平穏な日常に悪魔はいらない

雪音鈴

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11魔 ☆ 天才魔法少年現る

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 コーヒーの芳ばしい香りに、クラシック音楽が流れるこじんまりとした店内。懐かしくも優しい雰囲気が漂う【喫茶店マジカル】で、黒エプロン給仕スタイルの俺はこの穏やかな時間を噛み締めていた。店内には丸い銀のトレーを持った自分と厨房にいる耳の遠いお爺ちゃん店長のみ。

 天井の大きなプロペラが回転するのを見上げ、普通のバイトに励めることを喜んでいた。心無しか目頭が熱い。

『そう――これこそが、俺の求めていた普通!』

 カランカラン~♪

 お客様の来店を知らせるベルの音に「いらっしゃいませ~」と笑顔を向ける。

 ……が、その笑顔が硬直してしまう。

 そこには美青年がいた。

 店内に入ってくるなり仁王立ちになり、不機嫌そうに口をへの字に曲げ、腕を組んでのご登場。

 俺が固まってしまった理由は別にその不遜な態度でも、彼の髪色や瞳の色が透き通るような空色で奇抜だったことでも、ましてや美青年過ぎたからでもない。

 彼が着ている黒い服やマント、腰にひっ下げている青い石が嵌め込まれたステッキetc――もう、全体的にRPGとかアニメとかに出てくる魔法使いの格好にしか見えなかったからだ。

「ねぇ……突っ立ってないで席に案内してくれない?」

「あ、失礼致しました。こちらにどうぞ」

 少年と言っても良さそうな可愛い声に弾かれ、笑顔で接客を始動する。

(格好はアレかもしれないけど、コスプレとかそういう系統の特殊な人かもしれない。人を外見だけで判断するのは駄目だな。ミカゲのせいで少し敏感になってたみたいだ……流石にそんな頻繁に変なのと遭遇はしない――はず)

 席に案内し、なんとなく青年のイメージに近い青系統のステンドグラスのように綺麗なコップへとレモン水を注ぐ。コップをテーブルに置くと中に入れていた氷が接触し、涼し気な音がなった。

「ご注文がお決まりの際は、そちらのベルでお呼び下さい」

 店内の各席にはハンドベルが置いてあり、それが呼び鈴の代わりになっている。それぞれ音が違い同時に呼ばれても分かるようになっているらしいが、俺はまだその極地に辿り着いてはいない。

「ちょっと良いかな?」

「はい、どういたしましたか?」

 そのまま青年の次の言葉を待ったが、彼は無遠慮に上から下までジロジロとこちらを見てくるだけで、無音のまましばしの時間が経過した。

「あ、あの――」

 沈黙に耐えかねて口を開いた時、青年の宝石のように綺麗な瞳とかち合った。

「君が真壁永? もうすぐ高校とやらに入る人間の?」

(ハイ、アウトオォォ!!これ絶ッッ対ミカゲ関連の輩だ!!!)

 眉根を寄せてそう言い放った青年の姿に、人はやはり第一印象や直感も大事にしなければいけないのだと、考えを改める。

「話にならないね。ただの風変わりな人間じゃないか」

 鼻で笑われ、ため息をついてしまう。

「あ、オイ、僕は客だぞ。その態度は失礼じゃないか!?」

「ちゃんとしたお客様でしたら、ご注文をどうぞ」

 ズズイッとメニューを前に押し出すと、彼はそれを手で払った。

「人間界の稚拙な食べ物なんていらないよ。僕は君を見定めに来ただけさ。あの悪魔の主になるなんてどんな手を使ったんだ?」

(ああ、ハイハイ、確定です。またミカゲ系統の厄介事。しかも完全にミカゲのせいで絡まれてる俺……)

「ご注文がないなら、お客様ではありませんね。どうぞ」

「何がどうぞなんだ?」

「お帰りの際のドアはあちらですので」

「何!? この僕がわざわざ出向いてやったのに、帰れって言うの!?」

「当店のお客様ではなかったようですので、どうぞ山の上の洋館の方へ。お目当ての悪魔がいると思いますので」

「~~~~このっ! 僕が美少年だから舐めているのか!?」

(美少年って……いや、確かに美青年だなあとは思ったけどさ、自分で言っちゃいます?)

「この僕が、わざわざ君の悪魔を貰い受けるために足を運んだのに!!」

「ん? なんて???」

 美青年……いや、本人曰く美少年か――を、出口へと押しやろうとしていたが、彼の言葉に動きが止まる。

「はあ!? 頭だけじゃなく耳までおかしいんだね、君は!! 天才美少年のこの僕が、君の悪魔を貰い受けに来たって言ったんだよ!!」
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