ヴァンパイアライフ~不慮の事態で吸血鬼になりましたがなんとか頑張って生きていきます~

琴葉悠

文字の大きさ
6 / 21

苦悩




 私はたくさんの苦悩をすることになる。
 これからのこと、これからの後の事、変わってしまった自分に。
 

 葛葉が帰った家の中で、明里は深いため息をついた。
 買い物袋から、買ってきたものを取り出して、何とも言えない息を再度吐き出す。
「……何でこんなことになっちゃったんだろう……」
 噛まれた箇所を撫でるが、噛んだ痕は残っておらず、すべすべとした首筋の感触が指に伝わった。
「……はぁ……」
 玄関に鍵をして、自室にとぼとぼと戻っていく。
 ベッドに倒れ込むと、がりと腕を噛む。
 鋭い牙が柔らかな皮膚を破って、血が流れる。
 明里はその血を舐める、甘い味が口いっぱいに広がる。
「……はぁ……」
 息を吐いて、血を必死に舐めあげる、甘い味に明里の口が僅かに弧を描く。
 その自分の異常さに気づいたのか、すぐさま傷痕に絆創膏を貼って口を拭う。
「ああ、やっぱり吸血鬼なんだ私……」
 明里はあきらめのような顔をすると、起きあがってため息をつく。
 お守りを手にして、何度も自分に言い聞かせる。
「でも、人間として生きるって決めたんだ……頑張るんだ」
 何度も自分に言い聞かせ、勇気を振り絞るが、昼間の惨劇が頭をよぎる。
 真っ赤な血の匂い鼻に残っていた。
 喉がひどく乾く感触に、思わず気分が悪くなった。
「先生に相談した方がいいかな……」
 携帯電話に手を伸ばすと、黒い影が明里の手をつかむ。
 明里は息をのみ、黒い影の方に視線をやる。
 それは人の形をとり――アルフレートの姿になった。
「あ……あ……」
「明里、どうやらまがい物を退治できたようだね、それ位できて当然か」
 アルフレートはにたりと笑い、明里を抱き寄せる。
「早く私の花嫁として大成して欲しいものだ」
 明里は恐怖で声がでず、必死にアルフレートの腕の中から逃れようと、もがいたがアルフレートの力の強さに身動きが上手くとれずにいた。
『やはり貴様の仕業か』
 聞き慣れた声に、明里の表情が和らぐ。
 明里の影から黒い影が全く異なる形をなす。
「今回は直接こないのだね」
『いつでも直接これる訳ではないんだよ。貴様のしでかした事で教会に呼ばれてな。どうしてくれる』
「明里の成長のためだとも、被害は少なかっただろう」
『十分すぎる程だ、教会の奴らが本格的に動くと私らにも影響があるのは知ってるだろう』
「はてどうだったかね」
 肩をすくめるアルフレートを見て、影は苛立ったような声をあげる。
『貴様、いい加減にしてもらおうか。また戦争を起こすつもりか』
「それはないとも、誓って言おう」
『貴様の誓いなんぞ信じられるか』
 影は明里をアルフレートの腕の中から脱出させると、彼女を守るように身にまとわりついた。
「先生……」
『明里の身辺に警戒網張っていたが、それに引っかかってくれて幸いだぞ』
「随分過保護だねぇ」
『過保護で結構、貴様相手では過保護なのがちょうどいい』
「こんな過保護な保護者がいるのではまいるな、一端退散しよう」
 アルフレートはそう言うと、明里の部屋から姿を消した。
 明里の部屋から彼が姿を消すと、明里は息を吐いてその場に座り込んだむ。
 影はそれを見ると、明里の影の中に姿を消した。
『明里、気をつけろ。奴は何を考えているか私達でも解らないからな……』
「はい……先生、いつも私を見てるというか監視してるんですか」
『分身だがな、あの阿呆がいつお前に接触するか解らないからな』
「はぁ……」
『私は教会との話し合いでしばらく忙しいからな、こういう形でしかお前に会えないが、学校では何とか時間をつくるから学校で私に接触するといい』
「……はい」
 影は揺らめきながら会話を続けていたが、明里の気持ちが落ち着くと同時に揺らめきは消えて、普通の影に戻った。
「……そうだ、先生がちゃんと見てくれてるんだもの……頑張らないと」
 明里はそう言って元気を取り戻し、明里は立ち上がり部屋の片づけを開始した。
 日常に戻るために。


 町外れの館――吸血鬼の館で、アルフレートは静かに佇んでいた。
「……私の花嫁――」
 アルフレートはそう言うと、口元を弧の字に変形させる。
 楽しげに、笑う。
「明里――早く私にふさわしくなっておくれ」
「随分――楽しそうにしてますね」
 アルフレートの元にクォートが尋ねてきた。
 アルフレートは嬉しそうに笑いながら、クォートを見る。
「やぁ、ワラキア公の御息子。こんなところに何のようだね」
「解ってるはずです、昼間の件ですよ。あんな場所であの紛い物を解放するなんて何を考えているんですか」
「彼女が私の眷属らしく生きるための試練だよ」
「ネメシスはそれに反対してるのをご存じなのですか?」
「勿論」
 クォートはアルフレートの言葉に眉をひそめている。
 不機嫌であることを隠さずにクォートは続ける。
「私も彼女を貴方の眷属に入れるのは反対だ。我らの道は彼女にはふさわしくない」
「そう思うかね?」
「彼女には支配欲がない、ただ穏やかに暮らしていたいという意識しかない」
「だからこそ、私は彼女を眷属にいれたいのだよ」
 アルフレートの言葉に、クォートの眉がぴくりと動く。
「だからこそ」
「そうだとも、だからこそ、彼女を眷属に入れることにしたのだよ」
 アルフレートはワインの変わりに血の入ったグラスを傾けながら、微笑む。
「早く私に相応しくなってもらいたいものだ」
 楽しげに微笑む彼を見て、クォートは不機嫌な顔のままにらみをつけた。





感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

忠犬男子が懐きすぎて異世界までついてきた「件」

竜弥
ファンタジー
異世界に転生する直前、天貴(てんき)が選べた“持ち物”は三つ── だが、彼はひとつしか持たなかった。 残されたのは部屋と、布団と、そして──忠犬。 「クータンを頼む」。それが、最後の言葉だった。 ぽつんと現代に残された玄太は、天貴の部屋で布団にくるまりながら泣いていた。 でも、捨てられたわけじゃなかった。 天貴が“本当に”持っていきたかったのは、玄太だったのだ。 その事実を知った瞬間、忠犬は立ち上がる。 天貴の武器を手に、異世界転送の手はずを整え、 天貴が今どんな敵と向き合い、何に苦しんでいるのかを知った玄太は、叫ぶ。 ──忘れ物はおれ!…届けに行くっすから! これは、異世界に送られた大好きな先輩を追って、 “忠犬男子”が次元を越えて追いかける、少しおかしくてちょっと泣ける物語。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?