増幅使いは支援ができない

aaa

文字の大きさ
45 / 100
コルナダにて

御返し

しおりを挟む
――駄目だ、なんとかしないと。



俺は心拍数が跳ね上がるのを押さえながら考える。


……うん、そうだな、会話しよう。話してたらなんとかなる気がする。


「樹、こっち来てくれないか?」


まずは距離をなんとか近づける。ずっとベッドとベッドでは話すことも出来ないからな。


「……?」


樹は、頭にハテナマークを浮かべながらもこちらへ来てくれる。


俺のベッドへ腰かける樹。


樹の風呂上がりの香りと、その姿が間近になったことで俺の思考を著しく狂わしていくが、なんとか保つ。


よし……距離は近づいた。


あとは話すだけ。


「明日は冒険者ギルドに行って、どんな仕事があるか確認してから出来るものを受けてみるか、何にせよお金を稼がなきゃな」


「……」


「多分今日のゴブリンみたいなのを討伐するような依頼が多いと思うが……それでも大丈夫か?」


「……」


「はは、よかった。また樹の回復魔法にお世話になるかもしれないが……その時は頼むよ」


「……」


うんうんと頷いてくれる樹。


ちょっと俺も落ち着いてきたかな。さて……


「それでその、信用してくれてるのは嬉しいんだけどさ。ちょっと無防備かもしれないぞ?」


俺だって男だ。もちろんそんな度胸はないが……獣にならないとは限らない。こういうのは言っておかないとな。


「……?」


こちらを見ながら、コテンと首を傾げる樹。どうやらピンとこないらしい。



「その……なんていうか、樹って可愛いだろ。正直言うと、一緒の部屋ってだけで……ってあれ?」



「……あ……う……」



途中から小さく声を上げながら、目に見えて顔が赤くなる樹。


そして、倒れこむように頭を俺のベッドに埋める。


「い、樹?どうした」


予想できない行動に、思わず声を掛ける。



「………………」



それから返事はない。


うーん、座っている俺の横に顔をベッドに押し付けている樹がいる。中々奇妙だよなこれ。


俺の太もものすぐそこに樹の頭が……もしかしてこれ、信用してますって言いたいのか?


何か違う気もしないが……樹が俺を信用してくれてるならそれでいいや。


それにしても、さっきから樹が足をペチペチ叩いてくる。


なるほど、この前のお返しをしろと。



「膝枕か?……はは、いいけど俺の足、そんな気持ちよくないぞ」



膝枕と言った瞬間、樹の体がビクッと反応する。


おお、大当たりか?気持ちいいもんな膝枕。


ははは、中々俺も樹の事が分かってきたな。


……あれ、その割には中々来ない。


「前のお返しって事だよな。ほら、きていいぞ」


俺がそう言うと、ゆっくり頭を俺の太ももの上にのせてくる。


頑なに顔をこちらへ見せないのは気になるが……まあいいか。


ここまで俺を信用してくれてるってのも分かったし、樹との距離はこれでグッと近付いただろう。


「樹、後悔とかしてないか?俺と旅するって事に」


ふいに、漏れるように口から出てきた言葉。


樹は守りたいとも思ってるし、出来るだけ危険には合わせないようにはしたいが、それでも、俺は俺だ。


能力は不安定だし、魔力もないし属性魔法も使えない。剣術だってそこらの冒険者には敵わない程度だろう。


不安と言えば不安。


だからこそ樹には、もう遅いかもしれないが

今聞いておくべきだ。


これまでの俺の言動でこいつとは無理だと言ってくれたら、まだ引き返せる。


そう今まで思っていたが、距離が近くなったこの瞬間、自然と口から出て来たのだろう。


そして、答えは。


「……僕は……」


沈黙。


「藍君と……その……これからも一緒がいい、です」


それは、小さくも俺にはっきりと届いた返事だった。


樹は言い終わると同時に顔を俺の足に埋める。


……俺とした事が、恥ずかしい事言わせちゃったか。


「そっか。よかった。……樹」


俺も言えば、おあいこだよな。


「……」


しばらく沈黙を挟み、恥ずかしさから視線を天井に逃して、口を開く。


「……その、俺がお前を守るからさ。これからも一緒に頑張ろう」


か、顔が熱い。


「……樹?」


反応がないと思えば、すーすーと寝息が聞こえて来た。


「はは、おやすみ」


俺の恥ずかしい言葉は、聞かれることがなく。


……うん、ちょっと良かったと思う自分もいるのが嫌である。


「……よっと」


樹を起こさないよう下ろす。樹はずっと下を向いていたので、寝顔を見れることは無かった。


……ちょっと勿体ないとか思ってないから!




さて、寝るか……あ、これ俺樹のベッドで寝ることにならない?


……これはしょうがないって、そうだろ俺。


し、失礼しまーす。


うっ樹の香りが……おやすみなさい。俺に罪はない。




遅くなったが、もう明日からいよいよ『冒険者』として活動が始まるんだ。

どうなるか俺も分からないが、なんとかやっていくしかないか。

同時にこれからの日々がどうなるか楽しみでもある。

男のサガか、ファンタジー世界で生きていくってのは今更ながら興奮しているんだろう。

樹と二人でこの世界を、か……本当に俺にはもったいないぐらいだよ。

そんな思いと樹の香りで、少し寝つけない。


……だが無事に今までの疲れから、俺の意識は無くなっていくのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...