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2巻
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しおりを挟む「こんな話は退屈だろう。別室を用意してあるから、晩餐会まで妹君方とそちらで休んでいるといい」
「お気遣いありがとうございます。それでは、失礼します」
退出する良一達の背中を見守りながら、将軍は深いため息を吐いた。
「騎士団に守られて安全な王都にいる貴族は、生きたモンスターなど見ることはない。そんな者達が毎年王国の軍事費を削り、浮いた予算はそれぞれのお抱えの商人に都合の良い政策に回そうとする。戦争こそ行われていないが、国境では小さな小競り合いが絶えないというのに……。嘆かわしいものだ」
ドラゴンという脅威を退けたものの、彼らの間に漂う空気は決して明るいものではなかった。
「良一兄ちゃん、ココ姉ちゃん」
先ほどの文官に連れられて別室に入ると、メア、モア、マアロがくつろいでいた。
晩餐会までこの部屋で自由に過ごして良いのだそうだ。
「特に何を話したってわけでもないのに、お偉方と同席すると疲れますね。慣れないドレスを着ているせいかもしれませんが」
ココがソファに座りながら大きく伸びをした。
「確かに。気分転換に、晩餐会までトランプでもしてようか」
良一がアイテムボックスからトランプを取り出すと、すぐにモアが飛びついた。
「ババ抜きやろう!」
メアとモアは文字を読めなかったが、近頃では簡単な文字や数字は読めるようになってきた。それもあってか、彼女達の中ではトランプで遊ぶのが最近のブームである。とはいえ、モアはまだ複雑なルールは覚えられないので、もっぱらババ抜きと神経衰弱ばかりだが。
五人がしばらくトランプで遊んでいると、不意に扉が開く小さな音が聞こえた。
わずかに開いた扉の隙間から、モアと同い年くらいの金髪の女の子が興味津々の様子でこちらを覗き込んでいた。
着ているドレスは上等で、明らかにどこかの貴族の娘さんのようだ。
「どうしたの? 何か用?」
どうやらモア達の歓声が外まで漏れ聞こえていて、それに興味を引かれてやって来たらしい。良一が話しかけると、女の子は部屋の中に入ってきた。
「何をやっているの?」
「ババ抜きっていうゲームをやっているんだよ」
「ババ抜き?」
「このカードで、手札に同じ数字のものが揃ったら除いていって……最後に〝ババ〟を持っていた人が負けっていうゲームだよ。一緒にやってみる?」
良一が尋ねると、女の子はコクンと頷いた。
少女はキリカという名前らしく、ババ抜きのルールをすぐに覚えて、五人の中にすっかり馴染んでしまった。
「ねえモア、このカードを引いて」
「えー、キリカちゃん。さっきもそう言って、モアはババを引いちゃったんだよ」
「良一、お腹空いた。ドーナツ出して」
モアとキリカの駆け引きの間、マアロが例のごとくドーナツを要求する。
「今ドーナツを食べたら、晩餐会で料理が食べられないだろう」
「大丈夫、一個……いや、二個。やっぱり、三個だけ」
「マアロはそう言って、一人で一箱全部食べるからダメだ」
「約束する。一箱全部食べない」
良一達の言い争いに含まれていた聞き慣れない単語に、キリカが興味を示した。
「モア、ドーナツって何?」
「とっても美味しい、穴の空いたお菓子だよ」
「そんなに美味しいの?」
「うん」
モアが笑顔で返すと、たちまちキリカが目を輝かせて良一の方を見た。
「良一、私が一番に勝ったらドーナツを出して」
「えー、ならモアも、勝ったらドーナツ食べたい」
「ドーナツ……負けられない」
しまいにはモアやマアロのみならず、メアやココまで張り合い出し、それまでの和気あいあいとしたババ抜きが、真剣味を帯びた。
「おーい、みんな俺は納得してないんだけど? じゃあ、俺が勝ったら、ドーナツはお預けだぞ」
その不用意な発言で全員を敵に回してしまったせいか、最後までババを持っていたのは良一だった。
「嘘だろ……」
