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魔の者~封印する宿命そして復讐の終わり~

二回にわたる結婚式~母の遺言と私の思い~

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 一週間後の満月の夜。
 式は挙げられた。
 月色のヴェールに、月色のドレスっぽいズボン尽きの衣装。
 パンツドレスって言うんだっけか確か、そんな感じの格好。
「美しいですわ、アトリア!」
 カーラがキラキラとした笑顔で言う。
「真っ先に俺達の結婚が後回しになるのが残念だが」
 グレンがそう言うと、他の五名が頷く。
「すまないね、アトリアの地位を確固たるものにするにはこれが手っ取り早かったから」
「これだから王族は、ですわ」
 フレアが呆れたように言う。
「すまない、では行こうかアトリア」
 アルフォンス殿下に手を取られて式場へと向かう。

 式は国王陛下が立会人となり、滞りなく行われた。
 誓いの指輪の交換はちょっと緊張したけれど。
 王族ではそれが常らしい。

「ここに一つの夫婦が誕生した、祝福を!」

 大きな拍手の音が聞こえたけれども、私の心は晴れないままだった。


 そのさらに一週間後に、秘密裏、基近親者のみでの私と六名との結婚式が行われた。
 本当は五人とだけだったけど、アルフォンス殿下が自分だけ口づけできないのはずるいと言いだし、六人に。
 立会人は国王陛下。
 皆美しく着飾り、式場へと連れて行かれる。
 あまり良い顔をされないだろうなと思って周囲を見渡すと、感激の表情を皆浮かべていた。
 その意味を私は理解出来なかった。

 式ではレオンから口づけされ、それから他の皆と口づけすることになった。
 なんか、違和感。

 そして懇談会が始まる。
「カーラは昔から気が強くて令息達を次々に泣かせて結婚できるかヒヤヒヤしてましたのよ」
「まぁ、私もですわ! フレアは気が強くて同じダンピールの令息や吸血鬼の令息を泣かせてヒヤヒヤしてましたわ!」
「ミスティは美しいものを欲しがるから人様のものを欲しがって修羅場になると思いましたけどまさかこんな形に丸く収まるなんて」
「レオンは職業柄結婚相手はどうなるか悩んだがまさかアルフォンス殿下の伴侶を共有するとは父である私も驚きました」
「私もです、あのグレンがそんな提案で我慢できるだけの忍耐があったなんて、と」
「それにしてもアルフォンス達は困りものだな、伴侶を困らせてばかりで」
「「「「「「全くです」」」」」
 親御さん達、我が子の事を好き放題いってないかい?
「あの程度で泣くのが悪いんですわ」
「そうですわよね」
「美しいものを美しいと言って何が悪いのです?」
「まぁ、俺は職業柄仕方なかったしな……」
「俺は我慢強いと思っているんだが?」
「ですが、伴侶アトリアを困らせていることは事実ですから、耳が痛いですね」
 アルフォンス殿下の言葉に頷く五人。

 ふと、此処に母が居たらどんな会話をしていただろう、と思った。

 笑っただろうか、困っただろうか、それとも──
 いいや、少なくとも悲しむことはない、母の遺言状の情報から──

「あの、国王陛下」
「我が息子の伴侶アトリア、どうした」
「私の母の遺言状というのが見たいのです」
「良いだろう」
 と、国王陛下は懐から封筒を取り出した。

 私は中身を取り出し読み始める。




 ヴァンキッタ王国アードルノ国王陛下
 このような手紙をお送りすることをお許しください。
 我が子アトリアは貴方のご子息アルフォンス殿下と他の五名と婚約関係にあります。
 ですが、アトリアは恋愛感情が分からず、きっと卒業後行方をくらませるはずです。
 私にはあの子に幸せになって欲しいのです。
 夫をハンターに殺されてから恨み続けていた私の心があの子の心に影を落としているのでしょう。
 あの子の憎しみは今もなお続いています。
 私が死んだ後、きっと今まで以上に憎しみを心に抱え混んでいるでしょう。
 ですからどうか、あの子を憎しみから解放して欲しいのです。
 あの子のことを愛しているアルフォンス殿下と他の五名の方々に私はそれを託すしかありません。
 だからどうか、お願いします。
 アトリアに幸せを──
 愛されるという幸福を──




 私は何も言えなかった。
 憎しみは消えない。
 今もなお憎悪の炎は燃え続けている。
 これが消えるなんて想像もつかない。
 奴が苦しみ抜いて死ぬその日まで私の憎しみの炎は消えることはない。
 そう、思っている。

 だから母の遺言書には何も言えなかった。
 私が憎しみから開放されるなんて普通は思わない。
 でも、母の願いは憎しみから開放されること。
 病んだ母は、憎しみから解放されたのだろうか?
 開放されたからこう書いたのだろうか?


「アトリアよ、我が息子の伴侶よ」
「は、はい」
 いきなり国王陛下に呼ばれて緊張する。
「其方の母は──憎んだまま終わりを迎えた」
「──」
「だから、この終わり方は良くないと予想し私に手紙を託したのだ、其方が読むことを前提に」




 母さん。
 母さん、どうして?
 憎んで終わってしまったなら、どうして私にはそうさせてくれないの?
 私は奴が許せない。
 楽に死ぬことなんて許せない。
 苦しみ抜いて死んで欲しいと願う程だ。
 なのに。母さん、どうしてそれがいけないことなの?
 母さん。
 母さん。




「アトリア?」
 レオンが私を見て怪訝な表情を浮かべていた。
 そしてハンカチを出して私の目元を拭う。
「せっかくのめでたい式の中でそのような表情と涙は似合わんぞ」
「めでたい、ですか」
 本当にめでたいのだろうか?




 ねぇ、お母さん。
 家族愛なら知ってます、でも恋愛は分からないんです。
 恋焦がれるとはどういうこと?
 恋し、愛するとはどういうこと?

 誰かお願いです、教えてください。




「アトリア」
 フレアが声をかけてきた。
「貴方また難しく考え込んで、貴方は私達に愛されているだけでいいんですよ」
 そう言って口にウェディングケーキの一部を押し込んできた。
「むぐ」
「そうそう、深く考えて悩むのが貴方の悪癖ですわ」
 ミスティもそう言って口にウェディングケーキの一部を押し込んできた。
「むぐぅ」
 もぐもぐと咀嚼しなんとか飲み込む。
「貴方の大切が他の方と違う大切だというだけでよいのですわ」
 カーラがそう言ってウェディングケーキの一部を口に突っ込んできた。
「むぐ」
「「「分かりましたら今日は覚悟してくださいましね、私の花婿花嫁さん」」」
 あれー?
 いま花嫁って行った気がするぞー?
 ……なんか怖い!




 その夜、六人に目一杯かわいがられました、いろんな意味で。
 体が持たないオゥイェ……。





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