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第五章
動き出した闇
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その日、遥は帰って来なかった。
冬夜が帰宅すると、幸太が慌てた顔で家から飛び出して来た所だった。
「冬夜さん、遥先輩を見ませんでした?」
そう聞かれても、つい先程まで翡翠と過ごしていた冬夜には知る由もない。
「いや、見なかったな」
「そうですか……。昼前に、ちょっと息抜きに散歩して来ると言って湖の方へ行ったきり、戻らないんです」
心配する幸太の言葉に、冬夜は一瞬ドキリとした。
もしかして、翡翠と一緒にいる所を見られたのかもしれない──
しかし、冬夜はすぐにこう思い直した。
もし、遥が見ていたとしたら、声を掛けて来るに違いない──と。
冬夜は遥の一部分しか知らない。
嫉妬も妬みも、彼女はいつも上手に隠していた。
本当は遥も、好きな人の一語一句に喜怒哀楽を見せる“普通の女性“であることを……。
「どうしたんだろう? 遥先輩……」
心配する幸太に
「大丈夫だろう? 遥だって、子供じゃないんだから……」
と軽く笑い飛ばす冬夜に、幸太はカチンときた。
「何言ってるんですか? 遥先輩、ここに来てから不安定だったの知ってますよね?」
怒り出した幸太に、冬夜はハッとして
「すまない、他意はないんだ」
素直に謝罪する冬夜に、幸太は怒りを鎮める為に一つ溜め息をついた。
あまりにも心配そうにする幸太に、冬夜は見落としがないか記憶を辿る。
そしてふと
「俺も湖にいたけど……遥には会ってないな……」
と呟いたのだ。
その瞬間、冬夜の言葉に幸太が目敏くツッコんだ。
「冬夜さん……“遥先輩には“会ってないって……、誰と会っていたんですか?」
再び幸太の目に怒りの炎が燃え上がる。
冬夜が視線を外すと、幸太は胸ぐらを掴み
「まさか、翡翠さんと出会って密会していたんじゃないでしょうね!」
幸太の胸ぐらを掴む力が強くなる。
「あなたがそんなんじゃ!」
幸太が一際高く叫んだ。
そして目に涙を浮かべると
「あなたがそうやって……僕たちを裏切るんじゃ、どうにもならないじゃないですか」
悲しみとも怒りとも取れる声で、幸太は呟いた。
握り締めた拳が、小刻みに震えている。
冬夜は幸太の言葉で、自分がしていた事が二人を裏切る行為なんだと知った。
──ただ、愛する人と同じ時間を共有したかっただけなのに……。
冬夜は幸太に殴られる覚悟で、黙って幸太を見つめていた。
すると幸太は、胸ぐらを掴んでいた手を離し
「遥先輩を探して来ます」
と言って、冬夜に背を向けた。
冬夜は幸太の背中に
「殴らないのかよ!」
と叫ぶと
「殴るのは、僕たちを信じてくれる仲間だからです。
裏切った人間に、殴る価値なんてありません」
振り向きもせず、幸太はそう言い捨てて飛び出していった。
冬夜はその場に座り込み、捕まれた胸ぐらを自分で掴み
「痛ぇ……」
小さく呟いた。
冬夜は初めて知った。
殴られるよりも、殴られない方が痛いのだと……。
冬夜が帰宅すると、幸太が慌てた顔で家から飛び出して来た所だった。
「冬夜さん、遥先輩を見ませんでした?」
そう聞かれても、つい先程まで翡翠と過ごしていた冬夜には知る由もない。
「いや、見なかったな」
「そうですか……。昼前に、ちょっと息抜きに散歩して来ると言って湖の方へ行ったきり、戻らないんです」
心配する幸太の言葉に、冬夜は一瞬ドキリとした。
もしかして、翡翠と一緒にいる所を見られたのかもしれない──
しかし、冬夜はすぐにこう思い直した。
もし、遥が見ていたとしたら、声を掛けて来るに違いない──と。
冬夜は遥の一部分しか知らない。
嫉妬も妬みも、彼女はいつも上手に隠していた。
本当は遥も、好きな人の一語一句に喜怒哀楽を見せる“普通の女性“であることを……。
「どうしたんだろう? 遥先輩……」
心配する幸太に
「大丈夫だろう? 遥だって、子供じゃないんだから……」
と軽く笑い飛ばす冬夜に、幸太はカチンときた。
「何言ってるんですか? 遥先輩、ここに来てから不安定だったの知ってますよね?」
怒り出した幸太に、冬夜はハッとして
「すまない、他意はないんだ」
素直に謝罪する冬夜に、幸太は怒りを鎮める為に一つ溜め息をついた。
あまりにも心配そうにする幸太に、冬夜は見落としがないか記憶を辿る。
そしてふと
「俺も湖にいたけど……遥には会ってないな……」
と呟いたのだ。
その瞬間、冬夜の言葉に幸太が目敏くツッコんだ。
「冬夜さん……“遥先輩には“会ってないって……、誰と会っていたんですか?」
再び幸太の目に怒りの炎が燃え上がる。
冬夜が視線を外すと、幸太は胸ぐらを掴み
「まさか、翡翠さんと出会って密会していたんじゃないでしょうね!」
幸太の胸ぐらを掴む力が強くなる。
「あなたがそんなんじゃ!」
幸太が一際高く叫んだ。
そして目に涙を浮かべると
「あなたがそうやって……僕たちを裏切るんじゃ、どうにもならないじゃないですか」
悲しみとも怒りとも取れる声で、幸太は呟いた。
握り締めた拳が、小刻みに震えている。
冬夜は幸太の言葉で、自分がしていた事が二人を裏切る行為なんだと知った。
──ただ、愛する人と同じ時間を共有したかっただけなのに……。
冬夜は幸太に殴られる覚悟で、黙って幸太を見つめていた。
すると幸太は、胸ぐらを掴んでいた手を離し
「遥先輩を探して来ます」
と言って、冬夜に背を向けた。
冬夜は幸太の背中に
「殴らないのかよ!」
と叫ぶと
「殴るのは、僕たちを信じてくれる仲間だからです。
裏切った人間に、殴る価値なんてありません」
振り向きもせず、幸太はそう言い捨てて飛び出していった。
冬夜はその場に座り込み、捕まれた胸ぐらを自分で掴み
「痛ぇ……」
小さく呟いた。
冬夜は初めて知った。
殴られるよりも、殴られない方が痛いのだと……。
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