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シーズン Ⅰ

ー第5話ー デジタルの目

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御坂将人の視点
何でこう厄介な現場に縁があるのか。
それが現場に着いて俺が第一に思った事だ。
「またかよ。」
だからだろう。ついそれが口に出ていた。
ヤクザの事務所を捜査するのはこれで二回連続。
しかも現場の内情もよく似ている。
「こういう偶然はあって欲しくはないな。」
現状はそう言いたくなる状況だった。
まるで重機で暴れた様な惨状。そして遺体の状態も・・・。
尽く前回のヤクザの事務所によく似た状況にうんざりしたくなった。
常識ではあり得ない現場というのはそう出会いたくはないものだ。
それが二回連続というのは何か呪われているのか?、と思いたくなる。
だが今回は一つ違いがあった。それはヤクザ側の心構えの違いと言ったところだろう。
それは監視カメラに対してのもの。一つは証拠を残さない為に監視カメラを設置しない。
もう一つは逆に自身の保身の為に監視カメラを設置する。
前回は前者で、その為幾つか訳の解らない事態を残す事になった。
しかし今回は後者だった。それでその映像を確認したのだが。
「何の冗談だ、これ。」
写っていた映像を見て俺を含めた仲間達が口を揃えていた。
当然だ。その内容は信じらない、余りにも非常識なものだったからだ。
一見すると鴉のコスプレをした男?、服装は修行僧の様な感じか?。
全体的に黒で統一されている為、そして映像が荒い為、判別はやや難しい。
ただそんな不山戯た奴が刀らしき物を持っている。そこまでは良かった。しかし・・・・。
その不山戯た奴が刀らしき物を振り回すと・・・現場の様になっていく・・・。
信じられない光景だ。この映像は加工されているのでは?。そう思いたかった。
映像の内容はそれ程までにあり得ないものだった。
その為、後の捜査会議も疑心暗鬼みたいな雰囲気になっていた。
当然だ、こんなの特撮とか言われた方がまだましだ。
上司連中も映像を最初は何かのイタズラかと揶揄していたが。
それが事実だとなると、流石に静かになっていた。
そして一応という形でそのコスプレ野郎を追う事に方針が決まった。当然殺人の罪状でだ。
どこまでも現実感の無い、余りにも非現実な事実との関わり。
だからこそ戸惑いは消えない。それは俺だけではないだろう。

学校の教室、休み時間というのもあって其なりに騒がしい。
その一角に御坂愛輝と数人の女子。
普通なら和気藹々とした雰囲気としたところだが、そんな空気は無い。
どちらかと言えば重い空気になっていた。
「何これ!。」
一つの机に集まりその机上に置かれたスマホを見ていた。
スマホのディスプレイに写し出されていたのは到底女子高生が見るものではない。
それは十代と思える女性が着替えている様なと見れる写真。
「これ***だよね。」
写真を見ていた女子が一人名前を上げる。写真には顔の部分は写ってはいなかったが、
その写真に写る背景や、被写体の女性達の特徴等で推測したようだ。
彼女達の雰囲気が重いのはその写真に写っていた多くが着替えている最中で、下着姿の者もいたからだ。
「何でこんなの・・・。」
彼女達がこんな話題をしていたのは”自分達の盗撮写真がインターネット上で流れている”そんな噂話しを聞いたからだ。
そして今その確認をしているという訳だ。
「最低・・・。」
そう一人が口にしたのは見ている写真がネットに上げられたもので、既に拡散されているものだからだ。
「誰が・・・。」
そんな事をしているのか?。そんな疑問が彼女達に浮かぶ。
「どうしたの?。」
不意に男子の声が聞こえて彼女達は驚く。
「あっ!翔真。」
愛輝がそう言った相手は御坂翔真。一応愛輝の親戚となっている少年だ。
