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子作りと子育てと巣立ちそして……~私、幸せです~

出産、子育て~我が子の幸せを願う~

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 そして十月十日が経ち。
 私は出産を迎えた。
 レオンの腕を粉砕しかねないということで、ベッドの柵を掴んでいた。
 吸血鬼が出産する用のベッド柵なので折れることはなかった、少し型は残ったが。

 ふぎゃあふぎゃあ

「元気な人間の赤ちゃんですよ。男の子です」
 初の人間の赤ん坊が生まれた。
「アトリア、よく頑張ってくれた」
「いえ……」
「俺の血を引いてるな、両目の色が俺と同じだ」
 黒と金の目。
 嘘偽りを見透かす目、不義を見透かす目──

 彼将来、長になるレオンの後を継ぎ、国の暗部を任される事になるのだろう。
 過酷な人生が待っているかもしれないそれでも。

「幸せになるんだよ」

 赤ん坊を抱きしめて私はそう呟いた。


 また、赤ん坊のお世話が始まる。
 今回はすやすやと眠る、手のかからない子だった。
 ミルクが欲しいときに泣いて、おむつを替えるときに泣いて、それ以外はすやすやと眠ってばかりの子だった。


 他の子達も私達の所へ良く来るようになった。
「わぁーレオン父様との子どもかー人間なんだね」
「ふっくらでかわいいほっぺ」
 マルスとマリーロゼは目を輝かせて赤ん坊を見ている。
「名前はどうします?」
「そうですね、貴方のようになって欲しいからレオンから名前をもじってリオンはどうでしょう?」
「リオンか、いいな」
 レオンはすやすや眠る赤ん坊──リオンの頬を撫でる。
「よく育つのだぞ」
 それは父親の顔をしていた。

 レオンは仕事の合間を縫ってセバスさんと共に子育てを手伝ってくれた。
 まぁ、ほとんど寝てばかりの子だからリオンは手がかからずに済んだ。
 マルスとマリーロゼの時は大変すぎて覚えていない。
 初めての子で何から何までが手探りな私にセバスさんが手を貸してくれた。


 子ども達を連れて中庭の散歩をした。
 マルスとマリーロゼは、イリアス、カムイ、ロゼリアの遊び相手をしてあげている。
 まだよちよち歩きの三人の面倒をしっかり見ている。
 勿論私達も目を離さない。


「リオンは、私達の時とそっくりねぇ」
「そうそう、すやすや眠ってて手がかからない」
「それが不安な時もありますけどね」
「わかるわぁ」
 ミスティ達がうんうんと頷きながら私を見る。

 この子達が大きくなったらどんな関係になるのだろう。
 こじれたりしないだろうか。

『だいじょうぶなの、しんぱいしないでなの!』

 と、またシルフィの言葉が聞こえた。
 天界に帰らず、私の守護天使をし続けているシルフィ。
 彼女が言うならそうなのだろうと納得したいが、不安は消えない。

 そうやって子ども達を育てていって数年が経過した。

「父様」
「お父様」
「父様」
「母上」
「お母様」
「かあさま」
 みんな順調に仲良く育っていった。
 喧嘩などしたのをみたこともないし、レオンの目でも、互いの関係を理解した上で、仲良くしているのが分かった。

「マルス兄様、今日もお勉強ですか」
「うん、立派な国王になるために、勉強しないと」
「マリーロゼ姉様は?」
「私もお勉強よ、いつかどこかの公爵家に嫁ぐのだもの、そのための勉強はしないと」
「お父様、わたくし達はまだ勉強はいいの?」
「後一年したら勉強開始だね、それまでは元気に遊びなさい」
「はい!」
「マルス兄様、勉強が終わったら遊びましょう?」
「勿論」
「マリーロゼ姉様も」
「ええ」
 良い子に育ってて良かった。

「おい、アトリア」
「グレン」
「そろそろ、お前との子が欲しいんだが」
「分かりました」
 私は頷くとリオンに言う。
「リオン、今日からは父様と一緒に眠りなさい」
「つまり、ぼくたちにあたらしいおとうとか、いもうとができるのですね」
「そういうこと」
「やったぁ!」
「え、弟か妹ができるのですか、母上」
「そうなの、お母様」
「だから、皆は部屋に来ては駄目よ」
「「「「「「はーい!」」」」」」
 元気よく返事をする。


 夜、私はグレンと子作りの為に体を重ねた。

 それから一ヶ月後。

「妊娠していますね」
「やったぞ、アトリア。有り難う!」
「いいえ」
「しばらくは体を安静にしてくださいね」

 そう言われて、私は体を安静にすることに。

 毎日のように子ども達と伴侶達が部屋を訪れてくれるから嬉しかった。

 お腹が大きくなると、子ども達は興味津々。
「母上触ってもいいですか?」
「ええ、いいですよ」
 マルスが恐る恐るお腹を触る。
「あ、いまぽこってなりました!」
「多分お腹を蹴ったんでしょうね、動いてるのでしょう」
「私も触りたいです」
「僕も」
「わたくしも」
「ぼくも」
「ぼくもー」
 みんなお腹を触りたがった。
 触って、「動かないー」とか「動いた」とかでみんなきゃあきゃあとはしゃいでいた。
「こら、お前達。はしゃぎすぎですよ」
「父上」
「お父様」
「アルフォンス父様」
「アルフォンスお父様」
「アルフォンス父様」
「あるふぉんすとうさま」
 アルフォンスがはしゃぐ子ども達をたしなめる。
「お腹の赤ちゃんは、まだ静かにしていたいかもしれない、あまり五月蠅くするとあかちゃんがお腹でゆっくりできないかもしれないからね」
「はい分かりました」
「はい、お父様」
「はい」
「わかりましたわ」
「はい」
「うん」
 子ども達は素直にアルフォンス殿下の言うことを聞く。
 私はお腹に手を当てた。
「元気に生まれておいで」
 そう呟いた。

 そして合計で一年の月日が流れ──

「破水したみたいです」
「急いで医師を!」

 出産時は辛い、けど乗り越えないと。
「俺の腕を握れ」
 しぶしぶ握る、折れたら怖いから。


 そして──

「吸血鬼の女の子の赤ん坊が生まれました」
「おお、アトリア、よく頑張ってくれた」
「……あのグレン?」
「うむ、折れてるぞ!」
「ぎゃー!」
 赤ん坊を抱きしめながら悲鳴。
 すぐに治癒士が呼ばれ、グレンの治療行われた。
 グレンの腕を掴まず柵を掴めば良かったと後悔する私だった──





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