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第59話 最終決戦開幕
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晴天だ。
きれいな青空が広がっている。
太陽がかあっと輝き、ゆったりとした穏やかな風が吹き、ところどころで雲がのどかに流れている。
おれは二十万の軍勢の先頭に立ちながら、そんなことを思っていた。
前を見れば無限の魔が広がっていた。
ボトンベン地方南端、カーミギレ城——通称魔王城。
十数年前魔王の侵攻により落城し、以降魔王の出城としてひとを寄せつけなかった魔の城。
その周囲を数えきれないほどの魔物が取り囲んでいる。
観測によれば、
「どこまでも続いており、数が計れません」
とのことだ。
おれたち二十万のナーガス軍が応じれる数かどうかは、いまひとつわからねえ。
すべてはおれにかかっている。
おれのスキル”無敵うんこ漏らし”で突き進み、魔王までたどり着けるかどうかで人類の未来が決まる。
「大丈夫か?」
おれの隣でオンジーが言った。
「あまり元気がないように見えるが……」
「ああ、大丈夫さ」
おれは気のない返事をした。テンションは最悪だった。
今朝、おれは馬車の中で休むカレーノに声をかけた。
さもすれば最後の別れになるかもしれねえ。
せめて顔を見ておきたかった。
カレーノはスキルが使えないことも相まってか、死んだような無表情だった。
「ごめんなさい、こんなときに足手まといで」
「なに言ってやがる。おれがぜんぶやっつけてやっから安心して待ってろ」
「うん……」
目は合わなかった。
カレーノはひたすら視線を壁と床の中間に放り投げていた。
おれは、それがつらくて、気の張りを失っちまった。
そんなとき、おれの背後から声がした。
「おう、オーンスイ最強の女勇者がずいぶんしょぼくれてんじゃねえか!」
荒っぽく下品で、まさに勇者といった声。
背後を振り向くと、オーティと、女勇者ミギニオが立っていた。
「おう、クソ漏らし。探したぜ」
「はぁい、ウンチ漏らしさん」
「探した? おれを?」
「ひとつ謝っとこうと思ってな」
「はあ?」
謝るって、なにを謝ろうってんだ?
「まさか他人のクソを吸収するスキルがあるなんて思いもしなかったぜ。てめえはおれたちのクソを吸い取って、代わりに出してくれてたんだよな」
「そりゃ……スキルが暴走してたから勝手にやったことじゃねえか」
「そんでも……ありがとよ」
「なっ……」
オーティは深々と頭を下げた。
おいおい、こいつがこんな態度考えられねえぞ。おれはこいつが謝ってるとこなんて見たことねえんだ。
なんかの演技じゃあんめえな?
「ごめんなさいね、さんざん悪く言って」
ミギニオが悪びれる様子もなく、腕を組み言った。
「あんたがあたしのウンチを代わりにしてくれたおかげで、おいしいものいっぱい食べても太らなかったのよ。いなくなってからダイエット大変だったんだから」
はあ……なんだかのん気なこと言ってんなあ。
「カレーノ、あんたも彼にしてもらえば? 痩せるわよ」
ミギニオは馬車の中に目を向け、笑い混じりに言った。
しかし、
「いやよ!」
カレーノは拒絶を示した。
「なによそれ、気持ち悪い! ウンチ漏らすだけじゃなくて、ひとのウンチまでするなんて考えられないわ!」
うっ……!
