ロード·シリーズ

高宮 摩如(たかみや まこと)

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第1部前半 リビングデッド·ロード

ー第5話ー 協力関係

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嫌な目覚め。珍しくはっきりと覚えている夢のせいだと感じる。
夢、感覚的にはそうなるものだけど。
その内容は夢とは言えないものを感じる。
過去の回送、その内容は思い出したくもない記憶を思い起こすものだった。
僕の人生の大半は父との二人だけで完結してしまう。
父は会社を一代で立ち上げ、そして大きく成長させた。
言ってしまえばお金持ち。でも僕の人生にその恩恵無いと言ってよかった。
父は僕を腫れ物のように扱った。家から外に出す事はなく。
僕の幼い記憶に当然のように外の世界は無い。
何故父が僕に対してそうゆう扱いをしたのかは未だ分かっていない。
名前すら知らない母が何か関係しているかもとも思った事もあった。
でも父はその疑問の全てを自らの沈黙と僕への厳しい監禁生活という形で応えていた。
そうして何も解らない、理解できないままの生活は続いた。
それが終わったのは僕が中学生になった頃。その”終わった”理由もまた解っていない。
ただそれでも僕にとって”それは”初めて他人を見て知る機会になった。
でも、どうしても、そこから進めなかった。
友達が出来てもどうしてかすぐに別れをつげられ、気付けば僕はこの”外の世界”でも孤独だった。
それが父の手によるものだと知るのは孤独になってから少ししてから。
「獅雄、お前が他人(ひと)との関わりをもつ事を私は許さない。覚えておけ。」
初めて聞いたと思う父の声。でもそれはとても親とは思えない位に冷たく冷酷な一言だった。
『理不尽』すでに外を知る僕にはすぐにその言葉が浮かんだ。
だからだと思う。僕は父の言葉に反抗した。
必死になって周りに声を掛けた。その僕の声に無反応とゆうものだったらどれだけ良かったか。
「ひっ!!。」「やめてっ!!。」「お願い、関わらないでっ!。」
でもその理不尽は既に周りに伝染していた。それが学校と言う空間だったのかもしれない。
僕は初めて実感したのかも知れない。父の力を、在り方を。
その時初めて僕は父に恐怖を覚えたと思う。そして改めて理不尽を思い知らされてもいた。
でも出来る事はもう無く、僕は精神的に死んでいた。
そんな中で彼女、河原ゆいに出会えたのは幸運だったと思う。
当時彼女とは学校が違い、出会えたのはたまたまの偶然。
父と顔を見ない時間を作る為に学校帰りに通っていた古く小さな本屋。
そこで僕と同じく本の立ち読みをする彼女。
その姿は依然から見えてはいた、けど『だから何?。』という感じだったと思う。
でも読んでいる本に共通の好みがあると気付き始めると・・・。
「ねえ?。」
僕から彼女に声を掛ける勇気は無く、彼女からのアプローチで僕達の交流は始まっていた。
その中で知る、僕達には多くの共通点がある事を。
お互い片親で、自身の環境の所為で孤独、というよりいじめを受けている。
だからというのもあったと思う。僕も彼女も他人(ひと)を信用できないのが当たり前になっていた。
この本屋にはそんな現実から逃げる為に来ている。
当然違うところもある、僕の親は金持ち、けど僕がそれを実感する事はない。
一方彼女は貧しい家庭環境で、その日その日の暮らしすら満足に送れていない。
人間不信になっていた僕達を繋げたのは孤独という皮肉。
そして彼女河原ゆいは僕とは違う学校に通っていた。
だからこそ知らなかった僕の事、そして僕の父の脅威を。
ようやく見つけられた繋がり、当然守りたいと思う。
だから彼女の存在を父から必死に隠した。
その頃には父の監視の目がどの程度なのかを把握出来ていた。
世間への体裁を取る為だけを目的としたそれを理解するのは想像していたより簡単だった。
でも油断はできない、父は間違いなくそういう存在だ。
そしてそんな父にゆいを奪われたくはない。まるで必然のようにその感情は生まれていた。
だからといって僕とゆいが友人関係にも恋人関係にもなれたわけじゃない。
ただ孤独を埋める為によりそい、そして何時しか体を重ねるようにもなった。
互い孤独を誤魔化し、埋め合わせる為に続けた関係。
でも、それでも大切で守りたいと思える関係。
いつしか父に知られるかもしれない、そんな恐怖の中で続いた関係。
そんな中で異世界へ飛ばされたのはその思いが叶ったからかもしれない、尤も最悪な形で。
「ええっと、お早うだったかしら?。」
そう挨拶してきたのはこの家の主の夫妻のエルダさん。もう一人のホッドさんは僕の方を見るだけ。
最初は驚いた事だけど、この世界と言うよりはこのリーシア村では”挨拶”という習慣はなく。
当然かもだけど僕が挨拶をすると『何?』と言う感じの不思議そうな反応が返ってきた。
で、当然説明を求められた訳だけど。その後の反応は良く、
少しづつながらこのリーシア村に挨拶が浸透し始めている。
現在季節は僕の世界で言うところの秋。でも早朝は気温が低過ぎるとるというのもあってまずは食事から始まる。
そうする事で気休めながら暖まる事ができるから。でもそれは本当に気休めでしかない。
家の作りは木の切り出しをどうにか大きさを合わせて組み合わせている感じのもの。
当然合わせ目を閉じるなんて出来てなく、防寒能力はかなり低い。
そして火を起こす為の燃料。主に木材となるけど、これも貴重でそう手に入らない。
畑の野菜もだけど、全体的に植物の成長が悪く、また周りを見てもあまり自生はしてはいない。
当然ながら木も少なく、また成長も悪い。
すでに火を起こして等の暖を取りたくなる寒さだけど、そこまで燃料の確保は出来て無く、
ここで燃料を使うと”冬”を越せないとホッドさんに注意された。
冬になると外に出る事も出来なくなり、ただ耐えて過ごすだけの季節になると言う。
だからというのもあって今は出荷していた野菜も食料確保の為の方に回り、
一方で木材等の燃料確保と狩猟と言う形での食料確保に動く組もいる。
ホッドさんはそっち側で現在僕もその手伝いに入っている。
但しそれは危険と隣り合わせとなる。
元々は希な確率で発生していたという”魔物”と言う存在。
しかし最近ではその発生率も上がっていて、挙句に・・・。
「くそっ!また強くなってねぇか?。」
狩猟に参加するメンバーの一人の愚痴のような一言。
最近魔物の発生率が上がっている上に段々と強さが増している。
「気を付けろよ小僧っ!。
それはホッドさんが僕に向けて言った言葉。
魔物が強くなっている。それは男手総出で現状の作業をしなければならない程のもので、
僕がこうして駆り出されているのもそういう事情な訳だけど。
「くっ!!。」
正直自覚はしている。僕は間違いなく足を引っ張っていると。
情けないのは分かっている。そもそも運動は得意ではないし、喧嘩も勝てた試しはない。
そしてなにより、よく見る事がある異世界ものにあるチート能力は僕には無い。
正直僕を連れてこなければ?、とも思う。
それぐらいにまで足を引っ張っている。その自覚はある。でも・・・。
「言いたい事が分からねぇとは言わねぇよ。だがこっちとしとも戦力がが欲しいところだ。
 だから、嫌でもテメェには戦力になってもらう、覚悟しろ小僧っ!。」
それはこの世界に来て早々にホッドさんに言われた事。
初めて狩に駆り出されて、初めて魔物という存在知って怯える僕に。
ここは僕が逃げたいと思っていた存在(もの)が無い世界。
けど同時に僕がこれまで経験してきた事以上に過酷な現実がある世界。
「おいっ!そっちに行ったぞ!。」
「なっ!くぅぅっ!。」
一瞬の出来事。その言葉の通りに魔物が僕のところに来て、僕は手持ちの剣で流してどうにかやり過ごす。
剣と言っても形がどうにかそれらしくしているだけに等しい代物で、剣としての切れ味は無いに等しい。
それでもホッドさんに強制的にやらされている訓練のお陰でどうにか死なずに済んでいる。
正直訓練は嫌だった。けど現状を鑑みればホッドさんには感謝しかない。
アンデットと言う存在は忌み嫌われている。それはこの世界でも僕の世界でも変わらない。
望んだ結果ではないけど、ゆいがそのアンデットになってしまった。
そして僕はそのゆいを元に戻す為に・・・と言いたいけど、その為の行動を一つもとれてはいない。
現状はホッドさん達との共同生活をどうにか過ごすので精一杯といったところ。
貧しいのもある、ゆいを救う手立て見つけらないのもある、そして僕が無力なのも・・・。
それでも現状を続けるしかない。幸運にも僕にはゆいを死なせない能力がある
魔力を一時的に物質化する能力。ホッドさんの奥さんのエルダさんの協力で出来た事。
これでゆいの心臓の代わりをしている結晶石に魔力を補給でき、
ゆいの完全なアンデット化を止める事が出来ている。
そしてホッドさん達を手伝うなかで僕は確かに”強さ”を手に入れている。
いちいちそういうのを数値として認識させてくれるので実感は出来るけど、
それでも、僕はみんなの、ホッドさん達の足を引っ張っている。その事実は変わらない。
それから作業の合間に昼食。当然気は抜けない、何時魔物の襲撃があるか解らないから。
「よ~~~しっ!、ここまでにしようっ!。」
その声が掛かった頃には日が暮れ始めていた。
周りにも、そして僕達にも灯りという”手段”の無い中で夜を迎えるのは危険というのもある。
しかし今の時期の夜の寒さは命に関わるものだというのもあるとホッドさん達は言っていた。
ただ、一つ懸念が僕の頭の中にあった。
冬の為に作物等を溜め込んでいるのは分かるけど、”次”の時はどうするのか?。
そう、現状”種”を残していない。種がなければ次の作物を作れない。
いくら農業の知識の無い僕でもその位は分かる。
でもその答えはすぐに出た。
「おいっ!、手伝え!。」
そう僕にぶっきらぼうに言うホッドさん。いつもの事なので慣れたけど。
それで何を?と周りを見回すと集められた作物と荷車。
そこであれっ?てなる。何故なら作物はここのところ冬越えの為に首都区に売りに出していない。
だからこのタイミングでそんな事をするのってなる。
「これ、売り物?。」
だからだと思う自然に出た疑問の言葉。けどホッドさんは「いや違う。」と淡々と答える。
そして会話の時間は終わり、ここからわ作業の時間となる。
積み込むのは相変わらずしなびれた見た目の良くない野菜。そして向かっているのは首都区?。
いつもとそう変わらない感じに戸惑いながら前を引くホッドさんを後ろから引き手伝う。
そして着いたのはやはりアークムントの首都区。
でもそこからは違った。いつもの行先は市場。けど途中からその市場とは別方向へと・・・。
「うわぁ・・・。」
「ここだ・・。」とホッドさんに言われて目的地を見た僕は驚いてしまう。
白を基調とした石造りの建物。
高さもだけど、造り込まれた造形。こんな立派な建物もあったんだ。
そう思ったのはこの周辺と言うか、僕やホッドさん達が立ち入れる所にこういう建物は無いから。
勿論首都区という事もあり、立派な造りの建造物もあるらしいんだけど。
この首都区は壁によって区画分けがされていて、
僕やホッドさん達が立ち入れるのはあまり行った事のない一般区と、野菜を卸す為に行き来する商業区。
そして立派な建造物があるらしいのが、貴族区とその更に奥にある王城区。
当然立ち入れる事は出来ず、壁の高さもあって目にする事も出来ない。
じゃあどうやって知った?だけど、単純にホッドさんの愚痴みたいな独り言の中にそういう内容があったから。
要するに単に話として聞いただけという事でしかない。
「ゼーシルさんに取り次いでくれ。」
目の前の建築物にを取られていた為にホッドさんのその言葉に驚いてしまう。
ホッドさんが話掛けていたのは建物入口に立つ二人の男性。
僕の世界で言うところの西洋の法衣?みたいな白を基調とした服装が第一印象として見えた。
互いの会話の感じからしてどうやら知り合い同士みたいだ。
その会話が少し続いたところでホッドさんが僕のところに来た。
「中に入るぞ。」
ホッドさんにそうぶっきらぼうに言われ、さっき男性の一人と共に建物に入る事に。
因みにもう一人の方は僕達が持って来た野菜の方へ向かっているのが見えた。
中に入ると外から見えた建物の大きさから創造していたものとは違う内部の空間の小ささに驚く。
「どうした?。」
そんな僕を不思議そうに見るホッドさん。
「いえっ・・なんでも。」
どう答えて良いか分からず慌てて返す僕。
そこからは特に会話もなく奥へと進む。
そうしている中で目に付いた人数は二十人前後といった感じでちょっと少ない、感じかな?。
尤も、歩きながらの流しで見ただけなので、それで全員というのはいい加減なものかもだけど。
そして辿り着いたのは最奥と思える一室。
『・・・神殿?。』
目に入った光景から無意識にそう思っていた。
ここまで続いた光景がただの石造りの無機質なもので、
ここでいきなり神聖な雰囲気が目に入った事に驚いたというのもあったけど。
「いつもすみせんねぇ。」
「いえ、こちらこそ。」
僕が周囲に気を取られているうちに会話は進んでいた。
僕とホッドさんを除けばこの一室には男性が三人。
そのうち一人とホッドさんが話していた。
三人の服装とこの一室の雰囲気から僕はここが何かの宗教の施設だと勝手に思い込んでいた。
