お人好し職人のぶらり異世界旅

電電世界

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6巻

6-2

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「調査隊で一番信憑性が高いのは、ジークという人物」

 マアロの口から発せられたその名前に良一とキャリーの二人も頷いた。

「俺もジークさんが一番だな」
「私も同意見ね」

 三人が意見をそろえたジークという人物は、なんと第一次から第四次まで全ての調査隊に参加している。
 彼の報告書は短く要点をまとめた上で、細かいところまでしっかり書かれていた。
 調査隊には危険がともなうためか、そのメンバーには戦闘力の高い者が多く選ばれていたようで、そういう人物は細かな報告書をあまり上げない傾向けいこうにあった。
 そんな雑な報告書の中で、ジークのものは異彩いさいを放っていた。

「第一次から第四次まで、二十五年間全てに参加したのはジークさんだけじゃないかな」

 良一の意見にキャリーも首肯しゅこうする。

「そうね……調査隊メンバーのリストなんてないから、報告書の名前だけで推測するしかないけど、私もジークさんだけが全部に参加しているように思ったわ」

 調査隊の探索はやはり過酷かこくらしく、報告書には隊員がモンスターとの戦闘で負傷ふしょうしたという内容や死亡事故なども記載されていた。
 そのような事情もあったからか、調査隊のメンバーは大抵たいていが一回のみの参加で、二回参加している人も全体の二割程度といった感じだ。
 マアロが疲れたように息を吐く。

「彼の報告書をもっと読みたいけど、わかっているのは名前だけ」
「二百年以上前の人物なんて、長命な種族じゃないと生きてはいないでしょうね」
「まあでも、ジークさんへの手がかりはある」

 良一の言葉に思い当たるふしがあるようで、二人も頷き返す。
 彼らがジークに繋がる手がかりとして見つけたのは、一冊しかない第四次調査隊の報告書に書かれていた一つの名前だ。
 三人はその名前に見覚えがあった。
 ――トーカ神官長だ。
 最初は同名の人物かと思ったが、書かれていた報告書の言葉選びなどから判断して、高確率で同一人物だとマアロが判断した。
 トーカ神官長とはマアロの故郷であるセントリアス樹国じゅこくを訪ねた際に出会った。
 マアロが信奉する水の属性神ウンディーレを祀る神殿の神官で、彼女の大先輩である。
 カレスライア王国とセントリアス樹国の国境にあった〝亡者もうじゃおか〟での戦いでは、良一達と共に戦った。
 その際に、トーカ神官長がエルフよりもさらに長命なハイエルフという種族であることや、五百歳以上の年齢ということも聞いている。

「トーカ神官長も調査隊に参加していたんだね。マアロは知らなかったのか?」

 良一の質問にマアロは首を横に振る。

「二百年も前の話なんて聞いたこともない」
「まあ、わざわざ大きな目的を果たせなかった調査隊の話なんかしないわよね」

 第四次調査隊の報告書では現在の役職である神官長ではなく、書記官しょきかんという肩書かたがきになっている。
 彼女とは大した挨拶もできないまま別れてしまったので、訪ねてみるのも良さそうだ。このタイミングはちょうど良かったのかもしれない。

「それじゃあ、次の目的地はセントリアス樹国のトーカ神官長だな」
「わかった」

 いつも通りの平坦へいたん声色こわいろだが、マアロは決意のこもったひとみで応えた。

「外国に行くとなれば、それなりに準備が必要だな」
「トーカ神官長にお土産みやげも買わないと」

 これで次の目的地も決まった。
 良一達はこの一週間のほとんどを過ごしたと言っても過言ではない書庫を後にする。その際にお世話になった書庫守の老人タイクへの挨拶も忘れない。

