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95.わたくしにだって、乙女心はありますわ
しおりを挟む向こうに――敵に、攻撃させるには、どうしたら良いか。
それについては、香散見さんは、すぐに答えを出したので、わたくしは驚いてしまいましたけれど。本来、東宮様なのだから、策を巡らすのは、きっとお得意なのでしょうね。と、なんだか、わたくしは皮肉めいたことを考えてしまって、嫌な気分になる。
というのも、香散見さんの思いついた策が悪い。
『主上が、譲位のご意向だと触れて回るのよ』
香散見さんは、どこか、無表情な眼差しで、わたくしに告げた。
『ご譲位は構いませんけれど……なにか理由が必要ですわ』
そう。明確な理由が。
『じゃあ、こうしましょう。この間の火事で、主上は、大分宸襟を痛めておいでだった。これも、天子としての徳が足りぬせいではないかと、気弱におなりで、こうなれば、新しい御所が出来上がり次第、東宮に譲位するつもりである……』
なんとなく、筋は通っている。とはいえ、あの主上が、火事如きで(しかもおそらく放火)宸襟を痛ませるとは、到底思えないし、気鬱にもならないだろうと思いますけれど……世の人は、多分、ご存じないから、なんとかなりますでしょう!
そして、香散見さんは続ける。
『そこで、東宮よ。……新しく、二条関白家から大姫を娶ることになった……。つまり、東宮が高御座に上がった際には、大姫を中宮に冊立するつもりだと……』
たしかに、これは、五の宮さま、二の宮さま、そして源家にとって面白くないことだろう。
けれど、わたくしだって、面白くはなかった。
だって、以前に香散見さんは、こう仰有ったのよ?
『中宮には出来ないけれど、かならず国母にする……だから、張り切って、男の子産むのよ? なんなら、アタシは女帝だって構わないけど』
中宮というのは、皇后のことだから、ようは帝にとっての『正室』になる。それ以外の女は、どんなに寵を得ても、正室には、なれない。正室と側室の違いは何かと言えば……正室が妻。側室は、使用人。それくらいの差がある。
だから、今回流す噂は……ただの噂であって、わたくしは、香散見さんの中宮にはなることは出来ない。
わたくしの実家が、力を持ちすぎるからだ。
(だけど……わたくしは、本当は、中宮になりたいわ……)
そうすれば、香散見さんを、独占する権利を得るのだもの。
けれど、香散見さんは、わたくしの乙女心なんか、全く気がつかないで、アレコレと策を巡らしておいでだった。
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