聖女が婚約破棄されて処刑されてしまったら王国は滅びる?

鈴原ベル

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リリアン、戦闘開始!

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 異世界から来た深窓の令嬢のはずのリリアンが、変身して悪人どもと戦う――ユウキにとっては、またまた想定もしていなかった驚きの答えが返って来たのだった。

「ええっ、変身だって! リリアンって変身できるの?」
「うん、そうなの。変身して悪いやつらと戦うの」

 リリアンは、キッパリと言い切ると、持っていた3本のスティックのうち2本を、ユウキに渡した。

「これを預かってて。このスティックには大変な力が秘められているの。もしわたしに何かあったら、大切に守ってね」

 リリアンは、持っていた魔法スティックの2本をユウキに渡すと、少し離れた場所にたち、ピンと背筋を伸ばした。そして、1本だけ残した魔法スティックを、右手に持つと上に掲げた。

「変身!」

 大声で叫ぶと、右手のスティックから不思議な光の帯が発生して、彼女の全身を包んでいった。その光の中で一瞬、彼女は全裸になったが、それはユウキには見えなかった。そして、その光が消えた時、そこに立っていたのは……

「魔法戦士、ブライトリオン参上!」

 高校の女子制服は、跡形もなくなり、戦闘コスチュームに変わっていた。胸に花のような飾りのついたノースリーブのワンピース、下半身は超ミニスカート。セクシーでかっこいい変身ヒロインが姿を現したのだ。

「魔法戦士ブライトリオン? リリアンって変身ヒロインだったの!?」

 特撮オタクで変身ヒロイン好きのユウキは、ワクワク感を隠せなかった。なんと、リアルで目の前に、魔法少女に変身して悪と戦う、正義のヒロインが現れたのだ。しかも正体は異世界から来た美少女ときている。ユウキにとっては堪えられない展開だ。

「わたしは母国のシュペール王国では、聖女として魔族と戦い、人々を守っていたわ」
「聖女!?」
「それはわたしの義務だったの。でも、ここではそうじゃない。国を守る義務や責任なんてない。ここでは、わたしは大切な人のために戦うの」
「大切な人?」
「それはあなたよ、ユウキ」
「えっ!」

「じゃ行ってくるわ。ユウキは安全なところに隠れてて」

  リリアンが変身したブライトリオンは、そう言い残すと悪の秘密結社の前に飛び出していったのだった。しかし、走りながら、彼女はシュペール王国の聖女時代と違う違和感を感じていた。

(やだっ、パニエが消えてる)

 スカートの下に穿いているはずのパニエがなくなっているのだ。異世界に来たために、消滅してしまったのか? このまま戦えば、下着を晒すことになる。しかし、もう気にしている余裕はなかった。そのまま怪人たちの目の前に躍り出た。
 
「悪人ども、お待ちなさい!
「何者だ? 貴様!」
「正義の魔法戦士ブライトリオン参上! 悪は許さない」

 突然、現れて、正義の魔法戦士参上、などと名乗る妙なコスプレの少女に、怪人らは面食らったのが本音だった。

「正義の魔法戦士だと? ブライトリオンとやら、お前は正気か? オレ様は世界征服を目指す組織、ブラックイーブルの隊長イーブルスパイダーだ」
「フフ、世界征服ねえ」
「何がおかしいんだ?」

 小馬鹿にしたように含み笑いした正義のヒロインに、秘密結社ブラックイーブルの一員を名乗る怪人が食って掛かった。

「だって、世界征服なんて大層な野望をお掲げた組織が、やってることは、ショボいスクールバス襲撃なんて笑っちゃうじゃない」

「くそう。それはうちの上の連中に言えよ。奴らの命令なんだからな。オレらだって、こんなショボいことばっかりやってられんわ。しかしな、ガキさらって身代金取るのが、コツコツ日銭稼ぐのには手っ取り早いんだよ。」

 怪人は、悪の秘密結社の意外な内情を明かしたが、すぐに逆襲に転じた。

「しかし、ブライトリオンとやら、そんな短かいミニスカで登場とは大胆だな。だが、引っ込んでたほうがいいぜ。さもなきゃ、捕まえて、その短いスカートめくり上げて、パンツ丸見えにしてやる」

「そんなこと、させないわよ。そっちこそ、ボコボコにされないうちに、今のうちに逃げたほうがいいんじゃないの」

 怪人からの挑発にブライトリオンは、強気に言い返した。すると、イーブルスパイダーが手下たちに、攻撃命令を下した。

「お前ら、遠慮はいらん、この生意気な女をやっつけろ!」
「キイーッ!」

いよいよ戦闘開始だ。悪の組織ブラックイーブルの黒づくめの全身タイツを履いた戦闘員たちがブライトリオンに襲いかかってきた。

異世界の伯爵令嬢リリアンが変身したブライトリオンと、悪の秘密結社ブラックイーブルの戦いが始まったのだ。

「ブライトリオンの戦闘力はどうなんだろう?」

 物陰に隠れて見守るしかないユウキは、不安を隠せなかった。貴族階級のお嬢様だったリリアンが、本当に悪の組織と戦いなんかできるのか。

だが、ユウキの不安をよそにブライトリオンは見事な動きをみせた。まず、飛び掛かってきた1人目の戦闘員の首筋に強烈なハイキックを食らわせた。そして、返す刀で2人目の戦闘員の腹部にミドルキックを入れ、あっという間に戦闘員2人を倒してみせた。

 超人的な動きを見せる令嬢ヒロインは、華麗なアクションで、悪の秘密結社の悪党どもを圧倒していく。その強さは聖女時代となんら変わらなかった。

「ブライトリオン強い!」

 ユウキは感嘆の声を上げた。

 
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