「タイクさん、本当にありがとうございました」

 マアロとキャリーも良一に続く。

「ありがとう」
「とっても助かったわ。また公爵邸に来た時はお邪魔じゃましてもいいかしら?」

 タイクはうれしそうに頷く。

「もちろんです。またお会いできるのを楽しみにしております」

 書庫を出た良一達は、早速メアやモア達に次の目的地を報告にいく。
 宿泊用に貸し出された離れに着くと、良一達を見つけたモアがってきた。

「良一兄ちゃん、手がかりは見つかった?」

 天真爛漫てんしんらんまんなモアのおかげで、良一も疲れを忘れて笑みを浮かべた。

「ああ、なんとかね」
「良かった。明日ね、キリカちゃんが町に遊びに行こうって!」

 その言葉に良一は笑顔が一転、難しい表情になる。

「明日か……」
「良一は心配しなくても良いわ。護衛ごえいにお父様の騎士きしがついてくれるから」

 彼の様子を妹の心配だと解釈かいしゃくしたキリカがそんな提案をするが、良一は首を横に振った。

「いや、護衛の心配じゃないんだ。今日で神秘調査隊の報告書を読み終えたから、一度イーアス村に戻ろうと思って。公爵様の屋敷にも長く滞在したからね」
「じゃあ帰るの……?」

 良一の言葉の意味を理解したモアが悲しげな声を漏らす。
 今にも泣きだしそうな彼女に、どうしたものかと考えているところへキャリーがたすぶねを出した。

「良一君も書庫に籠りっぱなしだったんだから、リフレッシュをしたらどうかしら?」
「そうよ。それにお父様だってそのくらい全く気にしないと思うわよ」

 二人に後押しされて、良一は出発を少しだけ遅らせることに決めた。

「なら明日、町に出かけてからイーアス村に帰ろうか」
「賛成!」

 モアが万歳ばんざいのポーズでその提案に飛びついた。


   ◆◆◆


 その晩、夕食後に良一達はホーレンス公爵に長期間の滞在のお礼と調査結果を軽く報告した。

「……それにしても神の塔か。最初に聞いた時は驚いたが、石川男爵ならば辿り着けそうな気がするな」
「まだまだ小さな手がかりしかありませんが」

 苦笑にがわらいで応える良一の目を公爵はしっかりと見据みすえる。

「先人達が成しえなかったことを君はいくつもやりげてきた。そう謙遜けんそんすることはないよ」
「……頑張ります」

 その後もお酒を飲みながら気分よく世間話せけんばなしをしていると、公爵は少しトーンを下げて話しはじめた。

「聞いたよ。石川男爵はガベルディアス名誉士爵めいよししゃくと神官のマアロ嬢と恋仲こいなかになったとか」
「はい、二人とは恋人関係になりました」
「とても良いことだよ。石川男爵の功績は武勇ぶゆうに注目が集まりがちだが、君は魔導機の修理という得難えがたい技術を保有している。それを子々孫々ししそんそんにまで残すには、子供をつくることが重要だからね」

 いきなりの話題に良一は思わず口に含んでいた酒をしそうになったものの、すんでのところでそれをこらえた。

「……いずれは、と考えています」
「そうだな。他国では一夫一妻制いっぷいっさいせいもあるそうだが、カレスライア王国はその限りではない。石川男爵ほどならば妻をたくさんめとっても成長し続けられるだろう」

 返事に困る問いかけに、良一はあいまいに誤魔化ごまかす。
 そんな様子を見て、公爵は楽しそうにお酒の入ったグラスを傾けていた。


 ――翌日。午後には公都グレヴァールをつので、午前中のうちにトーカ神官長へのお土産などを見繕みつくろう必要がある。
 良一も当初はモア達に同行しようかと思ったが、女の子同士での買い物だと言われたので、初めて一人で公都を歩いてみることにした。
 何回か通ったはずの道も、一人で歩き回っていると見える景色が違うように感じる。
 しばらくぶらぶらしていると、道の先から何やら袋を持ったココが一人で歩いてきた。こちらを見つけて手をあげる。

