56 / 56
茨のキス──涙の先に見えたもの
しおりを挟む
「松永君……どうして?」
私はユリエル様の頬に触れながら、溢れてくる涙を止められなかった。
私より五つも年下で、イケメンで、優しくて。
自分なんか彼に釣り合わないと勝手に諦めて、別の人と婚約した私を……
どうして、そこまで想ってくれるの?
涙がぽたり、ぽたりと茨のツルへ落ちていく。
「松永君……いいえ、ユリエル様。迎えに来ましたよ。
一緒に帰りましょう……私たちの家に」
そっと重ねた唇。
その瞬間——まばゆい閃光が、私たちを包み込んだ。
『渡良瀬菜穂……今はソフィアね。ありがとう』
女神リリアの声が、遠くから響いた気がした。
茨のツルが光に焼かれたように、灰となって崩れていく。
すると、ぐらりとユリエル様の身体が私に倒れ込んできた。
「え? お、重いっ!
今のか弱い私じゃ……支えられない。無理!」
支えきれず、そのまま二人で毛足の長い絨毯へと転がり込む。
気がつくと——
私の手の傷も、ユリエル様の全身の傷も、跡形もなく消えていた。
「いやいや……待って。今のこの状況、どうしよう……?」
ユリエル様を抱えたまま、押し倒されたような体勢の私。
しかも……下半身が、はっきりと当たっている。
(いやいやいや……待って、待って!
命の危機で本能がどうとか聞いたことはあるけど!
今はそういう状況じゃないし……!
ダメ、ソフィア。変な妄想は禁止!!)
必死に頭を整理している最中——
もふもふの絨毯が消え、私たちは真っ逆さまに落下した。
「きゃああああああ!?
ユリエル様!! 起きてー!
このままじゃ死ぬ! 二人とも死んじゃうからぁぁぁ!!」
必死に叫んだが、ユリエル様は微動だにしない。
「こらぁ!! 女神リリア! なんとかしろぉぉ!!
落ちて死んだら、末代まで恨むからなーーっ!!」
ヤケクソで叫んだその瞬間、再び景色が一変した。
スプリングの上に、ゆっくりと落ちる感覚。
無事に着地してホッとし、辺りを見回す。
気付けば、アルシェイン家の自分の部屋のベッドの上だった。
私はユリエル様の体重で押し潰されながらも、生還していた。
「……助かった……」
伸し掛かる体温に、思わず大きく息を吐く。
「さて……この状況、どうしようかな……?」
今のか細い身体では、筋肉質なユリエル様をどけられるはずもない。
「ユリエル様が目覚めるまで、このまま……かな」
そう呟いた、その時。
「……ん」
小さく呻く声。
「ユリエル様?」
声を掛けると、ゆっくりと瞼が開いた。
「……渡良瀬さん?
なんで……ここに……?」
どうやら混乱しているらしい。
「大丈夫? 痛いところはない?」
頬に触れて尋ねると——
「……夢……?」
ぽつりと呟き、頬に触れた私の手を掴むと、手のひらにふわりとキスを落とした。
(ひゃあぁぁぁぁぁ!!
イケメンのキス顔……破壊力、半端ない!!
通った鼻筋……え? 睫毛、長っ……!)
思わず芸術作品を見るように観察してしまう。
ゆっくりと開いた瞳と目が合い、
胸がドクンと跳ねた。
私はユリエル様の頬に触れながら、溢れてくる涙を止められなかった。
私より五つも年下で、イケメンで、優しくて。
自分なんか彼に釣り合わないと勝手に諦めて、別の人と婚約した私を……
どうして、そこまで想ってくれるの?
涙がぽたり、ぽたりと茨のツルへ落ちていく。
「松永君……いいえ、ユリエル様。迎えに来ましたよ。
一緒に帰りましょう……私たちの家に」
そっと重ねた唇。
その瞬間——まばゆい閃光が、私たちを包み込んだ。
『渡良瀬菜穂……今はソフィアね。ありがとう』
女神リリアの声が、遠くから響いた気がした。
茨のツルが光に焼かれたように、灰となって崩れていく。
すると、ぐらりとユリエル様の身体が私に倒れ込んできた。
「え? お、重いっ!
今のか弱い私じゃ……支えられない。無理!」
支えきれず、そのまま二人で毛足の長い絨毯へと転がり込む。
気がつくと——
私の手の傷も、ユリエル様の全身の傷も、跡形もなく消えていた。
「いやいや……待って。今のこの状況、どうしよう……?」
ユリエル様を抱えたまま、押し倒されたような体勢の私。
しかも……下半身が、はっきりと当たっている。
(いやいやいや……待って、待って!
