クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

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悪食の娘~かつての彼女~

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「おにいちゃんこのおにくおいしい」
「それは良かったです、手をかけた甲斐がありました」
 エルはジンの作った料理を食べていた。
 悪意に染まった人肉で作られた料理を。
 美味しそうに、頬張りながら。

 料理を食べ終わると、エルは歯磨きをして、その日は──

「なんだかねむいの……」
「ではベッドに参りましょう」
「うん」
 ジンはエルを抱きかかえて、寝室に向かいベッドに寝かせた。
「おやすみなさい」
「エル様、おやすみなさい」
 エルはしばらくするとすやすやと寝息をたて始めた。
 それを見てジンは微笑み、そして残りの肉の量を確認しに行く。
「……まだ在庫はあるが不安だな」
 そう呟くと、会議室へと向かった。


「──今は落ち着いてるけど、あの頃のエルは大変だったわよね」
「そうだな」
 会議室の扉を開けると、ジンはエルの事で会話をしているのを聞いた。
「あの、何が大変だったのですか?」
「あージン君。どうしたの?」
「肉の在庫が少し心配になってきたので……」
「OK、邪教団とか人様に迷惑かけている集団探して見繕っとくわ」
 フエがそう言うと、ジンは頭を下げた。
「感謝します、それとお願いがあるのですが」
「ん? なぁに?」
「あの頃のエル様というのは?」
「あー見た目が女子高生くらいだった頃のエルの話よ」
「……女子高生くらい……」
 ジンには心あたりがあった。

 初めて見たエルがそれだったからだ。

「その時のエル様の何が大変だったと?」
「あの頃のエルはねー飢えて飢えて仕方なかったのよ」
「飢えて?」
「そうだ、食べても食べても満たされない、常に空腹状態だった」
「だからねー邪教集団のところとかいったとき、ちょっと悪意に染まった人でも食べちゃったりしたから私と紅姉さんで説教したり、酷い場合は〆る時もあったわ」
「ですが、今のエル様にはその様子は見えません」
「そりゃそうよ。その飢餓に耐えかねて無意識に幼児化して食べる量を物理的に減らしちゃったんだから」
 フエはなんてことのないようにいった。
「では今のエル様になる前はどんな方だったんですか?」
「それはね──」
 フエは語り始めた。




「フエ姉さん、お腹すいた!」
「またぁ⁈ 昨日邪教集団の連中喰いまくったでしょう⁈」
 エルの言葉にフエは驚愕の表情になる。
「でもお腹すいたの‼」
「普通のご飯で我慢しなさい‼」
「やだやだ我慢したくない‼ お腹すいた‼」
 だだをこねるエルに、フエは頭が痛くなった。
「あーもうしょうがないわね。ロナク!」
「へーい」
 フエに呼ばれたロナクはけだるげに言った。
「確か此処に将来性がない屑共が集まってるから悪意のレベル引き上げてエルに喰わせて」
「人外にならない程度に?」
「そ」
「いつ行けばいい?」
「今集会している最中だから二人で行ってきて」
「へーい」
「やったぁ! フエ姉さんありがとう!」
「はいはい……」
 二人がいなくなるとフエは呟いた。
「絶対足りないだろうなぁ」
 と。

 そして戻ってくると──
「お腹すいた」
「「またぁ⁈」」
 エルの言葉にフエとロナクは叫ぶ。
「お前あれだけ喰ったのにまだ腹減ってるのかよ⁈」
「仕方ないじゃん、お腹すいた、すいたの‼」
「今は我慢しなさい!」
 エルを〆るフエ。
「うわーん! お姉ちゃんのいじわるー!」
「誰が意地悪か! アンタの飢え満たそうと考えたら地球の人口半分に減るレベルだわ!」




「──という事が毎日のように行われていたのよ」
 フエはふぅと息を吐いた。
「それほど、エル様は飢えておられたと」
「そう、今のエルを最後に見た時は──」




「足りない、お腹がすいた……食べたい、食べたい、食べたいぃい!」
 自分の指をガリガリとかじりながらエルは虚ろな表情を浮かべていた。
「お、おいフエ、紅姉さん。エルの様子がおかしくないか」
 ロナクがフエと紅に言う。
「確かに……」
「ちょっと、ヤバいね、エル!」
「お腹すいたああああああああ‼」
 そう言って叫ぶとどこかへと姿を消した。
「ちょ、どこ行った⁈」
「今探す……! 居た‼」
「どこに⁈」
「集会やってるヤクザの連中のところに居る!」
「餌だらけじゃん‼」
「いくぞ」
「うん!」
「お、おう!」
 フエ達はその場から姿を消した。

