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黒に飲み込まれる
しおりを挟む人の中に科学的には説明できない力を持つ者――特殊能力者がいる世界。
その特殊能力者達で救護活動や、テロ、また犯罪組織CHAOSの犯罪を取り締まるべく結成された特務機関JUDGEMENT、それに属し活動を行う者達を人々は「ヒーロー」と呼んだ。
表層では――
「ええい!! またしても『エレメント』か!! コイツさえいなければ我々の作戦は成功していたのに!!」
犯罪組織CHAOSの本拠地――その会議室では、忌々しそうな声と同時にテーブルをたたく音が聞こえた。
映し出されている映像には女性らしき、ヒーロースーツに身を包んだ人物が映っている。
「――で、貴様は『エレメント』をどうにかできるというのか?」
異形の存在は黒いローブに身を包んだ人物に問いかける。
「――彼女が『居なくなれば』よいのだろう?」
「ああ、その通りだ!!」
「――ならば、その望みを叶えよう、依頼成立だ」
ローブの人物はそういう会議室を後にした。
――ああ、これで、貴方を、救える――
ローブの人物は口元に歪な笑みを浮かべながら本拠地の通路を一人歩いて行きやがて闇に消えた。
「現状はこうだ、CHAOSの連中が銀行に人質と共に立てこもっている。要求はいつも通りだ」
特務機関JUDGEMENTの作戦本部で、ヒーローたちがヒーロースーツに身を包みながら司令官の言葉に耳を傾けている。
「司令官、映像情報等では下っ端連中しか見えません、警察で対応できるのでは?」
「……これを見ろ」
モニターにローブを纏い、フードを被って詳細がよく分からない存在が立っている。
「……まさか、特殊能力者ですか?!」
「その通りだ、だが今まで相手をしたどの連中共違う、警察は武器をすべて破壊され、辛うじて生きている状態に。特殊能力者――お前達の前に送った者達は全滅だ」
「「「?!」」」
司令官の言葉に、緊張が走る。
「……全く厄介な連中ですね。でも、このまま放置はできません」
「分かっている、だがお前達は人質等の解放を優先しろ奴には手を出すな」
「そ、そんな?! コイツが何かしない言う保証――」
「フレイム、我儘言って余計不味い事態を引き起こしたらどうするの、我慢しなさい」
「エレメント姐さん……」
若そうな青年のヒーロー――フレイムに、顔を隠しているがどこか幼さと蜜色の香りを漂わせるヒーローエレメントが釘を刺す。
「命令は以上だ!! 各自現場へ迎え!!」
「「「了解!!」」」
司令官の言葉にヒーロー達は立ち上がり、会議室から姿を消した。
「……」
「エレメント姐さん、どうしたんすか?」
「かなり嫌な予感がする、いつも以上に気を付けないと不味そうね」
「……珍しいですね、エレメント姐さんがそんな反応するなんて」
「……」
フレイムの言葉に、エレメントは答えず、目的地へと飛び続けた。
目的地の原稿周辺は酷い状態になっていた。
転がる警察や鎮圧部隊らしき者達が横たわり動きもしない。
ヒーローと思わしき者達はある者は串刺し、ある者は胴体切断――など、明らかに命を落としているのが分かった。
パトカーなどはひしゃげて、使い物にならなくなっているのが見ただけで分かった。
そして銀行の周囲を取り囲む黒い無数の「槍」と、そしてローブの人物の周囲に点在する黒い「沼」があった。
「――ああ、漸く」
ローブの人物は静かにそう呟いた。
「エレメントさん!!」
現場に到着すると、白いヒーロースーツの女性が声を上げた。
「ヒーラーは、生存者の保護と避難、治療をお願い!!」
「はい!!」
ヒーラーが動き出すと、エレメントはローブの人物を見据える。
「姐さん、相手は丸腰だし――」
「阿呆!! 周囲を見ろ、私達はとっくに奴のテリトリー内だ!! 回避に集中しろ!!」
フレイムの言葉にエレメントが怒鳴ると、黒い得体のしれない「物質」達が襲い掛かってきた。
エレメントの言葉もあり、皆回避に専念する。
「ぐぉ?!」
「パワードさん?!」
「おっちゃん!!」
ヒーローの中で最もガタイの良さそうな存在――パワードの腹に黒い球体が直撃しパワードはビルの方まで飛ばされた。
その衝撃でビルが崩壊した。
「おっちゃん!!」
