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ブラックアティカス降臨

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少しだけ……本当に少しだけ、庇い合える友達が居るエミリアが羨ましいと思っていると
「そうなんだね」
明らかに作り笑顔のアティカス王子はそう言うと
「僕はね、嘘つきや人を陥れる人間が大嫌いなんだけど.......、まさか嘘を吐いたりしていないよね?」
と続けた。
するとエミリアは涙を流しながら
「アティカス様。この赤くなった頬が、何よりもの証拠ですわ」
そう言って、アティカス王子に縋り付いて泣いている。
他の令嬢達も「私達は、被害者ですわ!」と口々に主張していると
「ふ~ん.......」
と呟いたかと思うと、物凄く冷めた目を彼女達に向けて
「その言葉、嘘偽りが無いと誓えるのだな?」
低い声でそう呟いたのだ。
エミリアの取り巻き達は、声と雰囲気が変わったアティカス王子に青ざめて後退ると、「あっ.......!」と小さな声を上げた。
後退った令嬢達の背後に視線を向けると、何故か生徒会の面々が.......。
「どうした?誓えるのか?誓えぬのか?」
本気で怒っているのだろう。
青い炎が、アティカスの背後に見える。
「どうした?何故答えない?」
静かな怒りの言葉に唖然としていると
「熱っ!」
と小さな声がして、エミリアがアティカスから離れると、一瞬にしてエミリアの身体を青い炎が覆う。
「キャー!」
他の令嬢達が腰を抜かし、エミリアは水を求めて噴水に飛び込んだ。
しかし、青い炎は消える所か火の威力が増して行く。
青い炎の実物は私も初めて見たが、人だけを焼き付ける青い炎の存在はお妃教育で学んだ。
かなりの上位魔法で、その炎はかけた本人か、4家紋の火の精霊の加護を受けたカイル・ミューレンバーグしか消せない。
しかし、当のカイル・ミューレンバーグは、涼しい顔をして見ているだけで、助けようとしないのだ。
私は慌てて
「アティカス!アティカス、止めて!」
アティカスの腕に縋り付いて叫ぶと、青い炎が一瞬にして消えた。
エミリアがホッと安堵の息を吐くと
「何をホッとしているの?僕の大切な二人を罵倒したんだ。この程度で許されるなんて思わないでくれる?」
そう言って、アティカスが黒い笑顔を浮かべた。
「僕、最初に言ったよね?嘘吐きと人を陥れる人間が嫌いだって」
そう言うと、エミリアを見下ろし
「ルイス!お前の分家が起こした不始末、どするつもりだ?」
と叫んだ。
すると、エミリアと他の令嬢達がガタガタと震え出し
「どうか.......どうかお許し下さいませ」
そう口々に言って土下座すると、アティカスは鼻で笑い
「僕に謝ってどうするのさ!詫びる相手が違うんじゃないの?」
と呟いてレイモンド兄様の顔を見ると
「バルフレア家も、随分と舐められたもんだ」
そうレイモンド兄様が呟いた。
「レイモンドが、シスコンだからじゃないの?」
兄さんの言葉にカイルが笑うと、突然、エミリアと他の令嬢達の顔に細かい切り傷が刻まれて行く。
「きみ達、知っているかい?風で、きみ達の喉元を切り裂く事も出来るって事」
そう呟き、冷酷な笑みを浮かべた。
「僕はね.......、めちゃくちゃ怒っているんだよ。ただ妹を可愛がっているだけなのに、とんだ邪推をされたもんだ」
見た事の無い、血も凍るような冷たい笑みを浮かべるレイモンド兄様に、私まで恐怖で顔が引き攣った。
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