47 / 49
子作りと子育てと巣立ちそして……~私、幸せです~
出産、子育て~我が子の幸せを願う~
しおりを挟むそして十月十日が経ち。
私は出産を迎えた。
レオンの腕を粉砕しかねないということで、ベッドの柵を掴んでいた。
吸血鬼が出産する用のベッド柵なので折れることはなかった、少し型は残ったが。
ふぎゃあふぎゃあ
「元気な人間の赤ちゃんですよ。男の子です」
初の人間の赤ん坊が生まれた。
「アトリア、よく頑張ってくれた」
「いえ……」
「俺の血を引いてるな、両目の色が俺と同じだ」
黒と金の目。
嘘偽りを見透かす目、不義を見透かす目──
彼将来、長になるレオンの後を継ぎ、国の暗部を任される事になるのだろう。
過酷な人生が待っているかもしれないそれでも。
「幸せになるんだよ」
赤ん坊を抱きしめて私はそう呟いた。
また、赤ん坊のお世話が始まる。
今回はすやすやと眠る、手のかからない子だった。
ミルクが欲しいときに泣いて、おむつを替えるときに泣いて、それ以外はすやすやと眠ってばかりの子だった。
他の子達も私達の所へ良く来るようになった。
「わぁーレオン父様との子どもかー人間なんだね」
「ふっくらでかわいいほっぺ」
マルスとマリーロゼは目を輝かせて赤ん坊を見ている。
「名前はどうします?」
「そうですね、貴方のようになって欲しいからレオンから名前をもじってリオンはどうでしょう?」
「リオンか、いいな」
レオンはすやすや眠る赤ん坊──リオンの頬を撫でる。
「よく育つのだぞ」
それは父親の顔をしていた。
レオンは仕事の合間を縫ってセバスさんと共に子育てを手伝ってくれた。
まぁ、ほとんど寝てばかりの子だからリオンは手がかからずに済んだ。
マルスとマリーロゼの時は大変すぎて覚えていない。
初めての子で何から何までが手探りな私にセバスさんが手を貸してくれた。
子ども達を連れて中庭の散歩をした。
マルスとマリーロゼは、イリアス、カムイ、ロゼリアの遊び相手をしてあげている。
まだよちよち歩きの三人の面倒をしっかり見ている。
勿論私達も目を離さない。
「リオンは、私達の時とそっくりねぇ」
「そうそう、すやすや眠ってて手がかからない」
「それが不安な時もありますけどね」
「わかるわぁ」
ミスティ達がうんうんと頷きながら私を見る。
この子達が大きくなったらどんな関係になるのだろう。
こじれたりしないだろうか。
『だいじょうぶなの、しんぱいしないでなの!』
と、またシルフィの言葉が聞こえた。
天界に帰らず、私の守護天使をし続けているシルフィ。
彼女が言うならそうなのだろうと納得したいが、不安は消えない。
そうやって子ども達を育てていって数年が経過した。
「父様」
「お父様」
「父様」
「母上」
「お母様」
「かあさま」
みんな順調に仲良く育っていった。
喧嘩などしたのをみたこともないし、レオンの目でも、互いの関係を理解した上で、仲良くしているのが分かった。
「マルス兄様、今日もお勉強ですか」
「うん、立派な国王になるために、勉強しないと」
「マリーロゼ姉様は?」
「私もお勉強よ、いつかどこかの公爵家に嫁ぐのだもの、そのための勉強はしないと」
「お父様、わたくし達はまだ勉強はいいの?」
「後一年したら勉強開始だね、それまでは元気に遊びなさい」
「はい!」
「マルス兄様、勉強が終わったら遊びましょう?」
「勿論」
「マリーロゼ姉様も」
「ええ」
良い子に育ってて良かった。
「おい、アトリア」
「グレン」
「そろそろ、お前との子が欲しいんだが」
「分かりました」
私は頷くとリオンに言う。
「リオン、今日からは父様と一緒に眠りなさい」
「つまり、ぼくたちにあたらしいおとうとか、いもうとができるのですね」
「そういうこと」
「やったぁ!」
「え、弟か妹ができるのですか、母上」
「そうなの、お母様」
「だから、皆は部屋に来ては駄目よ」
「「「「「「はーい!」」」」」」
元気よく返事をする。
夜、私はグレンと子作りの為に体を重ねた。
それから一ヶ月後。
「妊娠していますね」
「やったぞ、アトリア。有り難う!」
「いいえ」
「しばらくは体を安静にしてくださいね」
そう言われて、私は体を安静にすることに。
毎日のように子ども達と伴侶達が部屋を訪れてくれるから嬉しかった。
お腹が大きくなると、子ども達は興味津々。
「母上触ってもいいですか?」
「ええ、いいですよ」
マルスが恐る恐るお腹を触る。
「あ、いまぽこってなりました!」
「多分お腹を蹴ったんでしょうね、動いてるのでしょう」
「私も触りたいです」
「僕も」
「わたくしも」
「ぼくも」
「ぼくもー」
みんなお腹を触りたがった。
触って、「動かないー」とか「動いた」とかでみんなきゃあきゃあとはしゃいでいた。
「こら、お前達。はしゃぎすぎですよ」
「父上」
「お父様」
「アルフォンス父様」
「アルフォンスお父様」
「アルフォンス父様」
「あるふぉんすとうさま」
アルフォンスがはしゃぐ子ども達をたしなめる。
「お腹の赤ちゃんは、まだ静かにしていたいかもしれない、あまり五月蠅くするとあかちゃんがお腹でゆっくりできないかもしれないからね」
「はい分かりました」
「はい、お父様」
「はい」
「わかりましたわ」
「はい」
「うん」
子ども達は素直にアルフォンス殿下の言うことを聞く。
私はお腹に手を当てた。
「元気に生まれておいで」
そう呟いた。
そして合計で一年の月日が流れ──
「破水したみたいです」
「急いで医師を!」
出産時は辛い、けど乗り越えないと。
「俺の腕を握れ」
しぶしぶ握る、折れたら怖いから。
そして──
「吸血鬼の女の子の赤ん坊が生まれました」
「おお、アトリア、よく頑張ってくれた」
「……あのグレン?」
「うむ、折れてるぞ!」
「ぎゃー!」
赤ん坊を抱きしめながら悲鳴。
すぐに治癒士が呼ばれ、グレンの治療行われた。
グレンの腕を掴まず柵を掴めば良かったと後悔する私だった──
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界転生者のTSスローライフ
未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。
転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。
強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。
ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。
改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。
しかも、性別までも変わってしまっていた。
かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。
追放先はなんと、魔王が治めていた土地。
どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる