水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

文字の大きさ
26 / 111
第三章

冬夜の生い立ち②

しおりを挟む
 冬夜は引き取られてから、他の杉の子園のみんなの話を彰人から聞いた。
彰人の話では、杉の子園で一緒だった他の子達は、冬夜以外は幸せな生活をしていたらしい。
新しい家族に引き取られたり、本当の親が迎えに来たり。
どうやら彰人は、全員の無事を確認してから仕事に戻るつもりだったらしい。
冬夜を養子として引き取った彰人は、戦場カメラマンだった。
世界中を駆け回り、日本にはあまり居ない人だった。それで、杉の子園のことを知るのが遅くなったという。

 しかし、冬夜を引き取ってからというもの、世界を離れ、日本中をカメラ片手に旅して回った。
義務教育はきちんと受けさせてくれて、転校は多かったが彰人との生活は楽しいものだった。
彰人は様々な風景や、美しい景色。
花、空、全てを冬夜に見せてくれた。
「冬夜。カメラはこの景色を、事情があって見られない人に届ける事ができるんだ」
そう言って、彰人が目に見る世界を教えてくれた。
それは二年間という短い期間だったが、冬夜にとって貴重な体験だった。
冬夜が中学生に上がる頃、冬夜は自分のために仕事を抑えるのはやめて欲しいとお願いした。
彰人にとって、戦場で現場の状況をカメラで伝える事が命を懸けてやりたいことだと分かっていたからだった。
その代わり、「自分にもカメラを教えて欲しい」そう伝えて、冬夜は彰人のお下がりのカメラをもらった。
戦場へ行くまでの間、彰人から写真の撮り方を教わり、冬夜の夢は彰人と世界中を回る事になっていた。
家事全般が苦手で、冬夜が居ないと何も出来ない人だった。
それでも、冬夜に溢れんばかりの愛情を与えてくれた。
血の繋がりもないのに、冬夜にとっていつしか本当の父親のように思えた。
彰人はどこに居ても必ず無事の連絡をくれて、冬夜は連絡が入る度に胸を撫で下ろしていた。
 そんな生活が四年続き、冬夜が高校二年の夏だった。
毎年、年末には必ず帰宅する彰人を待っていたあの日。
彰人は交通事故で帰らぬ人となってしまったのだ。
年に一度しか戻らない癖に、帰ると鬱陶しいくらいに冬夜に構ってくる彰人。
変わり果てた姿に、冬夜は絶望した。
「オヤジ……。何で戦場じゃなくて、交通事故で死んでるんだよ」

泣き崩れる冬夜に、返事は返って来なかった。

その日を境に、冬夜は一つの思いに囚われるようになる。


俺と深く関わった人は死んでしまう

そう思うようになっていた。
その後、彰人が冬夜の為に生活出来るだけの貯金や、学資保険を掛けていたのを知る。
後見人だと言う弁護士から、必ず高校は出る事。
希望があれば大学に行けると言われたが、冬夜は彰人の意思を継いでカメラの学校へと進学を進めた。
ただ、彰人から遺言が遺されていた。
彰人は戦場カメラマンという立場から、いつ死んでも仕方ないと覚悟を決めていたらしい。
そこで、親友だったその弁護士に冬夜の未来を託したのだと聞いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

煙草屋さんと小説家

男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。 商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。 ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。 そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。 小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

処理中です...