「何してるの?。」
事情を知らないが故の無邪気な質問をする翔真。
「これ。」
愛輝は躊躇いながらも翔真にスマホを見せる。
「これは?。」
残念ながら翔真にはスマホに写るものの本質を理解出来てはいなかった。
しかしここ最近愛輝の協力の下色々と勉強をして写っているものの悪質さは理解していた。
「これ、この学校で?。」
「うん、多分そうだと思う。」
疑問に疑問が交わる。それが精一杯の状況。
「ねぇ翔真。」
「何?。」
愛輝の力無い言葉に翔真は応える。
「犯人を探しすの、手伝ってくれる。」
「うん、良いよ。」
翔真としては何の犯人?。と言ったところだったが、雰囲気だけで愛輝の要請に応えていた。
但しだ、じゃあどうするだった。
現状としては自分達が盗撮の対象になっている可能性があるというだけでしかなく、
その”盗撮”に対しての明確な証拠は無いし、その証拠を探す手段は?、だった。
「どうしようか。」
結局そうなった。しかし翔真の方はそんな愛輝をほっといて一人勝手に歩き出していた。
「えっ?、何?、どうしたの翔真。」
それに気付いた愛輝は慌てて翔真を追い掛ける。そして・・・・・・。
着いたのは別のクラスの教室。
「ここは?。」
「力を貸してくれるかもしれない・・・。」
愛輝の質問に翔真は中途半端に答えてその教室に入って行く。
「ちょっちょっと待って翔真。」
翔真の行動に愛輝は慌ててついて行く。
そして翔真は一人机に座る少年の下に来ていた。
少年は静かにただスマホをいじっていたが、翔真に気付いて顔を上げていた。
「何か?。」
少年は静かに翔真にそう聞いていた。
「これを見て。」
そう言って翔真はいつの間にか手にしていた愛輝のスマホを少年に見せる。
「二人って知り合い?。」
少年二人のやり取りを見て愛輝はそう聞いていた。
「ちょっとね。」
翔真はそう軽く言い、それに対して少年は「助けてもらいました。」としぶしぶな感じで答えていた。
小柄で椅子に座っていてもそう身長はないと分かる。髪は全体的に短く染めてはいない。
あえて縁の太い黒のフルフレーム眼鏡と表情から神経質な印象を受ける。
少年の名前は新田臣。見た目通り地味な少年で、目立つ事は無い。
翔真と知り合ったのは偶然で、臣が日課にしているコンビニでの買い物の最中に不良に絡まれ、
そこをたまたま翔真に助けられたとの事。
それで助けてもらった事で臣は自身のスキルを調子に乗った形で翔真に明かしていた。
「これを撮った人を知りたい。」
自身の能力を不用意に教えてしまった後悔を抱く臣の感情に構う事なく翔真はそう言っていた。
臣のスキル。それはハッキング。しかも凄腕の。
当然それは警察にも把握されていて、一応の形で監視下にも置かれている。
「余り勝手はしたくないんですが。」
なんともうんざりした感じで言う臣。当然だが口にした”勝手”の対象は警察だろう。
「しかし、これなら後で言い訳が立ちそうですね。」
そう言いながら臣は翔真から渡された愛輝のスマホを操作していた。
その臣を見ながら翔真は「何か分かる?。」と聞く。
「この写真から解る事は多いですよ。」
スマホを操作しながら淡々と答える臣。それに対して愛輝は「えっ!、そうなの?。」と驚く。
「まず基本としてこの手の犯人は同性、つまり女子である可能性が極めて高い。
 それは写真の映り方を見ても疑う余地はないと考えられます。」
臣のその断言とも言える言い様に愛輝は驚き「どうしてそう思うの?。」と突発的に質問をしていた。
「被写体の映り方ですよ。この手の写真は画像の倍率や画質を固定しての撮影がセオリーです。
 それを踏まえて写真を見ると、撮影機器は何処かに設置したのではなく。
 撮影した犯人自身の服に忍ばせていた可能性が高い。」
「根拠は?。」
臣の出した答えに翔真が疑問をぶつける。