「あれ? ココ、皆と一緒にいたんじゃないのか?」
「そのつもりだったんですけど、少しだけ抜けてきたんです」

 抜けてきたとは? と疑問符ぎもんふを浮かべる良一に、ココは少しずかしそうに切り出す。

「せっかくなので、良一さんとデートをしたいなと思いまして……」
「デ、デート!?」

 聞き慣れない単語がココの口から飛び出してきて、良一は頓狂とんきょうな声を上げてしまう。

「改めて言うと恥ずかしいんですけど、イーアス村にいると知り合いばかりなので……」
「そうだな……そうかデートか、そうか……」

 こわれたレコードプレイヤーのように同じ言葉を繰り返す良一を、ココは心配そうに見つめる。

「良一さんは用事とかありますか?」
「いや、ぶらぶら歩いていただけだから。むしろ暇を持て余していたよ」

 ココの発言に心臓が高鳴り、声も変にうわずってしまう。
 イーアス村でも、村を散策さんさくするようなデートは何度かしたことがある。
 だが、木こりの師匠ししょうであるギオやその弟子でしのファース達など知り合いが多く、また告白イベントの影響で周囲からにやにやと生温なまあたたかい視線を向けられてしまうのだ。
 決して冷やかされたりするわけではないが、どうしてもぎこちなくなる。
 良一はそこまで考えて、ココに向き直った。

「そうだな、せっかくグレヴァールまで来たんだ。デートに付き合ってもらえないかな、ココ」
「はい、喜んで」

 こうしてココと二人きりでデートをするのも珍しい。マアロにも後で何か考えてあげようと良一は心の中で決めた。
 グレヴァールを出発する昼までと時間は短いが、精一杯楽しむことにする。

「ココ、手に持っている袋をアイテムボックスに入れておこうか?」
「いえ、実はメアちゃん達と町を歩いていた時に故郷のココノツ諸島風の屋台を見つけて、これはそこで売っていたんです。良一さんと一緒に食べたいなと思って買ってきちゃいました」

 ココはそう言いながら、袋の中に手を入れて何かを取り出す。


 彼女の手ににぎられていたのは、いもだ。
 朝晩と最近はすずしくなってきたが、このあたりで焼き芋とは珍しいと思った。

「焼き芋、小さい頃は道場でよく門下生もんかせいと一緒に食べていたんです。でも最近は口にしてないなと思って」
「俺も大人になってから食べた記憶がないな……前は頻繁ひんぱんに食べていたような気がするんだけど」

 ほんのりと湯気ゆげが立ち上る焼き芋を見て、二人は早く食べようとどこか座れる場所を探す。
 少し歩いたところにベンチが並ぶ場所があったので、二人で並んで腰かけた。
 早速、ココが焼き芋を手渡してくれる。
 焼きたてから少しだけ時間が経っているが、じんわりと手に熱が伝わってきた。
 良一が焼き芋の真ん中あたりに力を加えて二つに割ると、黄色い身が現れた。よだれが口の中にまる。

「じゃあ、いただきます」

 程よく冷めているので、良一は息を吹きかけずにかぶりつく。
 地球で食べていたものよりも甘みは少ないように感じるが、ホクホクとしていて、素朴そぼくな味わいにはなつかしさを感じる。

「久しぶりに食べたけど美味おいしいよ、ココ」
「気に入ってもらえて良かったです」

 ココと一緒に久しぶりの焼き芋を食べながら、楽しく会話する。
 何気なにげない日常だが、こうして恋人と過ごすのも良いものだ。
 思わぬ展開だったものの、神秘調査隊の報告書を読んだ疲れも一気に吹き飛ばせて良いリフレッシュになった。
 しかし思いのほかゆっくりとしてしまったために、良一とココが公爵邸に戻る頃にはすでに皆が揃っていた。
 二人が一緒に帰ってきたのを見て、ねてしまったマアロだったが、良一の〝今度二人きりでデートをする〟という提案でようやく気が収まったようだ。
 その後、少しばかり長くなった公都滞在で世話になったキリカと公爵に別れを告げ、良一達はグレヴァールを発った。


   ◆◆◆


 行きと同じく飛空艇で移動したので、村までの所要時間は短い。
 公都を発った日の夜に一行はイーアス村へと帰還きかんした。

「殿、お帰りなさいませ」

 良一達が屋敷に着くと、留守を任せていたスロントが出迎でむかえた。そのまま良一の仕事部屋で簡易な報告会が始まる。

「スロント、留守の間ありがとう」
「殿の家臣として当然のことです。連絡は受けていましたが、新たな手がかりが見つかったようですな」
「ああ。でも、隣国りんごくのセントリアス樹国に行かないといけなくなったんだ。またしばらく村を空けるかもしれないんだけど……」

