水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

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第三章

協調性は大事です。

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「居たっ! 冬夜さん!」
 幻影を見つめていた冬夜に幸太が叫んだ。
すると、冬夜の目の前に居た幻影が消えてしまった。
「もう! 勝手に行動しないで下さいって約束しましたよね!」
怒った顔をして、幸太が足早に近づいてきた。
「冬夜さん、協調性って言葉を知っていますか!」
幸太は文句を言って冬夜の顔を見ると、怒った顔から心配顔に変わる。
「何かありましたか?」
冬夜の顔を覗き込んで聞く幸太に
「あぁ? いや、何もない」
冬夜は夢から覚めたように呟く。
「あの……、この際はっきり言わせて頂きますけど」
幸太は冬夜を指差すと
「僕は別に冬夜さんが死のうが生きようが、知ったことじゃないんですよ! でもね、遥先輩が悲しむのが分かってるから、仕方無く冬夜さんを気に掛けてるんです!
だから、余計な面倒を掛けないで下さい」
そう叫んだ。
あまりの剣幕に冬夜は一瞬たじろぐと
「だったら放っておけよ。
どうせ遥だって最初は悲しむだろうけど、すぐに忘れるさ。
お前だって、俺がいないほうが楽だろ?」
と、大して深い意味もなく呟いた。
すると幸太は激怒した顔で冬夜の胸ぐらを掴み
「ふざけるな!」
幸太の怒鳴り声が、森に響いた。
「冗談でも、そんなこと言うな!
ここに来る前にも言っただろ、三人で戻るって!
それを破るのは、絶対に許さない!」
いつになく真剣な幸太に、冬夜は溜息をついてから
「悪かった……」
と、ポツリと呟いた。
すると幸太は胸ぐらを掴んでいた手を放し
「次、同じ事を言ったら絶対に許しませんからね」
そう言って歩き出した。
「それに遥先輩は……冬夜さんがいても僕に振り向かせますから!」
冬夜に背を向けて呟いた幸太に
「言うじゃねぇか」
そう呟き、冬夜は幸太を追いかけた。
そして幸太の肩を抱くと
「なぁ、どうやって振り向かせるつもりなんだよ。
あそこまで言いきったからには、何か策があるんだよなぁ?」
と言って揶揄う。
「なぁ!」
自分で言っておきながら、真っ赤な顔をしていた幸太が益々真っ赤になる。
「あれ? 格好良く言っておきながら、何照れてんの?」
「冬夜さん、うるさいですよ!」
「あれあれ? さっき、あんだけ啖呵切ったのにぃ~?」
うりうりと頬を突いて揶揄う冬夜に
「本当に、冬夜さんって最低です!」
と、本気で怒ってしまった。
(やべぇ……やり過ぎた)
冬夜は心の中で呟いて、つい、構いたくなってしまう幸太の背中を見ていた。
何処となく、以前より頼もしく感じる背中を見つめていると
『冬夜……』
どこからともなく、自分を呼ぶ声が聞こえた。
視線を巡らせても人影は見えない。
気のせいかと一歩踏み出すと
『冬夜……こっちへおいで……』
まるで見えない糸に操られるように、冬夜は声のする方へと歩き出す。
それは湖へと戻る道。
なんとなく、朧げな記憶が蘇る。
あの湖の湖畔の先に、大きな洞窟がある。
その先に……声の主が居る。
フラフラと歩いていると
「冬夜さん!」
と、自分を呼ぶ幸太の声に我に返った。
腕を掴まれ
「全く! そうやってフラフラするなら、これからは冬夜さんには紐を着けなくちゃいけませんね!」
そう言いながら幸太が屋敷へと歩き出す。
冬夜が口を開こうとすると
「分かってます。
今は、完全に操られてていたんですよね」
冬夜にしか聞こえないくらいの小さな声で幸太が呟く。
「ここは言わば、敵地です。相手の手中に居るも同然なので、僕から離れないで下さい。なんでか分かりませんが、僕だけは鬼の術が効かないみたいなので……」
冬夜の腕を掴み、真っ直ぐ前を見つめながら幸太はそう話を続けた。
「どういう意味だ?」
幸太の言葉に冬夜が聞くと
「詳しい話は、屋敷に戻ってからです」
そう言うと、幸太は前を向いたまま、静かに歩き続けた。
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