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首落ちた日について~うたかたの世界~

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 零はベッドに裸で横たわっていた。
 やることのすんだフエがそんな零の体に毛布を掛ける。
「優しいんだか、優しくないのだか……」
「花嫁さん相手だからねー」
「……そういえば以前私の首が落ちたと言う話をしたが本当か?」
「本当だよ、もう直すの大変だったんだから」
 フエは肩をすくめた。
「……いつの事件だ?」
「瑞樹ちゃんって子が事務所に来たときの事件だよ」
「ああ、あの時のか──」




「探偵事務所を開始したのはいいが異形相手の方が本命にしたいのだがそうそう来ないだろうな」
 事務所の前で零は呟き、事務所に入り、ソファーに腰をかける。

「雨か」

 すると雨が降ってきた。
 と同時に──
「すみません! 平坂探偵事務所はここでしょうか⁈」
 と血相を変えた女子高生が入ってきた。
「そうだが……お嬢さんは?」
「あ、私は和泉いずみ瑞樹みずきと申します」
「和泉? もしかして和泉京史郎きょうしろうさんの娘さんか?」
「やっぱり父をご存じなのですね⁈」
「ご存じも何も、この事務所を紹介してくれたのは彼だ。そしてどうしたんだい?」
「──父が亡くなりました」
「何?」
「ミイラのように干からびて……母と買い物から帰ったら父が父が……」
「──詳しく、聞かせて貰おう」
 女子高生──瑞樹の話はこうだった。
 休日、母と買い物に出かけるまで父には何も無かった。
 だが帰ってきたら父の声は泣く、書斎に行くと干からびた死体があった。
 それを見た母は警察を呼び、死体を調べた結果、父親で間違いないという事になった。
 その結果、変死で片付けられ、母は病んでしまい今病院に入院中らしい。
「……異形だな」
「異形?」
「別名邪神。このような事件を異形事件と呼び、警察は介入を辞め専門機関に依頼するのが普通だが……どうやら君のところは専門機関に依頼しなかったようだな」
「そんな……!」
「私は異形事件を追っている、君の父親が死んだ理由を探りたい、家の中に案内してくれ」
「はい……!」
 零は紺色のコートと、紺色のつば広帽を被り、黒い傘をさして瑞樹と共に、彼女の家に向かった。

 そして真っ先に書斎に向かい、瑞樹には書斎の入り口で待っているようにいった。
 書斎を念入りにあさっていくと、隠し棚を見つけ、そこに、不気味な像が飾られていた。
 その像からは血のにおいがした。

「瑞樹、バケツを持ってきてくれ」
「は、はい」

 零は手袋をして、その像を持つと、持ってきたバケツに穴の部分を傾けた。
 するとどす黒い液体が流れ落ちてきた。

 バケツがいっぱいになってもまだ像には液体が入っているようだった。

 零は検査キットで調べると、血液、人間の体液が混じっている液体だということが分かった。

「お父さん、どうしてこんな像を」
「分からない、がこの像はしかるべき者に処分させた方がいい、それと」
「……?」
「君はこの家に居ないほうがいい、私と一緒に来るといい。幸い二階は住居スペースになっている」
「い、いいんですか」
「ああ」

 零はその像をバッグに詰めると、そのまま瑞樹と一緒に事務所に戻った。
 瑞樹がシャワーを浴びている隙に、一階で声をあげる。

「いるのだろう、異形の子よ! この像をなんとかして欲しい!」
『ようやく呼んでくれた』
 現れたのはかわいらしいワンピースを着た少女だった。
 だが、髪は黒く長く、目は深淵の闇がごとき目をしていた。
「その像ちょうだい」
「わかった」
 少女に像を渡すと、像は消えてしまった。
「像は消したけど、問題はまだ残っているわ」
「何?」
「この像の本来の持ち主達がやってくる、急いであの子を連れてここまで逃げなさい」
 そう言って一つのカフェの居場所が書かれた地図を見せる。
「分かった」
 ちょうど良いタイミングで瑞樹がやってきた。
「瑞樹、悪いが急いで事務所からでるぞ」
「え?」
「早く!」
 瑞樹を連れて急いで零は事務所から出た。
 すると、背後から黒いフードつきのコートを着た連中が追いかけてきた。
 瑞樹と一緒になり、必死に走るが瑞樹が転んでしまう。
 何かが振り下ろされるのを見て、零は瑞樹をかばった。