 領主ともなれば私用で村を留守にするなんて本来あってはならない。良一が我儘わがままを言えるのも領民や信頼のおける臣下しんかがいるおかげだ。
 良一は周囲に恵まれていることを改めて実感しながら、スロントの顔をうかがう。

「その件ですが……殿、できれば某も異国におもむいてみたいのです」

 彼の意外な言葉に全員が顔を見合わせる。皆より少し早く我に返った良一が、スロントに尋ねた。

「スロントはセントリアス樹国には行ったことがないのか?」
左様さようでござる。それに某も〝神の塔に行く〟という殿の望みをかなえるための一助いちじょとなりたいのです。願いを聞き入れてはもらえませぬか」

 スロントにはいつも世話になってばかりの良一は、その願いを一も二もなく了承した。

「もちろん構わないよ! それじゃあ、留守の間はポタル君に村をお願いすることになるのかな?」

 そこだけが若干心配だったが、スロントが太鼓判たいこばんを押した。

「ポタルも最近ではめきめき成長して仕事をこなしているでござる。もう任せられるでしょう」
「頼もしいな。それなら彼にお願いしようか」
「ありがとうございます」

 今回セントリアス樹国には、神秘調査隊のジークなる人物についてトーカ神官長に聞くために行く。
 ただ二百年も前の話なので、仮にトーカが覚えていても情報は古い。ジークの足跡そくせきを辿るためには、調査に一ヵ月はかかるとみておいた方が良いだろう。
 そういう事情もあり、公都に行った時と違って村を空ける準備に半月は必要だった。
 留守を頼まれたポタルも緊張気味きんちょうぎみではあったものの、〝精一杯努めます〟と返事をした。


   ◆◆◆


 そして良一達がセントリアス樹国に向けて出立しゅったつする日がやってきた。
 いつもと同じく飛空艇での移動になるので、大々的な見送りなどはない。一行はそれも自分達らしいと笑いながら飛空艇に乗り込んだ。
 そこからは寄り道もせずにセントリアス樹国に向かう。
 海を越えて山を越えて飛空艇は空を一直線に進んでいく。その快適さは陸路や船旅とは雲泥うんでいの差だ。
 良一が船内でメアやモアの相手をしているうちに、あっという間に目的地のセントリアス樹国がせまってきた。
 良一は国境の関所せきしょを通らずに入ってもいいのかと心配したが、スロントによると各国の大使館に事前に連絡を入れておけば処理しておいてくれるらしい。なんでも各国を行き来する商隊などがいちいち入国審査をしなくてもいいように作られた制度だそうだ。
 そのため、飛空艇はこのままセントリアス樹国の首都であるリアスを目指すことになった。
 リアスはセントリアス樹国のシンボルである〝世界樹せかいじゅ〟に寄り添うようにできているため、飛空艇で近づきすぎると人目についてしまう可能性がある。
 とはいえ、世界樹から離れすぎても町が遠くなる。そこで一行は、マアロの故郷、モラス村へ行くことにした。
 首都リアスから陸路で三日ほど離れてはいるけれど、もともとひっそりとした場所にある村なので、飛空艇も問題なく着陸させられた。
 そこから少し歩いて村に到着する。ここに来るのは亡者の丘を解放した時以来だったが、亡者の襲撃しゅうげきによる建物の破損はそんなども修理されて傷あとを感じさせない。
 活気が戻ったみたいで何よりである。
 夕暮ゆうぐどきで家に帰る途中なのか、結構な数の村民達が歩いている。
 良一達一行の姿を見つけると、皆が笑顔で迎えてくれた。
 良一は亡者の丘を解放した英雄として村中に知られているらしく、わいわいと村民に囲まれながらマアロの実家に向かうことになった。
 玄関先では一行が到着するとの報を伝え聞いたのか、マアロの母親のマリーナと父親でモラス村の村長であるパアロが揃ってこちらに手を振っている。

「おかえり、マアロ。そして亡者の丘を解放した英雄、石川君」
「ただいま」
「ご無沙汰ぶさたしております」

 どこか嬉しそうなマアロに続いて、良一も挨拶を返す。
 ココ達とも簡単に挨拶を交わしてから、一行は家に招き入れられた。
 良一達が家に入って早々、奥からマアロの弟のテリンもやって来る。
 リビングにあたる部屋に一同が揃ったところでパアロが口を開いた。

