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私、誘拐されちゃった!

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「凄い!凄い!」
私を軽々抱え上げ、疾風のように走るルイス様もどきの肩ではしゃいでいると
「おい!気が散るから、少しは静かにしろ!」
そう言われて、思わずキュンとなる。
絶対にルイス様が言わない乱暴な言葉に、まるでブラックルイス様に言われているような気分になる。
こんなモブキャラが居たなんて!と、私はトキメイていた。
「ねえ、もう誰もいないのですから、その口元に当てている邪魔な布。退かしていただけません?」
文句を言う私に、呆れた顔をすると
「お前、誘拐されているって分かっているのか?」
と呟いた。
「え?そう言われれば、そうですわね」
そう答えた私に
「お前みたいな令嬢、初めてだわ」
私を担いでいるルイス様もどきは、ほとほと呆れたという顔をしている。
「じゃあ、今から悲鳴あげましょうか?」
「いや。多分お前、この先は気を失うだろうから無理だ」
ルイス様もどきの言葉に疑問を投げようとした瞬間、ぐにゃりと世界が歪んだ。
そして私の意識は、その瞬間から真っ暗になった。

誰かが泣きながら、私の名前を呼んでいる。
「.......ア、フレ.......イア.......ま」
ゆっくりと目を開けると
「フレイア様!」
綺麗なピンク色の瞳から、大粒の涙がポロポロと流れている。
背中が痛いのは、木のベッドに薄い敷物を敷いただけのベッドに寝かされたせいだと気付く。
「リリィ?」
やっと口を開くと、リリィが私に抱き着いて泣いているでは無いか!
(やだ~!リリィったら、可愛い)
中年のおっさんみたいに鼻の下を伸ばしていると
「普通はそういう反応だよな.......」
と、いつの間にかドアの前に立っていたルイス様もどきが呟いた。
「あ!もどきだ!」
思わず叫んでしまうと
「誰が誰のもどきだ!」
そう叫ばれてしまう。
しかし、やはり顔は覆面で隠している。
「え~!その覆面、要らなくない?」
唇を尖らせて呟いた私に、ルイス様もどきは
「俺達の顔を見たら、その嬢ちゃんも元の場所には帰れなくなるけど良いのか?」
そう言われて
「え?そうなの?」
と訊くと
「あ、お前は帰れないから安心しろ」
そう返された。
「え!何でよ!」
「ここまで来たら分かれよ!俺の顔を見たからだろうが!」
そう言われて、私は少し考えた。
「黒煙が凄かったし、私も見てないです」
にっこり笑ってルイス様もどきに言うと、ルイス様もどきも微笑んで
「へぇ~、見てないのに『もどき』とか言えちゃうんだ」
と言い返して来た。
「え?なんのことかしら?」
「お前、さっき、俺の事を『もどき』って呼んだよな」
「あら、いやだわ。も~どきなさいって言ったのよ。オホホホ」
「へぇ~」
何とか笑って誤魔化していると
「じゃあ、俺に似てるとか言うブサイクの話はしていないんだな」
そう言われて、ピクリと身体が震えた。
「そうか~、そうだよな。俺みたいなイケメン、2人といないよな。残念だな、俺のイケメン顔が拝めなかったなんて。だから、何とかってブサイクと間違えたんだよな~」
「ブサイクですって?」
「あれ?聞こえたか?でもお前、俺の顔を見てないんだよな?だったら、そのブサイクもどき呼ばわりした事を謝罪してもらわないと」
挑発だとは分かっている。
分かってはいるけど、私のルイス様をブサイク呼ばわりするなんて!
「ちょっと!黙って聞いていれば良い気になって!あんたなんか、瞳の色と髪の毛の色が似ているだけで、顔はルイス様の方が百億万倍もイケメンだわ!あんたなんか、見た目がルイス様もどきなだけの偽物の癖に!」
と叫んでしまっていた。
「へぇ~、俺の顔はそんなにルイス様とやらにそっくりなんだ」
そう呟かれ
(終わった.......)
心の中でそう呟いた。
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