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☆5★

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「え――? ちょ、ちょっと何、この霧!? ね、ねぇ!? シオン? ギセル? どこ行ったの!?」

 私の問いかけに、返答がない。

「ちょっと、本当にどこ行っちゃたの!? ねぇってば!!! シオン!!! ギセル!!!」

 静寂と視界の不明瞭さに不安が広がり、すがるような声で彼らの名前を叫んでしまう。
 白い霧へと手を伸ばしながら、しばしの間歩いていると、ようやく霧が薄らと晴れ、辺りの景色が見えてきた。

「わあ、綺麗…………」

 目の前に広がる大きな川に、その向こうへと広がる色とりどりの花々――

「さっきの毒々しいキノコとは大違い――って、ああ、あっちの方に橋がある!!」

 私は早速花畑を目指し、石橋を渡り始めた。

(よく考えたら、夢の中だからあっちこっち情景や人が変わるのはしょうがないし、どうせなら楽しむべきだよね!)

 さっきの心細さはどこへやら、私は足取り軽く、橋を渡りき――――れなかった。

「あ、あれ?」

 急に両脇からがっちりと拘束され、ずるずると後ろに引きずられて行く。

「まったく、あなたは何をしているのですか」

「たく、これからが面白いところなのに勝手にいくんじゃねーよ!」

 右からシオン、左からギセルの声が聞こえ、驚く。

「え? あ、ああ、ごめん……って、二人がいきなりいなくなったんでしょ!?」

「はあ、今日はあなたが来たせいで歪みがひどいんです。飛ばされた先では、案内が来るまでフラフラしないで下さい。いちいち動かれては面倒です」

 橋から遠ざかり、ようやく二人の手が離れる。

「ええと……はい。一応、すみませんでした?」

 私の返答に、シオンが軽くため息をつく。

「本当に気を付けて下さいね。では、ギセル」

「はいはい、準備オッケー」

「え? 何この大きな穴」

「落ちるんです」

「え?」

「だから、落ちるんだよ」

「え?」

「まったく……さっさと――落ちなさい!!!」

「え! わわわ、お、落ち――ひゃあああああぁぁぁ!!!」

 シオンに蹴りをいれられ、私は大きな穴の中に落ちていった。

「――あああああぁぁぁぁ!!! って――あ、あれ???」

 独特の浮遊感が一瞬で終わり、直ぐに地面に降り立った私は、へなへなとその場に座り込み、ポカンと辺りを見渡した。

「おっきい木…………それと、湖?」

 そこには、空まで届きそうな大きな大木と、その根元を囲むように広がった湖があった。

「おい、いつまで呆けてる気だ? さっさと次の暗号解きに行かねぇと、時間切れになっちまうぞ」

「あ、うん」

 ギセルに促され、湖のほとりまで歩いて行く。

「暗号は湖の中に浮かびます。湖に落ちないで下さいね。たとえ落ちたとしても、私は助けないので」

 シオンの忠告を受け、気を付けながら水面を見る。

(あれが次の暗号かな?)





  ★ ★ ★ ★

Level4

 ウサギ 040,033,000,011,013
 トケイ 034,024,020,004,013

  この暗号と同じ法則で表される次の言葉は、何という意味を示しているでしょうか?

  033,004,020,000,013,100,044,040

  ★ ★ ★ ★





(どうしよう……今回、マジでわからない)

 私は頭を抱えたくなるような気持ちのまま、ちらりとギセルの方を見る。

「なんだ、降参か?」

「い、いや! 絶対負けない!!!」

(とりあえず、暗号の法則性を整理してみよう……)

 私は近くにあった木の枝を使い、地面に文字を書いていった。





  ☆ ★ ☆





Level4 ヒント1
 040→ウ 033,000→サ 011,013→ギ
 034,024→ト 020,004→ケ 013→イ

「この法則だと……」

 000→ア行 013→イ行 040→ウ行 004→エ行
 024→オ行
 033→サ行 011→ガ行 034→タ行 020→カ行

「ってことが分かるから……」

033,004,020,000,013,100,044,040
 ・033,004→サ行でエ行→セ
 ・020,000→カ行でア行→カ
 ・013→イ
 ・100,044,040→?





  ☆ ★ ☆





「セカイ……」

「途中までは出来たようですね」

「でも、これ以降が……」

(これ以上どうしたら良いのか分かんない……砂はどんどん落ちていってるのに……)

「……観点を」

「え?」

 私が焦りを募らせていると、不意にシオンが呟いた。





  ☆ ★ ☆

Level4 ヒント2
「いえ、ただの独り言ですが、日本語から離れたらどうですか?」

  ☆ ★ ☆





「じゃあ、英語とか?」

「……」

 私の言葉に、口を閉ざしたシオンの姿を見つめてみるが、これ以上の助けは期待できないらしい。

(とりあえずやってみよう)





  ☆ ★ ☆

Level4 ヒント3
「ええと、さっきのを英語……ローマ字に直すと……」

・040→ウ→『u』
 033,000→サ→『sa』 
 011,013→ギ→『gi』

・034,024→ト→『to』
 020,004→ケ→『ke』 
 013→イ→『i』

「この法則だと……」

・000→『a』 013→『i』 040→『u』 004→『e』 024→『o』
・033→『s』 011→『g』 034→『t』 020→『k』

「あれ? これって……もしかして……」

(アルファベットと数字が関連してる!)

  ☆ ★ ☆





 解けたと思った瞬間、私は次の壁にぶち当たった。

「あ、でも……ただアルファベット順に並べても番号が合わない?」

 000→『a』 …… 004→『e』 …… 011→『g』

(a~eまでは順番通りなのに、なんで『gは011』っていう表記なんだろう……)

 思い悩んでいると、不意に持っていた木の枝を奪われた。

「ちょっと、ギセル――」

「数字、ちゃんと見ろよ」

「?」

 ギセルは私から奪った木の棒で、私が地面に書いた数字を指していた。その顔が真剣みを帯びていたため、じっと木の棒の先の数字を見る。





  ☆ ★ ☆

Level4 ヒント4
「0・1・2・3・4?」

 私の言葉に、ギセルがニヤリと口角を上げた。

「そう、いわゆる五進数だ。それ以外の数字は――」

  ☆ ★ ☆





「ああ! 解けた! これって、【    】でしょ!」

「正解です」

 シオンが頷き、暗号の文字がキラキラと輝く。水面に出てきた球体は、白色だった。





  ☆ ★ ☆

Level4 ヒント5
「まあ、その答えって、地方でいろんな言われ方するよな、セフィロトとか、ユグドラシルとか……」

  ☆ ★ ☆





 ギセルがニヤニヤしながらシオンと私の間に立つ。

「ていうか、シオンがヒント出すとか珍しいな。どういう心境の変化だ?」

「ヒントなど出していませんよ。ただの独り言です」

 私は無表情に言い放つシオンに笑顔を向ける。

「シオン、ありがとう。それから、ギセルも!」

「俺はついでかよ」

「礼など入りません。ただの独り言ですから。それよりも、さっさとその四つの鍵を使って帰って下さい」

 シオンが指差す方向を見ると、大きな大木の根元に小さな白い扉があった。

「まあ、もう時間もねぇしな。早く解かねぇと……」

「え……暗号って今のが最後じゃないの?」

 ギセルの言葉に、笑顔が引きつる。

「まあ、扉を見てみれば嫌でも分かるだろ」

 ギセルに促され、湖に架かった虹色の橋を渡り、私はようやく大木にある扉の前へとやってきた。

「これが、最後の暗号?」

「ええ、正真正銘これが最後です」

 私はシオンの言葉に、気合を入れて扉の暗号に目を向ける。
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