「さっきも言いましたが、撮影機器は固定という状況での仕様だと考えられます。
 それで考えた場合この写真、被写体との距離が近いんですよ。
 どこか、ロッカーか何かに設置した場合とはアングル、映り方が明らかに違います。
 それに服に機器を忍ばせば、機器を他の誰かに発見されるリスクを大きく減らせます。
 なにより、犯人では?、と言う疑いを反らし易いというメリットもあります。」
「でもそんな小さなカメラ、有るの?。」
臣の説明にそう疑問を投げ掛けたのは愛輝。
「かなり高い物になりますが、あります。」
その愛輝にやはり淡々と答える臣。
「それでも目に付くと思うけど?。」
今度は翔真からの疑問。
「状況と映り方から下着、しかも胸部の下着に仕込んでいると考えられます。」
「え?、何で下着?。」
臣の出した答えに今度は愛輝からの質問。少し忙しなく思いたくなる。
「写真の状況を考えて下さい、犯人も着替えないといけない。
 しかしそれでカメラを制服に仕掛けたら、その制服を脱ぐ必要がある。
 それでは意味がありません。しかし下着なら自分が犯人でないというアピールにもなりますし。
 被写体を撮影する時間を長く獲得出来る可能性が出てきます。」
「てなると怪しい行動をとる奴が犯人って、ならないね。」
それでも律儀に答える臣。そして臣が出した答えに愛輝は少し諦めた表情になる。
「どうでしょうか?。例えばいち早く下着だけになり、しばらく談笑に勤しむとか?。」
「それやってる女子は多いよ?。」
一応の形で例を上げる臣。しかし同じ女子である愛輝が早々にその例の問題点を上げてしまう。
「となれば一人一人注意深く見ていくしかないですね。おそらくカメラを下着と同じ色にしていると考えられます。
 そしてそれもちゃんと見れば不自然な”存在(もの)”として見れるかもしれません。」
「う~~~ん。やってみるしかないね。」
最終的に臣がたどり着いた答えには正直不安を覚えるものではあるが、
それでもやるしかない。愛輝はそう応えているようだった。
「僕も可能な範囲で手伝うよ。」
そしてそれは翔真も同じようだった。

次は体育の授業。当然着替えている。そんな中で愛輝は周囲に目を配っていた。
傍目にはかなり奇妙な行動だが、元々時折奇妙な行動をする愛輝な為、周りは呆れて見ているだけだった。
そしてそこから少し離れた廊下。余り目立たない様に翔真は立っていた。(余り意味は無い。)
これも傍から見れば何をしている?。だが、天狗である翔真なら音で愛輝の行動を追う事が可能だ。
因みに何故愛輝は自分のクラスメイトに犯人がいると判断したかというと。
撮影された写真に愛輝と思えるものがあったからだ。
とある人気アニメのキャラがプリントされたどう考えても高校生なら身に付けない下着。
しかし愛輝は時々そういう下着を身に付ける。それはクラスメイトも知っている。
そこから今、この空間に犯人がいると判断したのだ。
だが怪しいと思える人物は見付からない。寧ろ今最も怪しいのは間違いなく愛輝だろう。
実際クラスメイトから「愛輝何やってるの?。」「愛輝遅れるよ。」と反応される状態だった。
その行動もだが、愛輝の行為は露骨で稚拙なもので、”犯人も警戒している”という考慮はなかった。
その無防備な行動の結果だろう、犯人探しをしている中で愛輝の目の前に二人の男女が姿を現す。
女子の方は見覚えがある、クラスメイトだ。但し名前は覚えていない。
男子の方は着ている制服から同校の生徒だと分かるがそれだけだった。
「何か用。?」
特に考えもなく自分の前に立つ男女に質問をする愛輝。
その有り様はやはり無防備と言えた。男女の方はあえて人気の無い所で愛輝に接触している。
状況を考えれば多少なりとも警戒心を持つべき場面だ。
「お前さぁ、今やってる事止めてくれない!。」
愛輝の質問に答える形で男子が言う。但し、相手を見下し、舐めた様な態度でだ。
