水鏡~千年の時を越えて、今、再び動き出す悲恋~

古紫汐桜

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第五章

囁く闇──翠の誘惑

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 そこは大きな洞穴の中、松明がたかれていた。
祭壇のような場所に、遥は眠っていた。
「翠は昼間、活動ができません。私と翠は背中合わせの関係……だから、日が落ちる前に、早く遥さんを──」
そう言って、幸太を中に招き入れた。

何の罠もなく、すんなりと遥を連れ出せた──だが、翡翠が首を傾げた。
「おかしいわ……。いつもなら、絶対に罠をはるのに……」
そう呟いたが、幸太は遥を救い出す事しか考えていなかった。
「きっと、運が良かったんですよ」
そう答えた瞬間だった。

「ちょこまかと、うるさい女だな……」
目の前に翠が現れた
「遥先輩は返してもらう!」
抱き抱えた遥を庇うように身体を捻り叫ぶと
「それは構わない。でも、その娘は目覚めたいと願うかな?」
そう言われて、幸太は眉を寄せた。
「その娘は、今、幸せな夢を見ているんだよ」
「幸せな夢?」
「そう。母親は出て行かず、この娘を愛情たっぷりに育て上げ、愛する男と幸せな毎日を送る夢」
そう言うと、翠は小さく笑って
「そう……お前ではない、愛する男と蜜月を過ごす夢だよ」
その言葉で、遥が誰と共にいるのかを悟った。
すると突然、背後に翠が現れ
「そうだよ、冬夜に抱かれる夢をみているのさ……」
耳元で囁かれる。

分かっていた──
遥先輩が求めているのは、僕じゃない……
どす黒い感情が、時間を置いて滲み出したシミのように、静かに、しかし確実に広がっていく。

「憎いよね……冬夜なんか、居なくなればいいのに──そう、思うよね?」

クスクスと聞こえる笑い声が、まるで夏の夜に聞こえるモスキート音のように酷く不快だった。

「冬夜が居なくなれば、遥はきみのものだよ」
翠が幸太の耳元で囁き続ける。

「ダメです! 翠の言葉に──心を奪われてはいけません」
必死に叫ぶ翡翠の声に
「じゃあ……どうしたら遥先輩は僕に振り向くの?」
幸太の言葉に、翡翠は息を飲んだ。

「クックック……翡翠、お前が何をしようと、無駄なんだよ。人は弱く……脆い。嫉妬や妬みで、平気で人を傷付け喜ぶ、醜い生き物なんだよ」
勝ち誇った笑みを浮かべる翠に
「そんなことありません! 確かに人間は弱くて脆い。だからこそ、嫉妬や妬みで道を誤る事もあるでしょう。……それでも、彼らはやり直せる力を持っています! 過ちを認め、受け止めて前を向いて歩く強さを持っています! 私は……私はそんな人間を信じています!」
翡翠はそう反論した。
すると翠は不快そうに翡翠を見下ろし
「信じる? では、この現状はなんだ? 人間など、所詮は私利私欲でしか生きられない害獣なんだよ!」
と叫んだ。
「違う! そんな人間ばかりではないです!
──薄井さん! 冬夜さんを支えてくれるって、約束しましたよね?」
必死に呼びかける声に、幸太からの返事はない。
「薄井さん! 翠の言葉に耳を貸さないで! お願い──あなたは、負けちゃダメ!」
祈りにも似た翡翠の叫び声に、幸太は自分を掴む翡翠の手を払い除けた。
「……そんな」
愕然とする翡翠に、翠は楽しそうに笑い
「これでも、人間を信じるのか? おめでたいな、翡翠。
──さぁ……遥、幸太。冬夜をここに連れて来なさい」
そう命令すると、二人はゆっくり頷いた。
「ダメよ、ダメ! 薄井さん! 遥さん!」
操られているのだろう。
生気のない瞳で、ゆっくりと静かに歩き出す。
その時、幸太の短剣が青白く光っているのが見えた。
「?」
翡翠はその短剣を見て、首を傾げた。
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