そ、そうだよなあ……クソはてめえでするもんだよなあ……
「わたしのウンチが他人のお腹に入っていくなんて、想像しただけで気持ち悪い!」
………………そ、そんなにか。そんなにいやだったか。
おれは、ひでえことをした……
「……すまねえ、カレーノ」
「え?」
「おれ、してた」
「ええっ!?」
カレーノは飛び退き、馬車の隅に背をつけた。
その目は怯え切っていた。
おれは深く懺悔した。
「だっておめえ、つらそうだったから……」
「つらそう……?」
「おめえがとうがらしの食い過ぎで腹痛になったとき、見てらんなかった。おめえがワーシュレイトの草原でクソ我慢してたとき、代わってやりたいと思って、つい吸収しちまった。あんときゃほとんど目の前で野グソしちまったよなあ。最悪だよなあ……」
言いながら、つうっと涙がこぼれた。
最悪の懺悔だった。
「悪かった。本当にすまなかった。もう、二度としねえよ……」
カレーノはなにも応えなかった。
ただただ驚いた目をして、手で口を抑えていた。
「クソ漏らし、そろそろ時間だ。行くぞ」
オーティはおれの肩を抱き、
「泣いてねえでスパッと行くぞ。てめえにゃがんばってもらわねえとな」
「ああ……」
「そうよ、あたしたちはなるべく安全な後方でゆっくりしてるから、よろしくね」
「リーダーからの命令だ。気合い入れてやれ! そんでおれたちオーティ勇者団は、てめえのおかげで救世主様ってわけよ! 笑いが止まらねえぜ! わははははは!」
「おほほほほほーー!」
な、なんちゅーやろうどもだ。ひとが泣いてるってのに、クソみてえなこと言いやがって。
おかげで涙も失せちまったぜ。
しっかし、カレーノとは汚ねえ挨拶になっちまったな。
それにぐちゃぐちゃだった。
せめて、がんばってのひと言をあいつから聞きたかったな……
おれはいまいちど目の前の大群を見回した。
走って五分ほどの距離に、ずらーーっと魔物の壁がある。
そして遠くにうっすらと、魔王城のテッペンが見える。
あそこに行きゃあいいんだな。
おれは背後を振り返った。
二十万の軍勢は”矢じりの陣”を組んでいた。
底辺のない三角形のかたちで、前に進むことだけを考えた捨て身の陣形だと、女王さんは言っていた。
隣にはオンジーがいる。
オーンスイ勇者も近くで固まっている。
少し離れたところに、馬に乗った女王さんがいる。
たぶんどこかにオーティたちもいるんだろう。
けど、あいつだけがいない。
……へっ、ちょうどいいや。
これなら恥ずかしくねえ。別にいまさらクソ漏らすところ見られたって構わねえ。
だって、それで世界が救えるんだぜ。
いくらでもお見せしましょうってんだ。
そんなことを考えていた、そのとき、
「来たか! ベンデル・キーヌクト!」
「その声は!」
おれは北の空を見上げた。
そこに、ヤツの存在があった。
魔物どもの上空に、ひとの胸から上をかたち作った雲が浮かんでいた。
だがそれは、雲とは思えねえほど細かい造形の、魔王そのものの姿だった。
「魔王!」
「きさま、クソを漏らすと無敵になるそうだな!」
ヤツはおれのスキルを知っていた。おそらくゲーリィから聞いたのだろう。
「だが使えるのはいちどきり! 出せて二回だろう! ならおれ様のところまで我慢するしかあるまい! 果たして無事、ここまで来れるかたのしみだな! わははははは!」
ほう、オート・スキル”うんこ吸収”のことは知らねえみてえだな。
おかげで勝つ気でいるだろう。
その隙を、かならず突く!
「さあ行け魔物どもよ! 狙いはあの男、ベンデル・キーヌクトだ! ヤツを殺し、人類を鏖にするのだ!」
雲の瞳が赤く輝いた。
瞬間、
ドドドドドドドッ! と、すさまじい地響きを鳴らし、魔物の軍勢が動いた。
土煙を炊き、吠え声を重ね、質量を持った音の波が押し寄せた。
とうとうはじまった! 最後の戦いが!
「ベンデル! 頼んだぞ!」
背後から女王さんの声が聞こえた。
へっ、言われなくてもわかってるぜ。
見せてやるよ、人類を救う最強の力を!
おれは前に歩み出た。
すべての戦士、すべての魔物の視線を全身に浴び、ゆっくりと腰を下げた。
そして!
「トリガー・スキル発動! ”無敵うんこ漏らし”ーーーーッ!」
——ブリブリーーッ ブババブリュブリュブッチュルルルブーーッ!
おれはクソを漏らした。
パンツの中に大量のクソが撒き散らされ、ずっしりと重みを持った。
だが——
「どうしたベンデル!」
オンジーが血相を変えて叫んだ。
「なにが!?」
「スキルが発動しないぞ!」
「なっ……!?」
おれは両手を見た。
本来なら虹色のオーラをまとっているはずだった。
だが! なにもない! ただクソを漏らしただけだ!
「ど、どーゆーことだ! なんで!」
おれは大汗をかいた。雨が降ったみてえに全身が濡れた。
そんな、これじゃ魔王を倒せねえ!
それどころかこの魔物どもにも立ち向かえねえ!
全軍もどよめいて、女王さんでさえどうしていいかわかんねえってツラしてやがる!
「なんでだよ! 無敵になれよ! なんでおれはクソ漏らしたのに光んねえんだよ!」
焦りがおれを狂わせた。
絶望がのしかかった。
もうまともな精神じゃいられなかった。
そのとき——!
「なにしてるのよバカーーーーッ!」
その声は!
「ウンチ漏らしてなにもしないんじゃ、ただのウンチ漏らしじゃないのーーーーッ!」
そのヒステリックな声は! おれの愛してやまない罵倒は!