男女が愛輝に目を付けたのは愛輝が目立っていたから、そして自分達が犯人だからだ。
尚、犯人探しは翔真と愛輝のクラスメイト数人もしていたが、その中で愛輝の行動は明らかに目立っていた。
「何で?。」
しかし愛輝は状況を理解してはなく、無邪気に質問をする。
「くそっ馬鹿かこいつっ!。」
理解の無い愛輝に苛立った男子は短気なままに愛輝の顔面に向かって殴り掛かる。
「なっ!。」
しかしだった。その拳は愛輝には届かなかった。
「なんだテメェ!!。」
余りにも理解出来ない状況に声を荒げる男子。何時からそうなったのか、突然現れ男子の拳を受け止める翔真。
信じられない程に一瞬の出来事で、男子の後ろにいた女子も驚いていた。
「大丈夫?。」
「翔真!。」
しかしその二人に関せずな翔真と愛輝だった。 
「どっから出て来たテメェ。」
余りにも訳の解らない状況に男子は混乱し、無自覚に後退っていた。
何故翔真が現れたのか?。その理由は簡単だった。
愛輝とは違い犯人の行動にも気を付けなけばいけない。
その忠告を理解していた翔真は人間離れした聴力で愛輝達を見守っていた。
そして異変を察知して天狗の超人的な運動能力で駆け付けたという訳だ。
生憎特撮のヒーローと違い、変身しなければ超人的な能力が使えない訳ではない。
しかし常人からするとそれらは超状的な出来事でしかなく、だからこそ現在絶賛混乱しているという事だ。
実際高性能のカメラでなければこの状況の視認は不可能だろう。
「君達が盗撮の犯人。」
翔真のその言葉は確認の為ではなく、ただ口にしただけというものだった。
「だからなんだよテメェッ!!。」
しかし混乱した相手にそれが伝わるはずもなく、男子は感情に任せて今度は翔真に殴り掛かる。
だが、明らかに相手が悪いだった。翔真もこれまでの事でこういう状況では手加減が必要だと理解はしていた。
しかしそれがどの程度必要なのかまでは理解出来てなく、最初は防戦一方になる。
「はっ!、なんだ大した事ねぇなっ!。」
その状況から勝てると思った男子が強気になる。
しかし事実は違った。読め過ぎる動きを余裕で流す、で、後はどの程度の攻撃をすれば?。
そう考察しながら動く翔真に勝てると勘違いをしている。それだけだった。
「ここかな?。」
男子の攻撃を流して無防備にして一撃を入れる。
しかし翔真はやはり加減を間違え、男子は「うぐぅ!。」と苦悶の声を上げて意識を失う。
「・・・難しいなぁ。」
手応えから加減を間違えた事を理解し、苦い表情をする翔真。
そして残った女子の方はこの間に逃げていた。
しかしその後愛輝のクラスメイトという事もあってあっさり捕まる。
後日談。
「お前ら余り無茶をしてくれるなよなぁ。」
場所は職員室。御坂翔真と御坂愛輝はそこに呼び出されていた。
その二人を叱っているのは愛輝の叔父御坂将人。
事態が明らかになり、教師が警察を呼んだというところだ。
本来なら将人は担当が違い来るはずではないのだが、”親族”が関わっていると知り、居るという訳だ。
で、その親族が無茶をしたと知り、叱った訳だが大人が子供を本気で怒るのもどうかという事で加減をしていたが。
その表情にはしっかりと青筋が立っていた。
「それと君もな。何でこの問題児に手を貸したんだ?。」
そう将人が呆れながら言ったのは愛輝と翔真の後ろにいた新田臣だった。
「成り行きです・・・一応。」
と面白くなさそうに答える臣。
「はぁ・・・頼むからな?。」
子供達のその反応を見て疲れた感じに言う将人。
それはこれからも苦労は続くこの問題児達のせいで。それを理解したからだった。
こうして事件は終わった。
盗撮の動機は単純に小遣い稼ぎ、この手の写真を欲しがる変態は多いからとの事。
そして翔真の超人的な運動能力は犯人の戯言とスルーされた。
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