三匹が奔る

もず りょう

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第一章 シャムからやって来た男

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     一

 卑賤の身から才覚ひとつで成り上がり、織田信長の草履取りから夢のような出世街道を駆け上がって、ついには天下人となった太閤豊臣秀吉が病死して、わずか二年。
 慶長五年(一六〇〇)九月十五日に美濃国関ヶ原で繰り広げられた天下分け目の大いくさは、豊臣家の天下を簒奪せんと目論む徳川家康の圧勝に終わった。
 豊臣家を守るべく西軍を組織して家康に立ち向かった石田三成、小西行長、安国寺恵瓊らは敗軍の将として京の六条河原で斬られ、同心した会津の上杉景勝、安芸の毛利輝元、土佐の長宗我部盛親ら有力諸侯も大幅な減封や転封、改易などの憂き目を見た。
 それから三年後に家康は征夷大将軍に就任。さらに二年後の慶長十年(一六〇五)には息子の秀忠が二代将軍の座に着き、天下の権は完全に江戸の徳川家へと移った。秀吉の遺児秀頼は摂河泉(摂津・河内・和泉)に六十万石を有するだけの一大名に成り下がった。それが今から四年前のことである。
 むろん豊臣家がこれをよしとするはずはない。秀頼の生母淀の方やその寵臣大野治長らを中心に虎視眈々と再起の時をうかがっている。
戦乱の余燼未だ冷めやらず、むしろ次のいくさを今や遅しと待ち焦がれる関ヶ原牢人らの澱んだ活気が上方を中心に充溢していた。
 ここ、京の都においても例外ではない。
 今や日本の火薬庫と化した感のある大坂にほど近いこともあり、どことなく行き交う人々の様子も殺気立っている。ただでも困窮している公家たちから雀の涙ほどの金品でも強奪せんと乱暴狼藉を働く不逞の輩や、腕試しと称して誰彼かまわず喧嘩を吹っ掛けていく血の気の多い荒くれ者どもが昼日中から往来を闊歩し、落ち着かぬことこの上ない。
 多くの民衆にとっては、まさしく迷惑千万な話だったが、一方で一攫千金、あるいは些か時代遅れな下剋上の夢を抱えた若者たちにしてみれば、これはこれでなかなか魅力的なご時世ではあった。
 薄汚いなりをして連日、当て所もなく通りを彷徨う山田仁左衛門長政もまた、この喧騒の向こう側に「何か」を見つけようともがくひとりだった。
 束の間の平和を享受する余裕は、彼の心にはない。
 ――いっそ今すぐにでもいくさが始まればいい。
 故郷の駿河国沼津を出奔して、はや二年あまり。十九歳という若さをどうにも持て余している。最近では、
 ――こんなことならば、おとなしく殿の六尺(駕籠かき)を勤めていればよかったかな。
 などと思うようにさえなった。
 ここでいう「殿」とは、沼津藩主大久保忠佐。後には「徳川十六神将」にも数えられたほどの名将だが、身代は二万石と小さい。生粋の武人肌で、大名として政治向きのことに携わるのは好きでもなければ得意でもないという人物だったから、存外それぐらいがちょうどよかったのかもしれない。それでも要衝の地である駿河国に所領を賜ったのは、家康の信頼が厚かった証拠だろう。
 忠佐は飾らぬ人柄で、しがない駕籠かきにすぎぬ仁左衛門にもよく気を配ってくれた。細かなことに拘らない鷹揚な性格で、古武士然とした豪快さを持っていた。齢七十を超えてからはさすがに体の衰えを感じるようになったらしく、駕籠に乗って外出する機会もずいぶん減ってしまったが、たまに顔を合わせると、
「どうじゃ、風邪などひいてはおらぬか」
「おぬしもそろそろ嫁を探さねばならぬ年頃であろうが。誰か好いた女子はおるのか」
 などと気さくに声をかけてくれた。
 ――小大名とはいえ大久保家は譜代の名門。しかも殿は大御所さまのお気に入りときている。あのまま仕えつづけていれば、決して裕福ではないが、まずは安定した暮らしが送れていただろうな。
 仁左衛門は時折そんなことを考えて昔を懐かしんだ。
 駕籠かきという仕事に意義を見出せなくなったのは、今となっては若気の至り、早計だったのではないかとすら思えてくる。たしかに変化に乏しいつまらぬ仕事ではあったが、それでももっとやりがいを見出す努力をすべきだったのかもしれない。忠佐には子がなく、未だ後継ぎが決まっていないことも出奔の理由のひとつだったが、いざとなれば養子の来手などごまんとあるに違いない。それを将来性が危ういと決めつけてしまったのも、気持ちに焦りがあったせいだろうか。
 ――ええい、迷うな。
 仁左衛門はみずからを叱りつけた。
 ――おのれで決めた道ではないか。今さらくよくよ思い悩むなど男らしくないぞ。
 見上げると、雲ひとつない晴天である。
どこまでも突き抜けるような青い空。
かつては夢と希望の象徴のように思われたその青空さえ、今となっては自分の定まらぬ生きかたを嘲笑しているかのように思えて、切なさに溜息が洩れた。
――いったい俺は何を求めているのだろう。
変わり映えのしない日常への不満は、たしかにある。かといって、殊更に不安定をよしとするわけではない。低空安定の暮らしがもどかしいのは事実だが、それもよくよく考えてみれば、
――まあ、人生なんてそんなものだよ。
と、訳知り顔で説諭する大人たちへの反発が大きいような気もする。
――あんたたちは、そうかもしれない。だが、俺はそんなもので終わりたくはないんだ。
時折、大声でそんなふうに叫びたくなる衝動に駆られるのだった。
そんなこんなで故郷を離れ、京へ出てきて、はや二年。
この燻った現状を打破するすべは、未だ見つかっていない。
見つかる気配もない。
 溜息を吐いて、ふと横を向くと、改築工事中らしき屋敷から何人かの人足が出てきた。いずれも上半身は裸で、筋骨隆々たる体躯をこれ見よがしにひけらかしているようである。
 仁左衛門はそんな彼等を眩しそうな眼差しで眺める。
 体力や腕っ節には自信がある。京へ出てきてすぐの頃は、幾度か日銭稼ぎのために人足仕事をしたこともあった。しかし、最近はそれからも遠ざかっている。
 あの頃は感じなかったもどかしさや苛立ちを、次第に感じるようになった。特に、汗水を垂らしながら木材を運んだり釘を打ったりしている横を青白い顔をした公家や身なりのいい武士が通り過ぎて行くのを見ると、何か得体の知れぬ焦りを覚え、同時に彼等の目がどこか自分を蔑んでいるような気がして、いたたまれない気持ちになるのだった。それが厭でたまらず、この頃はまともに働くこともしなくなっていた。
 ――こんなことではいけない。
 とは思うのだが、どうすることもできない。完全に悪循環のどつぼにはまってしまっているのだった。
 目の前を人足たちが楽しげに談笑しながら横切って行く。発達した胸筋の上を流れ落ちる汗が輝いている。
 ――連中、いくつぐらいだろう。見たところ、俺とあまり変わらぬようだが。
 仁左衛門は探るような目で彼等を見詰める。
 ――彼等は今の自分に満足しているのだろうか。毎日変わり映えのしない仕事に従事し、体中が悲鳴を上げるほどきつい思いをして働いて、苦労知らずの公家や武士からわずかばかりの賃金をもらい、ありがたがる。そんな日々に疑問を抱くことはないのだろうか。
 不意に町人の倅と思しき男の子たちが隣を駆け抜けて行った。ひどく楽しげな様子である。おそらく手習いが終わり、これから遊ぼうとしているのだろう。
 ――子どもはいいさ。世間の世知辛さなどつゆ知らず、無邪気な夢を見ることができるのだからな。
 そう思って、ふたたび視線を人足たちのほうへ戻す。
 ――彼等だって、子どもの頃から日雇い人足になりたかったわけではないはずだ。夢破れた結果、ここにいる者がほとんどだろう。なのに、どうしてあんなに楽しそうにしていられるのだ。
 なんともいえないやるせなさを覚えて、ふーっと大きな溜息を吐いた時である。
「てめえ、おい、この野郎!」
 突然、野太い怒号が降ってきた。
「あ、はい、すみません」
 反射的に謝ってしまってから、
 ――うん?
 と、我に返る。
 ――いったい何事だ?
 自分はただ歩いていただけなのだ。こんなふうに誰かに怒鳴られるいわれなどない。
 ――ああ。
 仁左衛門はすぐに得心した。
 ――俺が怒鳴られたわけではないのか。
 そうとわかったのは、工事中の公家屋敷からひとりの男が転がるように走り出てきたからである。
 足をもつれさせながら、何やらわけのわからぬことを上ずった声で口走っている。
 顔色は蒼白い――いや、蒼黒い。
 ――南蛮人か?
 一瞬、そう思ったが、どうもそうではなさそうだ。彼の知る南蛮人はもっと眼窩が落ち窪んでいて、鼻が天狗のように高い。
 今、目の前に飛び出してきた男は、むしろ扁平な顔立ちをしている。ひどく浅黒いところを見ると、どこか南国の人間だろうか。とにかく異相である。
「こいつ」
 数人の人足が追いかけてくる。
 異相の男は、助けを求めるように仁左衛門の背後に回った。小柄な彼の体は、六尺(約百八十センチ)を超える仁左衛門の巨躯にすっぽりと隠れてしまう。
「なんだ、てめえは」
 人足のひとり、頭目と思しき髭面の男が凄んできた。その言葉は、今度こそ仁左衛門に向けられたものである。
「そいつを庇うのか」
「いや、俺は――」
 関係ない、と言いかけて、ちらりと背後を見る。
異相の男は対手をきつく睨みつけている。そのくせ小さな体は、ずっと小刻みに震えているのだった。怖いのを懸命にこらえて虚勢を張っているのだろう。
仁左衛門の中の、
――悪い虫
が、むくむくと頭をもたげてきた。
「相手はひとりだ。何があったか知らないが、そんな大勢で袋にしようってのは感心しないな」
「なに」
 髭面の隣にいた痩せぎすの男が喰ってかかる。目元がひどく暗く、陰険な印象を与える男である。
「てめえ、そいつの知り合いか」
「いいや、知らぬ。ただの通りすがりだ」
「ならば、余計な手出しはするな」
 痩せぎすは笠にかかってきた。
「痛い目を見るぜ」
「ほう」
 仁左衛門の目は、もう完全に据わっている。
「やれるものなら、やってみろ。てめえごとき青瓢箪に、この俺が倒せるかね」
「馬鹿、やるのは俺じゃねえ」
 痩せぎすはそう言って、後ろを振り返った。
「剛蔵さん、やっちまってくださいよ」
 髭面が、一歩前へ進み出た。
「剛蔵さんは地元じゃ札付きのワルでな。これまでに三人ほど人を殺めているんだ。小生意気な青二才、おまえが今日、晴れて四人目の犠牲者になるんだな」
 痩せぎすは底意地の悪そうな目で仁左衛門を見ながら、髭面の背後へ身を引いた。
 髭面は仁左衛門の目の前へ立った。
 巨漢である。
 長身の仁左衛門を、さらに頭ひとつ上回っている。肩幅も広く、筋骨隆々たる体躯だ。
 おそらく元は武士なのであろう。かなり厳しい鍛錬を積んだ者でなければ、これほどの体は作り上げられまい。おおかたどこかの大名家に仕えていたのが御家の滅亡などで身を持ち崩し、日雇い人足に成り下がってしまったのだろう。
 ――これだけ立派な体つきをしているのだ。かつては輝かしい功名のひとつやふたつ上げているかもしれないな。
 そう考えると、やはり武家奉公から脱落したおのれの身の上と重ね合わさるところがあって、かすかな同情にも似た思いを抱いたが、向こうはそんな感傷になどおかまいなしである。
 物も言わず、猛然と殴りかかってきた。
 仁左衛門は難なくそれをかわす。
 思いのほか動作が遅い。みずからの巨体を、むしろ持て余している感じだ。
 ――これならば、勝てる。
 咄嗟に、そう踏んだ。
 心に余裕が生まれ、つい笑みがこぼれる。
 髭面は、それを侮りと見て取ったらしい。
「貴様」
 怒りに声を震わせながら、ふたたび突進してきた。
 やはり、遅い。
 苦もなくかわしつつ、反撃の一手を打った。
 勢い余って前のめりになる髭面の首筋に、したたかな手刀をお見舞いしてやったのだ。
「ぐおっ」
 髭面は蹈鞴を踏んだ。
 酔漢のような動きで、それでもなんとか立ち直る。
「許さぬ」
 その言葉どおり憤怒の形相も凄まじく、三度目の正直を狙ってきた。
 だが、二度あることは三度あるものだ。
 仁左衛門は髭面の体を泳がせると、今度は腰のあたりを力まかせに蹴りつけた。
「うわっ」
 髭面は顔から地面に突っ込んだ。
 ゴン、という鈍い音がする。
「くそっ」
 振り向いたその顔からは、鼻血が噴き出していた。
 立ち上がろうとしたが、思いのほか腰に受けた衝撃が強かったらしい。
 そのままへたり込むように膝から崩れ落ちた。
「お、覚えていろ」
 先程までとは打って変わって、蚊の泣くような声で捨て台詞を残すと、髭面は這うようにしてその場から立ち去った。
「あ、待ってくださいよ、剛蔵さん」
 痩せぎすが慌ててその後を追う。
 いつの間にか集まって来ていた野次馬たちが、そのさまを見て一斉に笑い転げた。
