あざとさを捨てた令嬢は、若き公爵に溺愛される

古紫汐桜

文字の大きさ
45 / 56

そして──僕は帰還する(クリフォードの独白)

しおりを挟む
その世界で僕は、「成沢孝」という名前になっていた。
成沢孝は、その国──“日本”では「ひきこもり」と呼ばれる存在だった。

それは、彼の日記を読み、彼の記憶を辿るうちに分かったことだ。
希望校に落ち、「馬鹿学校に行くくらいなら」と自ら殻に閉じこもり、
滑り止めで受けていた高校を中退。
三年間を、自分の部屋の中だけで過ごしていたらしい。

僕は、彼の部屋にあった“パソコン”という機械を使い、
この世界の仕組みを学ぶことから始めた。
そして彼の両親に頭を下げ、通信制高校への再入学を願い出た。

その時の二人の表情を、僕は忘れない。
泣きながら「ありがとう」と言ってくれたのだ。

きっと、彼の未来を心配していたのだろう。
僕の言葉に、心の底から安堵しているようだった。

それからの僕は外見を整え、
この世界の“自由な学び方”を活かし、働きながら貯金をした。
日本中を旅し、たくさんの景色を見て、多くの出会いを得た。

やがて海外へ渡り、大学生になる頃には、
特に親しい仲間たちと起業し、その会社も軌道に乗せることができた。

そんな僕は、この世界の女の子たちにも好かれたけれど、
特別な興味はなかった。

──僕には、元の世界で待っていてくれる
“深紅のバラ”がいるから。

身分差も偏見もないこの世界で、
僕は初めて「平等」というものを知った。

人は、生まれで決まらない。
努力で変われる──そう、確信できた。

そして、七年の月日が過ぎた頃。
ある夜、夢を見た。

『久しぶりね、クリフォード』

それは、女神リリア様の声だった。

『あんた、随分と面白いことしてくれたわね。
成沢孝の人生、丸ごと変えちゃうなんて』

女神は楽しそうに笑い、

『私、そういうの大好きよ。
だからお礼に、あんたを元の世界に返してあげる』

そう言うと、今度は真剣な瞳で告げた。

『その代わり──
その身体に成沢孝が戻っても、二度と“妬み”が生まれない世界を、
あいつのために作りなさい』

目を覚ました僕の胸の奥には、
新たな決意が、静かに芽生えていた。

僕は会社へ行き、仲間たちにこう切り出した。

「もし……ある日突然、
僕の中身が“別人”みたいになっても、
どうか見捨てないでくれないか?」

傍から聞けば、荒唐無稽なお願いだ。
けれど仲間たちは笑って肩を叩き、

「孝。
お前がどんな姿になったとしても、
俺たちはずっと友達だよ」

そう答えてくれた。

その言葉に、僕には
成沢孝の新しい人生が、確かに続いていく未来が見えた。

最後に、彼の両親にもすべてを打ち明けた。
そして、本物の孝が戻ってきた時には、
どうか温かく迎えてあげてほしいと。

信じ難い話だっただろうに、
両親は涙を流しながら、僕に深く感謝してくれた。

──そして、遂に時は満ちた。

いつもと変わらない一日。
ベッドに横たわり、そっと目を閉じる。

その瞬間、静かに──
優しい光が、差し込んできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】

星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

【完結】この胸に抱えたものは

Mimi
恋愛
『この胸が痛むのは』の登場人物達、それぞれの物語。 時系列は前後します 元話の『この胸が痛むのは』を未読の方には、ネタバレになります。 申し訳ありません🙇‍♀️ どうぞよろしくお願い致します。

【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~

瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)  ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。  3歳年下のティーノ様だ。  本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。  行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。  なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。  もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。  そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。  全7話の短編です 完結確約です。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います

織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。 目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。 まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。 再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。 ――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。 限られた6年の中で、セレノアは動き出す。 愛する家族を守るため、未来を変えるために。 そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。

処理中です...