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壊れた王子様
「魔の子」ニュクス
しおりを挟む俺はニュクス、少しばかり普通の人と違う存在。
俺の昔話をしよう。
赤ん坊の頃の記憶を俺は覚えている、ほとんどがあやふやだが、これだけは嫌でも忘れられない言葉だった。
『これは我が子にあらず!! 魔の子だ!! 殺せ!!』
という実父――聖王レオンの言葉だけは忘れたくても忘れられない。
すぐ殺すとこの場が汚れるという誰かの言葉ですぐ殺されなかった、その猶予ができたから俺の母――元聖王妃ダフネは赤ん坊の俺を抱いて城を出ようとした。
其処に騎士が現れたから母さんは慌てた、だがその騎士――後の俺の義父パリス、実は義父さんは母さんがまだ聖女とか呼ばれる前からその活動を陰ながら支えてきたりしていた人で、母さんならきっと赤子の俺を連れて逃げ出すと思い城から逃げ出す準備をして待っていたそうだ。
義父さんがいなかったら、俺も母さんも殺されてただろう、何せ俺の実父はそういう奴でな。
さて、城から逃亡し、俺は母さんと義父さんと幸せに暮らしました、めでたしめでたし――というので終われば御伽噺。
俺の実父が、それを許してくれるわけもなく、各地を転々と逃げ回る生活だった。
自分という存在が非常に憎かった、普通の子なら俺は別に普通に王子、もしくは王女として城にいただろう。
俺は、どっちでもあり、どちらでもない、両性具有とよばれる、存在らしい。
稀に生まれる――が、聖王の国では「魔の子」として殺されてる。
他の国や種族ではどうなのかは知らない、というかそこまで気にするとか勉強する余裕はちょっとばかり俺には足りず、身を隠して暮らし、見つかったら逃げる、それを繰り返していた。
それは俺が成人の祝い――二十の年を重ねて、絶賛父親にだけ反抗期の弟と、舌足らずな可愛い妹と暮らしている時、突然終わりを迎えた。
何故か?
笑い話だが、「魔王の国に私達が滅ぼされてしまうから魔王の息子の花嫁になってくれ!!」と使者を出してきたんだよ、俺の実父とか周囲の連中が。
そして俺の答えは――
「うるせぇ!! 何度言われても行かないつってんだろ!! いっそ滅べテメェら!!」
使者の護衛をしていた者達を俺はギリギリ動ける程度まで拳でぼろぼろの状態にして睨みつける。
使者は悲鳴を上げて逃げ出していきやがった。
護衛の連中も体を引きずるようにして使者の後を追いかけていった。
「うぜぇな本当!!」
俺は吐き捨てるように言って、窓が全て閉じられている現在の我が家の扉を開け、中に入ると鍵をしめる。
「ニュクス兄、もう追っ払ったのか?」
「今日は追い払ったよゼロス、だからその剣をこっちによこしな」
「……」
弟のゼロスは俺の言葉に渋々と子どもには持つのが重そうな鞘に入ったまま剣を俺に渡した。
俺はそれを受け取ると、弟の届かない高さの棚に仕舞う。
「あ⁈ ニュクス兄何でだよ?!」
「剣はお前には危ないの、全く義父さんの言うことなんで聞かないのかねぇ、危ないから触るなっていってるのに」
「パリスの言葉説得力ねぇもん」
「パリスじゃなくて、父さん、だろ? 全く何で義父さんにだけこうも反抗状態なんだかお前は」
俺が呆れながら言うと、不服そうにゼロスは唸っている。
弟ゼロス、絶賛十二の年を超えたばかり、なのに実父パリスにのみ反抗期状態。
俺や母さんのいう事は聞くのに、義父さんの言うことは本当聞かない、酒を飲める年になった今は弟と妹が寝静まると、もっぱら俺は義父さんのゼロスの行動の愚痴とかを聞く羽目になる、まぁこれは我慢できる。
だが、もう軽く百回以上来ている使者の連中にだけは我慢できない。
俺の事散々殺そうと追い掛け回した挙句、自分達が助かるための生贄になれ、と言ってやがるのだあの連中。
本当、ふざけるのも大概にしてほしい、頭がお花畑にもほどがある。
まぁ、国が助かった所で聖王――俺の実父、あの後色んな女をあてがわれたそうだが一回も子どもが生まれなかったそうだ。
あの国は血縁を大事にするのと、なんか俺が生まれて、俺を殺そうとしようと刺客を刺し送り始めた時から急に血縁関係がばたばたくたばったそうで、跡継ぎにできる血縁者がぶっちゃけ俺しかいない状態。
心から思う、ざまぁ!!