「カレーノ!」
おれは振り返った。
慌てふためく軍勢の中から、乙女を乗せた一騎の騎馬が飛び出した。
「あ、あ、ああっ!」
カレーノが見ている! クソを漏らしているところを、大好きなカレーノに見られている!
「うわああああーーーーッ!」
その瞬間、おれの体内から無限のパワーが湧き上がった。
いままでにないほど激しく虹色に輝いた。
「やったわベンデル!」
「カレーノ! どうしてここに!?」
カレーノは馬を繰り、おれの隣に駆け寄った。
いつものハキハキしたあいつだった。
「だって、謝りたかったから!」
「謝るだって!?」
「わたし、知らなかった! あなたが助けてくれてたなんて! わたしが苦しんでるとき、いつも助けてくれてたなんて、知らなかった!」
叫びながらカレーノはボロボロ涙をこぼした。
「それなのにひどいことたくさん言ったわ! 汚いとか、気持ち悪いとか、あなたの気も知らないで!」
「いいじゃねえか! 実際おれは汚ねえんだ!」
「ううん! そんなことない! わたし、あなたの手に触れたい!」
「!」
「わたし、あなたの傍にいたい! いっしょに戦いたい! 洗ってなくていいから、ウンチ漏らしたあとでもいいから、またあなたの手を握りたい!」
「カレーノ……!」
「だって大好きだから! あなたも! あなたのあたたかい手も! 大好きだから!」
それを聞いた途端、おれは芯から震え、涙があふれた。
きらわれてなんかなかった……
おれたちは、おなじ気持ちだった!
「おれもだカレーノ!」
「ベンデル!」
「おれもおめえが大好きだ! おめえに手を握ってもらえるのが最高に大好きだ! だから大好きなおめえにクソ漏らすところを見られるのがメチャクチャ恥ずかしい!」
「だったら見ていてあげる! あなたがウンチ漏らすところを! あなたの死ぬほど恥ずかしいところを、ぜんぶ見ていてあげる!」
……そうか! おれは恥ずかしくなかったんだ!
こいつ以外に見られても恥ずかしくねえからトリガーにならなかったんだ!
こいつがいなきゃ戦えねえ! こいつがいなきゃ、おれは前へ進めねえ!
「行きましょう! また、あなたの手に触れるために!」
「ああ、行こう! また、おめえの手を握るために!」
きれいな青空が広がっている。
太陽がかあっと輝き、ゆったりとした穏やかな風が吹き、ところどころで雲がのどかに流れている。
おれは二十万の軍勢の先頭に立ちながら、そんなことを思っていた。
前を見れば無限の魔が広がっていた。
ボトンベン地方南端、カーミギレ城——通称魔王城。
十数年前魔王の侵攻により落城し、以降魔王の出城としてひとを寄せつけなかった魔の城。
その周囲を数えきれないほどの魔物が取り囲んでいる。
観測によれば、
「どこまでも続いており、数が計れません」
とのことだ。
おれたち二十万のナーガス軍が応じれる数かどうかは、いまひとつわからねえ。
すべてはおれにかかっている。
おれのスキル”無敵うんこ漏らし”で突き進み、魔王までたどり着けるかどうかで人類の未来が決まる。
「大丈夫か?」
おれの隣でオンジーが言った。
「あまり元気がないように見えるが……」
「ああ、大丈夫さ」
おれは気のない返事をした。テンションは最悪だった。
今朝、おれは馬車の中で休むカレーノに声をかけた。
さもすれば最後の別れになるかもしれねえ。
せめて顔を見ておきたかった。
カレーノはスキルが使えないことも相まってか、死んだような無表情だった。
「ごめんなさい、こんなときに足手まといで」
「なに言ってやがる。おれがぜんぶやっつけてやっから安心して待ってろ」
「うん……」
目は合わなかった。
カレーノはひたすら視線を壁と床の中間に放り投げていた。
おれは、それがつらくて、気の張りを失っちまった。
そんなとき、おれの背後から声がした。
「おう、オーンスイ最強の女勇者がずいぶんしょぼくれてんじゃねえか!」
荒っぽく下品で、まさに勇者といった声。
背後を振り向くと、オーティと、女勇者ミギニオが立っていた。
「おう、クソ漏らし。探したぜ」
「はぁい、ウンチ漏らしさん」
「探した? おれを?」
「ひとつ謝っとこうと思ってな」
「はあ?」
謝るって、なにを謝ろうってんだ?
