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家族を失う~それでも支えられて魔王の運命に抗う~

六人で生活~緊急事態になりつつある~

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「あの、なんでこの部屋に?」
 六人部屋に詰め込まれ、私は困惑した表情を浮かべた。
「抜け駆け禁止と、お前を守る為だ、後ほど大叔母も来るから安心しろ。それまではこれを……」
 またブザーを渡される。
「より強い魔の者が嫌う音を出すよう改良したものだ、効果は分からないが押したら俺達に連絡が来る、遠慮なく押せ」
「……はい」
 グレンの言葉に私は頷く。
「それと、魔の者──ヴァイエンか。奴が人の悪意を増大させるならやっかいだな」
 レオンが言う。
 私がこの部屋に詰め込まれる前に進言したことだ。
「で、手っ取り早く奴の効果を薄めるのは私どもが婚前交渉してしまうこと……」
 これも伝えた、伝えたくなかったが吐かされた。
 レオンに。

 まだ何か隠してるだろうと。

 鬼過ぎる。
「……婚前交渉してしまうかい?」
「何をおっしゃってるんですか陛下! アトリアに六人全員の相手をする心の準備もできてないのに⁈」
 アルフォンス殿下の言葉にミスティが怒る。

 やっぱり六人全員の相手しなきゃならないのか、マジでー⁇

「一人ずつだとくじ引きになって喧嘩になるだろうし……」
「それはそうだな……」
 グレンがアルフォンス殿下の言葉に同意する。

 一人ずつって駄目なの──⁈

 正直私は性行為に興味は無いし、寧ろ怖いまである。
 だからできればやりたくない。

「……アトリアが嫌ならできんだろう」
 レオンが口を開く。
「そうね。そうですわね」
 カーラも頷く。
 その言葉にほっとため息をつく。
「でも心配なんだ、君がヴァイエンに犯されるのではないかと」
 アルフォンス殿下が言うと、耳が痛い。

 ヴァイエンに犯されるのは絶対嫌だ。
 だが、性行為をする気にはなれない。

 性欲が人並みにあれば良かったのになぁ、と自分の性質で悩んでしまう。

「じゃあ、アトリアと毎日キスをしましょうよ。少しずつふれあうのを馴れてもらってはいかがかしら?」
 フレアが言う。

 え、マジ?

 その提案にみんなが頷く。
「そうですね、触れ合っていって、そして合意して貰いましょう」

 マジかー……

 アルフォンス殿下の楽しそうな顔、というかみんなの嬉しそうな顔。
 そんなに私の事が好きなのか⁈
 私はそこまであなた達が好きじゃないんだぞ⁈
 いいのか⁈

「私共の事を愛してはいないのに、良いのか、と言う顔をしてますね?」
 アルフォンス殿下の言葉にはっとする。
 そして、アルフォンス殿下は私にキスをした。
 触れるだけの口づけ。
「貴方は私達を愛してはいないけども、大切だと思ってくださっている、それだけで十分ですよ」
「陛下ずるいですわ!」
「今回もまた!」
 五人が騒ぎ出す。
 ので、他の五人全員とキスする羽目になった。

 なんか最初の頃思い出すなー……

 私は黄昏れていた。
「アルフォンス殿下」
「何でしょうか?」
 セバスさんがやってきてアルフォンス殿下に何かを話している。
「それは……怪しいな」
「ええ」
「何があったんです?」
 私は問いかける。
「他国の聖女が次々と姿を消して居ると、その際魔の者──ヴァイエンとやらが現れて連れ去っていくと」
「⁈」
「一体何が目的なのやら……」
「……きっと聖女の魂を喰らうのが目的なのかと」
「え?」
 アルフォンス殿下が声を上げる。
「奴は魂を喰らって強くなったと言いました。より強くなるなら、聖女の魂を喰らうのが良いでしょう。幸い他国の聖女の多くは軟禁され聖女の仕事を強いられている、だからそそのかすことは容易かと」
 私ははっきりと述べる。
「なるほど、つまり強い魂を喰らう事で──」

「君を確実に魔王にすると」

「それか自分が魔王になることでしょう」
「どちらも最悪だ、早急に手立てを考えるよう父上達に進言してくれ」
「畏まりました」
 セバスはそう言って居なくなった。
「「「「「「「……」」」」」」」
 部屋が重い空気に包まれる。

「幸いな事に、他国の聖女は我が国の聖女達よりも力が劣っていることが救いか……だが彼女等は自由を求めて手を取って魂を喰われるのだ、最悪ではないか」
 アルフォンス殿下は息を吐いた。
「アルフォンス殿下、我が国の聖女達は?」
「自由に仕事をしてもらっているよ、緊急時は招集しているけどね」
「なるほど」
「まぁ、魔法使いもいるし、聖女もいるし、結界は安心……とは言いがたいね、ヴァイエンが何度も学園に侵入してきている」
「……」
「ここも結界で守られているが来ているし、アトリアは私達と行動を共にして欲しい」
「はい」
 魔の者──ヴァイエンに狙われ続ける限り、私はどうしようもない。

 とりあえず、六人行動が必須となった。

 ただ……風呂で問題が……

「アトリアの体は美しいね」
 華奢な体をそう言ってはくれるが、美しいとは限らないぞアルフォンス殿下。
「本当にそうだな」
「……」
 同意するグレンとレオン、レオンは無言で頷いている。

「何で私達だけのけものなのですの!」
「信じられない!」
「酷いですわ!」
 女湯に入っているであろう、三人の声が響く。

「文句があるなら性別が男じゃなかったことに文句つけろ!」
 グレンが煽る。
「ぐ、グレン煽らないでください!」
「後で覚えてらっしゃいな!」
「そうよそうよ!」
「覚えてらっしゃい」
「グレン……君の雄姿は忘れないよ」
「覚えておこう」
「勝手に殺すな!」
 アルフォンス殿下とレオンの言葉に、グレンは怒った。
 まぁ、そう言われるよなぁ。


「混浴の露天風呂⁈ そんなのがあったのなら何故おっしゃってくださらなかったのですか⁈」
 グレンを〆たフレアがアルフォンス殿下に迫る。
「いや、絶対君ら嫌がるでしょう、私達と入るのは、アトリアならともかく」
「それは……そうですわね」
「肯定するんですか……」
 私は疲れたように言うと、三人は振り返り当然だと言わんばかりの顔をする。
「当たり前ですわ、私達そういう間柄ですけどまだ裸を見たいとは思いませんわ、アトリア以外」
「というか、私アトリア以外の殿方の裸を見るのはちょっと……」
「カーラ、私もよ」
 風呂に入って疲れをとるはずが、余計疲れたというのはちょっと笑えない。
「おい、お前達話は聞いたぞ、かなり緊急事態になってるとな」
「レイナさん!」
「アトリア、無事そうで良かった」
 レイナさんは私を見て安堵の表情を浮かべてから真面目な表情になった。
「緊急会議だ、お前達も出ろ」
 そう言われて私達は客室へと向かわされた──





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