思い出の第二ボタン

古紫汐桜

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それからの未来

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『チリン』
23年も経つのに、先輩からもらった鈴は高い可愛い音を鳴らす。

『石川 悠太』
私の初恋の人の名前が刻まれた名札の文字は、少年が書いた幼さが残されていた。

「あれ?懐かしいのを持ってるな」
大掃除をしていた私の隣に並び、今ではすっかりオジサンになった先輩が笑う。
「大掃除してたら出て来たの」
懐かしさに名札に触れると
「母さん、お腹空いたからご飯にしよう」
そう言って、オジサンになった先輩が照れ臭さそうに笑う。

私が20歳の時、親友の職場の先輩が、石川先輩の親友の彼女だった。
そんな細い糸を、先輩が手繰り寄せてくれた。
あれからもう20年。
鈴の音は変わらず、あの日の気持ちを呼び戻してくれる。
「これは捨てちゃダメね」
私はそう言って、独身時代のクローゼットから、今、自分が使っている洋服ダンスに第二ボタンと名札が入った箱をそっとしまう。

夫婦の危機が訪れた時、又、この鈴の音色を聞こうと心に決めて、そっと洋服ダンスの扉を閉めた。                              ~完~
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