命の危機で本能がどうとか聞いたことはあるけど!
今はそういう状況じゃないし……!
ダメ、ソフィア。変な妄想は禁止!!)
必死に頭を整理している最中——
もふもふの絨毯が消え、私たちは真っ逆さまに落下した。
「きゃああああああ!?
ユリエル様!! 起きてー!
このままじゃ死ぬ! 二人とも死んじゃうからぁぁぁ!!」
必死に叫んだが、ユリエル様は微動だにしない。
「こらぁ!! 女神リリア! なんとかしろぉぉ!!
落ちて死んだら、末代まで恨むからなーーっ!!」
ヤケクソで叫んだその瞬間、再び景色が一変した。
スプリングの上に、ゆっくりと落ちる感覚。
無事に着地してホッとし、辺りを見回す。
気付けば、アルシェイン家の自分の部屋のベッドの上だった。
私はユリエル様の体重で押し潰されながらも、生還していた。
「……助かった……」
伸し掛かる体温に、思わず大きく息を吐く。
「さて……この状況、どうしようかな……?」
今のか細い身体では、筋肉質なユリエル様をどけられるはずもない。
「ユリエル様が目覚めるまで、このまま……かな」
そう呟いた、その時。
「……ん」
小さく呻く声。
「ユリエル様?」
声を掛けると、ゆっくりと瞼が開いた。
「……渡良瀬さん?
なんで……ここに……?」
どうやら混乱しているらしい。
「大丈夫? 痛いところはない?」
頬に触れて尋ねると——
「……夢……?」
ぽつりと呟き、頬に触れた私の手を掴むと、手のひらにふわりとキスを落とした。
(ひゃあぁぁぁぁぁ!!
イケメンのキス顔……破壊力、半端ない!!
通った鼻筋……え? 睫毛、長っ……!)
思わず芸術作品を見るように観察してしまう。
ゆっくりと開いた瞳と目が合い、
胸がドクンと跳ねた。
8
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結保証】
星森 永羽
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件
水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。
「君を愛するつもりはない」
結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。
出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。
愛を期待されないのなら、失望させることもない。
契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。
ただ「役に立ちたい」という一心だった。
――その瞬間。
冷酷騎士の情緒が崩壊した。
「君は、自分の価値を分かっていない」
開始一分で愛さない宣言は撤回。
無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
【完結】この胸に抱えたものは
Mimi
恋愛
『この胸が痛むのは』の登場人物達、それぞれの物語。
時系列は前後します
元話の『この胸が痛むのは』を未読の方には、ネタバレになります。
申し訳ありません🙇♀️
どうぞよろしくお願い致します。
【完結】溺愛婚約者の裏の顔 ~そろそろ婚約破棄してくれませんか~
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
(なろうの異世界恋愛ジャンルで日刊7位頂きました)
ニナには、幼い頃からの婚約者がいる。
3歳年下のティーノ様だ。
本人に「お前が行き遅れになった頃に終わりだ」と宣言されるような、典型的な「婚約破棄前提の格差婚約」だ。
行き遅れになる前に何とか婚約破棄できないかと頑張ってはみるが、うまくいかず、最近ではもうそれもいいか、と半ばあきらめている。
なぜなら、現在16歳のティーノ様は、匂いたつような色香と初々しさとを併せ持つ、美青年へと成長してしまったのだ。おまけに人前では、誰もがうらやむような溺愛ぶりだ。それが偽物だったとしても、こんな風に夢を見させてもらえる体験なんて、そうそうできやしない。
もちろん人前でだけで、裏ではひどいものだけど。
そんな中、第三王女殿下が、ティーノ様をお気に召したらしいという噂が飛び込んできて、あきらめかけていた婚約破棄がかなうかもしれないと、ニナは行動を起こすことにするのだが――。
全7話の短編です 完結確約です。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
私と義弟の安全は確保出来たので、ゆっくり恋人を探そうと思います
織り子
恋愛
18歳で処刑された大公家の令嬢、セレノア・グレイス。
目を覚ますと――あの日の6年前に戻っていた。
まだ無邪気な弟ルシアン、笑う両親。
再び訪れる“反逆の運命”を知るのは、彼女だけ。
――大公家に産まれた時点で、自由な恋愛は諦めていた。だが、本当は他の令嬢達の話を聞くたびにうらやましかった。人生1度きり。もう少し花のある人生を送りたかった。一度でいいから、恋愛をしてみたい。
限られた6年の中で、セレノアは動き出す。
愛する家族を守るため、未来を変えるために。
そして本当の願い(恋愛)を叶えるために。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる