お助けキャラは変態ストーカー!?

雪音鈴

文字の大きさ
46 / 50
第3章 呪縛で歪む愛故に

第46変 何用でしょうか精霊王様

しおりを挟む
 私の憩いの時間である伝承学の授業……今日もその時間は憩いの時間になるはずだった。なのに――

(どうしてこうなった?)

 自身の左横に神経を巡らせると、木漏れ日を浴びて光る草木のように綺麗な緑色のストレートショートヘアが机の上に乗っているのが分かる。

 あ、もちろん、生首とかヅラとかではない。むしろ、ヅラの方がまだ良かった。

 机にそのあまりにも可愛らしすぎるベビィフェイスと、一見無害そうに見えるけど毒々しい色が見え隠れする薄い紫がかった瞳を伏せてはいるが、その精霊特有の尖った耳を隠しもせずにさらしている彼は正真正銘、このゲーム【キスイタ】の攻略対象の――合法ショタ(見た目年齢中1程度。まあ、私的にショタは小学生ってイメージがあるからアレなんだけど、公式でもショタになってたからそう言わせてもらう)の腹黒性悪な精霊王のフェル=ティンカー=メイヴ様です。

 はい。なぜか、私が心地よいお昼寝から目覚めると、フェル様が隣で同じように伏せてました。私は伝承学の開始時間までひと時の幸せを感じたかっただけなのに、なんで避けていた攻略対象が隣にいるのでしょうか? 

 私にはひと時の幸せを感じる暇もないのでしょうか? 

 気を抜くなという警告でしょうか!?

 ああ、とりあえず、頭の中を整理しよう。そもそも、フェル様はシェロンと同じで呪術学を専攻していたはずだ。本来のゲームではその呪術学を学んでいたがために、主人公に【服従契約】を結ばせたんだから間違えようがない。あ、もちろん、主人公が従者――下僕側だ。間違っても今の私のように主人側ではない。

(……じゃあ、今の状況はなんだ?)

 フェル様はわざわざ呪術学の授業を抜け出して、伝承学の授業を受けに来ていることになる。

(今日の伝承学って何をやるって言ってたっけ? もしかして、呪術学よりも面白そうな内容があるからこっちの授業に来た?)

 意味が分からず少しだけ顔を左に向け、そっと隣の彼を見ると、ばっちりと彼の特徴的な薄紫色の瞳と目が合った。

「おはよう?」

 男にしては少々高めの可愛らしい声――いわゆる変声期前の男子の声で、にっこりと微笑む彼は、やはり天使のようだ。彼はいつの間にか頬杖をつき、こちらが起きるのを待っていたようだ。

(やられた――ここで寝たふりをしたら、後ろで射殺さんばかりに睨んできてる彼の親衛隊に殺されかねん)

「お、おはようございます」

 私はひきつった顔で彼に挨拶を返した。その瞬間にも、後ろの席に座っている親衛隊のお姉様達からの鋭い視線が突き刺さった。

(無視してもダメ、挨拶を返してもダメ――じゃあ、私にどうしろって言うんだよ! そもそも、話しかけてきたのはあんたらの精霊王様だろうが。私は関わり合いになりたくなんかなかったんだぞ!?)

 彼の親衛隊は、彼の【恩恵】にあずかろうとしている様々な種族の綺麗な女性達だ。中でも飛び抜けているのは精霊王と同じ種族の花の精霊達だ。もちろん、その中でも選りすぐりの精鋭が全員毒を持つ花の精霊達なのが、またいかにも【キスイタ】の世界観だなあと思ってしまうところだ。ちなみに、原作ではこの親衛隊【毒華三姉妹】(乙女達が勝手に呼んでいただけで本当の姉妹ではない)に殺されてしまうエンドもある……うん。絶対に回避しよう。

 そうそう、さっき言ってた【恩恵】っていうのは、精霊王の特性のことだ。精霊王は世界の恵みを授ける能力を持っている。それは、この世界の構成元素である火、水、風、土、光がその地に住まう精霊の力によって左右されていることから可能になっている。まあ、闇属性も構成元素の1つだがそれはちょっと例外なので今は置いておこう。

 精霊王は、それらの精霊の力の源になる特殊な魔力を生成することが可能だ。そのため、精霊王と懇意の種族はその地の精霊に力を分け与えられて繁栄する。だから、どの種族もその【恩恵】を得たいがために精霊王に近づく。

 もちろん、原作ゲームの主人公も例外ではない。始まりはそんなものなのかもしれない……でも、ここの主人公はその根性で精霊王の心を溶かし、彼女もひねくれた心の精霊王に恋心を抱くようになる。まあ、【服従契約】という理不尽な鎖は付けられてしまうが……。

 ところで、皆さんお気づきだろうか?

 この学校では普通、どの種族か分からないようになっているはずだ。校則でも詮索するなと言われている。それなのに、本来の主人公も含め、彼女達は彼を精霊王と知って近づいている。きっと、矛盾しているように感じるだろうが、彼はそれほどまでに顔が知られている。

 そう、いわゆるVIPな存在、いや、アイドルのような存在なのだ。そして、本人もそのことを気にせず、むしろその権利を乱用している。だからこそ、こんなどす黒い野望を抱えたやからがわんさか彼の周りには集まる。彼はそんな彼らが自分の一挙一動に慌てふためくのを見て、裏で腹を抱えて笑っている……正直、あまり関わりたくない類の攻略対象なのです。

 ただ、ゲームの中だと、徐々に主人公にだけ心を開いてく彼があまりにも可愛くてデレデレになっていたのを覚えている。正直、ゲームでは甘い顔よりも罵られていた期間の方が長く、ゲス顔の方がだと分かっているからか、偽りの笑顔をはり付けた今の彼の顔を見るとうっすら寒い感じがしてしまい、身がブルリと震えた。

「ずいぶんと気持ちよさそうに寝てたね。キミの可愛らしい寝顔を見ていたら、ボクまでつられて寝ちゃったよ。ボクが隣に座ったの気付いてなかったみたいだったから、驚かせちゃったかな?」

 爽やかな笑顔に、よけい寒気を感じる。

(絶対ウソだ)

 ゲーム中で鍛え上げられた私なりの翻訳をすると、こうだ。

『ずいぶんと気持ち良さそうに寝てたじゃねーか。てめぇのアホのような間抜け面見てたら、笑いがこらえきれなくなって思わず机に伏せっちまったよ。つーか、オレが隣にきた時点でさっさと起きろよ』

 ……おおよそ、この訳で合ってるような気がする。ただ、この時点で一つ確信したことがある。彼は、何故だか分からないが、私に何か用があってきたようだ。

(最悪だ――どこで目をつけられた?)

 冷や汗が背筋を伝う。

「あ、お、おかまいなく~」

 そそくさと他の席に移動しようとすると、私の左太ももの上と右足の裏に彼が組んだ左足が差し込まれた。その器用な体勢のまま、彼はにっこりと笑った。

「改めて。隣、良いかな?」

 彼から香る華やかで優しい花の香り(よくよく考えたら前世で使っていた柔軟剤の香りに似ている……アレの元って、フローラルブーケとかいうヤツだったっけ???)とその天使のような笑顔に思わず思考がフワフワとどっかにお散歩してしまいそうになる――が、直訳はこうである。

『おい、逃げたらどうなるか分かってるよな?』

 もちろん、私は泣く泣く「はい」という返事をした。その後、すぐに白い軍服を着たハティ先生が講義室の扉を開けたため、これ以上の会話が成立しなかったことに、ものすごくホッとした。

 あと、前の椅子の背にテーブルが付いているおかげで、彼の足が私に絡んでいる様子は後ろにいる親衛隊に見えていなかったもよう。初めて講義室の形状に感謝しました! そして、制服がスカートじゃなくて軍服であることにも感謝しました!

(だって、この学校が用意してくれる女性用下着って全部勝負用なんだもん!)

 この学校では食費は毎月支給されるし、制服から下着、果ては日用品まで全て無料で用意される。まあ、もちろん、限度額は設定されているが、自分でカタログから選んだり、カタログにないものを特注で発注したりすることが可能だ。

 でも、その中の女性用下着には地味なものや無難なものがない。少ないのではなく、本当に最初からない。最初は『誰得だよこんなの!』と叫んでいたが、たぶん異種族交配のためだろう。自分に似合わないフリルをふんだんにあしらったデザインが頭の隅をよぎり、げんなりする。

(まさか履かないわけにもいかないしな……)

「それじゃあ、今日の伝承学の講義を始める。まあ、ちょーと見慣れない顔もいるようだけど、いろんなことに興味を持つことは良いことだし、先生からは何も言わないでおくな。ああ、ただし、無事に卒業したいなら【手続き】だけはしっかりするようにってことだけは言っておくぞ」

 ハティ先生の黄色がかった瞳が、ちらりと私の隣――フェル様に視線を送る。

(ああ、やっぱり単位の話かな? 履修登録してないと伝承学の単位も出ないもんね……)

 未だに足をどけてくれていない彼はいつもの可愛らしい顔をしていたが、片眉が少し上がっているのが分かる。

(うっわ、これは不機嫌の時の合図だよ! まだレベル1くらいの合図だけど、フェル様、めっちゃ不機嫌になってるよ!)

 彼は誰かに指図されることを嫌う。空気は少々ピリッとしたが、彼は表情を崩さない。一瞬だけ彼の太ももの筋肉が強張り、私に絡められていた足がスッと離れていく。

(へぇ……意外と筋肉ついてるんだ)

 思わず、ジッと彼の体を見つめると、彼はフッといつもゲームの画面越しに見ていた意地悪な笑みを浮かべた。正直、邪悪な笑みなのだが、いつもの偽りの笑顔ではないその表情に、思わず心臓がキュッとなり、頬が熱くなってしまう。

(クッ――画面越し以上にゲス可愛い!)

 私の様子に少々怯んだのか分からないが、彼は少し驚いたような顔をしていた。

(あ、ヤバイ――ここ、ゲームの画面越しじゃなかったわ。必要以上に関わるんじゃない、自分!)

 心に固く誓い、私は左の席に座る彼の存在を頭から消し、ハティ先生の授業に集中することにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...