77 / 111
第四章
嵌められた罠②
しおりを挟む
『バシャッ』
水を掛けられて、三郎太は目を覚ました。
両手は拘束され、土間に寝かされている。視線の先に、二度と顔を見たくない相手があった。
前髪を掴まれ、顔を持ち上げられる。
「久しいな、三郎太」
あの日からずっと……殺してやりたいほど憎い人物が、ここにいる。
「頼久の側仕えをしてりゃあ、こんな目に遭わなかったのに。馬鹿なヤツだな」
頼政は吐き捨てると、三郎太の腹を蹴り上げた。
「ゴボッ……ゲホッ……」
咳き込み、倒れる三郎太の頭を踏みつけながら頼政は問いかける。
「で? 友頼はどこだ」
三郎太は咳を震わせて、答えた。
「知り……ませ……ん」
頼政は爪先で三郎太の顔を押し、唾を吐きつける。
「はぁ? 知らないわけないだろう。お前らがいつも、三人分の食料を調達しているのは知っているんだよ」
耳に突き刺さるような言葉。
「この村はな……罪人を生かしてやる代わりに、お前らが現れたら油断させて俺に報告するようにしてあるんだよ」
ひと言ひと言が、石を突き刺すように重かった。
ギッと頼政を睨み上げる三郎太へ、頼政は髪を掴んで持ち上げた。
「その生意気な目が気に食わなかったんだよ。なぁ、くり抜いてやろうか?」
小さな笑みを浮かべながら言う頼政。
三郎太は静かに吐き捨てた。
「そんなに、若様が怖いですか?」
頼政の顔が歪む。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」
答えれば答えるほど、拳が飛んだ。無抵抗の身体に蹴りが降り注ぐ。
「殿! おやめ下さい! これ以上は、死んでしまいます!」
よしの声が震えた。頼政は舌打ちをして刀を鞘に戻す。
「お前は黙って見ていろ。これは“罰”だ」
視界は霞み、痛みと怒りが熱を帯びていく。
助けの声が伸びる――が、三郎太の目には、よしの着物が見えたままだった。罠に嵌めた女と同じ着物。
「なんだよ。罠に嵌めたくせに、助けるのか? 殺せよ。俺は、絶対に口を割らない!」
三郎太が叫ぶと、頼政は抜刀して振り上げた。
だがその刹那、よしが前に立ちはだかる。
「今、彼を殺したら、殿が探している二人は逃げてしまいます!」
よしの声が、何処か落ち着いていた。頼政は一瞬戸惑い、静かに刀を鞘に納めた。
「お前は大事な人質だからな……」
頼政は背を向け、歩き去る。三郎太は唇を噛み締め、言葉を振り絞る。
「何でだよ! 若様は何も望んでいないのに! なんでそんなに、若様の命を狙うんだよ!」
その問いかけに、頼政はゆっくりと振り返り──
不敵に笑った。
水を掛けられて、三郎太は目を覚ました。
両手は拘束され、土間に寝かされている。視線の先に、二度と顔を見たくない相手があった。
前髪を掴まれ、顔を持ち上げられる。
「久しいな、三郎太」
あの日からずっと……殺してやりたいほど憎い人物が、ここにいる。
「頼久の側仕えをしてりゃあ、こんな目に遭わなかったのに。馬鹿なヤツだな」
頼政は吐き捨てると、三郎太の腹を蹴り上げた。
「ゴボッ……ゲホッ……」
咳き込み、倒れる三郎太の頭を踏みつけながら頼政は問いかける。
「で? 友頼はどこだ」
三郎太は咳を震わせて、答えた。
「知り……ませ……ん」
頼政は爪先で三郎太の顔を押し、唾を吐きつける。
「はぁ? 知らないわけないだろう。お前らがいつも、三人分の食料を調達しているのは知っているんだよ」
耳に突き刺さるような言葉。
「この村はな……罪人を生かしてやる代わりに、お前らが現れたら油断させて俺に報告するようにしてあるんだよ」
ひと言ひと言が、石を突き刺すように重かった。
ギッと頼政を睨み上げる三郎太へ、頼政は髪を掴んで持ち上げた。
「その生意気な目が気に食わなかったんだよ。なぁ、くり抜いてやろうか?」
小さな笑みを浮かべながら言う頼政。
三郎太は静かに吐き捨てた。
「そんなに、若様が怖いですか?」
頼政の顔が歪む。
「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」
答えれば答えるほど、拳が飛んだ。無抵抗の身体に蹴りが降り注ぐ。
「殿! おやめ下さい! これ以上は、死んでしまいます!」
よしの声が震えた。頼政は舌打ちをして刀を鞘に戻す。
「お前は黙って見ていろ。これは“罰”だ」
視界は霞み、痛みと怒りが熱を帯びていく。
助けの声が伸びる――が、三郎太の目には、よしの着物が見えたままだった。罠に嵌めた女と同じ着物。
「なんだよ。罠に嵌めたくせに、助けるのか? 殺せよ。俺は、絶対に口を割らない!」
三郎太が叫ぶと、頼政は抜刀して振り上げた。
だがその刹那、よしが前に立ちはだかる。
「今、彼を殺したら、殿が探している二人は逃げてしまいます!」
よしの声が、何処か落ち着いていた。頼政は一瞬戸惑い、静かに刀を鞘に納めた。
「お前は大事な人質だからな……」
頼政は背を向け、歩き去る。三郎太は唇を噛み締め、言葉を振り絞る。
「何でだよ! 若様は何も望んでいないのに! なんでそんなに、若様の命を狙うんだよ!」
その問いかけに、頼政はゆっくりと振り返り──
不敵に笑った。
0
あなたにおすすめの小説
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
煙草屋さんと小説家
男鹿七海
キャラ文芸
※プラトニックな関係のBL要素を含む日常ものです。
商店街の片隅にある小さな煙草屋を営む霧弥。日々の暮らしは静かで穏やかだが、幼馴染であり売れっ子作家の龍二が店を訪れるたびに、心の奥はざわめく。幼馴染としてでも、客としてでもない――その存在は、言葉にできないほど特別だ。
ある日、龍二の周囲に仕事仲間の女性が現れ、霧弥は初めて嫉妬を自覚する。自分の感情を否定しようとしても、触れた手の温もりや視線の距離が、心を正直にさせる。日常の中で少しずつ近づく二人の距離は、言葉ではなく、ささやかな仕草や沈黙に宿る。
そして夜――霧弥の小さな煙草屋で、龍二は初めて自分の想いを口にし、霧弥は返事として告白する。互いの手の温もりと目の奥の真剣さが、これまで言葉にできなかった気持ちを伝える瞬間。静かな日常の向こうに、確かな愛が芽吹く。
小さな煙草屋に灯る、柔らかく温かな恋の物語。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる