水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

文字の大きさ
90 / 119
第五章

優しさが黒く染まるとき

しおりを挟む
「なぁ……最近の冬夜の様子、変じゃないか?」
 ポツリと遥が呟いた。
幸太はちょうど薪割りをしていて、遥の声に手を止めた。
「変……ですか?」
「あぁ……どう、とは言えないけど」
そう言って、読み漁っている文献を読む手を止めた。
『気のせいかな……』
と笑う遥の表情が曇るたび、幸太の胸がチリッと焼けるような……焼印を押し付けられたような焦げた痛みが走る。
(止めろ! 僕にこんな感情は必要ない!)
幸太はそう呟き、流れる汗を手ぬぐいで拭った。

 確かに冬夜は少し変わった。
以前のどこか人を寄せ付けない空気はなくなり、穏やかに笑う事が増えた。
──それがいつからか、は分からないが……。
畑仕事はしているし、薪割りも当番を欠かしたことはない。
ただ……その後、どこかに行ってしまうのだ。
最初こそ
「勝手な行動をするな」
と注意したが、基本的に野良猫のような人だから、こっちの言うことは全く聞かない。
だったら、最初から自由な時間を与えて自由にしてやる事が必要だと考えたのだ。

時々幸太は、冬夜が家に居着いて、自由に出入りする猫のようだと思った。
一緒に暮らしていると、案外面倒見が良くて兄貴肌なのも分かって来た。
イケメンでこの性格は、正直、ずるいと幸太は思っていた。
 そして遥は、冬夜と暮らしていて幸せそうだった。
どこに出かけても、必ず『ただいま』と言って帰宅する冬夜を、嬉々として出迎え『おかえり』と返す遥を見ていて、外に女を作っても、必ず帰宅して来る夫を待つ本妻に見えてしまう。
その度、幸太の胸は痛んだ。
でも、遥の幸せを一番に考えると誓ったから……幸太は見て見ないフリをするしかなかった。
 
 いつだったか……、縁側で猫と戯れたまま寝ている冬夜に、そっと掛け布団を掛けている遥を見掛けた。
その顔は幸せそうで、そっと冬夜の髪に触れて遥の顔が冬夜に近付くのを見て、慌てて踵を返した。
その時、うっかり『パキッ』と小枝を踏む音を立ててしまった。
すると、背後でパタパタと逃げるように冬夜から離れる足音だけがやけに生々しく聞こえた。
その瞬間、胸の奥深い場所が軋んだ音を立てた。

……どうして僕じゃダメなの?
……どうして冬夜さんなの?

『どうして』
という感情が渦巻き、息が苦しい。

嫉妬という感情は、黒いマグマのように自分を飲み込み、身動きが取れなくなりそうだ……と幸太は思っていた。

『大丈夫』
その時、どこからともなく声が聞こえた。
『きみは負けない』
その声は、挫けそうな幸太の心に光を差した。
ふわりと風が頬を撫で、気付くとあんなにもどす黒い感情に飲まれそうだった気持ちが、救われたような気持ちになった。

──ただ、この時の幸太は気付いていなかった。
その感情は、あくまでも一時の救いであったという事を……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完】ベッドの隣は、昨日と違う人

月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、 隣に恋人じゃない男がいる── そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。 こんな朝、何回目なんだろう。 瞬間でも優しくされると、 「大切にされてる」と勘違いしてしまう。 都合のいい関係だとわかっていても、 期待されると断れない。 これは、流されてしまう自分と、 ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。 📖全年齢版恋愛小説です。 しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。 📖2026.2.25完結 本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。 気になった方はぜひそちらもどうぞ!

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...