「まさか他人のクソを吸収するスキルがあるなんて思いもしなかったぜ。てめえはおれたちのクソを吸い取って、代わりに出してくれてたんだよな」
「そりゃ……スキルが暴走してたから勝手にやったことじゃねえか」
「そんでも……ありがとよ」
「なっ……」
オーティは深々と頭を下げた。
おいおい、こいつがこんな態度考えられねえぞ。おれはこいつが謝ってるとこなんて見たことねえんだ。
なんかの演技じゃあんめえな?
「ごめんなさいね、さんざん悪く言って」
ミギニオが悪びれる様子もなく、腕を組み言った。
「あんたがあたしのウンチを代わりにしてくれたおかげで、おいしいものいっぱい食べても太らなかったのよ。いなくなってからダイエット大変だったんだから」
はあ……なんだかのん気なこと言ってんなあ。
「カレーノ、あんたも彼にしてもらえば? 痩せるわよ」
ミギニオは馬車の中に目を向け、笑い混じりに言った。
しかし、
「いやよ!」
カレーノは拒絶を示した。
「なによそれ、気持ち悪い! ウンチ漏らすだけじゃなくて、ひとのウンチまでするなんて考えられないわ!」
うっ……!
そ、そうだよなあ……クソはてめえでするもんだよなあ……
「わたしのウンチが他人のお腹に入っていくなんて、想像しただけで気持ち悪い!」
………………そ、そんなにか。そんなにいやだったか。
おれは、ひでえことをした……
「……すまねえ、カレーノ」
「え?」
「おれ、してた」
「ええっ!?」
カレーノは飛び退き、馬車の隅に背をつけた。
その目は怯え切っていた。
おれは深く懺悔した。
「だっておめえ、つらそうだったから……」
「つらそう……?」
「おめえがとうがらしの食い過ぎで腹痛になったとき、見てらんなかった。おめえがワーシュレイトの草原でクソ我慢してたとき、代わってやりたいと思って、つい吸収しちまった。あんときゃほとんど目の前で野グソしちまったよなあ。最悪だよなあ……」
言いながら、つうっと涙がこぼれた。
最悪の懺悔だった。
「悪かった。本当にすまなかった。もう、二度としねえよ……」
カレーノはなにも応えなかった。
ただただ驚いた目をして、手で口を抑えていた。
「クソ漏らし、そろそろ時間だ。行くぞ」
オーティはおれの肩を抱き、
「泣いてねえでスパッと行くぞ。てめえにゃがんばってもらわねえとな」
「ああ……」
「そうよ、あたしたちはなるべく安全な後方でゆっくりしてるから、よろしくね」
「リーダーからの命令だ。気合い入れてやれ! そんでおれたちオーティ勇者団は、てめえのおかげで救世主様ってわけよ! 笑いが止まらねえぜ! わははははは!」
「おほほほほほーー!」
な、なんちゅーやろうどもだ。ひとが泣いてるってのに、クソみてえなこと言いやがって。
おかげで涙も失せちまったぜ。
しっかし、カレーノとは汚ねえ挨拶になっちまったな。
それにぐちゃぐちゃだった。
せめて、がんばってのひと言をあいつから聞きたかったな……
おれはいまいちど目の前の大群を見回した。
走って五分ほどの距離に、ずらーーっと魔物の壁がある。
そして遠くにうっすらと、魔王城のテッペンが見える。
あそこに行きゃあいいんだな。
おれは背後を振り返った。
二十万の軍勢は”矢じりの陣”を組んでいた。
底辺のない三角形のかたちで、前に進むことだけを考えた捨て身の陣形だと、女王さんは言っていた。
隣にはオンジーがいる。
オーンスイ勇者も近くで固まっている。
少し離れたところに、馬に乗った女王さんがいる。
たぶんどこかにオーティたちもいるんだろう。
けど、あいつだけがいない。
……へっ、ちょうどいいや。
これなら恥ずかしくねえ。別にいまさらクソ漏らすところ見られたって構わねえ。
だって、それで世界が救えるんだぜ。
いくらでもお見せしましょうってんだ。
そんなことを考えていた、そのとき、
「来たか! ベンデル・キーヌクト!」
「その声は!」
おれは北の空を見上げた。
そこに、ヤツの存在があった。
魔物どもの上空に、ひとの胸から上をかたち作った雲が浮かんでいた。
だがそれは、雲とは思えねえほど細かい造形の、魔王そのものの姿だった。
「魔王!」
「きさま、クソを漏らすと無敵になるそうだな!」
ヤツはおれのスキルを知っていた。おそらくゲーリィから聞いたのだろう。
「だが使えるのはいちどきり! 出せて二回だろう! ならおれ様のところまで我慢するしかあるまい! 果たして無事、ここまで来れるかたのしみだな! わははははは!」
ほう、オート・スキル”うんこ吸収”のことは知らねえみてえだな。
おかげで勝つ気でいるだろう。
その隙を、かならず突く!
