魔法使いの愛しの使い魔

雪音鈴

文字の大きさ
1 / 21

☆ Familiar1☆ 魔法使いと使い魔の格差

しおりを挟む



【魔法使い】
それはこの世界における人権を持つ人間であり、使い魔にとって絶対の主である。



【使い魔】
それは魔法使いのいぬであり、道具であり、人権を持つことができない人外である。





 ★ ★ ★





「ふわあぁぁ……ブッ――」

 授業があまりにも退屈で、大きく開けた口を隠そうともせずに欠伸を続けていると、何者かに後頭部を殴られた。

 何をするんだと、古びた椅子を軋ませながら後ろを振り返ると、にーっこりと笑ったナイスバディな美女と目が合った。

「ずいぶんと大きな欠伸ねぇ、ナ・タ・リ・アさん?」

 ハイネックの黒いドレスに身を包み、細かく綺麗なデザインが施されたレースの黒いマントを優雅に纏った彼女は、緩やかなウェーブが印象的な長い黒髪をふわりと揺らす。

 心なしか漂ってくる大人の色香に思わずドキドキしてしまうが、すでに彼女が発するドス黒い怒りのオーラで心臓がドギマギしているので、自身の心臓が耐えられるか心配になる。

「私の授業はそんなにお暇かしら?」

 The☆悪女という言葉がピッタリの美しくもきつめの化粧を施した彼女――ベルデアンヌ先生は、その真っ赤な唇に綺麗な弧を描かせ、流し目を送ってくる。

 その姿は、女の私でも息を飲むほど美しく……『めちゃくちゃこええぇぇぇ!』と全身で恐怖を感じるのに十分なほどの迫力があった。

「ナタリア=クライシス」

 よく通る美しい声で自身のフルネームを呼ばれ、土下座する勢いで眠い頭をフル活動させる。

「この度の非礼は私の注意力散漫によっての出来事でして、先生の超絶綺麗なお顔に深い皺を刻みたいわけでも、美しくも思慮深い新緑の瞳に剣呑な光を灯したいわけでも決してありませぬ! とにかく、誠に反省しておりますです、はい!」

(……うん、変な言葉使いになってたような気がしないでもないけど、なんとかして先生の機嫌をよくさせなきゃね!)

「謝罪の言葉はいいわ。あなたは状況が分かっていないようだから、もう一度、確認させてもらいます」

 軽くため息をついた先生が、愁いを帯びた表情で自身の大きな胸を強調するかのように両腕を組む。

(先生、現在の私の位置からだと、胸にしか目がいかないです……何をしたらそんなに大きくなるのでしょうか? 是非とも私のささやかな胸のために教えていただきたいです)

「使い魔とは――第一条!!!」

 ぼうっとしていたところに先生の冷たい視線が突き刺さり、私は反射的に椅子から立ち上がった。

 あまりの勢いに椅子が後ろの机にぶつかって跳ね返り、足を強打したが、私は痛みを堪えて敬礼をした。少々涙目になりつつも、続けるのは【いつも朝礼で言っている言葉】。

「使い魔は魔法使いのいぬである!」

「二条!」

 先生の掛け声に、私は背筋をピンと伸ばし、さながら軍人のように答える。

「使い魔は魔法使いの道具である!」

「三条」

「使い魔は人ではない!」

 そう、これがこの世界のコトワリで、私が大嫌いな三カ条。

「ええ――ええ、そうね。分かってるのならばいいのです。ナタリア=クライシス……あなたはグレイス=クライシスの使い魔――確かに、グレイス=クライシスはこの魔法学校きっての最高魔法士よ? でもね、たとえ魔法使いがどんなに優秀でもあなたは使い魔。使い魔は、魔法使いのように呆けてはいけない。魔法使いのように自由ではいけない。むしろ、仕える魔法使いが優秀であればあるほど、それ以上の仕事をしなくてはいけないもの……。魔法使いあっての【私達】使い魔は、そうして生きていくしか道がないのよ――」

 ボロボロで小さな教室にギチギチに詰められた生徒達に、彼女は悲しげに目を伏せながらそう言い切った。他の生徒も、彼女に従うように目を伏せている。

(みんな――諦めてる)

 魔法使いと同じ見た目なのに違う存在だと言われ、人権をもらえない使い魔――ここにいる使い魔達はみんな、今の自分達の扱いに不満を感じながら、今の扱いに甘んじている。

(そんな状況が嫌で嫌でしょうがない私は、やっぱりおかしいのかもしれない……。けど、それでも――私は諦めて何もしないでいるみんなが嫌い。使い魔ってだけで全部を諦めちゃってる根性が嫌い。何より……こうして何もできないでいる自分が――自分自身が、一番大嫌いなんだ)

 私はギリリと奥歯を噛みしめ、席に着く。

(だから――切実に思ってる。この世界を変えたいって……)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します

スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」 眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。 隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。 エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。 しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。 彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。 「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」 裏切りへのカウントダウンが今、始まる。 スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

処理中です...