 爆笑と喝采の渦の中、仁左衛門は面映ゆげに引き上げにかかる。
 その傍らに、ぴたりと寄り添って来たのは、髭面と痩せぎすに追われていた異相の男だった。

     二

 近くの小料理屋へ腰を落ち着けた仁左衛門と異相の男は、取る物も取り合えず茶漬けをかき込んだ。
「いやあ、とんだ目に遭ったな」
 仁左衛門は、ふーっと大きな息を吐く。
「相手が弱くて本当に助かったよ。それにしても、ずいぶん性質の悪い連中だったなあ。いったい何者だ、あいつらは」
 仁左衛門の問いかけに、異相の男は答えない。
「知り合いか」
「……」
「なぜ、おまえを襲う」
 何を聞いても、沈黙したままである。
「やれやれ、せっかく助けてやったのに、だんまりかよ」
 仁左衛門は苦笑して、匙を投げた。
「名は?」
 口調をやわらかくして、質問の角度を変える。
「見たところ、このあたりの人間ではないようだが」
「……オイン」
「えっ」
「オイン」
「おいん? どんな字だ」
「……字?」
「そう、漢字だよ。ないのか」
「……ない」
「ふうん」
 仁左衛門は不得要領ながらも頷く。実際、当時の身分の低い人々の間では、みずからの名に正確な漢字を当てる必要もなかったことから、知らないというよりも、これといって決めていない場合も少なくなかった。この男もそうに違いないと仁左衛門は判断した。
「どこから来たのだ」
「……アユタヤ」
「え、なに? 聞こえなかった。もう一度、言ってくれ」
「アユタヤ」
「アユ……? どこだ、それは。西国か」
「……シャム」
「ああ、シャムか……、って、ええっ!」
 仁左衛門は素っ頓狂な声を上げた。
「シャムって、おまえ、あの異国のシャムのことか」
 ずいぶんと間の抜けた問いかけだが、オインと名乗る男は真顔で大きく頷いた。
 異国のシャム――現在のタイである。
「これは驚いた。おまえは、シャムにあるアユタヤというところから来たというんだな」
 道理で異相なわけだと、仁左衛門はひとり合点した。
 シャムをはじめとする東南アジア地域との交易は、このところ、にわかに活況を呈し始めている。西欧諸国――いわゆる「南蛮」の国々と違って、キリシタンの影響を受けることのない東南アジア地域との結びつきを大御所家康が積極的に強めようとしたためである。
家康は、西国の大名や京の商人らに対して、シャムやカンボジア、アンナン(現在のベトナム北中部)などへ渡るための朱印(渡航許可証)を次々と発行した。彼等はそれをもって彼の地へ船を送り、長崎などを拠点としてさかんに交易を行った。交易の主な内容は銀や銅などの鉱物、刀剣類、陶器などの輸出と、染料や皮革類の輸入である。
物の交流は必然的にそれに付随する人の交流を生む。とりわけ日本からは、関ヶ原牢人など職を失った武士たちが一攫千金を狙ってシャムへ渡った。
今、目の前で二杯目の茶漬けをかき込んでいるオインという男は、それとは逆にシャムからこの日本へやって来たらしい。
「おまえ、いくつだ」
「十六」
「若いな。俺より三つも年下か」
 仁左衛門は驚いてみせる。
「アユタヤとは、どういうところだ」
 つづけて、そう訊ねた。
大きな体が前のめりになっている。
 興味津々なのだ。
 生来、好奇心は強い性分である。まだ見ぬ異国の話は聞くだけで胸が熱くなる。
「人は多いか」
「多い」
「どれぐらいだ。この京と比べて、どうだ」
「比べられない。比べ物にならない」
「そうか、さすがにこれほどではないか」
「違う、アユタヤのほうが人、多い」
「なんだって」
 仁左衛門は驚きの声を上げた。
「それほど栄えているのか、アユタヤというところは」
「アユタヤは王の都。人も物も溢れ返っている」
「それを言うなら、この京だって天子さまのおわす歴とした日の本の都だぜ。といっても、最近はもっぱら江戸や駿府のほうへ人も物も集まっているから、京や大坂といった西国は寂しいものだがな」
「我等が王の力、大きい。この国のように東西に分かれていくさ、ない」
「アユタヤは王が治めているのか」
「ナレスワン王、とても偉大な人」
「なれ……、なんだ?」
「ナレスワン王。アユタヤ王朝を復活させた英雄」
オインは姿勢を正し、片言の日本語を駆使しながら、故郷であるアユタヤの歴史を語り始めた。