そしてその服装からホッドさんと話していた男性がここで一番偉い人では?と。
その二人が持ってきた野菜と何かを詰めた小さな袋と交換していた。
「いつも助かります。」
「いいえ、お互い様ですよ。」
ホッドさんの言葉に穏やかに返す男性、そして・・・。
「そちらの若い子は初めてですね?。」
不意に僕の方に顔を向けてにこにことしながら言う男性。
「えっと・・・初めまして、しっ、獅雄と言います・・・。」
不意の事で驚いたのもあった。そもそも人付き合いがにがてなのもある。
どちらにしても怯えた反応をしてしまった、そんな僕だった。
「おっとこれは申し訳ない。驚かせてしまったね。
 初めまして、わたしはシューフィリス・セニア教アークムント支部の責任者、
 ゼーシルという者です。宜しくして頂ければ嬉しいですね。」
そう言いながら穏やかな表情のままに右手を差し向けてくるゼーシルさん。
目の前の男性の様に接されたのは何時位振りだろう?。
そんな自問に返ってくる答えは悲しいながらもない。
父とは言葉はおろか、顔すらまとも合わせたことも無い。
そして父の圧力だったのか、外でも”誰か”との交流の機会すらなかった。
宛ら強制的な孤独、父との関係性に気付いた僕はそれを実感していた。
それでもその差し出された手に握手として応える事は出来る。それに関してはゆいのお陰だ。
他人(ひと)と接する事に恐怖し、自らも孤独になろうとしていた僕にしつこく接してきた。
でもそのお陰で、他人(ひと)への恐怖心は少なくなったかもしれない。
それは結局友人は出来ず、実感は薄いというところにある。
だとしてもその後ゆいは恋人になってくれた、それは今でも直に嬉しいと思える事だ。
「ゼーシル司教、最近はどうです?。」
僕との会話が終わったと思ったのか、ホッドさんが不意そう話出す。
そしてその問に応える様にゼーシルさんはホッドさんの方に向いていた。
「良くはないですね。本国グラウト・ヴェルストとレクセシアの睨み合いが本格化していますから。
 当然アークムントの私達にもとばっちりが来ています。」
「ですよね、アークムントはレクセシアの傘下の国ですからね。」
完全に置いてけ堀にされている僕。聞いた事もない地名?、国の名前?。
知らない事の方が多い以上”仕方ない”ではあるけど。
「しかし驚きました、この事情を知っているとは。」
「当然ですが、一般には知られてはいまんよ。ましてや下々には尚更と言ったとろです。
 以前話しましたが、俺は元騎士団の人間です。
 その当時の伝手を現在も残してましてね。情報はそこからですよ。」
こんどはホッドさんの初耳情報に少しびっくり。
と言ってもそもそも自分の事をべらべらと話す人ではないのはこれまで付き合いで分かっている。
「それで、グラウト・ヴェルストからは何と?。」
「状況を見極め、身の危険を判断できるのであれば即逃げろと。
 とは言え、ここアークムントの信者を見捨てる訳にもいきません。」
ホッドさんとゼーシルさん。二人は会話の中でその表情を苦々しくしていく。
「その気持ちは分かりますよ。けど”即逃げろ”というのは間違っちゃいない。
 ここの貴族連中はそもそもシーフィリス・セニア教を下に見ている。
 挙句そこに難癖を付ければ”何をしても良い”と思っている。
 下手をすれば”酷い目に遭う”ではすまされない可能性もありますよ。」
事の重大さはホッドさんの言い様からも伝わった。それ程に、珍しいまでに必死になっていた。
「すみません、言いたい事は解ります、それに状況も理解しています。
 それでもぎりぎりまで居たいのです、申し訳ありません。」
彼の、ゼーシルさんの年齢を重ねた顔に皺が深まっていく。
それこそがゼーシルさんの覚悟であり、そして苦悩である証拠だと言える。
「分かりました。だがそれでも自分の命を第一に考えてほしい、それが俺の本心です。」
「ええ、承知しています。私とて”無駄死に”は本心だはありませんので。」
そうゼーシルさんは返すと周りに目を向けているのが分かった。
この場にはゼーシルさんと僕とホッドさんを除けばあと二人だけ。
でもここに来るまでにも人はいた。全体的にゼーシルさんより若く、女性の方が多い印象。
だから何?、ではあるけど。誰も死んでほしくない、それは僕も同じだ。
そして、それからは会話らしい会話も無いままに僕とホッドさんは建物から出ていた。
「そういえばあの袋の中身は?・・・。」
