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賑やかな放課後③

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アティカスがアレクと名乗り、我が家で過ごしていた時はいつもそうだった。
完璧なレイモンド兄様に対抗する度、完膚なきまでにやられては
「フレイア!見ていないで、僕の味方になってよ!」
そう言って援護を求めて来た。
その度に、いつもこう答えていたっけ……
「いやよ!だって私」
と言うと、アティカス王子も人差し指を立てて
「レイモンド兄様が大好きだもの!」
「レイモンド兄様が大好きだもの!」
私と声を合わせて呟いた。
私達は顔を見合わせると、思わず吹き出して笑ってしまう。
「こうしていると、あの頃のようですわね」
懐かしさに呟くと
「でもね、フレイア。僕はもう、あの頃の幼いままでは無いんだよ。きみを守る為に、僕はあの頃よりずっとずっと強くなった。今はまだ、剣の腕はレイモンド兄には勝てないけれど……それでも必ず強くなる。だからね、ちゃんと僕を男として見て欲しいんだ」
ベッドの縁に跪き、私の手を取って揺らぎの無い真っ直ぐな瞳で言われてしまう。
私は真っ直ぐなアティカス王子のサファイアの瞳から目を逸らし
「私は所詮、政略結婚の為の婚約者では無いですか。そのようなお言葉は、私には勿体無いです。それに、きっと……」
そう呟いて、後の言葉を飲み込んだ。
『貴方達は、ヒロインに恋をする』
吐き出せなかった言葉は、胸の中で硬いしこりのようになって私の心を沈ませる。
突然黙り込んだ私を、心配そうに見つめるアティカス王子に小さく微笑み返すと
「フレイアは、僕が政略結婚できみと結婚すると思っているのか?」
ポツリとそう呟いた。
すると突然立ち上がり
「フレイア。僕は一度だって、きみを政略結婚の相手だなんて思った事は無い!」
そう叫んだのだ。
「きみが僕を……そんなふうに思っている奴だと思っていたなんて、ショックだよ」
悲しそうに俯かれて
「え……あの、違うのです。アティカス様がどうこうでは無く、私なんかをアティカス様が好きになるなんて考えられませんもの。私みたいな、キツイ顔立ちをした悪役令嬢なんか……」
そう呟いた。
すると、レイモンド兄様とアティカス王子が一斉に私の顔を見て
「誰かフレイアを悪く言ったのか!」
「フレイア!きみをキツイ顔だなんて、誰が言ったのですか!」
と叫んだのだ。
「え?いえ、誰が……では無く、自分で自分を客観視しただけですけど……」
戸惑って答えた私の両手をアティカス王子が握ると、レイモンド兄様は私の頭を抱き締めて
「フレイア、きみは自分が分かっていない」
そう口々に言われてしまう。
その後で、私の頭を抱き締めているレイモンド兄様を見て
「あー!レイモンド兄、又、そうやってフレイアを抱き締めてる!」
と叫ぶと
「フレイアは僕の婚約者なんですよ!あまりベタベタしないで下さい」
そう言いながら私からレイモンド兄様を引き剥がすと
「フレイアもフレイアです!僕以外と、例え兄だとしてもあまりくっ付いたりしないで下さい!」
そう叫び、どさくさに紛れて私を抱き締めた。
「その代わり、幾らでも僕が抱き締めますから」
ギュッと強く抱き締められた瞬間
「痛い!レイモンド兄、痛いから!」
の叫びが頭上から上がる。
どうやら、又、頭を掴まれたらしい。
「アティカス王子?お前の脳みそは軽石か?さっき言ったよな?フレイアに触れるのは、本人の合意がある時だと!」
「じゃあ言わせていただきますけど!フレイアが、僕の気持ちを誤解していたのは何故ですかね?接触禁止とか言う契約があるから、フレイアが誤解したんじゃないんですかね?」
「はぁ?己の怠慢を、契約のせいにするなんて情けない!」
溜め息混じりに言われ、アティカス王子が反論しようと口を開くと
「お2人とも、フレイア様は病人なのですよ!何を騒いでいるのですか!」
と、サラの雷が落ちた。
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