 それによれば――。
「平和の都」を意味するアユタヤは、すぐ側を流れる大河チャオプラヤ川を水上交通のツールとして活用する一方で、これを水堀に見立て、町の周囲を城壁で囲むことによって天然の要害を形成した。一五六九年、隣国ビルマの軍勢に攻められてアユタヤは一度陥落したが、当時、王子の地位にあったナレスワンは精鋭部隊を組織して反撃に転じ、ほどなくアユタヤを奪還した。ちなみにこの時、ナレスワンが率いていた精鋭部隊が仕込まれていた独特の武芸が、後のムエタイの原型になったと伝えられている。
以降、アユタヤは王位に就いたナレスワンの指導のもと、シャムの王都として目覚ましい発展を遂げているという。
これはオインも知らぬ話ではあるが、この当時のアユタヤの人口は実に十五万人を超えていたとされる。これは同時代の英国ロンドンをもしのぐ数である。その殷賑ぶりがいかに凄まじいものであったかを窺い知ることができよう。
 町の住民は現地人のみにかぎらず、中国系やマレー系の移民たち、オランダやポルトガルの商人、さらには日本から渡った牢人衆など実に多様な民族によって構成されている。
彼等はそれぞれ決まった区域に自分たちの町を築いて居住していた。オランダ人町、ポルトガル人町、日本人町などのようにである。とりわけ一六〇八年にオランダ東インド会社の商館が作られてからは、多くのヨーロッパ人が出入りするようになっていた。
「日本人町には、どれぐらいの日本人が住んでいるのだ」
 仁左衛門が訊ねると、オインはちょっと考える仕種を見せた後、
「……たぶん三千ぐらい」
 と、答えた。
「三千? 日本人だけでか」
 仁左衛門は、いよいよ驚きを禁じえない。それだけ多くの同胞が遠い異国の地へ飛躍の場を求めて行ったというのか。
「すごいものだな」
 嘆息すると同時に、何か胸に熱いものが込み上げてくるのを仁左衛門は感じていた。
 自分は今、ここでこうしてくすぶっている。その一方では、新天地に賭ける三千人もの人々が存在するのだ。驚くべき事実であると同時に、おのれの不甲斐なさを再認識させられるような気持ちだった。
「で、そのアユタヤから、おまえはいったい何をしにこの国へやって来たんだ」
 そう問いかけた瞬間、オインの顔がさっと曇った。
「ああ、すまない」
 仁左衛門は手を振ってみせる。
「別に言いたくなければ、言わなくたっていいんだ」
「……」
「こんな世の中だものな。言いたくないことのひとつやふたつ、誰にだってあるだろうさ。まして、おまえみたいに異国の地からはるばるやってきた身の上なら、よほどの訳ありだってことぐらい、ちょっと考えてみれば誰にでもわかることさ」
「……人を」
「えっ」
「人を、探しています」
 オインは差し迫ったような眼差しを仁左衛門に向けながら言った。
「なるほど、人探しか」
 仁左衛門は身を乗り出して、
「男か? 女か?」
 と、訊ねる。
「身内の者か。よかったら話してみてくれ。何か力になれるかもしれない」
「……女」
「女か。おまえのなんだ。母親か? 姉妹か? それとも――」
「……愛しい、人」
「恋人かい」
「とんでもない」
 オインは強く首を振る。
「恋人、とんでもない。あの人は、雲の上の人。でも、私、あの人のこと、愛しい」
「ふうん、なるほどな」
 仁左衛門は得心したといわんばかりに何度も頷いて、
「つまり、あれだな。おまえが探しているのは主筋の女性だ。おまえは、その女性をあるじとして慕っているだけではなく、ひとりの女としても恋い焦がれている。だから、はるばる海を渡って、この日本まで追い求めてきたというわけだな」
 そう結論付けた。
 オインは否定しなかった。彼は真っ直ぐ仁左衛門を見詰めながら、
「私、その人――サララックを、アユタヤに連れて帰りたい。連れて帰らねばならない。仁左衛門さん、お願いです。力、貸してください」
 そう言って、頭を下げた。
「おいおい、やめなって」
 仁左衛門は慌ててオインの頭を上げさせる。
「こうして知り合ったのも何かの縁だ。話を聞かせてもらおうじゃないか。ええと、なんといったかな。その、サ、サラ……」
「サララック」
「そう、サララックだ。それがその人の名前なんだな」
 仁左衛門の問いかけに、オインはコクリと頷く。
「どんな人だ」
「綺麗な人」
「ほう、綺麗な人か。どれぐらい綺麗なんだ」
 オインの顔を覗き込むようにしながら、仁左衛門が訊ねる。
「どれぐらい……、それは、とても……」
 オインの声が消え入りそうに小さくなる。
 蒼黒い顔が、はっきりそれとわかるぐらい赤く染まっているのを見て、仁左衛門は弾けるように笑った。
「ハハハ、わかったよ、オイン。おまえがそのサララックって人をどれほど恋しく思っているかは」
「……」
「よし、いいだろう。俺も一緒にその人を探そうじゃないか」
「えっ」
 それまで暗く沈みがちだったオインの表情が、パッと明るくなった。
「本当ですか」
「こんなところでつまらない嘘をつくものかよ。本当だ、力になるぜ」
「コープン・クラップ」
「え、なんだって」
「コープン・クラップ。シャムの言葉。この国の言葉では……、そう、感謝。ありがとう」
「なに、礼は後でいいさ。そのサララックって人が見つかってから、たっぷりそのコープン……なんとかをしてもらうことにするよ」
 悪戯っぽく笑う仁左衛門につられて、オインもちょっとはにかむように笑ってみせた。
「さて、そうと決まれば、さっそくだが――」
 だらしなく崩していた姿勢を少しだけ元へ戻し、オインに正対するように背筋をピンと伸ばしてから、仁左衛門はこう切り出した。
「詳しく聞かせてくれないか。おまえが恋い慕うサララックって人は、どうしてはるばる海を超えて、この国へやって来たんだ。そして、おまえはなぜそれを追って来なければいけなかったんだ」
 この質問を真正面から受け止めたオインは一瞬、たじろいだように体を後ろへ傾けたが、すぐに気を取り直して態勢を立て直し、
「あれは一年前の熱い夏のことでした」
 噛み締めるような口振りで、ゆっくりと語り出した。

     ***

 アユタヤはとても大きな町です。
 偉大な王のもとで豊かになったアユタヤはしかし、さらなる富を得ようとする一部の悪徳貴族たちが、ある時は政治的に、またある時は武力を使って強引に、互いを追い落とそうと画策する、陰謀渦巻く町でもありました。
 権勢の旨みに目がくらんだ彼等は、半ば公然と自家の兵力を蓄えるようになりました。といっても、正規の兵――日本でいうサムライではありません。多くは食いっばぐれたならず者どもです。特に南蛮人が用心棒として貿易船に乗せて連れてきた彼の地のごろつきどもがそのままシャムに居ついてしまい、そうした悪徳貴族たちに雇われるということが次第に増えてきました。
愚かな貴族たちは雇い入れたごろつきどもに言い含めて気に入らない相手の屋敷を襲わせ、家財はおろか人の命までも奪ってしまいます。
表向き強盗の仕業を装わせますが、むろん誰も信じてはいません。政敵同士の醜い争いとわかっていながら、みなが口を噤んでいる。次の標的にされるのが怖いから見て見ぬふりをするのです。
こうして悪徳貴族どもは思うままに権力を弄ぶようになりました。しかし、そんな彼等にも困った問題が起こります。
はじめのうち、ただ暴れられるだけで満足していたごろつきどもが、報償を要求するようになってきたのです。
悪徳貴族ともは一策を講じました。これまで襲った屋敷の住人らをことごとく殺していたのをやめて生け捕りにし、事もあろうに外国で奴隷として売り払うことを始めたのです。
奴等は南蛮から交易のためにやってくる商人たちと手を組みました。商人たちの中には悪どい者らがいて、普通に交易しているだけではとうてい得られないような巨万の富を、どんな手を使ってでも得ようと企んでいます。そんな連中に巧みに話を持ち掛けて、人間を売り買いするという許されざる悪行に手を染めさせたのです。
もちろん王朝内部の有力者たちはそういう風潮が起こりつつあることに気付いていました。気付いていながら、みながそれを黙殺しました。
 そんな中、勇敢な方がおられました。
 わが主にしてサララックのお父上に当たる、ソムチャイさまです。
 ソムチャイさまは誠実なお人柄で王の信頼も厚く、政権の中でも重きを置かれていましたが、その生真面目すぎる性格が災いして、一部の奸臣どもから目の敵にされていました。何しろわずかな悪事でも知れば決して見逃さず、とことん追い詰めるまで糾弾してしまうものだから、悪党どもにしてみれば目障りで仕方がなかったのでしょう。