 ざしゅ

 ごろん

 零の首が地面に落ちた。
「いやあああああああ‼」
 瑞樹は悲鳴を上げた。
「あーあ、間に合わなかった、でも間に合わせる」
 その言葉が瑞樹の耳に届いた。
 すると、謎の連中は塵になり、一人の少女が現れた。
 少女は首を拾い、口づけてから零の首の切り口と会わせる。
 するとすぅと傷が消えた。

 少女は、瑞樹に近づき、瑞樹の目と自分の目を合わせる。
「今あった事は忘れなさい」
「は、い」
 瑞樹はそう言うと倒れてしまった。
 それを見て、零に近づく。
「『花嫁』さん、起きて」
「ん……?」
 零は起きて頭を押さえる。
「何があったんだ?」
「カフェに間に合いそうも無かったから助けたの」
「そうか……すまない」
「だったら一晩、貴方を好きにさせて『花嫁』さん」
「『花嫁』? どういうことだ」
「貴方は『異形の花嫁』。異形達が喉から手が出る程欲しい存在。私も、ね」
「……」
「瑞樹がいる」
「このまま行った先のカフェで一晩休ませてあげればいいから、ね」
 少女の言葉に、零は頭痛を覚え、ため息をついた──




「──ということ」
「あの像、未だになんなのか分からんのだが」
「ああ、異形の生け贄が持つ像よ。だからお父さんミイラになっちゃったの」
「マジか……」
「下手すればあの一家全員ミイラだったよ」
「何でそんな物を……」
「生け贄を欲していた連中に買わされたのよ、値打ち物の骨董品だって」
「あの人は骨董品に目がなかったからな……」
 零は額に手を当ててため息をついた。
 フエがベッドに腰掛け、零の長い黒い髪を掬う。
 そして口づける。
「あんまり私にそういうことをしない方がいいぞ」
「大丈夫、零さんと柊さんにしかしてないから」
「それが駄目だというとるのだ」
「えー? 何で」
「柊の嫉妬を私が買う」
「大丈夫、私がなんとかするから」
「本当かぁ?」
「そもそも言わないし」
「おい」
「ふふふ」
 フエは笑った。
「私は『花嫁』さんも、柊さんも大切なの」
「……」
「番いも『花嫁』も私には必要不可欠なのよ」
「異形の本能が強いからか?」
「その通り」
 フエは愉快そうに言う。
「私の本能は『性欲』、そして『食欲』。食欲はあの親父食ったら少し増えた程度だけど性欲、生殖欲はどうにもね」
「……創造の異形を食ったからか」
「そ、彼奴子どもを産ませてその子どもを喰らうってことをやってたから生殖欲が強いのなんの、私はそれを引き継いだの」
「……」
「そして本当の私は眠り続けている、起きているのは仮の体」
「眠り、増やし、喰らう、か……三大欲求だな」
「そ、私の本体は世界の果てで眠り続けなければならない。目覚めたら世界が壊れてしまう」
「つまりこの世界はお前の夢、か」
「そう、うたかたの世界。もう一人の私も同じ」
「……いっそ覚めて終わった方がいいかもしれないな」
「何でそう悲観的なの?」
「私は、お前達から離れられない。お前達無しでは生きていけないからだ」
「……分かってるんだ、だから?」
「だが、お前達の一番にはなれはしないだろう」
 零がそう言うと、フエはくすくすと笑ってから腹を抱えた。
「何がそんなにおかしい」
「いやー一番になることはできるよ、誰のかは分からないけど」
「……信用していいんだな」
「いいよー」
 零はその言葉を聞くと眠りについた。

「このうたかたの世界、ずっと続けないと」

「それが私の存在意義──」

 そう言って、零の唇にフエは口づけをすると姿を消した──





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