「さあ行け魔物どもよ! 狙いはあの男、ベンデル・キーヌクトだ! ヤツを殺し、人類を鏖にするのだ!」
雲の瞳が赤く輝いた。
瞬間、
ドドドドドドドッ! と、すさまじい地響きを鳴らし、魔物の軍勢が動いた。
土煙を炊き、吠え声を重ね、質量を持った音の波が押し寄せた。
とうとうはじまった! 最後の戦いが!
「ベンデル! 頼んだぞ!」
背後から女王さんの声が聞こえた。
へっ、言われなくてもわかってるぜ。
見せてやるよ、人類を救う最強の力を!
おれは前に歩み出た。
すべての戦士、すべての魔物の視線を全身に浴び、ゆっくりと腰を下げた。
そして!
「トリガー・スキル発動! ”無敵うんこ漏らし”ーーーーッ!」
——ブリブリーーッ ブババブリュブリュブッチュルルルブーーッ!
おれはクソを漏らした。
パンツの中に大量のクソが撒き散らされ、ずっしりと重みを持った。
だが——
「どうしたベンデル!」
オンジーが血相を変えて叫んだ。
「なにが!?」
「スキルが発動しないぞ!」
「なっ……!?」
おれは両手を見た。
本来なら虹色のオーラをまとっているはずだった。
だが! なにもない! ただクソを漏らしただけだ!
「ど、どーゆーことだ! なんで!」
おれは大汗をかいた。雨が降ったみてえに全身が濡れた。
そんな、これじゃ魔王を倒せねえ!
それどころかこの魔物どもにも立ち向かえねえ!
全軍もどよめいて、女王さんでさえどうしていいかわかんねえってツラしてやがる!
「なんでだよ! 無敵になれよ! なんでおれはクソ漏らしたのに光んねえんだよ!」
焦りがおれを狂わせた。
絶望がのしかかった。
もうまともな精神じゃいられなかった。
そのとき——!
「なにしてるのよバカーーーーッ!」
その声は!
「ウンチ漏らしてなにもしないんじゃ、ただのウンチ漏らしじゃないのーーーーッ!」
そのヒステリックな声は! おれの愛してやまない罵倒は!
「カレーノ!」
おれは振り返った。
慌てふためく軍勢の中から、乙女を乗せた一騎の騎馬が飛び出した。
「あ、あ、ああっ!」
カレーノが見ている! クソを漏らしているところを、大好きなカレーノに見られている!
「うわああああーーーーッ!」
その瞬間、おれの体内から無限のパワーが湧き上がった。
いままでにないほど激しく虹色に輝いた。
「やったわベンデル!」
「カレーノ! どうしてここに!?」
カレーノは馬を繰り、おれの隣に駆け寄った。
いつものハキハキしたあいつだった。
「だって、謝りたかったから!」
「謝るだって!?」
「わたし、知らなかった! あなたが助けてくれてたなんて! わたしが苦しんでるとき、いつも助けてくれてたなんて、知らなかった!」
叫びながらカレーノはボロボロ涙をこぼした。
「それなのにひどいことたくさん言ったわ! 汚いとか、気持ち悪いとか、あなたの気も知らないで!」
「いいじゃねえか! 実際おれは汚ねえんだ!」
「ううん! そんなことない! わたし、あなたの手に触れたい!」
「!」
「わたし、あなたの傍にいたい! いっしょに戦いたい! 洗ってなくていいから、ウンチ漏らしたあとでもいいから、またあなたの手を握りたい!」
「カレーノ……!」
「だって大好きだから! あなたも! あなたのあたたかい手も! 大好きだから!」
それを聞いた途端、おれは芯から震え、涙があふれた。
きらわれてなんかなかった……
おれたちは、おなじ気持ちだった!
「おれもだカレーノ!」
「ベンデル!」
「おれもおめえが大好きだ! おめえに手を握ってもらえるのが最高に大好きだ! だから大好きなおめえにクソ漏らすところを見られるのがメチャクチャ恥ずかしい!」
「だったら見ていてあげる! あなたがウンチ漏らすところを! あなたの死ぬほど恥ずかしいところを、ぜんぶ見ていてあげる!」
……そうか! おれは恥ずかしくなかったんだ!
こいつ以外に見られても恥ずかしくねえからトリガーにならなかったんだ!
こいつがいなきゃ戦えねえ! こいつがいなきゃ、おれは前へ進めねえ!
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