 ある時、ソムチャイさまの屋敷が襲撃されました。
 表向き盗賊の仕業とされていますが、そうでないことを私たちは知っています。
 あの日、お屋敷を襲ったのは紛れもなく悪徳商人ティーラニーの手下でした。
 奴等は暴虐の限りを尽くしました。屋敷の中にあった金銀を根こそぎ奪い、そこで働いていた年寄りたちはみな虫けらのように殺されました。若者や子どもたちは働き手として、女は慰み者としての使い道がありますが、年寄りたちにはそれがない。奴等にしてみれば役立たずのお荷物です。
 実際、奴等は物でも扱うようなぞんざいさで年寄りたちを刺し殺して行きました。私のような者にも優しく接してくれた、本物の祖父のように慕っていた爺さまも、ズタズタにされて息絶えました……。
 生き残った私たちは、奴等に攫われようとしていました。
 積み荷のように担がれて連れ去られようとした、その時です。
「待ちなさい」
 屋敷の中から凛然とした声が聞こえました。
 振り向くと、私の――いいえ、私たちのサララックがそこに立っていました。
 彼女は盗賊の首領と思しき男の前へつかつかと歩み寄ると、その目をしっかり見据えながら、こう言い放たれたのです。
「今すぐこの者たちを放しなさい。もし、あなたがこの者たちすべてを解放すると約束するならば、私が身代わりとなってあなたたちについて行きましょう」
 思いもかけぬ申し出に、首領は一瞬、たじろいだ様子でした。
 むろん私たちも驚きました。
「何をおっしゃいますかッ!」
 あちこち殴られ、蹴られてきしむように痛む体から、懸命に声を絞り出します。
「いけません、お嬢さまッ!」
 しかし、サララックは微動だにしませんでした。挑みかかるような眼差しを首領に向けたまま、
「さあ、どうするのです」
 と、決断を迫ります。
「くっ」
 さしもの首領も、サララックの気魄にすっかり気圧されていました。
「……よっ、よかろう」
 声を上ずらせながら、首領は答えました。
「それでは、望みどおりにしてやる」
 奴は奴なりに頭の中で計算したのでしょう。
 サララックほど美しい女性は、そうはいません。彼女ひとり獲物にすれば、私たち家人全員を売りさばくよりもはるかに価値があるはずです。
「おい」
奴は部下どもに、私たちを解放するよう命じました。
 部下どもは不服そうでしたが、それでも首領の命令に背くわけにはいかず、私たちを地面に投げ捨てます。
 そのさまを見届けてから、首領はサララックの手を取ろうとしました。
「約束だ。一緒に来てもらうぞ」
「放しなさい」
 ふたたびサララックの毅然とした声が飛びます。
「私は誇り高きソムチャイの娘。約束は守ります」
 そう言いきると、彼女は首領の前へみずから進み出て、悠然と歩き始めました。
 首領も、部下どもも、呆気に取られたようにその後へつづきます。
「お嬢さまッ!」
 みなの悲痛な叫び声をか細い背中に受けながら、しっかりと胸を張って歩くサララックの姿を、私たちは脳裏に焼き付けました。そして、必ずや自分たちの手でサララックを救い出してみせると、固く心に誓ったのでした。

     三

「それから私は懸命にサララックの行方、探しました。そして、ついに掴んだのです。サララックをさらった首領の船、日本国へ向かったこと。私は積み荷に紛れて、この国へやって来ました」
「すると、密航か」
「はい。私、貧しい。伝手もない。他に手段、ありませんでした」
「……そうか」
 仁左衛門は、深々と嘆息した。
「ずいぶんと辛い目に遭ってきたのだな」
「辛いの、私じゃない」
 オインは双眸に滲む涙を拳で拭いながら言った。
「本当に辛いの、私じゃない。サララック」
震える声を、懸命に励ましている。
「私、もともと貧しいから辛いの、慣れている。でも、サララック、違う。サララック、貴族の娘。辛い暮らし、慣れていない」
 口吻が次第に熱を帯びてきた。
 仁左衛門は神妙な面持ちで、その言葉に身を傾ける。
「ほとんどの日本人、優しい。仁左衛門さんもそう。でも、あいつら、違う。あいつら、とても酷い。ポルトガルの商人たちと手を組んで、平気で人を殴る。蹴る。そして、殺す」
「あいつら、とは?」
「サララックを盗賊どもから買った連中」
「会ったのか、そいつらと」
「会った」
「いつ」
「一年ぐらい前」
