オネェな東宮に襲われるなんて聞いてないっ!

鳩子

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84.わたくし、心底怖ろしいですけれど

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 香散見かざみさんは、『なんとかする』とは仰有ったけど。

 ちょっと、やっぱり心許ないような気分にもなる。

 かといって、わたくしは、全く主上のお側から離れることも出来ないのだけれど。

 もしかしたら、香散見さんは、こんなことを想定して、私を主上のお側に仕えさせたのかしら……とおもったけれど、そういえば、香散見さんは、わたくしが主上にお仕えするのを嫌がっておられたのだから、無実でしょう。

「なんとか……って、一体何ですの?」

 わたくしは、香散見さんに抱き寄せられながら聞く。

「大丈夫よ。アタシに任せて頂戴。……アンタは、主上のお側でお仕えして頂戴。ついでに、もし探れるんだったら、二の宮の出家がいつか、聞いておいて頂戴。明日中だからね?」

 ねぇ、香散見さん。それって、『もし探れるんだったら』というお話しではないのでは?

 わたくしは、抗議しようと思ったけれど、香散見さんにきつく抱きしめられて、頭の中から、するりと疑問なんて消えてしまっていた。

 香散見さんは、ズルい。

 口付けを受けながら、わたくしは思う。

 肝腎なことは教えて下さらないのに―――ちゃんと、利用するのよね。香散見さんたら。




 かくして、翌朝、わたくしは、主上のお側でお仕えしながら、その機会を窺っていた。

 けれど、ねぇ……主上は、殆ど雑談をなさらない方で、わたくしは、そんな主上からどうやって聞き出せば良いかと、思案してみるものの、上手くはいかない。本当に、困ったわねぇ。

 主上に書類を渡した時、わたくしの思考を遮るように、ふんわりと良い香りが漂ってきた。

 これは……、お香だわ。

「奏上に、香をたきしめる?」

 なにやら違和感があったので、わたくしは主上の手から奏上をひったくって、静かに開く。

「どうしたのかな、高陽かや

 主上の言葉を聞いて、わたくしは我に返る。そこには、大きく『呪』の文字が書いてあり、朱筆で追加書きがあった。


『東宮に、速やかな死を』


 呪い。

 だった。

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