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第四章
悪鬼──翠誕生
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屋敷は静まり返っていた。
三郎太は馬を馬小屋に繋ぎ、急いで屋敷の中へと走り込んだ。
──走り込み、息を飲む。
まず、足にピシャリと濡れた感触が触れた。
足元を見ると、床が一面、血の海と化していた。
遅かったか────!
三郎太は草履も脱がず、翠を探した。
恐らく、目的は頼政だろう。
頼政の部屋に向かい、目に飛び込んで来たのは……頼久が頼政を庇い、翠の前に立ちはだかる姿だった。
翠は刀を振り上げ、まさに今、二人に切りかかろうとしていた。
「止めろぉぉぉ!」
三郎太は、声の限り叫んで翠の腰に抱き着いた。
「離せ、三郎太! 邪魔するなら、お前も叩き切る!」
翠の叫びに
「翠、落ち着け! まず、俺の話を聞いてくれ!」
必死に翠を止めた。
「話し? そんなもの、頼政を切ってからでも構わねだろうが!」
狂気に満ちた顔をした翠に
「それでは遅いっ! 翠……頼む……。
話を聞いてくれっ!」
三郎太が必死に訴えた時だった。
「頼久!」
晶が血相を変えて飛び込んで来たのだ。
頼政の意識が晶に向かったその時
「頼久様は、友頼様と翡翠様のお子ですっ!」
翠にしか聞こえない声で囁いた。
すると翠の動きがピタリと止まり
「…………まことか?」
と呟いた。
その時、空気が止まったようだった。
三郎太を見下ろす翠の目に、光が宿った。
「あなたなら……分かる筈です」
声を殺して呟くと、翠は晶が庇うように抱き締める中、必死に父を守ろうと、頼政の前に立ち、両手を広げる頼久を見た。
「…………っ、ふははは」
翠は手から刀を落とし、顔を手で覆うと、狂ったように笑い出した。
その狂気に、晶が顔を強ばらせて頼久を強く抱き締めた。
やがて、笑い声が静かに途絶え
「興が覚めた……」
と呟いた。
少しの静寂の後、翠は頼久の目線の高さにしゃがみ
「坊主、名はなんと?」
と尋ねた。
頼久が真っ直ぐに翠を見て
「藤原頼久じゃ!」
そう答えると、翠はふと優しい瞳で微笑んだ。
「頼久か……。父君に似て、良い目をしておる」
優しく頭を撫でようと手を出したが、幾人もの命を奪ったその手は、もはや人の手ではなかった。
手を引っ込めようとすると
「撫でて良いぞ」
曇りの無い瞳が呟いた。
「だが……」
戸惑う翠に
「爪が心配か? なら、これならどうじゃ?」
頼久が、そっと両手で翠の差し出した手を握り締めた。
その小さな手は……暖かった。
間違いない……
この子は、友頼の血を継いでいる
記憶は無いが……友頼との子だ……
翠の目から、涙が溢れ出した。
「頼久」
「はい」
「そなたが良き主君になるなら、俺はお前を守護しよう」
翠の言葉に、晶が安堵の息を吐いた。
「約束する。
私は良き主君になる」
「そうか……」
頼久を愛おしそうに見つめる翠の姿に、三郎太の頬を涙が伝った。
「じゃが、一つお願いがある」
「なんだ?」
「私はまだ幼い。父上のように、道を間違うかもしれぬ。だから、三郎太を返してくれぬか?」
頼久の言葉に、翠は何度も頷いた。
「分かった。三郎太は、そなたに返そう」
「まことか!」
「あぁ……。だから、良き主君になるのだぞ」
優しく話す翠が、三郎太は何故か母親のように見えた。
三郎太は馬を馬小屋に繋ぎ、急いで屋敷の中へと走り込んだ。
──走り込み、息を飲む。
まず、足にピシャリと濡れた感触が触れた。
足元を見ると、床が一面、血の海と化していた。
遅かったか────!
三郎太は草履も脱がず、翠を探した。
恐らく、目的は頼政だろう。
頼政の部屋に向かい、目に飛び込んで来たのは……頼久が頼政を庇い、翠の前に立ちはだかる姿だった。
翠は刀を振り上げ、まさに今、二人に切りかかろうとしていた。
「止めろぉぉぉ!」
三郎太は、声の限り叫んで翠の腰に抱き着いた。
「離せ、三郎太! 邪魔するなら、お前も叩き切る!」
翠の叫びに
「翠、落ち着け! まず、俺の話を聞いてくれ!」
必死に翠を止めた。
「話し? そんなもの、頼政を切ってからでも構わねだろうが!」
狂気に満ちた顔をした翠に
「それでは遅いっ! 翠……頼む……。
話を聞いてくれっ!」
三郎太が必死に訴えた時だった。
「頼久!」
晶が血相を変えて飛び込んで来たのだ。
頼政の意識が晶に向かったその時
「頼久様は、友頼様と翡翠様のお子ですっ!」
翠にしか聞こえない声で囁いた。
すると翠の動きがピタリと止まり
「…………まことか?」
と呟いた。
その時、空気が止まったようだった。
三郎太を見下ろす翠の目に、光が宿った。
「あなたなら……分かる筈です」
声を殺して呟くと、翠は晶が庇うように抱き締める中、必死に父を守ろうと、頼政の前に立ち、両手を広げる頼久を見た。
「…………っ、ふははは」
翠は手から刀を落とし、顔を手で覆うと、狂ったように笑い出した。
その狂気に、晶が顔を強ばらせて頼久を強く抱き締めた。
やがて、笑い声が静かに途絶え
「興が覚めた……」
と呟いた。
少しの静寂の後、翠は頼久の目線の高さにしゃがみ
「坊主、名はなんと?」
と尋ねた。
頼久が真っ直ぐに翠を見て
「藤原頼久じゃ!」
そう答えると、翠はふと優しい瞳で微笑んだ。
「頼久か……。父君に似て、良い目をしておる」
優しく頭を撫でようと手を出したが、幾人もの命を奪ったその手は、もはや人の手ではなかった。
手を引っ込めようとすると
「撫でて良いぞ」
曇りの無い瞳が呟いた。
「だが……」
戸惑う翠に
「爪が心配か? なら、これならどうじゃ?」
頼久が、そっと両手で翠の差し出した手を握り締めた。
その小さな手は……暖かった。
間違いない……
この子は、友頼の血を継いでいる
記憶は無いが……友頼との子だ……
翠の目から、涙が溢れ出した。
「頼久」
「はい」
「そなたが良き主君になるなら、俺はお前を守護しよう」
翠の言葉に、晶が安堵の息を吐いた。
「約束する。
私は良き主君になる」
「そうか……」
頼久を愛おしそうに見つめる翠の姿に、三郎太の頬を涙が伝った。
「じゃが、一つお願いがある」
「なんだ?」
「私はまだ幼い。父上のように、道を間違うかもしれぬ。だから、三郎太を返してくれぬか?」
頼久の言葉に、翠は何度も頷いた。
「分かった。三郎太は、そなたに返そう」
「まことか!」
「あぁ……。だから、良き主君になるのだぞ」
優しく話す翠が、三郎太は何故か母親のように見えた。
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