「どこで」
「堺。私たち、そこでサララック見つけた。連れ戻そうとしたけれど、駄目だった。その日本人ども、私の邪魔をした」
「何者だ、そいつらは」
「わからない。ただ……」
「ただ?」
「私の仲間で少し日本の言葉、話せた男がいる。その男が言っていた。連中が話しているのはキュウシュウの言葉だと」
「九州か、なるほど」
 仁左衛門は頷いた。
「九州の諸大名は朱印船貿易を盛んに行っていると聞く。表向き幕府の許可を受けた交易活動だが、彼等とて戦国乱世の生き残りだ。一筋縄ではいくまいさ。おそらく幕府の目を盗んで、きわどい商売に手を染めている奴だっているだろうよ」
「私と一緒にこの国へ渡って来て、サララックを守ろうとした者たち、みんなあいつらに斬られて死んだ。よってたかって、襤褸布のように斬って、捨てた。あいつら、ならず者。とても大名と呼ばれるような人たちのすることじゃない」
「……ひでえな」
 仁左衛門は同情しつつ、
「だが、わからないぜ。大名たちがおのれの手を汚さぬために、そうした連中を雇っているのかもしれない」
 と、言った。
 オインは悔しそうに唇を噛み締めた。
「私、強くなって、いつか彼等の仇、取りたい。でも、まずはサララック、助けたい。アユタヤへ連れて帰って、死んだご主人さま、安心させてあげたい」
「よし」
 仁左衛門は勢いよく立ち上がった。
「オイン、おまえの気持ちはよくわかった。俺と一緒にそのサララックって女性を探そう」
「探す? どうやって」
「とりあえず、もう一度、堺へ行ってみるんだ」
「堺へ?」
「そうだ。今、朱印船貿易がもっともさかんな港は長崎だが、堺へも依然として多くの南蛮船がやって来ていると聞く」
「たしかに、私も堺からこの国、入って来た」
「そして、おまえがサララックを目撃したのも堺だ」
「そうです」
「ならば、そこへ行けば、何か有力な手掛かりが得られるかもしれぬではないか」
「……はい!」
 オインは目を輝かせた。
 むろん彼とて堺へ戻ることを思いつかなかったわけではないだろう。ただ、日本語も未だそれほど自由に操ることのできぬ身でひとり堺へ入ったところで、いったい何ができるのかと、二の足を踏んでいたのに違いない。
 だが、仁左衛門と一緒であれば心強い。
 ついさっき会ったばかりだが、オインは仁左衛門を、
 ――信ずるに足る人物
 と見ていた。それはほとんど直感的なものといってよかった。
「よろしくお願いします!」
 オインは叫ぶように言った。
「一緒にサララック、探してください」
「ああ、わかったよ。それにしても――」
 仁左衛門は腕組みをして考え込みながら、
「おまえが見た非道な日本人ってのは、いったいどこのどいつなんだろうな」
 と、呟く。
「……わからない」
「仮に九州の大名だとしても、それだけでは見当もつかない。何しろ九州に限らず西国の主立った大名は、みんな朱印船貿易をやっているからな」
 仁左衛門は歯痒さを隠さずに言った。
 オインの表情に、みるみる落胆の色が走る。
 それを見た仁左衛門は、気を取り直すように、
「いずれにしても、同じ日本人として許しがたい大悪党だ。おのれが利益を得るために同胞を南蛮人に売り飛ばすとは」
 そう憤ってみせる。
「そいつらには誇りというものがないのか」
「奴等、本当に酷い。私たちのこと、人と思っていない。牛や馬と同じ」
「馬鹿な。人間は断じて牛や馬ではない」
「ふつう、みんな、そう思う。でも、奴等、そう思わない」
「ふざけた野郎どもだ。オイン、心配するな。サララックは必ず俺が見つけ出してやる。そして、彼女を連れ去ったクズどもをこの拳で叩きのめしてやる」
「仁左衛門さん、ありがとう」
「コープン・クラップ、だったか」
「そう、コープン・クラップ」
「なに、いいってことよ――ってのは、シャムの言葉でどう言うんだ」
「マイペンライ」
「ん? なんだって」
「マイペンライ。この国の言葉でいう、どう、いたし、まして」
「なるほど。マイペンライか。わかった、オイン。マイペンライ、マイペンライだ」
 仁左衛門はそう言って呵々大笑してみせる。
 オインもそれにつられたように、白い歯を見せて笑った。
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