クトゥルフちっくな異形の子等の日常~番いと「花嫁」を添えて~

琴葉悠

文字の大きさ
33 / 238

フエの事~創造の邪神の娘、喰らいし者、世界を保つ者~

しおりを挟む



 覚えているのは、白い巨大な生き物。
 異形の姿。
 そして絶命している、美しい女性。

 それが私の最初の記憶。
 そして、私は只の異形の子だった最後の瞬間。


「……」
 フエは珍しく黙りこくってベッドに横になっていた。
「フエ?」
 柊が不安そうに声をかけるが、フエは微動だにしない。
「フエ……」
 不安になって柊が手を伸ばすと、その手をいつの間にか入ってきていた紅が止める。

「今のフエには手を出さない方がいい、たまにあるんだ」
「だが……」
「今のフエに手を出すと、宇宙規模の災害が起きる」
「⁈」
 柊は驚いて目を見開いた。
「ちょっとフエの話をしようか」
 そう言うと柊は頷いて部屋を出た。

 会議室に行くと、紅は椅子に腰掛け、柊も腰掛けた。
「柊、フエの出自と親について聞かされた事は?」
 紅の問いかけに柊は首を振った。
「彼奴の親は異形の子と異形……いや創造の邪神と呼ぶべきだな」
「邪神?」
「神と呼ぶような高貴な存在じゃないからな、だが創造神だ」
「……」
「あのフエは本体のフエではない」
「⁈」
「本体のフエは夢を見ている」
「夢?」
「そう、この『世界』という夢を」
「この、世界?」
「そう、本体のフエが目覚めたら世界は終わる。簡単な仕組みだ」
「本体はどこに?」
「……世界の果てで、静かに眠っている、使い魔達の子守歌を聴きながらな」
「会いたい……」
「それは出来ない、異形の子ですらいけぬ場所だ、そもそも場所も私も知らないのだ」
「だったら何故……」
「フエから聞いた、あの子が父親を喰らって権威も力も全て引き継いで消えたと思ったら出現したのを見て聞いた」
「創造神を、喰らった?」
「そう、喰らって引き継いだのだ」
「あの子はその所為か、時折かりそめの体と本体の体をすりあわせる必要が出てきた、それが今だ」
「……いつ頃まで続くんですか?」
「短くて数日、長くて一ヶ月くらいだな」
「そんなに……」
「触れると宇宙規模の災害が起きるし、あの子の目覚めも長くなり体の不調がでる、だから触らないで貰いたい」
「そんな……」
 柊は触れられない事を嘆いた。
「ちゃんと説明責任を果たしてなかったの不始末だ、済まない」
「え……今、妹ではなく姪、と」
「彼女の母は私の妹だ、同じ異形の親を持つ。だから妹とは本来呼ばないが、私達のルールで妹と呼ぶことになっているが、今はそんな事を言ってる場合ではないのでな」
「……あのフエの母君は?」
「死んだ」
「え」
「フエの出産に耐えられなかったのだ。だから死んだ」
「……」
「フエの子の出産に耐えられるのは『花嫁』くらいだろう」
 残酷な現実を突きつけられ柊は泣きそうになった。

 番いなのに、フエの子を宿すことができないのだ。
 産み落とすこともできない。

 だから、フエは子どもを欲しがろうとしないのが理解できた。

 自分が傷つき、死んでしまうから。
 その優しさが辛かった。

「ちょっと紅姉さん‼」
「おや、早いお目覚めだな」
 部屋に慌てて入ってきたフエに紅は言う。
「何で私が隠してたこと全部いっちゃう訳!」
「言わないととんでもない事態になっていただろう?」
「おかげで大急ぎで調整したから近いうちまた調整しないといけなくなったじゃん!」
「大人しくなるのはよいな」
「茶化さないで!」
 フエは怒って紅に言う。
「ふ、フエ……」
「あー……うん、柊さんごめん。余計な心配かけさせたくなかったんだ。私他の異形の子と事情が違うし」
「……」
「まぁ、子どもが欲しくなったら私が産めば……産めないよね、分かってる、紅姉さんごまかすなって顔すんな」
「産めない?」
「正確には私は子どもを作っちゃいけないんだ。父親の前科があるから、子どもを食い殺すか、子どもに食い殺されるかの二択になってしまう。そうするとまた世界が変わる」
「……」
「そうならない子を産むには『花嫁』が必要だけど……柊さんは嫌だもんね、ごめんねこんな伴侶で」
「違うんだ」
 柊はフエの手を掴んだ。
「そういう事を抱え混ませていた自分の性質に嫌気がさす」
「柊さん……」
「正直『花嫁』には嫉妬してしまう、だが『花嫁』は異形や異形の子等から求められ、狙われる存在、人に恋することなどできないのだろう」
「──うん、そう『花嫁』は──零さんは人に恋せず、私達が発情期とか苦しい時とかに体を貸すと割り切っちゃってる存在」
「……」
「だから、零さんには申し訳ないし、柊さんにも申し訳ない」
「ううん、いいんだ」
 柊は笑った。
「君に愛されているからこそそういう扱いになった事が分かったから安心したよ」
「柊さん……よかった……あ゛」
 フエは頭を抑えた。
「やっぱりちょっと無理があったみたい、部屋戻って寝るから柊さん、放置でお願い」
 そう言って返事も聞かずにフエは会議室を慌てて出て行った。
「あいつ、お前の為に無理に起きてきたな」
「あ……」
「お前の事を誰よりも大切にしているのが分かっただろう、分かったらしばらくはそっとしておいてやってくれ」
「はい……」
「部屋が必要なら空き部屋を貸そうか?」
「いえ、ソファーで寝ます。彼女の側に居たいので」
「そうか」
 柊も会議室を後にした。
「余計なお節介だったかな?」
 取り残された紅は一人そう呟いた。

「……フエ」
 微動だにしないフエに、柊は声をかけ囁く。
「愛しています」
 そう言って離れていった。

 その直後、微動だにしなかったフエの口元に淡い笑みが浮かんだ──




 私は他の異形の子と完全に違う存在だから、柊さんには無理をさせられない。
 でも、私は柊さんを愛している「花嫁」と違う意味で。
 だから私はそれを分かってくれることを望んでしまう。

 我が儘かな、私──




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...