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アレクこと、アティカス王子との再会

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 物心着いた頃から妃候補として育てられた私は、10歳になると王宮で本格的な妃教育を受ける事になる。
そして5歳の初夏から6歳の春まで我が家で一緒に暮らしたアレクこと、アティカス王子と王宮で再会した。
一応、知らないフリをしなくちゃいけないから、私はドレスのスカートを摘み
「アティカス王子、お初にお目にかかります。フレイア・バルフレアです」
礼儀正しく挨拶をした。
すると、アティカス王子は必死に笑いを堪えた顔をすると
「久しいな、フレイア。息災か?」
と声を掛けて来た。
「うふふ。一応、私とアティカス王子は初対面となっている筈ですが?」
小さく笑って答えると
「やはり、僕だと分かっていたのか」
そう言って破顔した。
そして人払いすると
「少し歩かないか?」
と、庭園を指さされて
「喜んでご一緒させて頂きますわ」
そう言って並んで歩き出した。
「あれから、いかがでしたか?」
「うん。バルフレア家から頂いた銀食器のお陰で、母上の病も毒によるものだと判明してね。今や、僕も母上も健康そのものだよ」
笑って答えるアティカス王子は、我が家に居た頃の人懐っこい笑顔を浮かべた。
「そうでしたか.......。大変でしたわね」
神妙な顔をする私に、アティカス王子はクスクス笑い出し
「止めないか?折角、人払いしたんだ。アレクとフレイアで話をして欲しいな」
と言い出した。
「よろしいのですか?」
「あぁ.......。僕は婚約者のフレイアでは無く、親友のフレイアと話がしたいんだ」
そう言われて、私は辺りをキョロキョロと確認してから
「はぁ~!息が詰まりましたわ!」
伸びをした私に、アティカス王子はクスクス笑ったまま
「そうそう、そうでなくちゃ」
と言って、私の顔を覗き込んで来た。
「レイモンド兄様は元気?」
「えぇ、元気ですよ。あ!ちなみに、マークも元気よ」
「マークか.......、会いたいなぁ~」
遠い目をしたアティカス王子に
「あら!いつでも会いにいらしたら良いではないですか。お父様やお母様、レイモンド兄様はもちろん、マークも大歓迎だわ」
笑顔で答えた私に、アティカス王子は私の顔を覗き込んだまま
「そこにフレイアは入っていないのか?」
と悪戯っ子の顔をして聞いて来た。
私が笑いながら
「アレクになら、お会いしたいですわね」
そう答えると、声を出して笑いながら
「フレイアには敵わないな」
と笑っている。
「ねぇ、フレイア。以前、僕ときみは親友だと言っていたよね?」
そう言われて、私は頷きながら
「えぇ。今でも、私達は親友だと思っていますけれど.......。アティカス様は違うのですか?」
と答えた。
10年間の中のたった半年だとしても、アレクだったアティカス王子と暮らした日々は良い思い出だった。
現に、半年後にアティカス王子が王宮に帰る日。私も含め、家族みんなが泣いて見送った程だ。
最終日の前日の夜なんて、私とアティカス王子は一緒に手を繋いで寝た程の仲良しだったのだから.......。
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