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『機灰の孤島』編

道中

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「……ち、ず……?」



不思議そうな表情をする樹。


そりゃそうだ、いきなりだしな。



「ああ。でも――こんな、ちゃんとしたやつじゃない」



俺は鞄から地理の教科書を取り出し、ぱらぱらと見せる。



「ある程度、何処に何があるか分かるようにしたいんだ。そしたらこの土地から抜け出せる近道になるだろ?」


「……」



樹はうんうんと頷く。


この土地は、同じような光景が多いせいで迷いやすい。


何処に何があるかある程度分かるだけで、大分変わるはずだ。


闇雲に歩いているだけでは落ち着かないというのもある。



もしかしたら抜け出す手立ても見つかるかもしれない。


……抜け出す、か。



「そういえばさ、樹」


樹に納得してもらった後、俺は話を変える。



「……?」



……この土地に来て、早いもので一日が経過した。


灰色の空や機械の化け物、奇妙な魔物。


人一人いない、この土地。



「樹は……ここから一刻も早く脱出したいと思うか?」



この答え次第で、俺のこれからの行動は変わる。



「……」



首を横に振る樹。



俺はそんな樹を見て、口を開く。



「そっか。……あのさ、これは俺の我侭なんだけどな」



俺の行くべき道は分からない、でも……今の俺の正解だと思う道は。



「この土地で暫らく暮らす事が出来れば……きっと俺達は強くなれると思うんだ」



誰にも頼れず、俺達でなんとか生きていかなければならないこの状況は……『修行』とは行かないまでも似たものだ。


「……」


頷く樹。


表情から、肯定の意思が見てとれる。


……でも。


「でも、本当にいいのか?辛くないか」


樹は女の子だ、嫌と言うなら勿論ここから脱出するのに全力で舵を取る。


「……」


またしても頭を横に振ってから。


樹は頬を赤らめて、小さく口を開く。



「……藍君、と、一緒に……強く、なれるなら……」



それは『ずっと』、そう思っていたかのように告げる樹。


遠慮や嘘は全く雑じっていない、本物だ。


「……そっか」



樹もまた、俺と同じように……強くなりたいと思っていたみたようで。


前の世界とはもう顔付きが違うのは、俺の気のせいではないだろう。


本当に、頼もしい『仲間』だ。



―――――――――――――――――――


荷物をまとめ、移動の準備をする。



「さて、それじゃ今日は……」



行き先を方角で決めようと思ったが……分からない。


とりあえず、適当な方向に真っ直ぐ進めばいいか。



「よっと」



俺は鞄から折れたスタッフを地面に立て、放す。



「……よし、今日はこっちに進む事にしよう」



倒れた方向を確認し、俺はそう言う。


「……」


頷く樹。こんな方法だが、納得してくれたようだ。



取り合えずは、今から進む方向を勝手に北として始めよう。



幸い俺のスマホに歩数計があるから……距離は大体分かる。


歩幅とか、そんな正確なものを作るわけじゃないしいいよな。


まず真っ直ぐ歩くってのも難しいしな……



特に理由はないが、なんとなく地理のノートに書いていこう。




「よーし、それじゃ出発するか!」



「……!」



――――――――――――――


ノート片手に、俺達は歩く。


「111歩、枯れた木が集まってる場所……と」


「……」




「1000歩時点まで何もなし、と」


「……」




「3000歩時点……何もなし。ちょっと休憩するか」


何も無いってのは案外疲れるな。


万が一に備えて、軽い休息ぐらいはしておこう。



「……」



頷く樹は、全く疲れていなさそうだ。


はは……俺より体力あったりして?




「よっと」


「……」




相変わらず変化のない灰色の土地に、俺達は座り込んだ。


俺は、樹が入れてくれた水が入っている水筒を取り出す。


喉は渇いていないが……飲むと喉がカラカラの状態で飲む水のように、生き返る程美味しいのだ。



「樹も飲もう、本当に美味しいんだよこれ」


「……」



俺が水を勧めると、頷きながら照れるように顔を紅くする樹。


「よし、んじゃ樹も……あ、水筒持ってるか?」



少し面倒くさいが、俺達には入れ物が水筒しかないのだ。


昔の世界では食器なんて当然だったが……今の俺達には、皿も箸もない。



「……あ……ちょっと、待って、て……」



樹が頷いて鞄を覗こうとした後、閃いたようにそう言うと、鞄から手を離し、目を瞑った。



「……っ」



樹の手の中で白い光が瞬く。


そして次の瞬間、その光は形を、質を変えて……



「凄いな……『コップ』だ」



樹の手の中には、小さな二つのシリンダー型の容器、所謂コップ。


白く半透明で、淡く光る白が綺麗だな。


「……藍君、の分、も……」


樹はその一つを、俺に渡してくれる。



「ありがとう、まさかこんな良い物を作ってくれるなんてな」



俺は樹の手作りコップに、水を注ぎながらそう言う。


コップといえど、水筒付属の物は飲みづらいとは思っていたが……作ってくれるとは思っていなかった。


本当に樹は魔法を上手く使えるな。



「うーん、美味い!樹もー―」



「……あ、藍、君、と……おそろい……」



俺が樹の水を味わっていると、樹が小さく口を動かしているのが見える。


声がいつも以上に小さく、聞こえなかった。



「ん?何か言ったか?」



「……!」


俺が聞き返しても、顔を横に振る樹。


そして、何故か樹は……頬を真っ赤に染めていた。



「はは、熱いのか?水を飲まないとな」



俺はそう言って、水をコップに入れ勧める。



「……う……うんっ……」



樹はそれを一気飲みした。


ご、豪快だな……



「よし、休憩もしたしどんどん行くか」


「……」


頷く樹、この先何があるかは分からない……心して行かないとな。
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