「良一、ドーナツを出す」
負けた以上、出さないという選択肢はなくなったので、良一は一人二個までと言ってドーナツを取り出した。
「これがドーナツ? 面白い形。初めて見た」
「キリカちゃん、この黒いチョコレートっていうのがかかったのも美味しいし、こっちの白い粉がかかったドーナツも、モアは好き」
一人二個までと決めたので、全員が真剣にドーナツを選んでいた。
「全員決めたか? 他の人とかぶって足りないなら新しいドーナツを出すから言ってくれよ」
良一は主神から授かったゴッドギフト〝増殖箱〟の力で、アイテムボックス内の物をお金と引き換えにいくらでも複製できる。しかし、メアとモアがマアロの真似をして無分別に食べるようになってはいけないと思い、残りのドーナツは全てアイテムボックスに回収した。
「ドーナツ二個でいいから、ココアもつけてほしい」
ドーナツは諦めたが、マアロは抜け目なかった。
彼女は前に良一が作ったココアを大変気に入ったようで、それ以来、食事の時でも時々飲みたいと言う。
「まあ、口の中がパサパサするから、飲み物ならいいか」
良一はココアパウダーにホットミルクを注いで人数分のココアを用意して皆に配り、自分用にはホットコーヒーを淹れた。
「みんな揃ったか? じゃあ、いただきます」
初めてドーナツを食べたキリカは、あまりの美味さに瞬く間に完食してしまい、寂しそうな目を向ける。
「もうなくなっちゃった……」
マアロはこうなることを想定していたのか、キリカの目の前で自慢げにゆっくりと食べはじめた。
「おい、マアロ……大人げないな。一番の年長者がやることか?」
「キリカちゃん、半分あげるね」
見かねたメアが、自分のドーナツを半分に割って差し出す。
「ありがとう」
「ううん、ドーナツ美味しいもんね」
「わ、私もあげる」
マアロも渋々ドーナツを半分に割ると、しっかり見比べて小さい方をキリカに差し出した。年下のメアに対応の差を見せつけられて反省したらしい。
「マアロもありがとう」
ドーナツを食べ終わった良一達はトランプを再開し、そろそろ日も暮れようかという頃、遠慮がちなノックの音とともに、メイドの女性が入ってきた。
「失礼します、石川様。こちらに小さな女の子……あっ、キリカ様! ここにいらっしゃったのですね」
メイドはキリカを見つけるなり駆け寄って、良一達にしきりに頭を下げた。
「キリカ様、晩餐会の準備がございますので、お戻りください。お父様が心配しておいでですよ。すみません、石川様。キリカ様を見ていていただいたようで……」
「楽しかったので、お気になさらず」
「メア、モア、また会おうね」
「「バイバイ、キリカちゃん」」
メイドに連れられて、キリカは出て行った。
「あの様子じゃ、キリカも貴族の娘だったみたいだな。なら、晩餐会でも会えるだろう」
そうして、再びトランプに興じながら、良一達は晩餐会まで時間を潰したのだった。
「お待たせいたしました。晩餐会の準備が整いましたので会場へとご案内いたします」
お呼びが掛かった良一達は、トランプを切り上げて晩餐会の会場へ向かう。
広いホールはまさに絢爛豪華に飾り立てられており、テーブルには色とりどりの料理が所狭しと並び、それらに劣らぬ華やかなドレスを着た女性達や、礼服を着た人達が大勢詰めかけている。
「みんな綺麗ですね」
ココは少し気後れしている様子だが、知らず知らずのうちに周囲の男性の視線を集めている。
「ドーナツ食べたせいで、逆にお腹が空いてきた」
色気より食い気の良一達が晩餐会の食事を見ていると、公爵が入場してきた。
「あっ、キリカちゃんだ」
「えっ?」
モアが指差す方向を見ると、先ほどと同じドレス姿のキリカが公爵様の後について入場してきた。
「貴族の娘だと思っていたけど、公爵様のお嬢さんだったとは」
驚いた表情で全員が見ていることに気付いたのか、キリカが小さく手を振ってくる。
そうこうしているうちに、公爵の乾杯の合図で立食形式の晩餐会が始まっていた。
ドラゴン討伐の功労者ということで良一やココに声をかける者は少なくないが、こうしたパーティに不慣れなのもあり、良一達は気の利いた会話を楽しむよりも、料理に集中した。