「――私を倒さなければ、この『結界』は解除されない、人質は救助できない」
フードを被った人物が言葉を発した。
「――司令官の命令通りにやるのは無理、ってことね」
「ぐ……そうらしい、な……」
「パワードさん大丈夫ですか?」
「少し体が痛いだけだ、問題ない」
戻ってきたパワードにエレメントはそう声をかける。
ローブの人物がまるで手を伸ばすようなしぐさをし、手を開くと無数の黒い槍が飛んできた。
ヒーロー達はその槍を避けていく。
「姐さん、アイツ見た感じ遠距離攻撃しかしてこないっすよ!! つまり懐が弱い!!」
フレイムがそう言って突っ込んでいった。
エレメントは見逃さなかった、フレイムの下に黒い「沼」が影と同化しながら移動していることを。
「馬鹿!!」
エレメントは突っ込む直前ギリギリでフレイムの特攻を横からタックルする形で妨害した。
フードの下で黒いローブの人物が笑みを浮かべたのに、誰も気づかなかった。
黒が一瞬でエレメントを飲み込み、そのまま何もなかったかのように地面に「沼」の状態になり、やがてその「沼」はローブの人物の影と同化した。
「――目的は達成した、人質は傷つけてないな? ならいい」
ローブの人物が通信端末で何者かに連絡を取ると、銀行を囲んでいた黒い「槍」の柵は消えて、周囲に点在していた黒い「沼」も消えた。
ローブの人物は足元の「黒」に溶け込むように沈み、姿を消した。
人質たちが銀行から出てくる。
「も、もう大丈夫なの?」
「ああ、俺の車が……」
「お母さん、怖かったよぉ……」
人質だった人々が怯え、嘆きながら喋っているのを呆然と見ながら、残されたヒーロー達は立ちすくんでいた。
「おい、姐さん、うそだろ……おい……」
自分の思い込みの行動で、エレメントの姿が消えた場所のアスファルトを触りながらフレイムが必死にどうにかしようとする。
「おい、ヒーラー!! エレメントの生体反応は?!」
「……この場所から完全に消失、しています……」
パワードの言葉にヒーラーが沈痛な声で答える。
「チクショウ! チクショウ!!」
フレイムは地面を叩く。
「……司令官から連絡だ、急ぎ戻れ、とな」
パワードが重い声のまま、フレイムの肩に手を乗せた。
「ははははは!! よくやった!! よくぞやった!! エレメントさえいなければ後はどうとでもなる!!」
CHAOSの本拠地の会議室で、笑う異形を黒いローブの人物は無言のまま見つめた。
「依頼はこれで達成した、金は?」
「振り込んだとも!! 倍額にしてな!! これからの活動が進むぞ!!」
「左様か、では失礼する」
ローブの人物はそう言って会議室を出て行った。
――もうこの場所には用などない――
少し通路を進んでから陰に沈む様にその場から姿を消した。
夜で覆われた空間ある、屋敷の中にローブの人物は姿を現した。
黒いローブを脱ぎ捨てると、肩より長い銀髪、サファイアよりも青い目、褐色色の肌の白いスーツに黒い手袋を身に着けた男の姿があらわになる。
男は静かに歩きながら美しい天蓋のある広いベッドの上で、腕を拘束され、黒い首輪をつけられて綺麗なランジェリー姿の短めの黒髪に、何処か幼さのある顔立ちの蜜の匂いを纏うような肌をした女性が眠っていた。
片足には枷があり、鎖でベッドと繋がいる。
男は短めの髪を手に取る。
「……あんなに、長い髪がお気に入りだったのに、お切りになられてしまったのですね……でも、もうあのような事をする必要はありません、ですからまた伸ばしましょう。貴方の蜜の様な肌に黒い髪はとてもお似合いですから……」
男は静かな声で眠る女性に語り掛ける。
「――貴方の事を悪用しようとする愚者共はここにはやってこれません、ですからここで私が永遠に貴方のお世話をいたします……メル様、私は貴方を愛しております」
男はそう言ってその場から立ち去った。
男は寝室から出ると、歪な笑みを浮かべた。
「そう、永遠に、お世話いたします。貴方がその胎に宿すのは、私の子だけで、良いのです。他の雄共の汚らわしい精液など、貴方のナカに入るなどあってはならない」
そう言って、男は女性――メルが目を覚ますまでの準備をすることにした。
歪んだ生活を始めるための準備を――
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