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93.わたくし、なにをさせられますの・・?
しおりを挟む念を押されたのは良いけれど……。
主上が、硬いお顔をなさっているのに気がついて、わたくしは緊張する。
「五の宮は……、私とは、異母兄弟なのだ。高紀子、そなたも知っての通り、ここ最近、鴛鴦帝、白鳳帝、そして私……と三代、藤原の腹の帝なのだ。しかし、五の宮は違う。源氏の腹から産まれている」
たしかに、主上の仰せの通りだった。
ここしばらく、帝は、藤原氏の血筋だし、そうすると、皇后(中宮)も、当然、藤原氏。これでは、源氏が面白いはずがない。
「では、五の宮さまの後ろに……花の鏡があると仰せですの?」
花の鏡、で通じるだろうか。
なんとなく、『源家』と露骨に口にするのが憚られたので、名を伏せてみたけれど。
ちなみに、花の鏡は、
年をへて花の鏡となる水は散りかかるをや曇るといふらむ
という和歌を下敷きにしている。
これは、大昔の女官がうたったものらしいけれど、花の鏡とくれば大抵は、この和歌を思い浮かべる事でしょう。そして、ここで詠われる花の鏡が、水面であると気付くはず。『水面』から『源』を連想するのは少々きついかも知れないけれど。
主上も、香散見さんも、すぐさま察して下さったようで、
「私は、五の宮には花の鏡が後ろに居ると思って居る」と仰せになった。
「けれど、あの時、お世話になったのは右大臣家ですわよ? 源家が、なにか関係ありまして?」
「あるでしょうね」
主上が、ゆっくりと頷く。
主上は、滅多な憶測などを口になさらない方だ。その方が、こう仰せになるのならば、きっと、何かある。
「おそれながら……主上は、なにか、ご存じのことがおありなのでは?」
わたくしは、そんな気分になる。
「あなたは、存外、気がつくね……流石に、二条関白家の大姫だ」
妙な褒められ方をしたけれど、「有り難う存じます」とだけ私は受けておいた。
「まだるっこしいわね……。何か知ってることがあって、アタシたちに何かさせたいことがあるなら、ハッキリ言えば良いじゃない!」
香散見さんが、怒鳴る。
ああ、主上のような高貴な方に怒鳴りつけるだなんて……。わたくしは信じられない思いになったけれど……。
ハタ、と気がついた。
主上は、この、香散見さんの言葉を待っていたのだ。
つまり、わたくしと、香散見さんに、やらせたいことがある!
思わず主上の竜顔を拝すると………、にやーっと、人の悪い笑みを浮かべておいでだった。
わたくしはその時思いましたわ。
こんな表情を、うちの父様が見たら、多分、卒倒する。
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