「楽しんでいるかね、石川君」
宴もたけなわといった頃合いに、公爵がキリカを伴って近づいてきた。
「はい」
「そう緊張しなくてよい。娘が世話になったそうだな」
「お世話なんて、そんな。公爵様のご息女とは知らず、ただ一緒に遊んだだけです」
「この子は一番末の娘だが、歳の割に賢くてな、なかなか同年代で親しく遊ぶ友人がおらんかったのだ。たまには遊んでやってくれ。キリカも喜ぶ」
公爵はそれだけ言うと、キリカを残して他の貴族のところへ向かった。
「キリカ様は、公爵様の娘だったんですね」
なんとなく気まずい思いをしながら、良一はキリカに話しかける。
「良一、様付けはやめてちょうだい。さっきまでと同じ、キリカでいい」
「いや……でもなあ」
「キリカでいい」
そう言って良一を見上げるキリカの視線は、幼いながらも威厳を感じさせるもので、良一も渋々了承する。
「分かった。じゃあ、キリカちゃんで」
「そうだよ、良一兄ちゃん、キリカちゃんがいいよ」
歳の近いモアが中心になって話していると、キリカは良一達の公都観光に同行したいと言いだした。
さすがに公爵の娘を連れ歩くのは無理だと良一とココが反対したところ、機嫌を損ねてしまったのか、キリカはどこかへ去っていった……のだが。
すぐに一人のメイドを連れて戻ってきた。
「アリーナと申します。私がキリカ様の警護を務めますので、どうかご安心を」
「ええっ!? 本当に大丈夫なんですか?」
思わず素っ頓狂な声を上げる良一。
「兄様や姉様と違って、よくアリーナと町を見て回ってるから、観光なら任せて」
結局、公都観光に公爵様の娘キリカとメイドのアリーナが同行することになった。
◆◆◆
晩餐会の翌日。
「お待たせ。さあみんな、早く行きましょう」
「おはよう、キリカちゃん」
宿屋のエントランスで待っていると、キリカと、メイドのアリーナが迎えにやってきた。
すでに三日分の宿代が支払われているそうなので、良一達はあと二日公都に滞在してから、ココを見送るために貿易港ケルクへ行く予定である。
「馬車をつけてありますので、お乗りください」
公都まで乗ってきた馬車よりも豪華で大きな馬車は、公爵様の財力を感じさせる。
キリカは自分がホスト役とあってすっかり張り切っており、良一達をお気に入りの場所へと案内した。
中でも壮観だったのは、公都名物の巨大風車や、公爵の城近くにある豪奢な装飾が施された風車で、風の属性神の神殿があるのも関係して、このように公都では風車が観光名所になっている。
昼は川沿いにある小高い丘まで足を伸ばして、公爵家の料理長が用意した昼食を食べた。
午後は再び町中に戻って、大通りの店巡り。
モアやキリカ達女性陣はみんなでお揃いのリボンを買った。
時間はあっという間に過ぎ、すっかり公都を満喫した良一達は、公爵家行きつけのレストランで夕食をとることになった。
さすがに貴族御用達なだけあって味は一流で、牛頬肉の煮込みなど、良一が普段作る料理とは違った手間の掛かった品々に、皆舌鼓を打った。
「キリカちゃんもココ姉ちゃんも、みんな一緒だね! 良一兄ちゃんもつける?」
モアはリボンが大層気に入ったらしく、食事の最中もしきりに気にしている。
「い……いや、俺はいいよ。そのリボン、似合っているよ」
「ありがとう! ねえ、キリカちゃん、明日はどこに連れて行ってくれるの?」
「まだまだいっぱい案内してあげる。えっとね……」
上機嫌で答えるキリカに、アリーナがそっと耳打ちした。
「明日は予定がございますので、お遊びには行けませんよ」
「ずらせばいいでしょ。今日もずらせた」
「明日は午前中から授業がございます」
「でも……モア達は明後日には公都を出るんでしょう?」
「なりません。お父様ともそういうお約束だったはずです」
アリーナは毅然とした態度を崩さず、最後はキリカが折れてしまった。
「じゃあ……明後日の見送りには、必ず行くから」
少ししんみりした余韻を残して、キリカとの公都観光は終わった。
