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第126話

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 「お疲れ様でした。公爵ファース様との今後の話をつけることが出来ましたので、我々がする事はもう殆ど無いでしょう」

 「これで、貴族のおっさん共の長い話から解放されるのか、貴族様向けの態度は肩がこって仕方が無いぜ」

 ファース公爵主催の晩餐会が終わり、ゴーレンさんの実家で優人達はゴーレンさんからの報告を聞いていた。

 「既に私達は王城勤めを辞めた身として、これ以上の干渉は貴族達から逆に干渉を受けることになるでしょう。私も年老いた身ですから、今更、策謀渦巻く貴族様相手にやり合うのは、ダンジョンの攻略以上に体を酷使しそうですしね」

 「ドワーフの里には、治癒効果の高い温泉が湧いているからな貴族相手に擦り減らした神経を温泉に浸かって、癒してからレベル9と10のダンジョンに挑もうぜ」

 そうして、話し合いは終わり全員で修行空間の寝室で寝ることにした。ゴーレンさんの実家の寝室も十分平均よりも高いが、修行空間の寝室には負けるので誰もゴーレンさんの実家の寝室では眠りたがらなかった。

 

 「じゃあ、最後の挨拶に行ってくるか」

 翌朝、ゴーレンさんとアスカさんとサロパスタの3人がファース様の王都での邸宅を訪れて挨拶をしてくるらしい、世間一般で言われている王都を救った英雄がファース様の邸宅に訪れることで、ファース様の工作が上手くいくようになるらしい。

 「行ってらっしゃい」

 その他のメンバーは3人が戻ってくるまで自由時間になるので、さあどうしようかと話し合っていると

 「なら、王都を観光しない?王都に来てから貴族様の相手ばかりで観光する気分でもタイミングでも無かったから、今なら住民も戻ってきて商売が結構再開しているようだしね。案内するよ」

 ナセルさんがそう言うので、残りのメンバー全員で観光することに決まった。


 「あそこにあるのが、建国王が引き抜いたと言われる王剣ビルトスよ。あの剣を引き抜くことが出来ればその者がこの国の王となることが出来ると言われていてね、王都に来たらみんなが一回は引き抜こうとするの。まあ誰にも抜けないけどね」

 ナセルさんがそう言うので、みんなも一回引き抜いてみようとした。

 「じゃあ、引き抜くわよ」

 どう言う順番で剣を引き抜くかじゃんけんで決めて、1番目にリーン、2番目にフィーレンさん、3番目にレイア、4番目に優人、最後にスノウと言う順番になった。ホワイトとナセルさんとデロックさんは過去にやった事があるそうなので、今回は挑戦するのを見送った。

 「ふぐぐぐぐ、ダメだわ。まあ私は精霊王の卵だから人間の王にはならなくても精霊王になるから良いの」

 リーンは、そう言って剣を引き抜くのを辞めた。

 「次は私か」

 そう言ってフィーレンさんも試したが剣は抜けず、レイアも同様に抜くことは出来なかった。

 「じゃあ、真打の登場だな。勇者の実力を見せてやる」

 優人は、そう告げてから王剣の前に進み出た。

 「刮目せよ!」

 そう言って、王剣を握る手に力を込めると、ゴゴゴと鈍い音を立てるが抜けることは無かった。

 「ユート君でもダメだったか」

 ナセルさんの呟きが胸に少し刺さった。

 「最後は私」

 そうして、スノウが王剣の柄を両手で握り、えいっと言う掛け声とともに力を入れると王剣ビルトスは何の抵抗もなく引き抜けた。

 王剣を雨風から守るために天井と3方向に壁が設置されて、優人達以外の一般人から中の様子を見れないようになっているが、レイアがスノウの側まで近寄り、スノウの手の甲両手を添えてそのまま元々刺さっていた場所に、突き刺した。

 「みんなは何も見ていない、さあ次の観光地に行ってみよう」

 誰にも見られていないことを、これ幸いと全員が今見たことを黙殺した。

 
 

 

 

 
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