国(どうやら同盟を結んでた国とか種族連中も含めて)滅びそう、助かる手段は俺をそうだな「魔王」(聖王庁とか俺の生まれた国とかその同盟国とか種族連中)と呼んでいる奴の息子の花嫁――まぁ、ぶっちゃけると生贄として差し出すしかない。
でも差し出したところで王の跡継ぎになるべき資格の持ち主はいない。
いやぁ、腹よじれる位義父さんと笑った、母さんは何とも言えない顔してたけど。
多分元夫の現国王の事はどうでもいいが、もともとその国で立場が低い人達が生きやすいよう、病気の人が健康になれるよう、もしくはそれでも穏やかに満足した生を送れるように努力した結果聖女と呼ばれたようなのが母さんだ。
国王とかの方はどうでもいいとして、民とかの方を心配してるんだろう。
どこの国も何か「魔王」の怒りを買った状態にあるらしい。
理由?
知らね。
聞いた話だと、今まで「魔王」の領地とかには昔から攻め込み続けていたが、向こうさんは防衛のみ、やり返さなかったそうだ。
だが、ある日突然、「貴様らはやってはならんことをしでかした、その罪償ってもらおう」と宣戦布告したそうだ。
まぁ、聖王庁とか「魔王」と敵対してた連中は大義名分がよりできたと喜んで攻め込んだら――全滅させられたそうだ。
それから向こうさんの侵略の速度は早いのなんの。
つまり、例えるなら子どもが玩具の剣を持って大人にぶん回すのを頭で抑えつけるような感じで今まであしらっていた、のが宣戦布告前。
今は棒切れで戦いを挑んできた何の才もない奴を、鋼の剣と、鋼の甲冑とかで身を包んでいる凄腕の戦士があっさり殺す、みたいな感じだ。
まぁ、勝てるわけがない。
何が原因かはともかく、俺はさっさと滅んで欲しいというのが願いだ。
そうすれば俺ら家族はとりあえず、何かがない限り幸せに暮らせるだろう。
さて、少しだけ未来のをしよう、俺ら家族はこの後幸せに暮らせるかについてだ。
答えは「幸せかはともかく追われたりしなくてすむ生活になる」だ。
理由?
……そのなぁ、来たんだよ俺の所に、「花嫁」を差し出せない無能連中(聖王庁とかの連中のこと)に我慢ができなくなった……「魔王」が。
一か月程、連日のように着ていた使者たちが急に来なくなった。
俺は「あーついに滅んだか、ざまぁ!」と思いながら義父の手伝いをしながら家事やら弟や妹の世話をしていた。
母さん、色々あり過ぎた所為で今体を壊してるからな、ベッドで休んでもらってるよ。
たまーに無理して家事とかしようとするのを俺とゼロスでベッドに戻して、以前知り合った魔女から教えてもらった薬を作って飲んでもらっている。
あの魔女さんも聖王庁から狙われてたから今どうしてるか分からないのだけが心残りだ、無事に生きてくれてればいいのだが。
「にゅくすねぇた、こわいちとたち、こないね」
「そうだな」
「おいのりきいたのかな?」
「じゃねぇの?」
妹のレイアの頭を撫でながらそう言うと、妹はきゃっきゃと笑いながら嬉しそうにしている。
「今日は鹿肉と野菜のスープと、パンだよ」
「にゅくすねぇたのおりょうりすき!」
「よしよし、今テーブルに並べるから、いい子にしてるんだぞ?」
「あい!」
ちびすけな妹には俺の事とか色々話していない、十過ぎた時弟には義父さんの方から俺たちがこんな生活をしてる理由を話した。
恨まれると思った、俺がいなかったらきっと普通のところに紛れ込めただろうしな。
だが、弟は俺を恨まず俺の実父連中を恨んだ、何と言うか、母さんと義父さんの子育ての成果だと思う……が、今は絶賛義父さんへ反抗状態になっている、俺にならわかるんだけどなー。
夕食の用意をして、母さんと義父さんの寝室に向かう、母さんが体を起こして外を見ている。
「母さん、どうしたの?」
「ああ、ニュクス……何か、今日外の様子がおかしいのよ」
「――」
母さんの言葉に俺は黙る。
その通りだったからだ。
生き物は一匹も見かけないし、空は曇っていて夜になったと思ったら真っ赤な月が顔をだした、かなり高いところにあるのに。
空もどこか赤い色に染まっていて、非常に不気味だ。
「まぁ、いいから夕食にしようぜ」
「いつもありがとう」
母さんを抱きかかえて、食事場に連れて行って椅子に座ってもらい、家族そろって夕食を取る。
夕食を取り終えて片付けをして、弟と妹達には普段なら遊んでやるところだが、早めに歯を磨かせ、体を洗わせ、ベッドに入って寝てもらった、弟は不満そうだったが。
「……」
「……それにしても不気味な空だ……何か悪いことが起きなければよいが」
義父さんも、今日の異変に気づいていた。
普段なら酒を飲んでいるだろうが、一口も飲まず、香草茶を口にしている。
ぞわりとする気配を俺は感じた。
「――義父さん」
「ニュクス、どうした?」
「何かが、来る」
俺がそう言うのと同時に家の扉を何者かが叩く音が聞こえた。
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