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第五章
ごめんなさい、幸太様
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「追わなくて良いのですか?」
翡翠に問われ、冬夜は首を横に振った。
「今はお互い、頭を冷やす時間が必要だ」
「ですが……」
心配そうに顔を歪める翡翠を、冬夜はそっと抱き寄せた。
「お前は何も気にするな」
翡翠は冬夜の優しさが……切なかった。
この人は、なんて不器用なのだろう……と。
冬夜は、強さと繊細さ、そのどちらも抱えた危うい魂を宿していた。
それはきっと、友頼と頼政……二人の魂を持って生まれて来たからだと翡翠は感じていた。
本来ひとつだった魂が二つに分かれ、千年の時を経て再びひとつになった──それには、きっと意味があるのだろう。
そして翡翠は、友頼であり友頼では無い『日下部冬夜』という人間に強く惹かれている自分に戸惑っていた。
翡翠は抱き締める冬夜の腕から離れ
「冬夜様、早く屋敷にお戻り下さい。じき、鬼が活発に動き出す時間になります。……どうか、屋敷からは絶対に出ませぬよう……」
そう念を押された。
「わかった、約束する」
頷く冬夜に
「絶対ですよ。夜に私の姿が見えたり声が聞こえても、それは鬼が作った幻です。それを忘れないで下さい」
そう言われて、冬夜は頷いた。
夜の帳が降りる頃、幸太は屋敷に戻って来た。
ただ、会話すること無く部屋に行き、食事も取らなかった。
冬夜は一人で過ごしながら、気付けば三人で過ごしていた時間が当たり前のようになっていた事に気付いた。
冬夜は幸太の部屋の前に行き
「幸太……聞こえるか?」
と、声を掛けた。
幸太からの返事はない。
「……勝手に話をさせてもらうな。
──その……翡翠のことは、すまなかった。謝って済む事では無いのは分かっている。ただ、信用していなくて話さなかったんじゃないんだ。……なんて言うのか、彼女との時間を邪魔されたくなかったんだ」
冬夜は閉ざされた襖の前でそう語り出した。
「俺はさ……、その……恥ずかしいけど、今まで誰かを好きになったことがなくて。だから、翡翠と出会って、自分の初めての感情を……押さえられなかった。それが……幸太や遥を裏切る行為だなんて、思わなかったんだ」
返事のない言葉が、夜の闇に溶けて行く。
それでも冬夜は、幸太や遥にはきちんと向き合いたいと思った。
今を逃したら、きっと元には戻れない……。
漠然とはしていたが、そんな気持ちが冬夜の胸を占めていた。
「本当に悪かった……」
深々と頭を下げた時、静かに襖が開いた。
「本当に……反省しているんですか?」
頭を下げている冬夜には、幸太の足もとしか見えない。
冬夜は頭を下げたまま
「反省している。二度と、お前たちを裏切るようなことはしないと誓う」
そう伝えた。
──返事はない。
沈黙が、夜の闇の深さに混じって息苦しい。
その時、深くて長い溜め息が聞こえた。
「じゃあ、『ごめんなさい、幸太様』って言って下さい」
真剣な言葉に
「ごめんなさい、幸太……は?」
思わず顔を上げた冬夜に
「冬夜さん、『様』がないですね」
そう言って、いつもの顔の幸太がニヤリと笑っていた。
翡翠に問われ、冬夜は首を横に振った。
「今はお互い、頭を冷やす時間が必要だ」
「ですが……」
心配そうに顔を歪める翡翠を、冬夜はそっと抱き寄せた。
「お前は何も気にするな」
翡翠は冬夜の優しさが……切なかった。
この人は、なんて不器用なのだろう……と。
冬夜は、強さと繊細さ、そのどちらも抱えた危うい魂を宿していた。
それはきっと、友頼と頼政……二人の魂を持って生まれて来たからだと翡翠は感じていた。
本来ひとつだった魂が二つに分かれ、千年の時を経て再びひとつになった──それには、きっと意味があるのだろう。
そして翡翠は、友頼であり友頼では無い『日下部冬夜』という人間に強く惹かれている自分に戸惑っていた。
翡翠は抱き締める冬夜の腕から離れ
「冬夜様、早く屋敷にお戻り下さい。じき、鬼が活発に動き出す時間になります。……どうか、屋敷からは絶対に出ませぬよう……」
そう念を押された。
「わかった、約束する」
頷く冬夜に
「絶対ですよ。夜に私の姿が見えたり声が聞こえても、それは鬼が作った幻です。それを忘れないで下さい」
そう言われて、冬夜は頷いた。
夜の帳が降りる頃、幸太は屋敷に戻って来た。
ただ、会話すること無く部屋に行き、食事も取らなかった。
冬夜は一人で過ごしながら、気付けば三人で過ごしていた時間が当たり前のようになっていた事に気付いた。
冬夜は幸太の部屋の前に行き
「幸太……聞こえるか?」
と、声を掛けた。
幸太からの返事はない。
「……勝手に話をさせてもらうな。
──その……翡翠のことは、すまなかった。謝って済む事では無いのは分かっている。ただ、信用していなくて話さなかったんじゃないんだ。……なんて言うのか、彼女との時間を邪魔されたくなかったんだ」
冬夜は閉ざされた襖の前でそう語り出した。
「俺はさ……、その……恥ずかしいけど、今まで誰かを好きになったことがなくて。だから、翡翠と出会って、自分の初めての感情を……押さえられなかった。それが……幸太や遥を裏切る行為だなんて、思わなかったんだ」
返事のない言葉が、夜の闇に溶けて行く。
それでも冬夜は、幸太や遥にはきちんと向き合いたいと思った。
今を逃したら、きっと元には戻れない……。
漠然とはしていたが、そんな気持ちが冬夜の胸を占めていた。
「本当に悪かった……」
深々と頭を下げた時、静かに襖が開いた。
「本当に……反省しているんですか?」
頭を下げている冬夜には、幸太の足もとしか見えない。
冬夜は頭を下げたまま
「反省している。二度と、お前たちを裏切るようなことはしないと誓う」
そう伝えた。
──返事はない。
沈黙が、夜の闇の深さに混じって息苦しい。
その時、深くて長い溜め息が聞こえた。
「じゃあ、『ごめんなさい、幸太様』って言って下さい」
真剣な言葉に
「ごめんなさい、幸太……は?」
思わず顔を上げた冬夜に
「冬夜さん、『様』がないですね」
そう言って、いつもの顔の幸太がニヤリと笑っていた。
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