「遠いところをまた来てくれて感謝するよ」
「いえ、突然押しかけてしまって申し訳ないです」
「気にすることはない。マアロや石川君、もちろん他の皆さんも、いつ来ていただいても構わない」
「ありがとうございます」

 以前来た時も感じたが、パアロはそっけないように見えて、実はとても心遣こころづかいのできる人だ。だからこそ村長を任されているのだろう。

「それで今日は里帰りか。それとも何か用事があるのか?」
「首都リアスにいらっしゃるトーカ神官長に用事がありまして。少ししたらそちらに向かおうかと思っています」
「そうか、トーカ神官長に」

 頷くパアロにマアロが尋ねる。

「あれからトーカ神官長は村に来たの?」
「いや、亡者の丘が解放されてからは森も静かになった。彼女の力を借りずとも村の安全は保たれている」

 そんなことを話していると、良一がテリンから注がれる視線に気がついた。

「テリン君、どうしたのかな?」
「前に来た時は姉さんが近づくとそれとなく制止していたのに、今日はやけに距離が近いような……」

 テリンはマアロのことが大好きで、若干シスコンのがある。
 前回モラス村を訪れた際は、マアロが良一に好意を寄せていると知って絶望していた。
 亡者の丘を解放したのをたりにして少しは良一を見直したようだったが、どうやらそれも効果切れらしい。
 そこへマアロが唐突とうとつに爆弾を落とした。

「良一とは恋人になった」

 いきなりの暴露ばくろに良一も戸惑とまどったが、この場で言ってしまうのがいいと思って口を開く。

「少し前からマアロとお付き合いをさせていただいております」

 最初はその言葉に、パアロとマリーナはとても驚いていたが〝娘が選んだ人だから〟とすぐに喜んでくれた。
 特にマリーナは娘の恋が叶ったのがよほど嬉しかったらしい。良一に頭を下げてマアロのことを頼み込んできた。
 しかしその横で、固まっている人影が一つ――そう、テリンだ。
 微動びどうだにしなくなってしまった彼に、皆の視線が集まる。
 マアロが息を一つ吐いてから肩をつつくと、テリンはその体勢のまま横倒しになった。
 どうやら、マアロが付き合っているという衝撃しょうげきのあまり、気絶してしまったようだ。
 パアロが抱きかかえてテリンの部屋へと運ぶ。彼は良一とすれ違う時に〝これでテリンも姉離れをして成長できるだろう〟と、良一を気遣う言葉をかけて去っていった。
 とはいったもののパアロ自身も男親として複雑なのだろう。夕食はテリンの看病かんびょうのためと言って、良一達とは別で食べるそうだ。
 良一は少し気まずい雰囲気の夕食になったことをマリーナに謝罪する。

「すみません、なんだか変な感じになってしまい……」

 マリーナは気にしたふうもなく微笑んだ。

「気にしないでくださいな。二人とも明日になれば落ち着くはずですから」
「そうだといいんですけど……」

 その後はマリーナの心遣いもあり、一行はおだやかな時間を過ごせた。
 彼女が腕をふるった手料理を皆で食べて、良一達の旅の話をして盛り上がる。
 セントリアス樹国とマーランド帝国の戦争が記憶に新しい世代であることを考慮こうりょして、帝国の話はけていたのだが、マリーナ自身には帝国への悪感情はないそうだ。
 そのおかげで和気わきあいあいとした雰囲気で美味しく夕食をいただけた。
 食事を終えた頃にはメアとモアがすっかりマリーナに懐いて、髪を結んでもらうなどしていた。こうして見るとマアロを含めて三人姉妹みたいだ。
 早くに親をくしたメアとモアからすれば、母親のように甘えられる人は珍しい。ココはどちらかと言えば姉といった感じで、マアロに至っては同い年と言われても違和感がない。
 良一はそんな異世界でできた妹達を微笑ましく見守りながら、キャリーとスロントと一緒に、白ワインに似た酒を飲んでいた。
 その果実酒は甘いにおいとスッキリした味わいで、アルコール度数も低いのか、とても飲みやすい。


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