野菜との交換で手に入れた小さな袋。気にはなっていたので僕は聞いていた。
「ああ、これか・・・。」
そう言うとホッドさんは立ち止まって持っていた袋を開けてくれた。
「・・種?。」
袋口が影になって黒めに見えたそれ、ただ形状には見覚えがあったので自然と口にだしていた。
種をどうやって手に入れているのか今まで分からなかったけど。力を貸してくれる人達がいた訳だ。
そしてそのまま帰るかと思っていたら寄り道。
場所はいつものみすぼらしい建物ばかりの所。
いつもは建物には入らないのだけど、今回は違った。
建付けが悪いのかドアを開けるのに苦戦して、開ける際にはなんとも酷い音がした。
「いらっしゃいって、ホッドか。」
「ああ・・・。」
建物に入ってすぐ、ホッドさんはこの建物の主と思える男性と会話をする。どうやら知り合いみたいだ。
中はバーでいいのかな?。左奥に小さなカウンターに座席が幾つか。
全体の広さからカウンターを含めて10人程度は入る感じかな。
マスターの男性はホッドさんと同い年位の感じ。
そしてホッドさんはそぐにその男性と向き合う形でカウンター席に座る。
「坊主も座ったら良い。」
「あっはいっ・・。」
男性にそう言われて慌てる様に僕はホッドさんの後ろの座席に座った。
それから男性から木製のコップを出される。口にしてみると中身は水のようだ。
「クレルダだ、宜しくな坊主。」
「あっはいっ!。よろしくお願いいたします。」
僕にとっては不意打ちになったクレルダさんの挨拶に慌てて返す。
「酒はないのか?。」
「貴族連中がそんな上等な物を降ろしてくれると思うか?。」
「だよなぁ。」
と僕とクレルダさんのやり取りを無視する様にホッドさんはクレルダさんに声を掛ける。
そしてホッドさんはクレルダさんが何時の間にか持っていたコップに自分のコップを当てていた。
それからクレルダさんはカウンターに戻っていた。
「今日はどうした?。」
「教会の方に行ってきた。」
クレルダさんの質問にかみ合わないと思える形で答えるホッドさん。
でもそれが質問の答えになっていたみたいで、クレルダさんは渋い顔をしていた。
「その様子からすると”ネタ”は当たりだったみたいだな。」
「ああ、ゼーシルさんの反応からみてもな・・・。」
その会話から少しの間二人に沈黙が続く。僕はそれを見ているしかない。
「しかしだ、その”マジン”てのは何なんだ?。」
「解らん、情報元によると国のかなり上の方で情報が止められているらしくてな。
 どうにか解ったのが”名称だけ”で精一杯だと。」
「だがそれでグラウト・ヴェルストとレクセシアが睨みあいになっているんだろ?。」
「みたいだ、騎士団の貴族側は遊び半分感覚で血気盛っているらしい。」
「・・・・そこも相変わらずか、ゲルムト騎士団長は?。」
当然だけどここまでの会話を理解出来るはずも、ついていけるはずもなく。
僕は只々二人の会話を聞いているだけになっていた。
ただ、ホッドさんが言っていた情報源はどうやらこのクレルダさんみたいだ。
「そこもいつも通りだ、止めに入ってくれている。
 だから未だ大事にはなっていない。ただあの人も元々は平民出身だ。
 もしも更に上からの力が加われば・・・さすがにな。」
「ちっ!、結局はそうなるのかよ。」
会話の内容についてはいけてはいない、けど全く理解出来ない訳ではない。
でも、”じゃあどうすれば?”を言葉には出来ないし、思いつかない。
だから二人の苦々しくしている表情をただ見ている事しかできない。
「取り敢えず教会からは目を離さないようにしておく。
 それに何かまずい情報が下りてくれば伝えるようにもする。」
クレルダさんのその言葉を聞きながらホッドさんは席から立っていた。
「頼む、シューフィリス・セニアの教会が潰されるのは困る。
 それにこんな下らない事で死人は見たくない。」
「ああ・・・同感だ。」
その会話を合図にするかのとうにホッドさんは店から出て行った。そして僕も続く。
生きていくうえで”誰か”と協力する。頭では分かっていてても実感はない。それが以前の、孤独だった僕。
でもこの世界では嫌でも実感する事になる。
人が生きていくにはあまりにも過酷な環境。そして様々な物が足りないという状況。
そんな足りないものがあるからこそ協力する。そんな当たり前を実感する日々。
そして今日一日の出来事もまた実感させられる、そんな一日だった。
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