 ヤクザが集まっていた屋敷は血まみれになり、肉片がそこら中に飛び散り、凄まじい状態になっていた。

「エルー!」
「おかしい、返事がない」
「いや、ちょっとまって」

 フエが耳を澄ませるときゃっきゃと幼子の声がした。
 急いでそちらの方へと行く。

 そこには姿が幼子になったエルが腕を美味しそうに食べていた。
「……始末するか?」
 紅が言う。
「……いや、もうその必要はないよ」
 フエがそれを止める。
「エルー?」
「? あ、ふえおねえちゃん!」
「お腹いっぱい?」
「うん、おなかいっぱい・・・・・・・‼」
「「‼」」
 その言葉にロナクと紅は驚愕した。
「そう、じゃあ帰ろうか」
「うん!」
 フエはエルを抱きかかえてその場を後にした。
 紅とロナクもその場を後にする。

「エルーなにがあったのかおしえてくれる?」
「あのね、おなかがすいてすいて、しかたなくて、でもおなかいっぱいになりたいっておもったの」
「それだけ?」
「うん」
「そっか……」
「しばらく『ご飯』は大丈夫?」
「うん、だいじょうぶ! おなかいっぱいになったから!」
「……そっか、よかったね」
「うん!」
 フエはエルの頭を撫でた。




「とまぁ、こうしてエルは小さくなりましたとさ」
「……エル様はそれほど飢えておられたのですね、でもお腹いっぱいになりたかった」
「あの子の飢えは相当酷かったからね、私も人捕食するけどそこまで喰いたいと思わない、でもあの子は悪人・・を喰いたがる。だから探すのも大変だし、私達が行動を起こすと事件扱いになるし、まぁ大変な事になるからあんまり外には出たくないのが本音だけど、異形が関わったり、あまりにも人に被害を出すような連中ならどうにかしたっていいでしょう?」
 エルはそう言うと、あめ玉をなめた。
「本当エルの為に色々したわよ、食欲を抑える飴つくったり、ザクロ大量生産したり、もう大変だった、でもどうにもならなかったからエルは今のエルになったんだろうね」
「……」
「どう、知らないエルの部分知れて少しほっとした」
「! ……はい、少しほっとしました。あのエル様のご両親は?」
「あー母親はエルを産んだ直後に死亡、父親はエルに喰われた」
「な、なるほど……」
「まっさか、自分が喰おうと思ってた娘に喰われるとはあの異形も思ってなかっただろうねぇ。まぁそれは私の場合もそうだけど」
「フエ様も、そうだったのですか?」
「うん、母親も異形の子だったんだけど、私産んだショックで死亡。で異形の親父? というか母さんに種付けした奴は私を喰おうとして逆に喰われた、何もかもね」
「は、はぁ……」
 ジンはエルとフエがある種似たもの同士なのかと思った。
「あ、言っとくけど、エルの父親と私の父親は次元が違うからね、強さの」
「そ、そうなんですか?」
「うん、そう。まぁ詳しくは教えないけどね、ごめーんね」
 フエはそう言ってウィンクをした。
「さて、じゃあ邪教集団とか見繕いますか」
「有り難うございます」
 ジンは再び頭を下げた。
「おー、何してるんだ?」
「ん? エルの昔話してた」
「あー彼奴のか……」
 ロナクは渋い顔をした。
「ロナク様、何か嫌な事でも?」
「嫌っつーかよ、彼奴毎回切羽詰まった顔で『ロナク、悪人作って悪人! お腹がすいてすいて仕方ないの!』って言ってきたから俺本当参ったわ、自分から悪人をさらに悪意で異形化させて殺し合わせるのは好きだけど、彼奴の食欲の為の悪人作りはかなりきつくてよ、しかも毎日のように来るから逃げるのが大変だった」
 ロナクは遠い目をして言った。
「それほどに……」
「今のエルになってくれて良かったと俺は思っている。だって悪人作れって切羽詰まった表情でいってこないしな」
「それに今のエルは人間の食事を混ぜても問題なく食べられるようになっている、そこも良い点だ」
 紅が言うと、フエとロナクは頷いた。
「という訳でジンさん、これからもエルの事宜しくね」
「勿論です」
 ジンは頭を下げた。




 ジン部屋に戻り、眠るエルの頬を撫でる。
「エル様……私は貴方を二度と飢えの苦しみを味わうような事にならないように致します……どうか日々を安らかに」
 そう言って部屋を後にした、次の食事の仕込みの為に。





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