翌朝。公都滞在の最終日となるこの日、良一は女性陣とは別行動を取っていた。
「少しお金を使いすぎたから、ギルドの口座でも確かめてみるか」
ドワスの町の石工ギルドで売却した魔鉱石の査定が終わっていれば、追加の入金があるはずだ。
ゴッドギフトの万能地図に従って、大通りから外れた所にある石工ギルドの支部を目指す。
ほどなくして、入り口の看板に〝石工ギルドグレヴァール支部〟と書かれた石造りの建物にたどり着いた。
中は多くの人で賑わっており、受付窓口は十人体制だ。
「すみません」
「はい、ご用件を伺います」
「ギルドの口座に残金があったら、お金を下ろしたいんですけど」
「ギルド員の方ですか。確認しますので、ギルドカードをお預かりいたします」
受付の若い女性は良一のギルドカードを受け取り、球形の装置に挿入する。
しばらくすると、残高の書かれた紙を差し出してきた。
「お引き出しの金額をお書きください」
残高は白金貨十三枚と少々。とりあえず、白金貨十枚を下ろしておいた。
ギルド支部の外に出ると、ちょうど目の前に本屋があったので、中に入ってみた。
「魔法書はあるかな」
公都の本屋は良一が今まで入った本屋の二倍は広く、書棚を探すと火、水、風、土の中級と上級の魔法書が揃っていた。
「お兄さん、そんな難しい魔法書を買っていくなんて魔法学園の先生か何かかい?」
魔法書を大人買いする客が珍しかったのか、店主の女性が良一に話しかけてきた。
「いやいや、先生なんて高尚なものじゃないですよ」
「そうかい。上級魔法書をまとめて即金で買うなんて滅多にいないからね。ちなみに、王都の古本市で買った本があるんだけど、こっちもどうかね?」
そう言って店主が取り出したのは、古めかしい重厚な装丁の本だった。
内容を試しに見てみると、魔導機について書かれたもののようだ。
「これって、魔導機の本ですよね? 凄く貴重な資料なんじゃないですか?」
魔導機は技術が失われて久しく、王都ではようやく魔石を用いた街灯を自前で生産できるようになったばかりだという。
「確かに魔導機の技術書だけど、内容の理解が追いつかないから、たくさん書写して配布されているのよ。だから金貨七枚でどうかね」
「じゃあ、それも買わせていただきます」
魔法書が全部で白金貨十枚だったため、結局良一は下ろしたお金以上に使ってしまった。
「また魔石でも掘りに行かないとな」
そんな独り言を呟いているところに、手首のデバイスに通信が入った。
「ココか。どうかしたのか?」
「すみません……ちょっと面倒ごとに巻き込まれちゃって、来てもらえませんか」
「分かった、すぐ行く」
店を出てココから聞いた場所に向かうと、洋服屋の店先でメアとモアとマアロとココの四人が大勢の女性に囲まれていた。
「いったい、どういう状況だ?」
女性達の間に割って入った良一に、早速一人の婦人が詰め寄ってきた。
「あなたが石川さん? この〝匂いの素〟を売ってくださいな」
「はあ?」
状況が分からず、落ち着かせてから詳しく話を聞くと……どうもココ達四人が店で買い物をしていたところ、あまりに良い香りを漂わせていたため、同じ店で買い物をしていた公都の女性達が、香水を譲ってほしいと集まってきてしまったらしい。
しかし、香水は使っていないので、洗剤の匂いではないかと告げると、ではその洗剤が欲しいという話になり、ココ達は困り果てていたのだ。
「聞けば、あなたの地元でしか売ってないそうじゃない。言い値で買うから、是非とも譲ってもらえません?」
言葉は丁寧だが、目は血走っていて、断れる雰囲気ではない。
「わ、分かりました。じゃあ柔軟剤と洗剤を、それぞれ銀貨二枚でどうでしょうか? 一人五個まででお願いします」
女性陣の勢いに負けた良一は、日本円にして約二千円というボッタクリ価格を伝えたが、それでも奥様方は我先にと群がり、たちまち店の前の空き地に行列ができてしまった。
口コミによるネットワークなのか、最初に詰め寄ってきた女性達以外にも続々と押しかけ、ほぼ全員が制限個数まで買っていく。
「奥様方のパワーは凄いな」
