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第四章
翠の嘆き
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「ぁぁぁぁぁぁ────!」
それは、喉を裂くような翠の慟哭だった。
その瞬間、風がナイフのように周囲を切り裂いていく。
逃げ出そうとした友頼を刺した村長が、最初に血に染まった。
その光景を見た頼政の臣下たちは、恐怖に駆られ、隙を突いて頼政を連れ出した。
翠に執着する頼政は暴れたが、無理やり引きずられて屋敷を後にした。
「許さぬ……。友頼を奪った人間を、絶対に許さぬ!」
友頼を抱き締めた翠の髪が、バチバチと逆立ち、金色に染まっていく。
瞳はゆっくりと黒から翠色へと変わった。
翠は友頼を抱き締めたまま、愛おしそうに唇にキスを落とす。
「友頼……。共に敵討ちをしようぞ……」
そう言って頬ずりをした翠の笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも美しく、そして──冷たかった。
頬を伝う涙には、友頼の血が混じり、朱に染まっている。
三郎太はその静かな狂気に、声を失った。
怖かった。
声をかけたら、翠が完全に壊れてしまいそうだった。
息を殺して見守る三郎太の前で、翠は友頼の首筋に舌を這わせ、そして──牙を突き立てた。
その瞬間、辺りは闇に包まれ、遠雷が轟いた。
その光景を前に、人々は息を呑んだ。
誰もが悟った──
なにか、取り返しのつかないことが起ころうとしている。
その瞬間───
閃光が視界を焼き、次の瞬間、落雷が翠の身体を貫いた。
地が唸り、建物が軋む。
地上には、無数の光の火花が弾けるように散った。
動けぬまま、三郎太はただその光景を見つめていた。
自分が感電しなかったのは──きっと翠が結界を張って守ってくれたからだ。
翠は友頼の亡骸を抱き上げると、低く呟いた。
「誰も触らせぬ……。友頼は、私が守る!」
そう言い残し、翠は屋敷の外へと歩き出した。
「翠!」
三郎太が必死に声を絞り出すと、翠はゆっくりと振り返った。
「大丈夫だ。友頼を……誰にも触れさせない場所で眠らせてやりたいだけだ」
その微笑みは、どこか儚く、痛々しかった。
三郎太が身動ぐと
「あぁ、そうか。すぐに怪我を治してやる」
翠はそう言って小さく笑うと、友頼を畳の上に横たえた。
そして三郎太に向けて指を鳴らすと、白い花びらが舞い上がり、つむじ風のように三郎太を包み込んだ。
その光景はまるで、さくらの花吹雪の中に居るようだった。
美しい光景に見とれていると、花びらは白く光を帯び、やがて白金色に輝いて消えた。
すると身体中の痛みが消え、顔の腫れも、身体の傷も跡形もなく癒えていたのだ。
驚く三郎太に
「着いて来い。一緒に、友頼を弔ってくれないか?」
そう言って静かに歩き出した。
三郎太は頷くと、翠の後を追った。
二人に会話は無かった。
翠が選んだのは、友頼の生家からほど近い湖だった。
翠がそっと友頼の亡骸を湖に沈めると、友頼の身体が黄金色の光に包まれた。
そして透明な湖の中へと、ゆっくりと身体が沈んでいく。
友頼の身体から流れている血が、赤い糸のように漂い、湖畔の桜が──薄紅から真紅へと染まっていった。
サワサワサワ────
風が桜の枝を揺らした。
まるで血の涙を流し、友頼の死を嘆いているかのように──。
それは、喉を裂くような翠の慟哭だった。
その瞬間、風がナイフのように周囲を切り裂いていく。
逃げ出そうとした友頼を刺した村長が、最初に血に染まった。
その光景を見た頼政の臣下たちは、恐怖に駆られ、隙を突いて頼政を連れ出した。
翠に執着する頼政は暴れたが、無理やり引きずられて屋敷を後にした。
「許さぬ……。友頼を奪った人間を、絶対に許さぬ!」
友頼を抱き締めた翠の髪が、バチバチと逆立ち、金色に染まっていく。
瞳はゆっくりと黒から翠色へと変わった。
翠は友頼を抱き締めたまま、愛おしそうに唇にキスを落とす。
「友頼……。共に敵討ちをしようぞ……」
そう言って頬ずりをした翠の笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも美しく、そして──冷たかった。
頬を伝う涙には、友頼の血が混じり、朱に染まっている。
三郎太はその静かな狂気に、声を失った。
怖かった。
声をかけたら、翠が完全に壊れてしまいそうだった。
息を殺して見守る三郎太の前で、翠は友頼の首筋に舌を這わせ、そして──牙を突き立てた。
その瞬間、辺りは闇に包まれ、遠雷が轟いた。
その光景を前に、人々は息を呑んだ。
誰もが悟った──
なにか、取り返しのつかないことが起ころうとしている。
その瞬間───
閃光が視界を焼き、次の瞬間、落雷が翠の身体を貫いた。
地が唸り、建物が軋む。
地上には、無数の光の火花が弾けるように散った。
動けぬまま、三郎太はただその光景を見つめていた。
自分が感電しなかったのは──きっと翠が結界を張って守ってくれたからだ。
翠は友頼の亡骸を抱き上げると、低く呟いた。
「誰も触らせぬ……。友頼は、私が守る!」
そう言い残し、翠は屋敷の外へと歩き出した。
「翠!」
三郎太が必死に声を絞り出すと、翠はゆっくりと振り返った。
「大丈夫だ。友頼を……誰にも触れさせない場所で眠らせてやりたいだけだ」
その微笑みは、どこか儚く、痛々しかった。
三郎太が身動ぐと
「あぁ、そうか。すぐに怪我を治してやる」
翠はそう言って小さく笑うと、友頼を畳の上に横たえた。
そして三郎太に向けて指を鳴らすと、白い花びらが舞い上がり、つむじ風のように三郎太を包み込んだ。
その光景はまるで、さくらの花吹雪の中に居るようだった。
美しい光景に見とれていると、花びらは白く光を帯び、やがて白金色に輝いて消えた。
すると身体中の痛みが消え、顔の腫れも、身体の傷も跡形もなく癒えていたのだ。
驚く三郎太に
「着いて来い。一緒に、友頼を弔ってくれないか?」
そう言って静かに歩き出した。
三郎太は頷くと、翠の後を追った。
二人に会話は無かった。
翠が選んだのは、友頼の生家からほど近い湖だった。
翠がそっと友頼の亡骸を湖に沈めると、友頼の身体が黄金色の光に包まれた。
そして透明な湖の中へと、ゆっくりと身体が沈んでいく。
友頼の身体から流れている血が、赤い糸のように漂い、湖畔の桜が──薄紅から真紅へと染まっていった。
サワサワサワ────
風が桜の枝を揺らした。
まるで血の涙を流し、友頼の死を嘆いているかのように──。
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