつらみに振り回されるなんていけないことだけど、どうしても黒い感情が湧き上がってしまう。つい拳を握ってしまう。
そんなぼくを見て、レオが言った。
「すまない、いやなことを思い出させた」
「いや、いいよ……事実だ」
「アーサー、おまえにその感情は似合わん。復讐など考えるなよ。もしどうしてもというときはわたしに任せておけ。歩いているだけで皆殺しにできる」
「それはダメだ。そのときは、ぼくの手で……」
「おい、アルテルフ!」
レオはぼくの言葉を遮るように言った。
「はいはい」
「アーサーが落ち込んでしまった。元気づけてやれ」
「はーい!」
え?
アルテルフはぴょんと立ち上がったかと思うと、ぼくの頭をつかんで、
「アーサー様ー! 元気、出ろ出ろ~!」
と前屈みになって胸元を見せた。
「わ、わあ!」
顔が背けられない! かがみ込んだ襟の隙間から中が覗けて……
ダメだ! 目を逸らせない! 視線が吸い込まれる!
「や、やめてよ! 見えちゃうよ!」
「大丈夫ー! あたしは天才だからギリギリ見えない位置がわかるんでーす! ほら、こんなに近づいても白い肌までしか見えないでしょー!」
「わかった、わかったよ! すごい、すごい!」
「でしょー? でも~……えいっ!」
「わあ!」
え、襟を指で引っ張って……!
「えへへ~、元気出ましたー?」
「あわわわ」
「あー! アーサー様ったら反応しちゃってる~! 騎士なのにこんな幼い体を見て元気になっちゃってる~! へんたーい!」
「ち、違う! ぼくは……違うんだ!」
「へんたーい! あはははー!」
そう言ってアルテルフは鷹の姿に戻り、ぴょおーとどこぞへと飛んでいった。な、なんてヤツだ……
「ほう、あんな幼ない体に反応するとは、おまえはそれでも騎士か」
「ううっ!」
レオ、それは言わないで……
「わたしというものがありながら、あんな幼い体になぁ。騎士がなぁ」
「ううー!」
ひ、ひどいや。レオはいつもそうやってぼくを騎士道から遠ざけようとするんだから。ぼくは騎士だよ。いつだって恥ずかしくないこころでいなくちゃいけないんだよ。うう……
「ところで」
なんだよ。
「実はいま、使い魔に頼んで風呂を沸かしてもらっていたんだが、どうやら湯が沸いたらしい。昨日はせっかくのわざが披露できなかったからなぁ。おまえもたのしみだったろう?」
うっ……
「ヴルペクラに負けたままでは気が済まんからな。それで、わたしは着替えを用意してもらうが……おまえはどうする?」
ううっ……
「十本のイカの足を超えるとんでもないわざだ。きっと悶絶してしまうだろうなぁ。しかしまだ昼間か。おまえは騎士道とやらが大事だそうだが……どうする?」
うう~……
「ふふ、ふはは、ふははははは!」
うう~……このいじめっ子め! そうやっていつもいつもぼくをいじめて、騎士道から遠ざけて……だけど、ああ、ぼくは……ああ……
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