「良一兄さん、列が延びているので、早く次を出してください」
結局、メアやモアが売り子を、マアロとココが列の整理をして、なんとか捌き切ったものの、この日はほとんど観光できずに疲労感を覚えて終わった。
◆◆◆
「また会いましょう、モア」
「うん、また遊ぼうね、キリカちゃん」
公都グレヴァールを出発する朝、貿易港ケルクに向かう乗合馬車の発着場でモアとキリカが手を振り合って別れの挨拶をしていた。短い間だったが、随分と仲が良くなったものだ。
「皆様の旅の安全をお祈りします。こちらは皆様でお召し上がりください」
キリカと一緒に来たメイドのアリーナが五人分のサンドイッチを持たせてくれた。
「ありがとうございます。道中食べさせてもらいます」
「キリカ様も皆様と楽しく過ごせたようです。また公都に寄られたら、ご連絡ください」
そうこうしていると馬車の出発の時間が近づいてきた。
馬車に乗り込もうとしたところで、ふとモアが足を止めた。
やはりキリカとの別れが寂しいらしく、目に涙を溜めている。
「良一兄ちゃん、キリカちゃんにみっちゃんをあげちゃダメ?」
「デバイスをか……。本当はあまりよろしくないんだろうけどな」
公爵家の令嬢という身分を考えると、今後そう気軽には会えないかもしれない。現状では長距離通信ができないらしいが、何か役に立つこともあるだろうと考え、良一はデバイスを複製した。
「古代文明の物だから、数に限りがあるんだ。奪われないようにな」
本当は数の問題はないが、何個もあると知られると色々怖いので、キリカには事実を伏せて渡した。
「ありがとう、良一。大切にする。でもこれ、どうやって使うの?」
「俺も完璧には理解していないからなあ。みっちゃんに直接聞いてくれ。そこの横のボタンを押せばいい」
「これね、分かった」
キリカは幼いながらもかなり頭は良さそうだから、使い方は大丈夫だろう。
デバイスを渡して安心したからか、モアにも笑顔が戻った。
「じゃあーねー」
ついに馬車が動き出し、モアは客室から身を乗り出してキリカとアリーナにブンブンと手を振り、向こうも手を振り返してくれた。
公都グレヴァールから貿易港ケルクまでは馬車でおよそ半日で行けるらしい。
道も今までとは段違いに整備されていて、振動も少ない。
良一達は馬車の中でアリーナからもらったサンドイッチを頬張りながら、会話に興じていた。
「ココ、船賃はあるのか?」
「一応、これでもBランク冒険者だから、蓄えはありますよ」
「ココ姉ちゃんは、お船に乗るんだよね。モアも乗ってみたい」
「私はそれより海を見てみたいです」
「モアちゃん、メアちゃん、船の旅は大変ですよ? 小さな船だと凄く揺れますし、大きな船でも腕の良い船長さんや航海長がいないと、目的地まで時間がかかりますからね。今のところ、王都のあるカレスティア大陸を経由してココノツ諸島に行こうと思っています」
「ココノツ諸島までの直行便は出ていないのか?」
良一は万能地図を広げ、地図の縮尺を変えて島と大陸の位置関係を確認してみる。
カレスライア王国はカレスティア大陸の南側に逆三角形に広がり、大陸の西側には良一達が今いるメラサル島がある。ココの故郷のココノツ諸島はメラサル島の北西という位置関係だ。
「凄く精密な地図ですね。でも、詳細な地図は、王国の法律では軍事機密に類するものなので、注意してくださいね。それで、カレスティア大陸に一度行く理由ですけど――」
ココが言うには、メラサル島からもココノツ諸島に行く船はあるらしいが、あまり安全なルートとは言えないため、カレスティア大陸を経由して王室御用達の船舶会社の定期船に乗るのが安心なのだという。
「大体、予定が合えば、片道半月ほどの船旅になります。実家に長居をするつもりはないので、遅くとも二ヵ月くらいで戻ってきたいですね」
「ココ姉ちゃん、早く帰ってきてね」
「すぐ戻ってきますよ」
モアがココにもたれかかり、笑顔で髪を梳かしてもらっている。
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