上 下
22 / 42
そして親になる

祝福とお説教

しおりを挟む



 クレメンテと私の娘ブルーナはすくすく育っていた。
 今ではふっくらむっちりしている、赤ちゃん特有のぷっくり感が出ている。
「ブルーナ、私の可愛い赤ちゃん」
 クレメンテはブルーナにつきっきりだ。
「今は過保護くらいがちょうどいいさ」
 とカルミネは言う。
 つまりだ娘が大人になったときに過保護にならないように、クレメンテとやりとりしていく必要がある。

 そんなこんなで、赤ん坊の成長と育児と、まだ妊娠中の伴侶の対応に追われている夏。

 それはやって来た。

「……どうしたアルバート」
「カルミネどうしよう、破水したっぽい」
 アルバートの言葉にカルミネは水を拭きだした。
 エリアはあわあわとしている。
「フィレンツォー! アルバートが破水したー!」
「かしこまりましたぁあああ!!」

 車椅子を掴みながら滑るようにフィレンツォが入ってきた。
 もはや芸術的としか言えないレベルだ。

「アルバート様、さ、早く!」
「う、うん」
 おどおどとしているアルバートを私が支え、車椅子に乗せて分娩室へと向かう。

「うう~~! こえぇよぉ」
「私の腕を握ってください、折っても構いませんので」
「お、折るなんてできねぇって!」
「ご安心を、クレメンテの時、骨にヒビが入りましたので。すぐ治癒魔術で治しましたが」
「クレメンテこぇえ……」
「出産にはそのくらい手に圧がかかるんですさぁ」
「う、うん」
 アルバートが私の腕を掴み、医師達が分娩準備を始める。

 そして出産が始まった。
 アルバートは「ぐるじぃいいい!」と叫んで私の腕の骨をへし折ったが、出産は無事に終わった。

 へし折った腕を他の皆に見られたときは悲鳴を上げられたので、へし折られて出産が終わったらすぐに治そうと決めた。

「と、とにかく、俺の出産無事終わって良かった!」
「ダンテの腕が無事じゃなかったですがね」
「ははは……もう治癒魔法で治しましたから大丈夫ですよ」
 手を動かしてみせる。
「俺はダンテの腕は掴まんぞ、適当な棒を掴む」
 アルバートが私の骨を折ったのを見て、カルミネはそう言った。
「で、赤ん坊の性別は?」
「男の子ですね」
「男の子かー……名前何にしようか」
「決めて無かったんです?」
「ダンテならなんてつける?」
 とアルバートに聞かれた私は少し考えて口にしました。
「アルフィオ」
「俺の名前からか、ふふ、なんかこそばゆいな」
「いいのですか?」
「ああ、いいとも」
 まだつかれた様子だが、アルバートは赤ん坊に言った。
「アルフィオ、元気に育つんだぞ」
 と。
 赤ん坊、アルフィオはふぎゃあと泣いた。
 返事をするかのように。




 それから怒濤の日々が始まった。
 まだ妊娠中のカルミネとエリアの側の世話に、生まれてきた赤ん坊二人の世話。
 そして、アルバートとクレメンテのケアを大忙しなのだ。

 ぶっちゃけ自分の事後回しにしすぎた結果──


「「「「「もう少し自分を大事にしてくれ(ください)!!」」」」」


 と全員に言われ、フィレンツォにアイアンクローでベッドにだぁん!と寝かしつけられる程だった。

 それが複数回続いて──

「ダンテ、親になったのは分かるわ。でもここでは私達を頼ってちょうだい」
 と母上に説教される羽目になった。
「もうしわけございません母上……」
 ベッドの上から母上の説教を聞いている。

──何故かって?──

 無理して倒れたんですよ、疲労困憊状態になり気力で保てませんでした。

『お前の悪癖相変わらず治らんなぁ』
──しゃーないでしょう──

「貴方が倒れてしまってはエドガルドに、伴侶の方達が皆心配するわ」
「いやぁ、皆自分の事で忙しいでしょうし……」
「それでもよ。あの子達は皆貴方を愛しているんだもの」
「……そう、ですね。すみません、母上」
「謝るのは私ではなくて、あの子達へ、でしょう?」
「はい……」
「とにかく今日は休んで。何かあったらすぐ伝えるから」
「はい……」
 母上が出て行き、一人自室で横になっていると、ノック音が聞こえた。
「どうぞ」
 そう言うと、フィレンツォに付き添われてきたアルバートと、クレメンテだった。
 二人は赤子を抱いている。
「ダンテ、また無茶をしたそうだな。お前昔から無茶するのどうにかできないのか?」
「そうだ、親になったからといって一人だけ無茶をするのはやめてくれ」
 二人が私を咎める。
「ダンテ様の無茶癖は幼少時より出ていました、治すのは困難でしょう。ですが」
 フィレンツォは私の頭を撫でながらいう。
「皆様がいれば、きっと良くなります。実際良くなってきました」
「でも、良くなってこれだからな」
「親になるという事で、結構ピリピリしているのですよ」
「なるほど」
 クレメンテとアルバートはダンテに近づき赤子を見せる。
「この子等の良い親に、私達の良い伴侶にしようとするのは嬉しいが、無理はするな」
「そうだぞ、ダンテその通りだ」
 すやすやと眠る赤子二人を見て、私は息を吐いた。

──確かにその通りだな──

「……そうですね。もう少し皆を頼れるよう努力します……」
「努力じゃない、義務だ」
「ハイ」
 クレメンテの圧のこもった言葉につい片言になってしまう。

──尻に敷かれてるな自分──

 と、思いながらも、フィレンツォが用意してくれた果実をかじった。
 さっぱりしてて美味しかった。


 ゆったりと休んでいると、フィレンツォが思い出したように言った。
「そういえば、アウトゥンノ王国から祝いの品が届きました。クレメンテ様宛に」
「私に?」
「クレメンテに?」
「ええ」
 と、フィレンツォは祝いの品の一部を持ってきた。
「ほとんどが金品でしたので……自分たちで選んで欲しいとのことです」
「でも、数着女の子用の服が入ってますね。赤ん坊用の」
 白いフリルのついたものから、果物柄の物などがあった。
「……兄上達はもう」
「あと、離乳食用の物が缶詰で送られてきましたよ」
「離乳食ですか、ありがたいですね」
「ええ」
 クレメンテと微笑み合う。
「フィレンツォ、俺の家からはー?」
 アルバートがたずねるとフィレンツォは苦笑し──
「一応金銭がわずかにとどきました」
「だよなー俺の家伯爵だし、王族とは桁が違いすぎるのが悲しい!」
「アルバート、量や質が思いではありませんよ」
「クレメンテに諭されるのが意外──」
「ふぎゃあふぎゃあ」
「ああ、ごめんよ、えーっとこれは……」
「オムツですね、私が取り替え──」
「「ダンテはもう少し休んでろ」」
「ハイ……」
 私は大人しく休んでいることにした。


──プリマヴェーラ王国のヴァレンテ陛下にちょっと話しを伺いたいなぁ……──


 そんな事を思いながら。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

世界を壊したいほど君を愛してる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:344

【R18/短編】チート勇者がオークに恋したら

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:263

【書籍化進行中】美形インフレ世界で化物令嬢と恋がしたい!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,547pt お気に入り:429

ルビーの涙 ~忘れるための物語~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

【完結済み】月光を射る。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

暗黒騎士と女奴隷 〜最低身分で見つけた幸せ〜

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:99pt お気に入り:231

最期に見た天使

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

オークとなった俺はスローライフを送りたい

BL / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:793

処理中です...